連載:第39回 IT・SaaSとの付き合い方
電帳法対応と紙の請求書管理のデジタル化。シンプルを貫いた経理担当者の推進事例
毎月の締日間際、経理担当者全員が残業を重ねて膨大な紙の請求書の処理を行って、なんとか期限に間に合わせる…。延々と繰り返されるこの状況を請求書管理のクラウドサービス・Bill Oneを用いた「シンプルなデジタル化」でひっくり返したのが、株式会社ウエディングパークの経理・芹澤美幸さんです。自身は経理でのSaaSツールに詳しくないながらも、周囲に協力を仰ぎながら「請求書を提出・処理するための出社や残業」をなくし、経理の省人化・全社員のリモートでの請求書処理を実現しました。改正電子帳簿保存法への対応と合わせて進めた業務改革、ツール選定のプロセスや、それがスムーズに進むための組織風土について伺いました。
(お話を伺った方)
株式会社ウエディングパーク
経営本部 経理担当 芹澤 美幸 さん
執行役員 経営本部 本部長 戸田 朱美 さん
※本記事は2024年9月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものである旨、あらかじめご了承ください。
法改正への対応が社内の非効率を解消するきっかけに
――貴社はBill Oneを導入されましたが、そのきっかけやもともとの組織課題はどのようなものだったのでしょうか?
芹澤美幸さん(以下、芹澤): 大きなきっかけは、2022年1月に改正・施行された電子帳簿保存法でした。当社では請求書の管理を基本的に紙で行ってきたのですが、電子取引における請求書の保存について、新たな対応が必要となりました。
当初は、すでに社内で使っているツールで対応できないかと考えたのですが、当時の上長から「タイムスタンプなど、対応できないものがあるのではないか」と言われ調べてみました。するとたしかに、法改正で求められる要件は複雑で、 既存の仕組みで対応するのは難しそう だと思えました。
加えて、当社では請求書まわりの業務効率化の課題も抱えていました。 請求書は毎月300枚ほど紙で処理しており、分類や保管作業に多くの手間がかかり、手作業によるミスも発生していました。
例えば、現場の担当者はまず社内システムを使って事前に費用を申請し、稟議番号を得ます。そしてその稟議・案件にともなう請求書が紙で届いたら、手書きで稟議番号を付記して経理に提出。請求書がメールなどでデータとして届いた場合も、それを紙に印刷して、同じく稟議番号を付記して提出していました。
そうして集まった請求書に、経理側では一枚一枚取引先コードを記入して順番に並び替え、内容を確認して、仕訳計上、支払い、ファイリング…といった作業を行っていました。
電子帳簿保存法への対応と合わせて、こうした非効率をまとめて解消したいと思い、2021年の8月頃から動き始めました。
どのサービスを選べばよいかわからない。ITに詳しい部門に相談
――解決策を探すにあたって、まず何から始められたのでしょうか?
芹澤: そもそも私自身が、法改正によって何がどう変わるかを詳しくわかっていなかったので、とりあえずWEBで検索して解説記事を読みました。
次に、それを解決できるツール・サービスはないか?と、同様にWEBで探すのですが、どのサービスが自社に合っているのか?どんな機能が必要なのか?費用感はどれくらいのものなのか?など、まったく見当がつかず… 自分では判断できませんでした。
そこで、社内のシステムまわりやIT機器を管理しているコーポレートIT室の方に相談して、当社に合いそうなツールを探してもらいました。
――コーポレートIT室へは、どのような相談をされたのでしょうか?
芹澤: コーポレートIT室への相談では 「今までのフローを、そのままデジタル化できるツールを探している」 と伝えました。あくまで目的は『現状、紙で行われている請求書の提出や保管をデジタルに置き換えること』であり、それ以上の要件は求めませんでした。
この背景には、業務の運用を変えるにあたって、現場の社員の負担や心理的ハードルを最小限に抑えたいという意図もありました。
そうして、コーポレートIT室から提案されたのが、Bill Oneでした。
――コーポレートIT室は、なぜBill Oneを提案されたのでしょうか?
芹澤: 私の相談を受けた後、WEBでの情報収集を通じて候補となるツールをピックアップしてくれました。当時は電子帳簿保存法改正の影響もあって、それにまつわるツールについても多くの情報があったようです。それにあたり「初期のリストアップで有力な候補がもれると、その後の失敗に繋がる」と、くまなく探していました。
そしてピックアップしたツールの候補に対して、
- 当社の企業規模にあったサービス・価格帯かどうか?
- 当社の必要要件をどの程度満たせるか?
- UI。特に、直感的に理解できる画面デザインか?
- 開発力、技術力があってセキュリティ面が十分か?
といった基準で絞り込みをしてくれました。
私は Bill One というサービスを耳にするのは初めてでしたので、とりあえず自分でも調べてみました。とはいえ、 ホームページを見てもよくわからなかったので、とりあえず資料請求をして直接お話を聞く ことにしました。
現状の紙をデジタルに置き換えるだけ。シンプルさにこだわる
――商談から採用決定まではどのように進んだのでしょうか?
芹澤: 最初にお話を伺うにあたって 「デモを見せていただきたい」 とお願いしました。また、IT・システム系の話は私だけではわからないので、 コーポレートIT室の方にも同席いただき、サポートをお願いしました。
導入の決定までには2回商談をしたのですが、最初の商談でお話を伺い、デモを見せていただいた時点で、操作感など含めBill Oneで運用できそうと感じていました。
その上で、2回目の商談ではより細かい部分を確認しました。例えば、当社では現場での請求書チェックは担当者と部門長の2段階で行っています。それができるか?ということに加え、担当者がチェックをした際に部門長に通知が行くか、という点などを聞きました。
こうした運用ができることが確認でき、また別段の追加費用もかからなかったので、社内稟議を進めることにしました。
なお、選定においては以下のような点を重視していました。
- 電子帳簿保存法への対応
- セキュリティ面での信頼
- 請求書提出の締切から支払いまでの、経理側での作業のしやすさ
- 「高機能で高額」よりも「シンプルで安価」(ワークフローや会計をはじめ、他のシステムとの連携は不要)
例えば当社では、稟議のワークフローには社内システム、会計システムは勘定奉行クラウドを使っています。こうしたシステムとの連携やそこまで含めたリニューアルも、アイデアとしてはあったかもしれません。
しかし今回は 「あくまで現状の紙の請求書の運用をデジタルに置き換える」というシンプルさを優先 しました。
ちなみに、商談に同席してもらったコーポレートIT室の担当者は、 営業/サポート担当の方のレスポンスや人柄、当社との相性、導入後のサポート などについても、利用後の運用をイメージして見てくれていました。
――検討段階でトライアルなどはされなかったのでしょうか?
芹澤: トライアルはやりませんでした。というのも、私としては Bill Oneは請求書を管理する「箱」として使おうと考えていました。請求書のデータを社員がアップロードする、もしくはパートナーから直接アップロードいただく…それぞれがやりやすい方法でその箱に入れ込んでくれさえすれば、あとは運用でカバーできると思っていましたので。シンプルな使い方ですし、デモを拝見してその点は問題ないと判断しました。
「箱として使いたい」というイメージは、最初からBill One側にお伝えしました。 そこから外れた説明や提案をされることもありませんでしたので、商談はスムーズに進みましたね。こうした点は、Bill Oneの方を信頼できると感じられた部分でもありました。
――社内稟議に際して、上長や経営層などから指摘されたことなどはありましたか?
芹澤: 「やらなければならない」という意識は会社としてもありましたし、費用も含め指摘のようなものはありませんでした。
コーポレートIT室の方とも一緒に進めていたこともあり、期待や任せていただけているという部分のほうが多かったですね。
当時はちょうどDX事業を始めたタイミングでもあり、会社としてデジタル化への意識が高まっていたことも後押しになったかもしれません。
社内への説明は「仕事が楽になります」
――現場への展開まではどのように進められたのでしょうか?
芹澤: 9月に商談から申込までを終え、10月は社内向け説明資料などの準備、11月に全社員に向けた説明会を開催しました。使い方が不安な方へは個別で問合せ対応を行いながら、12月には全員Bill Oneに完全移行という流れです。なので、ツールの検討から切り替えまでは4ヶ月ほどでした。
個別対応では、私が社内にいる時間を提示して、直接聞きに来ていただけるようにしていました。Bill One自体に複雑な機能はなく、また先述したようにシンプルな使い方でしたので、100名ほどがBill Oneを使うことになったのですが、対応は私一人で十分でした。大きな混乱はありませんでした。
――社内へはどのような説明をされたのでしょうか?変化への反発などありませんでしたか?
芹澤: 基本的には 「仕事が楽になります」と説明 しました。また、反発は本当になくて、むしろたくさんのご協力をいただけました。
というのもそれ以前、現場の社員は「紙の請求書を、期限までに出社して提出」という運用でした。お客様やパートナーを訪問している社員にとっては、わざわざ提出するための出社スケジュール調整や移動が必要になりますし、コロナ禍もあってリモートワークが広がる中で 「出社して紙を提出する」という作業自体、無くしたいと思っている人が多かったのだと思います。
Bill Oneを使えば、現場の社員は「稟議番号を付与して、請求書のPDFをBill Oneにアップロードするだけ」になります。これは本当に楽ですよね。それこそリモートでできますので提出のための出社は不要。みんな前向きに取り組んでくれました。
経理と現場が楽に。毎月の締め作業における心理的な負担も軽減
――Bill Oneの導入後、どのような変化がありましたか?
芹澤: 経理と現場それぞれで、次のような変化がありました。
■経理
・紙を整理するための一連の作業がゼロに。請求書へのコード記入から並び替え~支払い、ファイリングなどの一連の各作業のマンパワーを削減。それまで3人で行っていた作業を2人で、2人の作業を1人で対応できるように。
・経理の体制変更があった際、追加採用をしなくても仕事が回るようになっていた。
・締め作業の際は出社が必要だったが、リモートワークが可能になった。
・ミスや重複が減った。各所でミスに気づける、気づきやすい運用になった。
■現場
・請求書の提出状況や、上長のチェックの進捗がわかるようになった。
・提出したはず、あの人に渡したはずというトラブルや書類の紛失がなくなった。
・事前の稟議と領収書・請求書の紐づけのチェックが楽になった。
・請求書の提出のためのスケジュール組み、出社が不要になった。
それ以外にも、以前は請求書の紙を一緒に見ながら双方で話していたようなことも、いつでもどこでもデータを見ながら会話できるようになりましたし、出社とリモートワークのハイブリッド勤務のために起こっていたタイムラグや、関係各所の出社タイミング調整なども一切なくなりました。
現場の社員から聞いた声としては 「最初は難しそうなイメージがあったものの、一度使ってしまえばすぐ慣れた。かんたんだった。」「やり取りやチェックが楽になった。」 などがありました。
――芹澤さん個人として、変化したことはありますか?
芹澤: 個人的には、大きく2つあります。
まず、 心理的な負担はとても軽くなりました。 以前の紙運用での締め作業では、4人で残業を重ねてやっと終わるくらいだったんです。だから毎月締め作業が近づくにつれ気が重くなっていて…。
それが今では、締め作業は2人いれば十分ですし、体感としても少し忙しいくらいで残業もほとんどありません。毎月必ず訪れていた心身ともに負担の大きいイベントがなくなるというのは、こんなにも心が軽くなるのかと(笑)。
そして もう1つは、業務の領域を広げられたこと。 経理業務の効率化によって、私個人としても時間ができました。そこで、総務や労務の仕事も担当するようになりました。 新しい仕事にチャレンジできること、またそのチャンスを作れたことはBill Oneで紙の請求書を卒業したことの思いがけない波及効果でした。
――導入後、Bill One側のサポートとしてはどのようなものがありますか?
芹澤: 定期的にミーティングを設け、利用状況や新機能のご案内をしていただいています。
Bill Oneの担当者の方も、当社のシンプルな使い方やその思想についてはしっかり把握されていて、ゆるめの情報交換、双方の様子伺いといった感じでしょうか。
商談時もそうでしたが、当社側のニーズを把握した上でご対応いただいているので、当社側からまた別の要望をお伝えすれば、相応のご対応・ご案内をいただけるのではないかと思います。
―― 振り返って、検討や商談を進める中で難しかったことはありますか?
芹澤: 料金はアップロードした請求書の枚数によって変動する仕組みなのですが、誤ってアップロードした場合や削除した分もカウントされるので、想定しているアップロードの枚数の見積もりが適切なのか?という懸念は、検討段階から付きまとっていました。
対応としては、ある程度多めに見積もった枚数で契約をしたのですが、この予想の精度は難しかったですね。
スムーズな業務改革の根底に流れる、挑戦する人を応援する文化
――芹澤さんの上司にあたる戸田さんに伺います。芹澤さんのBill One導入は比較的スムーズに進みましたが、その要因や、上司として心掛けていたことなどあればお聞かせください。
戸田朱美さん: 芹澤の今回の取り組みは、法改正やコロナ禍といった時代の変化をきっかけに、 自分や組織の仕事のやり方を変えよう!と自ら奔走してくれたことが、何よりの成功要因 だったように思います。
月次の締め作業は、毎月同じように続けても、なんとかなっていたかもしれません。しかしそこに疑問を持って自分で調べ、各所に協力を仰いで調整して…という能動的な行動が、周囲をどんどん巻き込んでいきました。 芹澤の提案・働きかけに社内の各所が協力して、一緒に進んでいく様子は傍から見ていて心強かった ですね。
当社では、そうした一人ひとりの能動的な姿勢や行動に対して、経営層も周囲の社員もどんどん背中を押しますし、応援します。そしてそのような組織としての推進力が生まれる背景には、当社の根底に流れる 「常に挑戦する」という文化 があるように思います。
最初は芹澤一人で始めた取り組みが、最後には多くの社員の働き方をより良いものに変えてくれました。このような挑戦がまたどこかで生まれてほしいですし、みんなでそれを後押しできる組織であり続けたいですね。
(文:安藤 ショウカ 撮影:松本 岳治)
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