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連載:第1回 Hop Step DX~デジタルトランスフォーメーションでつかむ次の成長

従業員どうしが会話する仕掛け。青果市場のあり得ないオフィス「3つの約束」

BizHint 編集部 2020年6月10日(水)掲載
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京都中央卸売市場内にある野菜の仲卸業、万松青果株式会社。卸売市場での取引高が年々減少し、仲卸業者数も減少している中、万松青果はこの10年間増収増益を続けています。 「完全年功序列・家族主義・日本一綺麗な仲卸」を標榜する同社は、ITを活用した効率的な働き方や、市場内とは思えないオフィスなど、革新的な取り組みで各所から注目を集めています。専務取締役の中路和宏さんにお話を伺いました。

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万松青果株式会社
専務取締役 中路 和宏さん

京都市出身。23歳から5年間、築地の青果卸売会社でセリ人として勤務後、家業の万松青果株式会社に入社。「従業員を幸せにしたい」という想いを胸に、社長である弟さんと二人三脚で様々な改革に取組む。また「取引先の力になりたい」と中小企業診断士の資格を5年前に取得し、現在は経営者とコンサルタントの2足のわらじで活躍中。


売上目標を止め「お客様に喜んでいただく」に専念したら増収増益

――2019年末現在、業績はいかがでしょうか?

中路和宏さん(以下、中路さん): おかげさまで、この10年間で売上は倍増しました。10年前はリーマンショックの後遺症や当社の中心人物の退職などで販売も大幅に落ち込み、非常に苦しい時期でした。そこからいろいろと試行錯誤を繰り返して、やっと当社の「形」ができてきた気がします。

――貴社の「形」とはどういったものでしょうか?

中路さん: 10年前の苦境の際に「何かやらないといけない」と思い、売上や粗利の目標を設定し、ビジョン等を大々的に打ち出しました。 能力・成果主義を導入するなど様々な施策を行いましたが、すべて失敗した のです。業績は上がらず、従業員の退職も続きました。

そこではじめて、私自身 「自分が良かれと思ったことを押し付けているのでは?」 と思い、もっと社員の気持ち・モチベーションを最優先にすべきだと考えました。会社が苦しい状況下で、経営者としては売上を上げたいとは思っていたのですが、私の本当の思い、本当に目指していたものはそこではありませんでした。私は 従業員全員が「この会社に入って本当に良かった」と思って一致団結して盛り上げていく。そんな会社にしたかった のです。 ※前編を参照

能力・成果主義や売上目標などは撤廃し、「喜んでもらえた週報」というのをやり始めました。「お客様に喜んでもらえたこと」「もっと喜んでもらえるには何をすればいいか」ということを週報として記入していくようにしたのです。 『1日ひとつでいいからお客様に喜んでもらうことをしよう』という思いで、それをみんなで共有していくうちに、社内の雰囲気が好転し、売上が伸びるようになった のです。

――なぜ「喜んでもらえた週報」を始めようと思ったのですか?

中路さん: 売上は社内の数字です。そればかり見ていると、内向きの会社になると思ったのです。社内の評価や上司の顔色を伺う……といった具合に。売り上げが芳しくない状況では、それはさらに顕著になりますよね。

そうではなくて、「お客様に喜んでもらった結果」会社に返ってくるのが売上なのだから、 『お客様に喜んでもらうことだけ』を考えよう、と割り切りました。すると従業員の気持ちが一気にお客様の方に向いたのです。それがこの10年間増収増益できるようになった、一番のターニングポイント だと思います。

以前は、「会社は何のために存在しているのか?」ということを、ぼんやりとしか考えていませんでしたが、この時真剣に思いました。会社はやはり 「社員とお客様」のためにある。売上や利益は「結果」 なのだと、実感しました。

当社が卸売業としてやっていけているのは、私たちの思いが届き、お客様から信頼をいただいているからです。今ではお客様にお客様をご紹介いただくことも増え、本当に有難いことだと思っています。

従業員のモチベーションアップは、まず「情報開示」

現在はkintoneを使って情報を一元化し、共有している。

――業務改革や効率化も進められたのでしょうか?

中路さん: そうですね。仲卸の業務は朝6時のセリで始まり、その後取引先の方々がいらっしゃって、8時半ごろには一段落します。セリ自体は7時過ぎには終わりますので、その後の1時間ほどで1日の売上の80%を占めるという、「売上・業務が凝縮された世界」なのです。

でもなぜか、当社を含め多くの卸売業者は夕方まで仕事をしています。……これ、何かおかしいんじゃない?と以前から疑問に思い、様々な業務改革に取り組んできました。

――効果が大きかった取り組みを教えてください。

中路さん: 一番効果が大きかったのは、サイボウズのkintone ですね。これを使うことで、私が理想として頭に描いてきた会社に近づいてきた気がします。

5年前に導入し、まず私が独学であれこれ使ってみて、レポートを作成して情報共有を始めました。先ほどお話した「喜んでもらえた週報」も、現在はこのkintoneに移行しています。それ以外にも、業務改善とその成果をまとめた「進歩の記録」、失敗やクレームを減らすためにまとめた「明日につながる出来事」等も作成し、全社員で共有しています。

また、日々の売上や利益の情報も全社員が見られるようにしています。売上は、わざわざノルマや目標として設定しなくても、過去からの推移などを常に見られるようにするだけで社内に変化が生まれました。社員全員が意識するようになり、担当者はそれぞれ責任感をもって行動してくれるようになったのです。みんなが売上を見ているし、それが伸びたら、やはり嬉しいんですよ。売上に限らず 「みんなが同じことを知っている」というのは、何をするにも話が早い。すごく大事なこと だと思います。

――kintoneを導入した時の従業員の反応はどうでしたか?

中路さん: kintoneそのものを知らなかったので、それを説明するところから始めました。そもそも何なのか、何ができるのか……と。しかし、いざ始めてみると誰でも簡単に使えたので「こんな便利なものが!」と、あっという間に浸透しましたね。細かいことを説明するよりも、まず使ってみるというのはとても大事ですね。

当社の場合、配達に出る社員と、事務所内で働く社員はバラバラで仕事をしています。当たり前ですよね。しかし、配達に出た社員がお客様先で追加受注をしたら、それをすぐにスマートフォンからkintoneに入力することで事務所のスタッフも含め、全社員が知ることができますし、そのことでみんなで盛り上がることができます。受注した時の喜びも倍増しますよね。

――kintoneの導入以前はどうだったのでしょうか?

中路さん: 配達の社員が受注して帰ってきても社内にはだれもいない、誰からも褒められない……という状況もありました。今考えると、本当に寂しいことです。kintoneは社内勤務の社員はパソコンで、外回りの社員はスマートフォンで使っています。物理的に離れていても、 チームとしての一体感が生まれました ね。

また、情報伝達や業務の効率化にも寄与しています。以前は報告書等などは紙でファイリングしていましたが、ほとんど誰も見ていませんでした。そのため、周りの仲間が何をやっているのか、お互いを理解していなかったのです。それらを見る機会もないですし、見せたい資料もなかなか見つからない……。今はkintoneに集約したので探しやすく、またみんなが閲覧するようになりました。結果として、 従業員どうしの相互理解が深まりましたし、経験の浅い従業員の教育ツールとしても大きな役割を果たしています。

これが市場にある事務所? 従業員エンゲージメント向上へ事務所も改装

ABWを取り入れた新装事務所。固定席はなく、その時々の仕事内容によって、好きな席に移動する。
*ABW(Activity Based Working)=仕事内容に応じて働く場所を決めるワークスタイル

――市場の2階とは思えないスタイリッシュな事務所ですね。なぜこのようなデザインにされたのですか?※市場・1階の店舗の様子は記事前編を参照

中路さん: 社員や求職者に「ここで働きたい!」と思ってもらえるような事務所にしたかったのです。市場内にある事務所としての常識は捨てました。向こう10年ぐらいは追従されないようなものができたと思っています。

机は超大型の昇降テーブルにすることで、効率的に仕事ができるようになりました。午前中は忙しいので、立って仕事をすることで移動も含めスムーズになります。午後からは仕事が落ち着くので机を低くして、座ってじっくり作業します。もちろん、従業員のパソコンは移動しやすいノートパソコンです。

今回の改装にあたって 一番こだわったのは、従業員エンゲージメントを向上させる仕掛け です。どんな会社もそうですが、同じ職場なのにあまり話したことがない仲間っていますよね?仕事上、直接関わることがなければ話す必要もないわけです。オフィスを改装することで 従業員どうしの心の壁を壊したい と思いました。なので作業場所はどこでもOKのフリーアドレスにしています。

私は、固定席で仕事をすることに、昔から疑問を感じていました。いつも同じ場所で同じ景色、同じ人が隣の席に座り、同じ人とばかりと話す……。これは私が目指している「全社一丸」の会社とは違うな、と。しかし座席を固定しないフリーアドレスにするにしても、以前は業務環境が整っていませんでした。

それが、kintoneの導入をきっかけにどんどん状況が変わりました。書類が減ったことで保管場所や個人の机の引き出しは大きな問題ではなくなり、社員はスマートフォンやノートパソコンによる作業になって固定机の必然性もなくなりました。いよいよ事務所を変えられる!もっと会話が生まれる事務所にできる!と考え、改革に踏み切りました。

ただ、フリーアドレスでは3つ、約束事を決めました。 それは、

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