連載:第7回 「人と組織の科学」―人事データ・ピープルアナリティクス最前線―
最新のリーダーシップ研究から見えてきたリーダーの条件とは【早稲田大・村瀬俊朗准教授×鹿内学さん】
リーダーシップやチームワークの研究が経営学の分野でも進み、リーダーの要件が明らかになりつつあります。今回、アメリカでリーダーシップやチームワークの研究を行ってきた早稲田大・村瀬俊朗准教授に鹿内学さんが切り込みました。リーダーシップにまつわる性格因子で相関性があるのは「勤勉性の高さ」や「IQの高さ」とのこと。リーダーシップにまつわるスキルやタレント性について話しています。
リーダーシップ、チームワーク研究の最前線
鹿内学さん(以下、鹿内): 村瀬さんは長らくアメリカで、リーダーシップに関する研究に携わってこられた方ですから、まずはそのあたりのお話から入っていければと思います。
村瀬俊朗さん(以下、村瀬): わかりました。おっしゃるとおり、私の主な専門領域はリーダーシップ、そしてチームワークです。最近は、そこにピープルアナリティクス、データサイエンスの知見も絡めて、テクノロジーを活用したチームワーク研究に強い関心を持っています。例えば、近年はslackやMicrosoft Teams、Chatwork、LINE workといったツールで、コミュニケーションに関するログデータが蓄積されるようになってきました。そうしたデータを用いて、どのように人々がまとまっていき、組織が連携していくのかを解析するのは、非常に面白いです。今日はピープルアナリティクス、データサイエンスの専門家である鹿内さんとお話しできるとあって、とても楽しみにしていたんです。
鹿内: 恐縮です。私はリーダーシップやチームワークに関する研究について、ぜひ村瀬さんの知見をうかがってみたいと思っていました。さっそくうかがいたいのですが、最新の研究は、アメリカではどのような状況なのでしょうか?
村瀬: アメリカにおける組織や人事といった領域の研究のなかでも、チームワーク、そしてシーダーシップは、まさに“王道中の王道”と言うべきトピック。日本でもリーダーシップに関する研究はおこなわれていますが、そんなに多くない印象です。アメリカでは、石を投げればリーダーシップ研究者に当たるのではないかと思えるほど、本当に数多くの研究者が手がけていますからね(笑)。
鹿内: それくらい盛んに研究されているジャンルなのですね。
村瀬: はい。これは僕の経験的な仮説なのですが、 アメリカは多民族国家なので、すべての人々は、出自や育った環境により価値観、世界観などがそれぞれ異なっていて当然……という考え方が社会の大前提 になっています。そうしたなかで、いかに人々を合理的に組織化していけばよいか、といったことに対する問題意識や関心が高まっていったのではなかろうかと。
鹿内: 対して、日本は同質性の高い社会だと言われてきましたし、かつては「ツーといえばカー」のような以心伝心であったり、空気を読み合うようなノンバーバルコミュニケーションだったりが重んじられていたのも事実でしょう。
村瀬: 日本では2000年代の初頭あたりまで、同じような教育背景を持つ人材が新卒で一括採用されて、組織で働くのが普通でしたからね。ただ、近年は中途採用で入社してきたり、海外の人材が入社してきたりと、教育水準も職歴も常識もバラバラな人材が組織に集まるようになってきた。そうなると、やはりこの分野に関する関心がより高まってくるのも道理でしょう。もともと、僕個人の興味もそこにありました。
鹿内: さまざまな背景を持つ人々が、いかにしてチームとしてまとまっていくのか、ということですね?
村瀬: そうです。その意味では、チームワークにまず興味を持って研究の世界に入っていき、リーダーシップについても意識するようになったといえます。リーダーシップとチームワークは、いわばコインの裏表であり、クルマでいえば対になった両輪という関係。片方を研究すると、必然的にもう片方についても扱わざるを得ない。それで、どちらにもハマっていったような感じです。
そもそも、アメリカではリーダーシップに関する研究が100年くらい積み重ねられてきたんです。経営学、心理学、社会学、政治学など、多様なジャンルで研究されてきました。その過程でさまざまな測定がおこなわれ、理論が提唱されてきました。現在では、リーダーシップについてはかなりの確度で数値化できるようになっていると考えられています。
鹿内: とはいえ、組織の規模であるとか、組織の階層によって求められるスキルなどは違ってくると思うんです。そのあたり、アメリカの研究ではどのようになっているのでしょうか?
村瀬: アメリカでもかつては「リーダーシップに何の意味があるのか」「巷間“リーダーシップ”と呼ばれるものが存在するとして、それが発揮されたらどのような効果が現れるのか」といった議論が何度も巻き起こりました。そしてそのたびに、リーダーシップの効果が証明されていった、という歴史があります。現在では、 どんな組織、どんな階層においても、リーダーシップの正当性は成り立つ……というのがほぼ共通の認識になっている のではないでしょうか。
鹿内: つまり、さまざまな組織、さまざまな階層について研究がおこなわれ、リーダーシップとは何か、ということが証明されているのですね。
村瀬: 一定の解答は得られている、といえるでしょう。とはいえ、 すべての階層で同じように研究結果が得られているわけではなく、濃淡も存在 します。階層のいちばん下のレイヤー、いわゆる現場レベルの人材に関する研究、そして経営陣など組織の最上位レイヤーにいる人物に関する研究は非常に多いんです。一方、ミドルに位置する人々──部長、課長クラスの人材に関する研究は、それほど多くない。2万本くらいの論文をチェックして、マップをつくってみたところ、そうした偏在が確認されました。
鹿内: 何か理由があるのですか?
村瀬: 現場の人材については、データへのアクセスが容易なんです。企業もわりと好意的に門戸を開いてくれて「データを取っても構わない」と協力してくれる。また経営層は、そもそもオープンになっている情報が多いですからね。メディアに名前や過去の業績、言動などが普通に出ていますし、組織のウェブサイトにも詳細なプロフィールが載せられていることが多いですから。
対して、 真ん中のレイヤーである部長、課長は、オペレーションの中枢に位置してプロジェクト全体を推進していくような立場なので、やはり忙しい んです。本人たちも時間を取ってくれないし、会社側も情報を守りたい、業務を回したいと考えるので、現場スタッフほど簡単にはアクセスさせてくれない。
そのため、トップのリーダーシップであるとか、組織全体のパフォーマンスであるとかは詳細に分析できていても、中間層についてはよくわからない点も多い、という歪な構造が存在しているのも事実です。
鹿内: でも、実際の業務においては中間層の働きも極めて重要になってくるわけで、ちょっと残念な構造ですよね。
村瀬: そうですね。先ほども述べたように、企業レベルの情報については、わざわざ人材を測定しなくても、すでにいろいろな指標が存在しているので余計にわかりやすい、とも言えます。株価、生産性、利益、売上高あたりは明快な指標ですし、Return On Equity(ROE/自己資本利益率)やReturn on Asstts(ROA/総資産利益率)といった財務関連の指標も参考になります。
鹿内: ただ、そうした客観的なデータだけでは測りきれない要素もありますよね。
村瀬: そのとおりです。そこでアンケート調査などが必要になってくる。アンケートにも、すでにいろいろな方法が確立されていて、例えば、チームパフォーマンスについて測りたいのであれば、どのような回答があると「パフォーマンスが上がった/下がった」といえるのか……といった尺度がある程度完成されています。そうした検証ができるくらいの研究の積み重ねがあるわけです。
リーダーシップの要件には「勤勉性」と「IQ」の高さがある!?
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