連載:第4回 流通小売の未来
4月統計から「食」の変化を分析。コンビニによる傾向差、売上伸長の外食チェーンの要因を探る
新型コロナウイルスの感染拡大やそれにともなう緊急事態宣言により、人々の「食」にまつわる消費行動は、どう変化したのか?コンビニを中心とする「中食」、飲食店などの「外食」、主に食品スーパーマーケットの「内食」。この3つの消費動向を2020年4月の統計情報や各店舗の対応をもとに振り返り、今後必要とされる「新しい生活様式」や、第2波・3派が発生した際のヒントを探る。
セブン-イレブンの「近くて便利」。オフィスや駅前から住宅地へ移行
まず、「中食」とされるコンビニ業態から。コンビニは自然災害に強いとされている。地震や台風、洪水などの災害時に(店が営業できれば)コンビニの需要は一気に跳ね上がる。では、今回のコロナ禍での営業状況はどうか?
4月の既存店前年比は「過去最悪」 としてよいだろう。小売業界で最も安定した成績を誇るセブン-イレブンでさえ、客数14.7%減、客単価11.4%増、売上高5.0%減と大きく落ち込んだ。客数が大幅に減少した分を、まとめ買い(客単価の増加)で押し上げるものの前年売上には遠く及ばなかった。3月に売上が前年割れに転じているが、さらに悪化した形だ。
ファミリーマートは客数22.2%減、客単価9.3%増、そして売上高は14.8%減と、大幅な落ち込みを記録した。ファミリーマート(16,610店)はセブン-イレブン(20,938店)に店舗数では4,328店の差があるものの、大都市圏では拮抗、もしくは上回っている。東京都はファミリーマート2,453店に対してセブン-イレブン2,765店、同様に愛知は1,580店対1053店、大阪は1,365店対1,253店と、 ファミリーマートは大都市に強い傾向がある。 これが今回のコロナ禍で影響していると思われる。
感染拡大が本格的に始まった3月からリモートワークが推奨されている。 特に大企業のオフィスが集中する都市圏に出店するコンビニでは、大幅な客数減に見舞われた。
生活必需品中心のコンビニは、基本的に非常時に影響が少ない業態であるが、セブン-イレブンでは、オフィス立地や行楽立地、駅前立地を中心に客数減の影響があった。一方で住宅立地の売上は伸長している。東京でいえば中野区や世田谷区、杉並区の売上は前年比で2ケタ近く伸びている」(セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長 井阪隆一氏)。セブン-イレブンは“近くて便利”をコンセプトとするが、その利用客がオフィスや駅前から、テレワークに伴い自宅に近い住宅立地へ移動した結果であろう。
一般に自然災害時にコンビニは客数が急増する。利用者が難を逃れ、生活必需品をまとめ買いする。東日本大震災時には首都圏のコンビニで、おにぎりやパン、カップ麺、ミネラルウォーターなどが1週間にわたって品薄状態が続いた記憶が筆者にはある。だが今回のコロナ禍にそのような特需は起こらなかった。
ミニストップ代表取締役社長の藤本明裕氏は次のように理由を語っている。 「台風や地震といった自然災害時にコンビニやスーパーマーケットにお客様が殺到する状況が過去にはあった。しかし今回(のコロナ禍)は時間的な余裕があり、準備期間があり、お客様は、より低価格で、より買いだめができる店舗を選んでいる。コンビニでも住宅エリアで、そうした需要に応えているものの、オフィスエリアやイベントエリア、観光地などで売上が半分以下になる店舗もあり、全体としては弱含みの状況にある」。
ただし、コンビニも手をこまねいているわけではない。店舗によっては、一時期品薄になったトイレットペーパーなどの紙製品、安価でボリュームのある大袋の菓子、ミネラルウォーター(2ℓ)も食品スーパーマーケットに遜色のない100円で売り出すなど、品揃えを工夫して購買行動の変化に対応している。
すなわち、価格も含めてスーパーマーケットやドラッグストアと“対抗”し、買い回りしなくても1カ所で生活必需品がそろう「ワンストップショッピング」を志向している。
ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏は次のような対策を講じている。 「毎日の日常生活に寄りそう品揃えに変えている。牛乳、玉子、納豆、生鮮食品、カット野菜、日配食品、冷凍食品など、毎日の食事に使用されているものを、すぐ近くのローソンで買物いただける、そういった品揃えを充実させている」。
一方でコンビニの強みは新しい商品の提案性にある。メーカーが好んで新商品を投入する業態はコンビニである。若者層の目に触れる機会が多く、敏感に反応してもらえるからだ。生活必需品を品揃えするだけではコンビニの特性が発揮されない。日常の半歩先にある少し贅沢な潤いもコンビニに求められてきた。
「外出自粛とリモートワークの中でストレスを解消したいニーズがある。そこでローソンは自粛疲れを癒すプチ贅沢なスイーツや酒類の品揃えを拡充して、お客様が快適に過ごせる時間を整えていく」(竹増氏)
生活防衛的な品揃えを先行したコンビニ業態であるが、実需を掴むだけではなく、不安な生活を送る消費者心理を解消する、コンビニらしい情報発信をしていきたい。
低単価・高回転モデルの居酒屋チェーンは、「安心感」まで踏み込んだ三密対策が急務
今回、目に見えるかたちで直接的な被害を受けたのが外食産業である。3月下旬には不要不急の外出自粛が呼び掛けられ、4月7日に7都府県に緊急事態宣言、16日には対象地域が全国に拡大された。図表は日本フードサービス協会が集計した4月までの業態別全店の前年比である。
4月末の時点でパブレストラン/居酒屋とディナーレストランは売上が8~9割減、ファミリーレストランも6割減である。5月に各地で緊急事態宣言が解除されたものの、 引き続き「回復」とは言えない状況が続く であろう。
かつては「和民」、近年は「ミライザカ」「鳥メロ」などの居酒屋を展開するワタミの4月の既存店売上高は、前年比97.5%もの減少となった。対象店舗数は直営317店。多くは臨時休業と時短営業の影響である。
「鳥貴族」の既存店売上高は2019年11月より2020年2月まで前年比を超える形で好調な数字を残してきたが、3月に16.1%の減少、休業に入った4月には96.1%の減少まで落ち込んだ。理由はワタミと同様である。
居酒屋チェーンの勝負どころの多くは、料理とドリンクの「お値打ち感」にある。“食べて飲んで美味しくて意外と安かった”と感じさせればリピーターが付いて店は繁盛し、多店舗化を図っていける。その安さを実現しているのは、単位面積当たりの客数と回転の速さだ。 お客をびっしり詰め込んで、開店から閉店までどんどん回していけば、1人当たりの荒利額が低くても稼いでいける。
隣りの友人と肘と肘がくっつく狭さでも“にぎわい”や“活気”があって楽しいと感じる若者層もいる。近年のネオ横丁ブームも高収益のビジネスモデルを店の居心地に上手く移植して収益性を高めてきた。
そうした居酒屋チェーンの成功法則も、ウィズコロナ、アフターコロナの時代には厳しく見られるかもしれない。「密集」と「密接」が重なり敬遠される恐れがあるからだ。
特にブランド力のあるチェーンにはマイナス要素が大きい。地下1階でも3階でも集客できるので、 家賃の高い1階への出店は避ける傾向がある。 ところが、地下や階上になると、ドアや窓を開け放した換気が難しくなり、「密閉」空間になってしまう。
換気設備が機能していても、外気を「目に見えるかたち」で取り込めないと、お客に与える安心感が違ってくる。居酒屋チェーンには、客席配置の改善が求められると同時に、利用者の安心感に訴える施策も求められていきそうだ。
新宿の歌舞伎町ではGW後、午後8時までの制約の中で営業する店舗が増加。しかし客足は戻っていない。写真は緊急事態宣言が解除された5月25日の夕方。
「テイクアウト強化」の吉野家。前年売上を超えたマクドナルド
逆に有効な手立てにより前年売上を維持したり、さらに伸長させたのがファストフードチェーンである。
吉野家の既存店は3月が、売上高98.2%、客数100.1%、客単価98.0%、4月が売上高96.0%、客数99.0%、客単価97.0%と、数字だけ見れば、まるで平時と同じ状況にある。
成功の要因はテイクアウトの訴求である。4月1日より22日まで「テイクアウト牛丼・牛皿15%オフキャンペーンを実施、間髪入れず4月23日より5月31日まで「テイクアウト限定ファミリーセット」を投入した。牛丼、生野菜サラダ、みそ汁、お新香の3人前セットを123円割り引いて1350円、同4人前セットを164円割り引いて1800円とした。 コロナ禍を「テイクアウト強化の機会」としている。
イートインから上手くテイクアウトへ移行したチェーンが売上をキープした。吉野家はテイクアウト割引を訴求し、売上減を最小限に抑制。
マクドナルドの既存店は3月が売上高99.9%、客数92.3%、客単価108.3%、4月が売上高106.5%、客数81.1%、客単価131.4%とし、 休校に伴うファミリー需要を取り込んだ。
4月は店内客席の利用の禁止や、時短営業、休業などマイナス要因が大きかったものの、テイクアウトやドライブスルーのまとめ買いで乗り切っている。もともと強かったファミリー需要を、期間限定のハンバーガーや江崎グリコとタイアップしたスイーツなどを投入して、さらに伸長させている。
一方、回転寿司のスシローの既存店は3月が売上高86.3%、客数83.9%、客単価102.8%、4月が売上高55.6%、客数45.3%、客単価122.7%と、4月は半減させた。特に4月は過半数の店舗を20時閉店としたため、ディナー帯の需要を大きく落とし、テイクアウトがカバーするに至らなかった。
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