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連載:第38回 IT・SaaSとの付き合い方

「紙と記憶」案件管理の限界。時間と心に余裕をもたらす経理会計IT化の事例

BizHint 編集部 2024年10月23日(水)掲載
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北海道帯広市で建築業を営む株式会社池田商店。1967年の設立から地元で頼りにされてきた同社は長らく、顧客・案件管理を紙で行ってきました。それがいよいよ限界を迎え、kintoneとマネーフォワードによる顧客・案件・会計システムへ移行することに。移行後、業務の効率化はもちろん、現場に余裕が生まれたことにより、社員のプライベートも好転するという副次効果まで生まれました。同社の課題感からシステム検討・導入のプロセス、前後の変化について伺いました。

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(お話を伺った方)
株式会社池田商店
代表取締役社長 池田 純寛さん
経理・事務担当 Aさん


※本記事は2024年8月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものである旨、あらかじめご了承ください。

「紙と記憶」では追いつかなくなった顧客情報の管理

――貴社では顧客・案件管理にkintone、経理・会計システムにマネーフォワードを導入されました。そこに至るもともとの課題を教えてください。

池田 純寛さん(以下、池田): 当社が抱えていた課題は大きく3つでした。

まず1つ目は、 見積もりから集金までにかかる工数の削減 です。当社はもともと建築・設備工事の分野でBtoBの仕事をやっていたのですが、新築着工数が減少していった影響で、10年程前からBtoCの仕事も手掛けるようになりました。その結果、案件数や顧客数が大きく増加しました。

以前は業務上使用するシステムとして、見積もりは大手住宅設備機器メーカーのLIXIL(リクシル)と連動した発注システムを使い、顧客名簿は筆王、会計まわりは弥生とバラバラで、重複作業やムダな工程も発生していました。

当社はいわゆる少人数の家族経営です。私自身が営業や事務、集金などほぼ全ての業務を担当しているので、顧客数・案件数が増えるといよいよ手が回らなくなります。そこで、見積もりから集金までを一括で管理できるようなシステムが作れないか?と考えていました。

2つ目の課題が、 顧客情報のデータ化 です。当社は建設業なので10年、20年前に手掛けた案件の相談や修理依頼、クレームがくることがあります。そうすると、当時どんな作業をしたか、どういう見積もりをしたかといった情報が必要になります。

以前はそれを紙で管理していたのですが、とにかく量が膨大なので、どこかにはあるものの「実質探せない」状態。これをデータ化することで解決したいと考えていました。

そして3つ目は、売上や原価、粗利などをデータ化することで、 経営の意思決定の材料にしたい というものです。実はこの思いは、この仕事を始めてからずっと抱いていながら、なかなか手を付けられずにいました。

――なぜ手を付けられなかったのでしょうか?

池田: なんだかんだ「自分の記憶」でそれなりにやってこられていたんですよね…。ただ、BtoCの仕事を受注するようになって案件数が増え、いよいよ対応できなくなり、重い腰を上げました。

「ダメだったらやめればいい」。自社と業態が近い会社に倣う

――システム導入が進んだ経緯について教えてください。

池田: 業務のシステム化については漠然と考えていたのですが、2021年6月に参加した経営をボードゲームで学ぶ「マネジメントゲーム」というセミナーで、当社と同じ帯広にある相互電業の今野さんと出会ったことが大きな転機となりました。

相互電業ではkintone(キントーン)を使って業務改善に取り組まれていました。そこで当社の悩みを相談すると、同社で行っている「案件管理と会計システムとの連携」と似たシステムが組めそうだ、という話になりました。

そこで、今野さんに協力をお願いしました。

――そこからどのようにシステム構築・ツールの選定が進んでいったのでしょうか?

池田: まず「問い合わせから見積もり、発注、請求までを一気通貫でできて、全て連携できる状態にしたい」といった私の漠然としたイメージを伝え、今野さんに当社の業務を細かく見ていただきました。

その結果、まずは相互電業と同じように、kintoneを使って顧客管理と案件管理をできるようにする。そしてそこに、請求や会計のシステムを繋げるという方向性になりました。

私としては、kintoneを使うことについては、こだわりなどは特にありませんでした。今野さんもkintoneに詳しいですし、実際に利用することになるのは私や社内の人間だけなので、まあ大丈夫だろうと。あまり細かいことには口を出さず、基本的にはお任せしていました。

――会計まわりのツール選定については?

池田: これは偶然でもあったのですが、相互電業と当社の会計事務所が同じでして。今野さんと一緒にその会計事務所に「会計システムとkintoneを連携したい」と相談に行きました。

そこでは、会計システムとしてマネーフォワード、freee、PCAという3つの候補が挙がりました。この中で、会計事務所側で導入からデータ移行までサポートできるということで、マネーフォワードを優先する形で話が進んでいきました。

一方で、当社内で経理の実務を担当しているスタッフのAさんに、それぞれのツールの操作感を試してもらいました。 実際に使う人に決めてもらうほうが良い と考えていましたので。

結果、マネーフォワードが使いやすいということになりました。ポイントとして大きかったのは、 「仕分け」の入力が貸借という考え方に基づいていること。ここは経理・会計担当者の知識や、その会社の考え方で判断が違ってくる部分でした。

ちなみに、当社の経理はもともと私の母が担当しており、2020年にAさんが入社して2人体制になっていました。近々訪れる母の引退を見越して、2人でこなしていた業務を1人でもできるようにしたいという想いも、背景にはありました。

――マネーフォワードなどはサブスクリクションの料金形態です。抵抗はありませんでしたか。

池田: 正直なところ、ありましたね。以前は弥生に年単位で支払っていたものの、それよりずっと高額でしたので。ただ 「ダメだったらやめればいい」くらいに考えてアクセルを踏みました。

お話しした通り、案件やお客様の数が大きく増えて、そもそも手が回っていなかったので「その状況をなんとかしたい」という思いがとにかく強かったです。

また、その前年に私が社長に就任し、代替わりを行っていたので、事業承継補助金が使えたことも要因の一つです。動き出しのタイミングが合わずIT補助金は使えなかったのですが、銀行に相談した際に補助金が使えるとわかったので、利用することにしました。

手間は増えたが、それは必要な対価。

――kintone、マネーフォワードの導入後、どんな変化がありましたか?

池田: まず、 社員の手間は増えました。以前は記憶に頼っていたものを全てデータとして残さなければならなくなったので、その「入力の手間」 です。

例えば、以前はFAX で発注書を送って終わりだったものが、その用紙をスキャンしてデータフォルダに格納するといった作業が発生します。ですので、データ入力やその整理のために一日中パソコンを触るような日も出てきました。

ただ、 これらの入力作業をしておかないと後々困ることはわかっていますし、必要な対価だと思っています。 それまで社員はデータ入力などやったことがなかったので、最初はみんな戸惑いましたが、時間とともに慣れていきました。

結果として、 今では顧客管理の利便性が目に見えて向上し、データに基づいた意思決定ができるようになりました。 経営計画の精度も上がっています。

――発注で利用しているLIXILのシステムとの連携については、どのようにお考えですか?

池田: 今回はそこまで含めた完全自動化ではなく、顧客データや取引データを蓄積し、効率的に管理するところまでを目指すことにしました。

ですので、例えば一つの請求書に対して、LIXILのシステムとマネーフォワードそれぞれに入力するという作業は発生しています。

これは現時点では、どうしようもない部分でもあったんですよね。 建設業界では、手書きの注文書をFAXでやり取りする商習慣がまだまだあるんですよ。つまり、様々な取引先とFAXでやり取りすることも多い中で、LIXILのシステムとだけ連携しても不十分なんです。

ちなみに、当社の一連のシステムとFAXとの連携も調査してはみたのですが、初期費用・維持費ともに高額で、費用対効果は合わないと判断しました。

月末に数字がぴったり合って、感動

――経理・会計業務を担当されているAさんに伺います。マネーフォワードに切り替わるにあたって、使用感をはじめ、困惑されることなどありましたか?

Aさん: 特になかったというのが、正直なところです。マネーフォワードの導入は2022年3月ごろだったのですが、以前使っていた会計ソフトの弥生についても、私は2020年にこの会社に入社して初めて触れたくらいで、以前のやり方がそこまで染みついていたわけではありませんでした。

わからない部分は、もともと経理を担当されていた社長のお母さんに聞いたり、過去の作業をその都度確認しながら対応していました。

マネーフォワードへの移行についても、社長から「便利になるよ」と聞いていたくらいで、「楽になるならいいかな」と思っていました。

――実際、楽になりましたか?

Aさん: 導入してすぐは、移行作業そのものもあり大変でしたが、慣れてからはとても楽になりましたね。慣れるまで、3~4ヶ月くらいだったと思います。

以前は通帳を記帳しに銀行に足を運んだり、弥生と口座の金額が合わない時には銀行に電話して金額を聞いて弥生に入力したり…。今思えば、本当に大変でした。

辛かったのは、それだけやっても金額が合わない…という事態が度々起こること。それが月末だと一大事で、銀行口座の履歴と弥生の内容を、紙で一行一行付け合わせて、延々と間違い探し。月末に金額がぴったり合った時には「やっと終わった…」と安堵していました。

マネーフォワードへの移行では、その作業がなくなったのが特にありがたかったですね。銀行の口座情報と連携しているので、入出金の履歴が画面上で、一覧で確認できます。社内で管理している金額とズレがあったとしても、間違い探しはとても簡単です。画面を見ながら「あ、ここだ」と。

過去のデータも見返しやすいですし、データ入力もよく使う項目は仕分け辞書に登録すればボタン一つ。社長が仰っていたように、本当に楽になりましたね。

――kintoneとマネーフォワードとの連携についてはいかがですか?

Aさん:会計・経理のシステムへの金額の入力間違いがなくなったことが大きなメリット だと感じます。

例えば、以前は請求書を作って、その内容を弥生にあらためて入力するという作業が必要だったのですが、今は請求書をkintoneで作ったら、マネーフォワードに飛ばして「登録」ボタンを押すだけ。金額の再入力がないんですよ。

おかげで、 月末の入金総額とkintone上で管理している売上金額が初めてぴったり合った時には感動しましたし、すごく嬉しくなりました。

わからないことがあれば今野さんに相談したり、マネーフォワードやkintoneに問い合わせたり、自主的に学ぶことも増えましたね。

ーー工数削減・効率化にはどれくらいの効果があったのでしょうか?

Aさん: 日によって波はありますが、 ならすと1日あたり1~2時間は工数を削減できていると思います。月末でも残業をせずに帰宅できるようになりましたし、2日間に渡って行われる外部研修を受ける時間も確保できるようになりました。

また、個人的な話にはなるのですが、 心理的なストレスが減ったことはとても嬉しい変化 でした。私の性格もあるのかもしれないのですが、口座と帳簿の金額が合わない時には、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えてしまうのです。

先ほどもお話ししたとおり、金額が合わない時には紙の帳簿を引っ張り出して、1枚ずつめくりながら間違い探しです。探しても探しても見つからずに遅い時間になって「一度帰宅して頭を休めて、明日また探そう」「明日になったら見つかるかもしれない。見つかってほしい…」という気持ちを抱えながら、平日は頭も身体も疲れ切って床についていました。だから休日はただただ休んで回復に努めるだけ。気づけば、家からあまり出なくなっていました。

しかし今はそうしたストレスがなくなって、毎日の疲れも大きく減りました。時間にも心にも余裕ができて、積極的に外に出るようになったんです。終業後にはジョギングをしていますし、休日はマラソン大会に出たり、早朝から登山に出かけたり。

少し前の私を知る周囲の方からは「はつらつとした」と言われるようになりました。その要因として、今回のkintoneとマネーフォワードへの業務移行は、大きなものがあると感じています。

(文:安藤 ショウカ)

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