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連載:第43回 IT・SaaSとの付き合い方

紙が散乱していない美しいオフィスを。社長の一声から始まった労務管理ツール導入

BizHint 編集部 2025年1月21日(火)掲載
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ある日の社長の一言。「あの会社には紙が一枚もなかった。紙をなくそう!」から始まったペーパーレスへの取り組み。それまで「使うお金を一円でも削るように」と言われていた総務・経理・人事部門の担当者が、ITツールの選定を始めます。とはいえ通常業務だけでも手一杯という忙しさ。なんとか時間を作って展示会に足を運び商談。社内稟議を通し、ITツールの利用を始めます。その後も不慣れなシステム設定作業と格闘しながら、同社のペーパーレス化は着実に歩みを進めています。その経緯について、伺いました。

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(お話を伺った方)
静岡県 / 食品加工・卸業 / 従業員数 約50名
総務・経理・人事部長 Kさん
経理担当 Mさん


※本記事は2024年11月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。

「あの会社には紙が一枚もなかった」社長の一声で始まったペーパーレス

――貴社は全社的なペーパーレス化の取り組みの中で、社員情報管理などの業務においてHR Brainというツールを2023年に導入されました。そのきっかけや経緯について教えてください。

K部長: きっかけは社長の一声でした。当社は海外のお客様とも取引があるのですが、社長がインドのとある会社から帰ってきて 「社内に紙が一枚もなかった」と言うんです。そこから自社でも「紙をなくす!」と宣言、ペーパーレスの取り組みが始まりました。 2023年1月頃のことでした。

私としては「紙が一枚もなかった」という話については半信半疑だったのですが、当社の業務が紙で溢れていることは事実。当時は年々取引が増加傾向にありました。また、それまでは海外に商品をまとめて納品する形だったものが、円安や日本の人件費が安いことから、当社で個別包装まで行うことを求められるようになり、従業員数が増加していました。そうした背景から、バックオフィス・事務手続きにおける紙は明らかに増えていました。

――社長は、ペーパーレス化によってどのようなことを実現したかったのでしょうか?

K部長: もちろん、効率化や生産性の向上もあったと思いますが、大きな要因の一つとしては事務所の景観だったと思います。社長は美的感覚を重視していて、事務所に紙が散乱していること自体に不満を持っていました。

――経理の実務を行うMさんに伺います。「ペーパーレス」と言われた時、どのように感じられたのでしょうか?

経理担当Mさん: 正直「経理の仕事をご理解いただけていないんだろうな…」と感じました。たしかにペーパーレス化は各所で耳にしますし、効率化のための一つのアプローチだとは思います。

ただ「社内で購入したものを納品書を見て確認する」といった場合はデータでも良いと思うものの、実際に大きなお金が動く場合は、やはり紙で付け合わせてきちんとチェックすることが「間違いを起こさない」ためには必要だと思っています。

――過去にペーパーレス化についての話題が上がったことはありましたか?

経理担当Mさん: 話題には出ていたのですが、 とにかく目の前の業務を処理することが最優先で、そのような話が出ても二の次という感覚 でした。以前は国内取引がメインでいわゆる閑散期もあったのですが、近年は海外取引が増え、時間に余裕のある時期はすっかりなくなりました。 ペーパーレスに取り組もうとしてもそんな時間はありません。 もう一年中、繁忙期。

通常業務だけでも忙しい中で、業務改善に取り組む余裕は一切ありませんでした。

「お金を使っていいんだ」バックオフィスの意識が変わった瞬間

――とはいえ、社長の一言からペーパーレスを進められます。以前との違いは何だったのでしょうか?

K部長: 以前は 「経理や総務は売上に貢献しない部署だから、使うお金を一円でも削ること」が、バックオフィスの私たちにとって至上命題 でした。業務改善に際しても、新しいシステムを導入するのはお金を使うことになるのでNG。いかにお金をかけず、従業員の知恵と工夫で生産性を上げられるか、ということが求められていました。

とはいえ、日々多忙を極める中で業務改善に取り組めるわけもなく、ずっと仕事のやり方は変わりませんでした。その一方で「バックオフィスでも会社の収益に貢献するんだ!」と、半分見返すくらいの気持ちで、時間がない中で補助金の申請には力を注いでいました。

ところが、社長がペーパーレス化を言い始めてしばらく、今まで通りの仕事をしていると、以前とは違うことを言われました。「状況が変わったのに、いつまで同じやり方をしているんだ!システムでも何でも使って紙をなくそう!」と。

その時はじめて 「え?システム入れてもいいの?お金を使っていいんだ…」 と思いました。ここから、HR Brainなどの導入に至る、ペーパーレス化のためのサービス選定がスタートすることになりました。

――その時々の社長の言葉に振り回されているといった心境はなかったのでしょうか?

Mさん: 一連のやり取りだけを聞くと、社長が無茶を言っているかのように思われるかもしれないですね(笑)。誤解のないようにお話ししておくと、それでも私たちが社長の言葉に耳を傾ける根っこには、やはり社長への尊敬があります。

私たちと比べると、社長は一歩先どころではなく二歩先、三歩先を見られています。ですので「社長が何を仰っているかわからない」ということは往々にしてあります。でもしばらくすると世間が追いついてきて、それが現実になる。そういったことがこれまで何度もあり、その度に「すごいなぁ」と感じています。

ですので、今回のペーパーレスについても「社長は現場の仕事がわかっていない…」という思いは抱えながらも「社長がそこまで仰るならペーパーレスを進めよう。お金も使っていいみたいだし!」という気持ちで取り組みました。

当社の社長はたしかに意見がころころ変わりますが、それは私たちにはない社長の感覚、私たちは持っていない情報からくるものです。 長年一緒に仕事をしてきているので、私たちとしては許容できるもの、逆に楽しいと思えるくらいのものでもあります(笑)。

各社とミーティングを組むよりも、展示会に行くほうが楽だし早い

――導入するツールの選定は、どのように進められましたか?

K部長: まず、従業員の入退社や契約更新の紙が煩雑だったので、そのペーパーレス化を目指しました。

そこで、社長がペーパーレス化を言い始めた翌月(2023年2月)に名古屋で開催されたバックオフィス系の展示会へ、人事労務担当の私と経理担当のMの2人で早速向かいました。当社では「スピード感を持って行動」することが行動指針になっているので、方向性が決まると動きは早いです。

――情報収集や選定に際し、まず展示会に足を運ばれた理由は?

K部長: もともと、自社商材である食品に関する展示会にはよく足を運んでいたので、情報収集の場としては普通の感覚です。軽くWEBで下調べはしますが、やはり「自分たちの目で見たい」という気持ちが強いですね。

加えて、展示会にはさまざまな会社が集まっているので、一日でまとめていろいろなサービスを見られます。展示会に行かずに、一社一社に問い合わせをしてオンラインで説明を聞くやり方もあるのでしょうが、 複数の会社とメールでスケジュール調整を重ねること自体が、私たちにとっては面倒なんです。 日々、目の前の仕事に追われていて、細かい時間の調整がいくつも重なると、そのほうが煩雑と言いますか。

またオンラインで説明を受ける場合、仮に一時間の時間を作ったとして、求めるものと違った時に「もういいです」とは言いづらいじゃないですか…。その点、 展示会であれば「あ、ごめんなさい!」と次のブースにすぐ行けます。 情報収集の初めの段階、まだ何もわかっていない状態で各社それぞれに十分な時間は割けません。そういった背景に鑑みると「詳しく話を聞きたい会社・サービスを探す」というのが展示会を活用する理由でもありますね。

実際、展示会に行った日は「一日でシステムの候補を絞り込む」という心づもりでした。 そのために日々の仕事を調整して、その一日をまるっと空けました。

展示会では事前に調べた候補のツールを、経理担当のMと手分けして回りました。私は人事労務分野でSmartHR、Mは楽楽精算とfreee、マネーフォワード。しかし細かいことはわかっておらず、CMなどで見て有名そうだから…というくらいの認識ではあったのですが。

展示会で話を聞く中で、自社に必要な条件が見えてきた。

――HR Brainは、展示会に行く前の選択肢にはなかったのですね。

K部長: そうですね。展示会ではまず、SmartHRのブースで話を聞いたのですが、特徴や機能の説明を一方的にされるような感じでいまいちしっくりこなくて…。中でも想定と違ったのが「専任の担当者がつかない」「問い合わせはチャット」ということ。また、基本的には自分たちで手を動かして設定などをしなければならないことも、その時知りました。

私たちはITに強いわけではなく、うまく業務が回るようになるまではやはり「専任のサポート」はほしい ですよね。このことに気づいたのはHR Brainの担当者と話してからなのですが、SmartHRを候補から外す理由の一つになりました。

私たちもSmartHRのことをしっかりわかった上で最初の選択肢に挙げていたわけではなかったので、まずは話を聞いてみないと合うか合わないかはわからないですよね。

そしていくつかブースを回る中で、お付き合いできそうと感じたのが、HR Brainでした。 まず、担当の方の印象がとても良かったです。一方的に機能や特徴をお話しされるわけではなく、しっかりとこちらの話を聞いた上で、それに応じた説明をしていただいて。

特に印象的だったのが、デモで機能を追加したり消したりする操作を見せていただいたこと。それがすごく簡単そうで、自分たちにもできそうだと感じました。それに加え、担当者が専任でついてくれて、また相談を電話でできることもありがたかったです。

当社はスピードを大切にしていますし、私としても聞きたいことにはすぐに回答がほしいんですね。そのため、 返信に時間がかかるチャットではなく電話で対応いただけるのは、かなり嬉しいポイントでした。

――担当者がついて、電話で質問したらすぐに回答をもらえることが大事だったのですね。

K部長: そうです。どちらもお話を伺う中で「たしかに必要!」と思い至ったものですね。自分たちだけで、未知のシステムを使いこなせる自信はありませんでしたので。

また、もし問い合わせの度に先方の担当者が変わってしまい、その都度最初から説明をしなければならないとなると、私自身、絶対にストレスが溜まると思っていましたので。

比較表と相見積もりを揃え、社内決裁を得る

――その後、HR Brainとの商談はどのように進められたのでしょうか?

K部長: オンラインで商談を進めましたが、 展示会で応対いただいた方がそのまま商談を進めてくれたのでスムーズに進みました。 あらためてデモ画面を見せてもらいながら、こんなことはできるのか?と簡単な確認をして、料金も他のサービスに比べると安かったので、会社への提案を行うことにしました。

――会社への提案はどのように進められたのでしょうか?

K部長: 提案書を作るのは不慣れな作業だったのですが、HR Brainの方に十数ページくらいの提案書を作っていただきました。

ただ当時の社内の状況としては、何かしらのシステムを導入することは決まっており「どれにするか?」について、その比較結果と選定理由、相見積が揃っていれば十分でした。

ですので、 いただいた提案書の中から「他のシステムとの比較」のページだけを抜粋して、役員会で提案しました。 また、相見積については別のシステムで見積もりも取って揃えました。

相見積ではHR Brainが安かったですし「サポート体制」の優先度が高いということで会社には提案し、承認をいただけました。比較表は傍から見るとHR Brainが明らかに有利な内容に見えるのですが、私としてはHR Brainを通したかったですし、それをそのまま使いました。

2023年の2月頃から選定を進め、4月には社内決裁、5月には導入といったスケジュール感でしたね。

システム導入後の設定。時間の確保が最大の課題

――導入後はどのように進められたのでしょう?

K部長: 最初に、HR Brainのさまざまな設定を進めなければならないのですが、そもそも通常業務で忙しく、どうしても後回しになってしまっていました。

そこで、HR Brainのサポート担当の方との定例ミーティングを利用し、『次回ミーティングまでに○○をやる』と自分に宿題を課す形で進めていきました。これは私の性格もあると思いますが、ノルマや締切を設けたほうが、なんとか時間を作って手を動かすんですよね。

定例ミーティングはひと月に1回ペースだったので、その都度宿題を持ち帰っては、翌月の定例で確認…というサイクルでした。

そうして 10~11か月ほどかかって「社員名簿のデータベース」と「入退社書類のペーパーレス化」を実装できました。 正直、当初の想定からはだいぶ時間がかかってしまったのですが、バックオフィス全体の動きとして、経理側でも並行して経費精算のための「楽楽精算」の導入を進めていたことなどから、思うように時間が割けない部分はありました。

――その後、HR Brainの活用が広がっている業務分野はありますか?

K部長: HR Brainの活用状況としては、まだまだ前述のものだけです。

将来的には、年金手帳や雇用保険被保険者証、履歴書といった書類をすべてスキャンして、社員データベースに紐づける形で一元管理できるようにしたいと考えています。年金番号やマイナンバーの管理もまとめていきたいですね。

そして同時に進めたいのが権限設定。現在は社員・情報ごとにフォルダを作成してフォルダのアクセス権限を使って閲覧・編集の制御をしているのですが、このあたりもHR Brainを使ってできるようにしていきたいと思っています。

――その他のペーパーレス化の取り組みや、今後の動きとしてはいかがでしょう?

K部長: バックオフィスまわりの話にはなりますが、誓約書や給与振込口座の申請、通勤経路申請などについて、ペーパーレス化の見通しはある程度立ってきています。

当社ではHR Brainのほかにも、同時期に導入した楽楽精算をはじめ、楽楽明細、LINE Works、kintone、GEMBA Noteも順次利用を始めています。 どのツールでどのような業務・情報を取り扱うかといった部分での検討・調整には時間がかかりますね。

一方で、特にお金を取り扱う経理まわりでは、ちょっとした数字の間違いがトラブルの元になってしまうので、検討の結果あえて紙で残しているものもあります。

通常業務がある中でのシステム移行や業務の再設計は大変で、正直「導入して良かった」と思える状況にはまだなっていません。

ただ、社員情報や経理周辺の一部のペーパーレス化が進んだおかげで、 旧来あった書類の山やファイル・バインダーの棚がなくなり、オフィスに綺麗なエリアが生まれたことは一目瞭然です。

お話ししたようなことが一つひとつできるようになっていけば、社内のいろいろな業務が便利になったことを体感できるはず。バックオフィスの私たちだけでなく社内全体が「ペーパーレスを推進して良かった」と感じられるようにしていきたいですね。

(文・安藤 ショウカ)

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