リーダーシップとマネジメントの違いは?定義と必要なスキルを解説
ビジネスはもちろん、組織の中で必要とされるリーダーシップとマネジメント。アメリカをはじめ、西欧ではきちんと使い分けられていますが、日本ではしばしば混同されがちです。今回はリーダーシップとマネジメントの違いを中心に、それぞれの定義、習得方法、おすすめの書籍をご紹介いたします。
「リーダーシップ」と「マネジメント」それぞれの定義
リーダーシップとマネジメントの違いを知る上で、まずはしっかりとそれぞれの定義を理解しておく必要があります。
リーダーシップの定義
リーダーシップとは、企業や組織で定められた目標や目的を達成するために、自発的に集団活動に参加し、導く能力を指します。また、組織やチームに参加するメンバーの方向性(ビジョン)を定め、集団活動を維持させる働きもあります。
リーダーシップはピーター・F・ドラッカー博士やスティーブン・R・コヴィー博士といった、多くの識者がさまざまな角度から定義されている能力です。
その中でも、リーダーシップの共通項としてあげられるのが「ビジョン」と「結果」であり、行動や創造を中心とした役割を担います。目標や結果物の実現の向かうために、必要なオリジナリティや秩序の創造、長期的な見通し、新しいことへの挑戦、また人々を惹きつけ、導く人格を有することが必要です。また、組織やチームのリーダーとして、全体を先導するスキルが必要とされています。
経営者はもちろん、新規事業を任されるリーダーやリーダー候補に求められる能力でもあります。建築業界で例えるならば、リーダーシップとは、どんな家を建てるかを明確にする「建築家」の立ち位置といえます。
【関連】リーダーシップとは?意味や定義、種類、必要なスキルなど徹底解説 / BizHint
マネジメントの定義
マネジメントとは、目標や目的の達成に向けて、組織に必要な要素を適切に分析・管理を行ない、集団活動の維持や促進を担う能力を指します。リーダーシップの定義が行動や創造を中心としている一方、マネジメントの定義は目標や目的を達成するための手段の模索や管理が中心です。
具体的な内容として、組織に属するメンバーの管理、前例の模倣、短期的な見通し、損得勘定、現状の認識、規則や秩序の遵守、戦略立案などが挙げられます。マネジメントの権威でもあるピーター・ドラッカー氏によれば、社会と個人がより大きな相互関係を維持・発展させるものが組織であり、その組織を機能させる役割がマネジメントと定義しています。
また、大企業の部長や課長などの管理職・管理者、現場を統括するマネージャーに求められる能力です。建築業界で例えるならば、マネジメントとは、実際に家を建てる「大工」の立ち位置といえます。
【関連】マネジメントの意味とは?ドラッカー理論から役割、仕事内容まで徹底解説 / BizHint
リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップ | マネジメント | |
---|---|---|
視野 | 未来的かつ長期的 | 現実的かつ短期的 |
役割 | ビジョンの提示、模範、整備、権限委譲、補佐 | 目標の達成、維持、調整 |
必要なタイミング | 変化を求められている時 | 何かを確実にやり遂げたい時 |
核となるスキル | 人間的な魅力、先見性 | 管理調整能力 |
リーダーシップとマネジメントは、一見同じ能力と捉える方もいらっしゃいますが、それぞれには明確な違いがあります。ここでは「人間性(視野)」、「役割」、「心構え」、「必要とされるタイミング」の4つの角度からご紹介いたします。
人間性における違い
組織にはさまざまなタイプの人間がいます。そのため、人事担当者は従業員の人間性を見極め、各々に合ったキャリアパスを導く必要があります。
リーダーシップを担う人の人間性
リーダーシップは、目標や結果を達成するために、主体性を持ってビジョンを明確にし、組織や個人を導く役割を担います。ビジョンや方向性を示し、周囲に理解を得るためには「誠実さ」が欠かせません。
誠実さとは、周囲の人から信頼を得るために欠かせない要素の一つです。自分自身の言動の一致はもちろん、判断に迷った時には自問自答し、自らが下した判断を信じ、挑み続ける上でも必要な人間性といえます。
マネジメントを担う人の人間性
マネジメントは目標や結果を達成するために、必要な計画や手順を策定し、集団活動を維持・促進させる役割を担います。リーダーシップが未来的なビジョンと長期的な見通しを描く一方で、マネジメントは現実思考で短期的な見通しを描く必要があります。
また、マネジメントの権限は管理職マネージャーなどの地位に与えられることが多く、組織上の立場もリーダーシップとは異なります。そのため、論理的な思考や現実的な視点が必要となり、現状を冷静に分析できる感情に左右されない人間性が必要とされます。しかし、論理的思考に偏りすぎることは時には考え方や行動を制限してしまい、集団活動を停滞させる恐れがあるため、注意が必要です。
役割における違い
リーダーシップとマネジメントはそれぞれ異なる役割を持っており、相互に作用することで集団活動のパフォーマンスを向上することができます。
リーダーシップの役割
リーダーシップに求められる役割は主に以下の4つにわけることができます。
- ビジョンを示す
- 模範
- 整備
- 権限委譲による補佐
リーダーシップには、組織・チームとして、どこに向かうべきかを長期的な視点でビジョンを示す、いわばコンパスのような役割が求められます。これにより、チームメンバー全員の方向性を揃えることができ、集団活動の維持が可能となります。
そして、組織やチームを導く先導力を発揮するためには、彼らの信頼を得ることが欠かせません。信頼は自らが部下やチームメンバーの模範となることで得られやすい傾向にあります。また、規則や秩序作り、適切な人員配置、意思決定プロセスの可視化など組織全体の整備もリーダーシップに求められる役割です。
マネジメントと明確に異なる役割が「権限委譲による補佐」です。リーダーシップを担う人は、チームメンバーを管理・統制するのではなく、責任を明確にし、チームメンバーに権限を委譲した上で、彼らを補佐することが大切です。チームメンバーが主体に動ける体制を構築し、自らは補佐の役割に徹することが集団活動のパフォーマンス向上に役立ちます。
マネジメントの役割
マネジメントの役割は、リーダーシップと比べて、より実務的なものとなります。その役割としては以下の3つが挙げられます。
- 目標の達成
- 維持
- 調整
マネジメントの最大の役割は、目標や目的の達成です。定めた目標に対して、「いつ」、「どのように」物事を進めていくかという集団活動の推進力を担います。
そして、マネジメントは集団活動を維持させることが大切です。部下・チームメンバーの進捗や現状把握はもちろん、モチベーションや健康管理、規則・秩序の遵守の徹底など集団活動を維持する要素全てを俯瞰する必要があります。その結果、人員不足やトラブルの発生、プロジェクトの進行遅延などが発生した際には、周囲の協力を仰ぎながら、調整をしなければいけません。
心構えにおける違い
リーダーシップとマネジメントは人間性や役割がそれぞれ異なるため、心構えにも明確な違いがあります。
リーダーシップの必要な心構え
既にご紹介している通り、リーダーシップに欠かせない役割として、ビジョンの明確化や部下・チームメンバーの先導力が挙げられます。
自ら最前線に立ち、組織やチームを導いていく以上、リーダーシップを担う人は最後まで諦めてはいけません。仕事を進めていく上では、困難な状況や想定外のトラブルは付き物です。リーダーシップを担う人の成功への確信が揺らぐ、または不安定な精神状態に陥れば、それは組織全体に伝染してしまいます。
リーダーシップを担う人はどんな困難な状況においても、達成・成功するという心構えが必要です。
マネジメントの必要な心構え
より実務的な役割を求められるマネジメントにおいては、「原理原則に従う」という心構えが大切です。言い換えるならば、論理的に行動するといえます。
マネジメントには、目標の達成、組織・集団の現状把握や維持を担う役割があります。そのため、感情に支配されることなく、原理原則に従い、論理的な判断を行う心構えが大切です。近年、表面化しているパワーハラスメントをはじめ、人事評価が上司の感情や好き嫌いにより行なわれることは珍しくありません。
マネジメントはそういった個人的な感情を抜きにして、自分自身の役割を担わなければ、組織やチームの崩壊を招いてしまいます。
必要とされるタイミングの違い
組織や集団が活動を行なうにあたり、リーダーシップとマネジメントが必要とされるタイミングは異なります。これらのタイミングを知ることで、より効果の高い集団活動を行なえます。
リーダーシップが必要なタイミング
リーダーシップが必要となるタイミングは、「新しいことを始める時」及び「組織が停滞している時」が最適とされています。
仕事はもちろん、何か新しい活動を始めるにあたり、必ず必要となるのがビジョンや先導力です。未来志向のビジョンの可視化や組織・チームを牽引する役割はリーダーシップが得意とするところです。
また、組織が組織として機能不全を起こしている際もリーダーシップが必要となります。新たなビジョンや秩序の創造は従来の体制を破壊することと同意です。さまざまな反発や障害が発生する中で新しい考え方や秩序を取り入れることは、会社の体質改善にも効果的です。組織・チームを力強く導き直すためにはリーダーシップが大いに役立ちます。
マネジメントが必要なタイミング
マネジメントの役割は目標の達成や組織の維持、調整です。そのため、「新しいことを確実に行なう時」にこそ、マネジメントは必要とされます。
新しい活動にはさまざまな障害や困難が付き物です。それらを「どのように」対応し、乗り越えていくかが鍵となります。現状を正確に把握し、論理的に考え、行動できるマネジメントを行なうことで、最適な集団活動を維持・向上することができます。
リーダーシップとマネジメントに必要なスキル
社会人をはじめ、組織に長く所属することで、昇進や昇級のタイミングを迎える方も多いかと思います。また、組織から期待される内容も人それぞれです。自分自身のキャリアパス構築のためにも、それぞれがどのようなスキルなのかをしっかりと把握しておきましょう。
リーダーシップに必要なスキル
リーダーシップに求められるスキルは、主に2つです。それが「人間的な魅力」と「先見性」です。
リーダーシップは他のメンバーを率いる先導力や影響力が必要となります。先動力に長ける人、影響力のある人は、人間的な魅力が多い傾向にあります。そのため、リーダーシップのスキルを培うにあたり、人間性や人柄を醸成する必要があります。
これら「人間的な魅力」を土台に、新たなビジョンや目的地を示すことができる「先見性」が求められます。時代の変わり目や経済の流れを汲み取り、次の需要を的確に把握できる力こそリーダーシップに必要なスキルといえるでしょう。
マネジメントに必要なスキル
マネジメントに必要とされる代表的なスキルが「管理調整能力」です。
マネジメントには、現状を把握し、集団活動を維持していく任務があります。そのため、目標達成に必要なタスクの洗い出し、計画、進捗管理、経営資源の確保、組織能力の仕組み化、チームの最適人数の計算など論理的思考に基づいた管理調整能力が求められます。
スキルの習得方法
従来の人材育成だけでは、グローバル化された経済界を生き抜くことが難しいとされています。そのため、企業もリーダーシップやマネジメントのスキルを備えた人材の育成にあらゆる手段を活用しています。
研修・講座を利用する
企業をはじめ人材育成を必要とする多くの組織は、研修(企業内・企業外)や講座を設け、リーダーシップやマネジメントのスキル習得に力を入れています。自分自身の描くキャリアパスと組織が求める期待・役割とのすり合わせを行い、会社が提供する研修や講座を受講すると良いでしょう。
リーダーシップやマネジメントのスキル習得に特化した研修プログラムや通信研修を提供する企業も多数あるため、自社が求めるスキルにカスタマイズされた研修を受けることができます。
コーチングを実施する
コーチングとは、指導者と指導対象者がコミュニケーションを通して、課題の発見と解決方法を模索するという人材開発手法の一つです。
リーダーシップ、マネジメントを担う人材に共通するのは自立型人材です。そのため、既に主体的にリーダーシップやマネジメントを発揮している人材の下で、教育を行うことがそれらのスキルを身につける最良の方法といえます。
もちろん、これらのスキルは書籍でも学ぶことができますが、仕事の現場で直接学ぶことにより、実践的なスキルを身につけることが可能となります。
リーダーシップ、マネジメントを学べる書籍をご紹介
リーダーシップやマネジメントについて、執筆されている書籍は多数あります。その中でもおすすめの書籍をご紹介いたします。
マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則/ピーター・F・ドラッカー
マネジメントの権威であるピーター・F・ドラッカー博士の著書です。ドラッカー博士が提唱するマネジメント論を俯瞰して、短時間で知ることができます。人材育成、組織、マネジメントの分野においてもわかりやすく解説していることから、管理職の初心者にも読みやすいのが特徴です。
【参考】Amazon マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則ピーター・F・ドラッカー
完訳 7つの習慣 人格主義の回復/スティーブン・R・コヴィー
人格主義の回復を目指した7つの習慣を提唱するスティーブン・R・コヴィー博士の書籍です。リーダーシップとマネジメントの違いを明確に示し、心理的・行動的側面を理論立てて説明することで、ビジネスのパフォーマンス向上に役に立ちます。リーダーシップ、マネジメントに必要な考え方や動機、メンタル、スキルを具体的に知られる良書といえます。
【参考】Amazon 完訳 7つの習慣 人格主義の回復 Kindle版 スティーブン・R・コヴィー
人を動かす/D・カーネギー
自己啓発本の原点と言われるD・カーネギー氏の書籍の一つです。「人を動かす」ことはもちろん、「人に好かれる」、「人を説得する」、「人を変える」などマネジメントに必要なスキルを解説しています。組織の中での物事の進め方や周囲の人との信頼関係の構築などビジネスで欠かすことができないスキルを学ぶことができます。
リーダーシップ論/ジョン P. コッター
リーダーシップが必要とされるタイミングやその役割を記した書籍です。また、変革を起こす上で、どのような行動が必要とされるかを具体的に記しているのも本書の特徴です。ビジネスの基本となるリーダーシップが記されているので、将来、組織やチームのリーダーとして活躍したい人におすすめの書籍です。
【参考】Amazon リーダーシップ論 ジョン P. コッター
まとめ
- 変化の激しい世界経済において、新たな価値を生み出すためには、リーダーシップとマネジメントが欠かせません。
- 日本企業にとっても、これらの能力を備えた人材の確保や育成が急務となっています。
- 企業において、リーダーシップやマネジメントを従業員に身につけさせるためには、人事が主体的に取り組む必要があります。
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