最低賃金改定の対応、できていますか？

みんなチェック！最低賃金

新入社員のＡさんは、帰宅途中の街中で、有名な女性タレントがにこやかに微笑む厚生労働省のポスターに目を取られました。そこには、「みんなチェック！ 最低賃金」という言葉とともに「東京都　1041円」と書かれていました。

帰宅後、Ａさんは電卓を取り出して、先月の給与明細を見ながら計算を始めました。

「えーと、私のお給料は月25万円で、手当とかはないし、残業もほぼないから……」

電卓を叩いた結果にAさんは目を見開きました。

「998円……えええええっ!?　私って、最低賃金以下で働いていたの？」

最低賃金は時間額（時給）で表示されているため、時給制の方は、最低賃金を下回ったお給料になっているという問題はそれほど生じません。ですが月給制の社員の方の場合、意識的に時給換算して確かめないと、うっかり最低賃金を下回ったままの給料を支払っていたという事故が起きかねません。

今回は、この最低賃金について経営者や人事労務担当者が知るべきことを見ていきましょう。

最低賃金とは？

最低賃金（「最賃」と略称されることもあります）は、最低賃金法（最賃法）という、働くすべての人に賃金の最低額を保証する法律によって定められた制度です。最低賃金には、都道府県ごとに1つの金額を定めた「地域別最低賃金」と、特定の産業に関して定められた「特定最低賃金」の2種類があります。地域によって経済活動の活発さや物価が違うことから、地域別最低賃金が基本的なものとなっています。

地域別最低賃金は原則として毎年1回、10月1日に改定されます。たとえば、2021（令和3）年10月時点で最も高い地域別最低賃金額は、東京都の1,041円、最も低い地域別最低賃金額は高知県と沖縄県の820円となっており、かなりの地域差があることがわかります。各都道府県別の最低賃金額はこちらで確認しましょう。特定最低賃金も合わせて掲載されています。

最低賃金法は、労働基準法から分離してできた法律です。そのため、最低賃金についての定めは、労働基準法と同じように運用されています。

それは、（1）法律より低い労働条件である場合、その労働条件は無効となって、自動的に法律が定める最低限のレベルまで労働条件が引き上げられることです。これを「強行的・直律的効力」といいます。

そして、（2）法律違反に対しては、行政の取り締まりの対象となり、刑事罰が用意されていること、の2点です。

（1）「強行的・直律的効力」は、たとえば東京都の企業がパートタイマーやアルバイトの時給を「1,000円」と定めて、働く方がその金額で契約書にサインしたとしても、その金額は無効となり、2021年10月現在ですと自動的に「1,041円」が時給になります。

（2）の法律違反は、最低賃金を守っていないと労働基準監督署（労基署）の行政指導（是正勧告）を受けたり、悪質な場合には送検されて刑事罰を受けたりします。地域別最低賃金違反の場合は50万円以下の罰金です。

社員Ｂ「今度、わが社は初めてパートタイマーを採用するのですが、時給は1,041円にしますね」

社長「ん？　何だ？　その中途半端な金額は？　1,000円ぴったりで良いじゃないか！　計算しやすいぞ！　だいたい私の若い頃は時給600円くらいだったんだから、それに比べたら高すぎないか？」

社員B「実は、最低賃金法という法律がありまして、わが社のある東京では……」

このような会社はさすがに無いとは思いますが、この社長さんが強引に時給1,000円にしてしまうと、「強行的・直律的効力」によって差額の41円を後で働いてもらった時間分支払う必要があります。場合によっては「法律違反」で労基署から指導を受けるなどの可能性があります。

ちなみに、地域別最低賃金は都道府県単位の自治体範囲で適用になります。ですから、東京都の場合は離島であっても「東京都」であるならば、同じ金額となります。

最低賃金は今後どうなるの？