連載:第9回 流通小売の未来
近隣に大手スーパー出店後も2桁成長を継続。競合を迎え打つ戦い方とは
近隣に大手企業のスーパーマーケット(SM)が出店し、売上を奪われるというのは多くのローカルSMにとって共通の脅威だろう。そうした中、スーパーやまのぶ四郷店は、2020年9月に店舗から260メートルの至近距離に大手SMが新規出店したにもかかわらず、売上を落とすどころか伸ばし続けている。山信商店の本田満取締役営業本部長に、大手の出店を迎え撃つローカルSMの競合対策について伺った。
山信商店は、愛知県豊田市で「スーパーやまのぶ」の店名でSM7店舗、自然栽培に力を入れる直営農場「みどりの里」、さらに関連会社を通じてレストラン3店舗を展開している。豊田市の人口は約42万人。トヨタ自動車の本社があり、下請企業の労働者も多く客層は多様で、ディスカウントストアやドラッグストアとの業態間競争も激しいエリアだ。
スーパーやまのぶ四郷店(以下、単に四郷店)は、愛知環状鉄道・四郷駅を降りて、約700メートル、歩いて約10分の距離にある。駅から四郷店の間には「Zタウン(仮称)」という複合商業施設がある。ホームセンター、100円均一ショップ、ドラッグストア、レストランなど、いずれも各業態の大手チェーンがテナントとして入居し、その中に大手SMのX社(仮称)が出店している。
そこからさらに南に向かって約260メートル歩いたところに四郷店がある。これほどの至近距離で、しかもトップブランドの他業態を買い回りできる複合商業施設にX社の新店ができたのだから、普通なら売上は落ちるだろう。しかし、山信商店の本田取締役(以下、本田氏)によると、X社が出店して来た後も四郷店は「売上を伸ばし続けている」という。
X社の新規出店後も二桁成長を継続
四郷店がオープンしたのは16年10月19日。本田氏はオープン時から直近までの月次の売上実績を見せてくれた。前年比が出る17年10月から直近の21年12月まで、50カ月の売上伸長率(対前年同月比)の平均を計算したところ、110%台後半だった。
20年はコロナ禍特需、21年はその反動減で波もあったが、オープンから現在に至るまでかなり高い成長率を誇っている。
気になるのは、20年9月4日にX社の新店がオープンしてからの売上の推移である。オープン後の5カ月を見ると、すべて前年対比で100%を超えている。
売上伸長率(同)の平均は110%台前半だった。多少伸び率は下がったが、それでも二桁成長を継続した。驚くべき結果である。
本田氏 「X社が出店してきた後の四郷店の状況について、同業の方はもちろんですが、いろんな業種の方から注目されているようで、『どうなりました?』とよく聞かれます。『売上は落ちていません』と答えると、『隣りに競合店ができたのに、落ちんなんてあり得る?』といって皆さん驚かれます(笑)。でも本当です。X社が出店した後に売上を落とさないためにどうするか、それを前々から考えて取り組んできた結果なのです。
四郷店のオープンは16年10月ですが、その頃から今のZタウンの土地には、数年後にどこかしらの大手SMが出店してくるという情報がありました。最終的にX社に決まりましたが、当社としては数年後の大手SMとの競合対策という大きな課題を抱えた状態で、四郷店を出店しました。
当時の私の役職は『取締役BO(ブルーオーシャン)推進部長』というもので、差別化のための専門要員のような仕事をしていたのですが、社内で立候補して四郷店の店長にしてもらい、立ち上げから競合対策に取り組んできました」
自社競合に苦悩した経験にもかかわらず店長に立候補
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