close

はじめての方はご登録ください(無料)

メニュー

BizHint について

カテゴリ

最新情報はニュースレター・SNSで配信中

連載:第37回 IT・SaaSとの付き合い方

スタッフの不満を聞くのは正直怖かった。「突然の退職」を本気でなくすための、組織サーベイの選定事例

BizHint 編集部 2024年10月10日(木)掲載
メインビジュアル

北海道札幌市を中心としたデイサービス「我が家」を運営するHTC株式会社。2009年の設立後、全10事業所、従業員数110名まで順調に成長してきました。その背景には「我が家に関わる全ての人を幸せにする」という経営理念がありましたが、一方で「突然の退職」に象徴される「スタッフが日頃抱える問題の把握、解決をまだまだとりこぼしている」という課題感がありました。そこで、組織改善ツール「ラフールサーベイ」を導入。経営層、管理者層の主観とは異なる視点も用い、優先順位をつけながら組織改善を重ねてきました。同社に、ツール導入前の状況や選定の経緯、導入後の変化について伺いました。

メインビジュアル

HTC株式会社
代表取締役 臼井 宏太郎 さん
取締役本部長  須藤 友明 さん


※本記事は2024年8月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものである旨、あらかじめご了承ください。

突然の退職。スタッフが抱える問題に気づけていなかった。

――貴社では組織サーベイとして「ラフールサーベイ」を導入されました。それ以前に抱えていた課題はどのようなものだったのでしょうか?

臼井 宏太郎さん(以下、臼井): “人が全て”である介護においては、いかに人を育てて定着してもらうかが肝要ですので、当社の組織づくりでは「我が家に関わる全ての人を幸せにする」という理念の浸透を非常に大切にしています。

業界の中でも比較的順調に運営・成長してきたほうだとは思うのですが、事業が大きくなる中で2つの課題が浮かび上がってきました。

1つ目は、経営・管理者側がスタッフの状況を把握できなくなっていったこと です。事業所が3ヵ所、スタッフも30人ほどだった2012年頃までは、私自身が個人面談や採用面接、人事考課などを行っており、現場の会議にも全て出席していたので、スタッフ一人一人の状況を細かく把握できていました。

しかし事業所が5ヵ所くらいになった頃から、私一人では手が回らなくなり、スタッフとの個別面談は私と須藤(現、取締役本部長)で行い、スタッフの評価はそれぞれの事業所の管理者に任せるようになりました。

すると、事業所ごとで評価者が異なるので、それぞれの主観によって評価基準が違うということが起こるようになりました。同時に、個別のスタッフの状況も見えなくなっていきました。

そして 「突然の退職」がポツポツと起こるようになります。これは、退職に至るまでのスタッフの問題を、会社側が問題として把握できていなかった、気づけなかったということ です。

そうした状況はその後の事業成長、事業所の増設を見据えると大きな問題で「主観を排除した、人に依存しない評価の仕組み」「客観的にスタッフの状態を把握する仕組み」が必要だと感じていました。

2つ目の課題は、スタッフの抱える問題や状況の把握を「より短いサイクル」で行うこと です。人の調子には波があり、先月はすごく良い状態だったのに、今月になって突然退職してしまう…ということも度々起こります。

以前は面談を3~6ヶ月おきに実施していたのですが、それではサイクルが遅く、間に合わないと感じていました。しかし私や須藤のリソースには、どうしても限りがあります。

加えて「今は大きな問題を抱えていないスタッフ」にも、同じように面談の時間を使うので『より深い問題を抱えているスタッフにこそ、時間を優先的に使わなければならないのに…』というジレンマも抱えていました。

つまり、 悩みごとを抱えているスタッフ、面談すべきスタッフの「優先順位の把握」が必要 でした。

HTC株式会社 代表取締役 臼井 宏太郎 さん

経営者として「耳の痛い意見も聞く」と腹を決めた

――そこから組織サーベイの導入に至る経緯を教えてください。

臼井: 介護業界において、理念浸透や組織づくりで有名な社会福祉法人合掌苑(東京都町田市)の方々が、2022年10月に当社へ視察に来られました。当社で新しく始めた看護小規模多機能の事業所や、組織づくりの取り組みに興味を持ってくださってのことでした。

その際、一緒に来られたコンサルタントの方に、合掌苑での取り組みを聞いてみたんです。すると「定期的な従業員アンケート、組織サーベイにITサービスを活用している」というお話を伺いました。

私はもともと人事・組織づくりのコンサルタントをしていましたので、そういったサービスがあることは知っていましたが、導入・活用はしていませんでした。

また当時の当社の従業員数は80名ほど。いわゆる「100名の壁」を前に足踏みをしていました。500名規模の合掌苑での取り組みを耳にしたことで刺激になりましたし、そこで勧められた経営品質協議会という研修への参加なども通じて「自分自身もっと成長しなければならない」「そのためには様々な取り組みへの挑戦が必要」という思いが高まっていきました。

そうした出来事を経て「自社でも組織サーベイのサービスを検討してみよう」と、行動に移しました。

――組織サーベイの存在を知っていたにも関わらず、それまで手を付けていなかったのはなぜだったのでしょうか。

臼井: はっきりとした理由ではないかもしれないのですが、漠然と「そこまでやる必要があるのかな?」という感覚で、腰が上がらなかったんですね。

もとより介護業界は離職率が高い業界ですので、一人一人のスタッフと本音で向き合うと、やはりいろいろな不満が出てくるわけです。 それは経営者にとっては耳の痛い話ですし、「本音を聞きたい」とは言いながら、正直、それをストレートに耳にすることへの恐怖心もありました。

しかし先ほどお話ししたような、組織としての伸び悩み、スタッフの現状把握がうまくいかなくなってきている中で、 いよいよ自分の甘えに気付き「逃げてはいけない」と腹を決めました。

どんなに耳の痛い話であっても耳を傾けよう。「我が家に関わる全ての人を幸せにする」という理念を体現するために、あらためてスタッフの幸せに真摯に向き合おう、と。

センサーを活用した日常生活動作トレーニング(個別機能訓練)の様子

組織サーベイの選定。4つの条件

――組織サーベイの情報収集、選定はどのように進められたのでしょうか?

臼井: まず、合掌苑を支援されているコンサルタントの方に相談し、3つのサービスを紹介していただきました。A、B、そしてラフールサーベイです。すぐに各社へ連絡を取り、同じ日に時間差で、3社からZoomで説明を受ける機会を設けました。

その際、当社としては、以下の4つを選定のポイントとしていました。

  1. 質問内容は当社に合っているか?
  2. ショートサーベイはあるか?
  3. 費用
  4. 使用感、使いやすさ

ショートサーベイというのは、比較的短い間隔で、かんたんな質問でのサーベイを繰り返す機能のことです。当社としては1ヶ月単位くらいで「先月と今月の違い」を見たいと考えていました。 我々の現場の肌感では、1ヶ月あれば従業員のコンディションは大きく変わりますので。

――3社から説明を受けてみて、いかがでしたか?

臼井: まずAは合掌苑でも使われていたサービスで、応対や説明は丁寧でした。そして費用も許容できる範囲。しかし、ショートサーベイがありませんでしたので、商談はそこまでとなりました。

次にBは、説明をされる方が乗り気ではなかったのか、あまり良い印象は受けませんでした。費用も当社の想定を超えていましたので、見送りました。

そしてラフールサーベイ。こちらはショートサーベイがあったことに加え、質問内容も当社にマッチしていました。そして担当の方の熱意と言いますか、 「一緒にやっていきましょう」といった言動・姿勢が感じられたことなどから、信頼できそうだと思い、前向きに検討することにしました。 当社としても初めての取り組みなので、後々いろいろな相談をすることは想定していましたので。

――導入の決定まで、その後どのようなステップがあったのでしょう?

臼井: 無理をお願いする形になってしまったのですが、 選定時の4つ目のポイント「使用感、使いやすさ」については、スタッフが実際に使ってみないとわからないという懸念 があり、2022年12月にトライアルをお願いしました。

当社のスタッフの多くはITに明るいわけではありませんので、本当に使えるか?ということを事前に調べなければ、責任をもって最終決断できませんでした。導入はもちろん、仮に活用に失敗した場合にも、最も負担を強いるのは現場のスタッフですので。

トライアルでは現場のスタッフと責任者の中から数名に協力してもらいました。結果として大きな問題は確認されず、翌月2023年1月に導入を決め、会社の期初である2023年4月から利用開始しました。

スタッフの初期設定を各現場の責任者がサポート

HTC株式会社 取締役本部長 須藤 友明さん

――現場でのお話について、須藤さんに伺います。導入から社内への展開はスムーズに進みましたか?

須藤 友明さん(以下、須藤): 利用を始めるまでには、現場で何点か乗り越えなければならないことがありました。

まず、 スタッフが自分のスマートフォンで行う設定・登録作業。 当社には年齢が高いスタッフも多く、必要最低限の連絡以外でスマートフォンを使う習慣がないこともあり、利用前の登録作業で躓く方が散見されました。

この課題については、各現場の管理者が、困っているスタッフの登録作業をサポートする形でクリアできました。事前にラフールさんが管理者を集めたオンラインのキックオフミーティングを開催してくださり、使い方から数字の見方まで、全てご説明いただいたおかげで、そのような体制を整えることができました。

とある事業所では管理者がスタッフと一対一で登録作業をしたり、別の事業所では職員会議で全員が集まる際にまとめて登録したり、やり方は違えど、現場ごとで管理者が起点となって進めてくれました。

一方で、「そこまで管理されてしまうのか」とネガティブに捉えるスタッフもいました。そうした声に対しては、導入の意図や結果を公開する透明性、その結果をもとにより働きやすい会社を作っていきたいことなどを、繰り返し伝えていきました。

スタッフにとっては初めて目にするものですし、その性質上、シビアな反応になることも理解できます。実際に何回かサーベイを実施して、その結果や会社の対応を目にすると安心して慣れてくれましたが、 まだ何も見ていない段階で、最初から腹落ちするのは難しいですよね。

ただ、そういった導入時の不安に対しての説明の蓄積はその後、新入社員に伝える時に役立ちました。今は、入社時に不安点も含めて説明して理解いただいており、彼らにとって、当社におけるサーベイは「当たり前の光景」になっています。

導入から1年半ほどが経った今では、導入時に見られた不満・不安を持つ従業員はほとんどいないと感じます。回答率も9割9分以上です。もちろん中には回答しない方もいるのですが、その辺りは個人的な事情や想いもあって当然だと思っています。

――回答率を高めるための方策などあるのでしょうか?

須藤: 当社の場合は、使い方を何度も説明して、アナウンスを繰り返したことでしょうか。ログインの仕方がわからないと言われれば一緒にログインしたり、通知のメールに気付かない方々があれば、声掛けをしたり。ただこれも3ヶ月ほど続けると、いつの間にか馴染んでいきましたね。

当社の場合は、サーベイを導入する以前から「理念経営」を徹底し、経営層とスタッフの面談を通じてある程度の関係性、対話の機会は作れていたので、ハレーションも少なかったのかもしれません。

和やかな雰囲気で行われるスタッフとの面談の様子。サーベイの結果が話題になることも。

「肌感覚とデータのズレ」こそが、それまで見落としていたものだった

――あらためて臼井社長に伺います。一人一人の不満を聞くことに恐怖があった中で、実際にサーベイを実施してみてどうでしたか。

臼井: 正直、最初は結果を見るのが怖かったです。しかしいざ見てみると、想定よりも良かったんですよ。

ラフールサーベイでは自社の結果・課題などに加え、2000社以上の導入企業から、同業界を含む、様々な業種・規模の会社と比較した自社の評価・偏差値などが見られます。評価項目も、エンゲージメント、メンタル、フィジカル、組織との関係など多岐にわたります。

そうした第三者視点によってある程度の評価を得られたことで、 「今までやってきたことは間違っていなかったんだ」と安心できましたし、「理念経営」を掲げながら試行錯誤・暗中模索を続けてきた中で、次の一歩を踏み出せた感覚 でした。

特に大きな収穫だと思えたのが、事業所間でのエンゲージメントのバラつきを客観的に、かつ数字で把握できたことです。もちろんそういった情報が得られることはわかっていたのですが、いざ自社のリアルなデータを突き付けられるのは、新鮮でしたね。

結果について、我々や各事業所の責任者の肌感覚と合っている部分は当然、納得感があるのですが、 むしろ「肌感覚とサーベイの結果が違っている」という箇所には、それ以上に価値があると感じました。

そここそがこれまで「変調を見逃していた」「突然の退職者が出たであろう」場所だからです。 そういった場所こそ「今、我々は何か見落としているのではないか?」「スタッフや現場に何か困りごとがあるのではないか?」と現場を注視し、また優先的に面談の機会を持つようになりました。

この「優先順位を付ける」というのがサーベイを導入した大きな目的の一つでしたので、まさに「これがやりたかった!」と、効果を実感しましたね。

――半年に一度の詳しいサーベイ(ディープサーベイ)の結果を見ると。こちらの事業所は2023年8月に偏差値52だったものが、半年後の2024年1月には63にまで改善していますね。ここでは何が起こっていたのでしょうか?

半年に一度のディープサーベイの結果比較の一例。中央上段の総合値が53→63と改善している。

臼井: これは「看護小規模多機能」という分類の事業所の数字です。それ以前の当社は「介護」のみを扱う事業所を運営してきたのですが、そこに「看護」という医療機能も備えたものに初めてチャレンジしました。

「看護小規模多機能」は、介護と看護という2つの異なる分野のスタッフが協働することになり、業界内では「運営がとても難しい」と知られている形態です。

そういった事前情報を把握した上での挑戦だったのですが、介護と看護のスタッフは経験や考え方が異なりますし、現場での連携は想像以上に難しく、不満や問題が多く発生する事態になりました。

そんな中で初めて、ディープサーベイを実施した時の偏差値が52です。当社の事業所の中では、やはり悪い数字でした。 体感としてもうまくいっていない実感はあったのですが、これを目の当たりにして関係各所で認識を共有し、「優先的に改善していこう」と動き始めました。

サーベイの結果を見ても、また体感としても、最も大きな問題はコミュニケーション不足でした。介護職と看護職を交えたミーティングの機会を増やしたり、よりコミュニケーションが円滑にできるよう、スタッフのキャラクターも加味しながら配置転換も行いました。

看護においては、夜間の緊急時に看護師に連絡が行くオンコール体制が必要だったのですが、これが看護職、介護職のスタッフ・業務においては好ましいものではありませんでした。これも不和の要因にもなっていたので、オンコール対応は外部サービスを利用し、現場の負担を減らす対応を取りました。

そうして双方の不満の要因を一つ一つ取り除きながら、またお互いに許容しあえるような関係性の構築に努めていった結果、半年後のサーベイでは偏差値63という、当社の9事業所の中で最も高い数字になりました。

我々もスタッフも、より良い職場にしたいんですよね。働きにくい職場にしたい人はいません。そうした 「みんなでより良い職場にしていこう!」という共通認識を作るのに「第三者の評価が目に見える」というのは役立つと感じました。

経営層や現場の管理者、そしてスタッフ。 各者の主観が偏らない現状把握ができたからこそ、全員がその結果を受け入れて、同じ方向を向きやすかったように思います。

例えば仮に、私が「この職場は働きにくい!改善しよう!」と大上段から言ったとしても、私だってその当事者の一人、原因の一つなわけですから、周囲の腹落ち感は薄れますよね。

客観的評価が、現場管理者の意識・行動を変えた

――導入後、ラフール社とはどのようなやり取りがあるのでしょうか?

臼井: 基本的には、不明点があった際に相談に乗っていただく形です。

大きなものとしては、半年に1度、当社のサーベイ結果を分析したレポートを作っていただいています。私たちではできないくらい細かく見てくださって、客観的な視点で当社の状況や立ち位置を理解することができるので、改めて自社の強みや課題を把握でき、非常に参考になっています。

――当初抱えていた課題は、解決できたのでしょうか?

臼井: 100%解決したと言うのは難しいですが、大きく前進したとは感じています。 以前に比べ、事業所・スタッフがさらに増えていますが、それに対応できる組織づくり、運営体制ができてきています。

前述の通り、スタッフの状態について体感とサーベイのズレから(何かあるかもしれない)と気になって接しながら面談してみると、実は悩みを抱えていたりすることに気付ける機会も増えました。

特に現場の管理者には、とても良い影響を与えていると思います。 経営面の数字とは別の指標で事業所の状態が可視化されるので「自分が管轄する事業所をもっと良くしよう、働きやすくしよう」という意識、行動は確実に増えています。

一般的に、事業所の規模が大きくなると、管理者は現場には出なくなるのですが、当社は基本的に管理者も現場に入って介護をしています。そうすると、目の前の仕事に追われて、どうしても個人面談の優先順位が下がって後回しになってしまうということが起こっていました。

ですので、以前は会社から管理者に対して「面談をしてください」とアナウンスをしていたのですが、これが大きく減りました。ラフールサーベイの結果を見て、違和感があればスタッフの変調に目をやり、優先的に面談やフォローをしています。そうした動きが、スタッフや事業所のサーベイの数値となって現れますので。

さらに言えば、会社が管理者に行っていた「面談をしてください」というアナウンスも、正確にはズレたアプローチだったんですよね。全員と面談をすること自体は、目的・ゴールではありません。 「悩みを抱えるスタッフに、もっと寄り添いましょう。その1つのアプローチが面談です。」が正しい姿のはずです。

同じ面談でも、形骸化せず「お互いに目的を理解して向き合う」ことができるようになってきている と感じます。その積み重ねこそが、「我が家に関わる全ての人を幸せにする」という当社の理念を体現する取り組みになっていくはずです。

(文:安藤 ショウカ 撮影:坂井 亨輔 (GAZEfotographica) )

この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})

close

{{selectedUser.name}}

{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}

{{selectedUser.comment}}

{{selectedUser.introduction}}