連載:第24回 「人と組織の科学」―人事データ・ピープルアナリティクス最前線―
社員の特性から「今後20年間つまずかずに行ける人材」を制定
関東地方を基盤にLPガスや電気などの家庭用エネルギーを販売する三ッ輪ホールディングス。現在を第二創業期と位置付ける同社では、従業員の特性からコンピテンシーモデルを策定し、採用や配属に役立てています。代表取締役社長の尾日向竹信さんと、プロジェクトを推進した社長室企画担当マネージャーの塩﨑智さんに、人事データの専門家、鹿内学さんが話を聞きました。
シンクタンクを経て、2015年に三ッ輪産業株式会社の代表取締役社長に就任。ガスの供給だけでなく、リフォームや宅配水、電気の供給事業を行い、電気料金の支払いにビットコインを導入するなどさまざまな取り組みを行う。
ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社、EYS-STYLE株式会社を経て、2018年に三ッ輪産業株式会社に参画。人材開発担当として、研修のみならず人材モデル策定から、データドリブン組織への変革までさまざまな取り組みを行う。
自社に合う人材の要件、どのように決めればいいのか?
鹿内学さん(以下、鹿内): 御社では新卒に求めるコンピテンシーモデルの基準を作り、採用や配属に役立てていると聞きました。社員の特性を探るツールはどのようなものを使われたのでしょうか?
塩﨑智さん(以下、塩﨑): レイル社の「MARCO POLO(マルコポーロ)」を使いました。ツールは100社くらい比較検討しましたが、弊社の場合、営業や内勤など配属部署によってコンピテンシーが異なるため、複数モデルを評価できる点が導入の決め手になりました。
鹿内: 確かに、同じ会社でも部署によって必要人材の要件は異なります。いちばん混在してはいけない部署の組み合わせは?
塩﨑: 本部と営業所はかなり異なると思います。営業所でも小売担当なのか卸担当なのか。さらに、各担当でも、営業・内勤という職種で求められるものが違う。弊社では「新しい価値創造し続ける」をミッションとして掲げていますが、現場ではルーティンワークを当たり前に回すことも大切です。社員から話を聞く中で配属のミスマッチがあると実感しました。
鹿内: そもそも、モデルはどのようにして決めたのでしょうか?
塩﨑: 社員23人にモデラーになってもらい、アンケートを実施しました。性格特性、スキル、仕事の仕方のような質問から、「三ッ輪産業にとってのハイパフォーマーとは?」「この先20年、三ッ輪産業でつまずかずに活躍できる能力要件とは?」などです。多くケースでは、マネジメント層にアンケートを実施して制定するのですが、直接社員に聞いたのでより現場感に沿っていると思います。分析結果から12個のモデルが浮かび上がり、最終的に役員とディスカッションを経て6つのモデルに統合しました。
尾日向竹信さん(以下、尾日向): もともと、採用試験で適性検査「SPI」を実施していましたが、その優劣は「一般解」に過ぎず、当社で活躍してもらえるための指標としては中々マッチしないという難しさも感じていました。
今回、現場感のあるアンケートを基にすることで、当社のための「特殊解」が導けるアセスメントを構築することを目指しました。
鹿内: 理論から入る方法とデータドリブンと両方手段はありますが、社員自身に「優れた社員像」を質問するのはユニークな手法ですね。その6つのモデルとは?
塩﨑: 「本社企画職モデル」「小売営業モデル」「小売内務モデル」「卸営業モデル」「卸内務モデル」「ENS営業モデル」があります。必ずしもこの6つに分類されるわけではなく、複数のモデルを兼ね備える人もいます。
準備期間は私から社長に企画提案して、議論し決裁をもらうまで3か月。その後、アンケート配布〜回収まで1か月くらいです。回答はWEB上と紙とが混在していたので、集計・分析に2か月。正味半年ですね。議論のポイントは「目的は何か? なんのためにやるか?」ということ。私は育成の担当責任者なので、「何をゴールとして、どのような育成プログラムに紐づけるか」まで最初にフレームワークを作りました。
鹿内: 尾日向さんは、このモデル策定には最初から賛成でしたか?
尾日向: 自分達の会社をより伸ばしていく人材モデルを作るために、既存社員の意見ベースでストレッチが効くのか、少し違和感はありました。ただ同時に、「自分たちの会社にとって必要なハイパフォーマーをみんなで作り出す」といったプロセスによって、運用時の実効性・納得感の高さはあると感じました。提案を受けて塩﨑と社員リストを作り、幹部にもコンセンサスをとって一緒にモデルの統合を議論しました。
塩﨑: このモデルは新入社員の採用で活用するまでがゴールではなく、採用から教育までをゴールとして想定しています。2019年の新卒採用では、会社説明会を受けて面接に進みたい人に「MARCO POLO」のテストを受けてもらいました。その後、人事部の採用担当による一次面談があり、所属長・人事部の上役による二次面談の時に、テスト結果を面接官に渡しました。
鹿内: 面談資料として用意されていると、目の前の面接相手よりデータを気にしてしまうことはありませんでしたか?
塩﨑: マルコポーロだけでの合否は判断しません。面接官もそれは理解していました。あくまでも参考資料としてみてもらい、面接の結果を最も重視しています。
運用は1年目なので、新入社員が現場に配属されて結果がでるのはこれからです。今は、彼らがこれから組織内でどう活躍するのかをモニタリングしています。そして、将来的にはそれぞれのモデルに合った教育プログラムを作ったり、配置転換の際に他の社員との相性も見たりする際にも役立てたいと考えています。
これまでのハイパフォーマーがそのまま成果を出せるとは限らない
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