連載:第49回 IT・SaaSとの付き合い方
データ管理の物理サーバーをクラウドへ移行。電帳法対応との一挙両得を目指したBox活用。選定・社内稟議の経緯


土木工事向けのコンクリート製品を取り扱う株式会社ベルテクスコーポレーションは、関連企業4社を統合する形で2018年に誕生しました。その後、グループ内のシナジーを推進する中で長年にわたって手つかずだったのが「4社それぞれで運用していたファイルサーバー」という課題。一方、電子帳簿保存法への対応義務化が2024年1月に迫る中、同社のIT/DX推進チームはクラウドストレージサービス「Box」の活用で、この2つの課題を解決しようと試みます。なぜそのような選択に至ったのか?社内ではどのようなやり取りがなされたのか?同社が進めるDX、AI活用の取り組みと合わせ、担当者にお話を伺いました。

(お話を伺った方)
株式会社ベルテクスコーポレーション
(東京都 / コンクリート製品ほか / グループ従業員数 約1000人)
経営企画本部 経営企画部 DX推進室
室長 松原 英久 さん
マネージャー 新井 大介 さん
主査 新家 直樹 さん
※本記事は2025年1月の取材に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。
企業合併でサーバーが混在、老朽化。迫りくる電帳法対応
――貴社では「ファイルサーバー」と「電子帳簿保存法対策」のためのツールとして、クラウドストレージの「Box」を導入されました。その経緯を教えてください。
松原 英久さん(以下、松原): ベルテクスコーポレーションは4社が合併してできた会社なのですが、社内のファイルサーバーは長年にわたって旧4社の体制のまま運用されていました。
各社のNAS(ネットワーク対応HDD)が15台ほど混在して稼働していたのですが、一部は非常に古くてレスポンスが悪くなったり、時には故障したりしていました。ひとたび故障するとシステム担当者は復旧に奔走することになり、「ファイルサーバーのリプレイス」という課題は漫然と残り続けていました。
そんな中、2024年1月に電子帳簿保存法への対応が完全義務化されることに。当社でもその1年ほど前から検討を始め、外部業者に相談しながら文書管理ツールを選定していました。商談を進めデモを何度かやってもらうものの、どれも決め手に欠け、ツール導入の決断ができないまま、電帳法義務化まであと3か月という状況になりました。
そんな折、当社の関係会社にBox社が営業に来られる機会があり、せっかくなので話を聞かせてもらおうと同席したのがきっかけでした。
――話を聞いてみて、いかがでしたか?
松原: いろいろな機能を紹介いただき、また他社でも電帳法対応としてBoxを使っているということで 「Boxを入れれば電帳法にも対応できるし、ファイルサーバーのリプレイスという課題も一石二鳥で解決できるかもしれない」という期待感を持ちました。
――ファイルサーバーはもともと物理サーバーでした。クラウド化に懸念はなかったのでしょうか?
松原: 既存の物理サーバーをそのまま更新することも選択肢としては考えました。当社は東京と福井にサーバールームがあり、それぞれに物理サーバーを立てて、データがなくならないようレプリケーション(複製)する形で見積を取ったのですが、かなり高額になってしまい…。
また、 未来永劫メンテナンスを行っていくには、相応の技術を持ったSEを社内に抱える必要があり、当社としてそれは現実的ではないという見立て もありました。
経営企画本部 経営企画部 DX推進室 室長 松原 英久 さん
――Box導入にあたって、社内テストなどはされましたか?
松原: はい。まずは「電帳法に対応できるのかを検証しよう」ということで、Boxの試用版を準備してもらいました。
経理をはじめ各関係部門で社内デモを実施し、電帳法の基本的な要件、検索機能やファイルの保存期間、修正履歴など様々な動作確認を行い、問題なく使えそうだという結論になりました。
社内デモで苦労したのは、各部署の要望に対応するカスタマイズ・権限設定 です。例えば営業所からは、「保管する見積書に所長承認機能を入れてほしい」という要望がありました。
データの保管自体は、ファイルリクエスト・Box Relay機能というものを使って所定のフォルダに収めることができるのですが、権限設定に漏れがあると、所長が承認作業を行えず、見積書が正式に格納できなくなるエラーがあり、調整を行いました。とはいえ、リリース前に解決することができ、大きな問題はありませんでした。ただ使い勝手面ではいろいろな要望があり、今後改善を進めたいと思っています。
また、 「十分なセキュリティを備えているか」も確認のポイント でした。細かな権限設定ができ、ファイルをゴミ箱に捨てても自社でルール化した保有月数は消去されない。また多様なアクセスログが取得でき、7年分ぐらいの保管期間があります。大手企業も採用しているということで安心感もありましたね。
ただ、社内稟議・決裁の際には多少バタバタしました。電帳法義務化まであと1ヶ月くらいというタイミングで、急いで社内稟議にかけたのですが、その後ファイルサーバーとして利用開始する際に社長から指摘を受けることになったのです。
社長の要望「将来像を示してほしい」
――社長からの指摘とは?
松原: まず、社長への説明の際に「電帳報対応のためにBoxを導入する。他社でも使っているし、社内テストでも問題なかった」といった説明になってしまいました。
それに対し 社長から「情報システム部門が目指す将来像を示してほしい」「他社が使っているからではなく、なぜ当社ではBoxなのか?という説明がほしい」という要望が返ってきました。
我々としては、前述した中長期的な課題「企業合併後の物理的なファイルサーバーの乱立」と、喫緊の課題である「電子帳簿保存法の対応」という2つを、同時に解消する手立てとして検討してきたつもりだったのですが、その伝え方を失敗してしまった…という苦い経験になりました。
時期的にギリギリだったこともあり「来月に義務化される電帳報対応のために急いで…」という伝わり方になってしまった のです。
――その後、どう進行されたのでしょうか?
松原: あらためて説明しました。まずは電帳法対応としてBoxを導入し、当座の課題を解決する。そして将来的なベルテクスグループのデータ管理基盤、目指すITの在り方を示し、そこにおいてもBoxは貢献できる、と。
そうした説明を経て、ファイルサーバーとしての利用を開始することになりました。
―― 新井さんに伺います。Boxのどんな点が、将来像と合致していたのでしょうか?
新井 大介さん(以下、新井): まずは前述の通り、物理サーバーからクラウドサーバーへという将来像はありました。
一方で、クラウドサーバーには当社のデータを一括して預けることになるので、将来を見据えると様々なリスクを勘案する必要がありました。例えば、日本国外にサーバーがあると、現地政府の判断で情報をいかようにも取り扱われてしまう可能性が高まります。 Boxはサーバーが日本にありましたので、基本的には国内法で情報管理対応ができる点が安心材料 になりました。
また、IT業界はいくつかのガリバー企業が存在し、当社もそのうちの1社のサービスを各所で利用しています。しかし仮に、 当社のデータを全てそのガリバー企業のサービスの上に乗せてしまうと、その企業の意向や予期せぬトラブルによって「当社の身動きが取れなくなる」という事態も想定されます。 そのような状況を回避するには、単独で運営されているBoxには優位性がありました。
そうした将来のリスクや使い勝手も含めたバランスに鑑みて、Boxの採用という結論に至りました。
経営企画本部 経営企画部 DX推進室 マネージャー 新井 大介 さん
データ移行は90%。管理者のわからない古いデータが残った
――全社のファイルサーバーとしてのBox活用は、どのようにして進めていかれましたか?
新井: 2024年の9月までにフォルダの構成を決め、10月にインストール説明書・操作説明書・操作説明動画を作成し公開、11月以降ファイルサーバー単位で移行・公開をすすめ、翌年1月までに主なサーバの移行が終了しました。
ここではBox社の導入支援サービスを受けました。電帳法対応はある程度パターンが決まっているので、社内で設定できましたが、ファイルサーバーとして使うにあたってはフォルダ構成、セキュリティ設定など、細かな内容を決めていく必要があり、社内の知見だけでは厳しそうでしたので。
ストレージとしての活用を進める過程では「Box Drive」の採用も決めました。Box Driveは当社が以前使っていた旧来のファイルサーバーへのアクセスと似たような操作ができる機能で、当社の社員にとっては使いやすそうだと判断しました。
また、当社では以前からExcelを使ってデータ管理を行っているものがあるのですが、VBAをはじめとしたリンク先について、旧サーバーからBoxへと書き換える対応が発生しました。
――旧サーバーからのデータ移行はスムーズにいきましたか?
新井: 正直、結構時間がかかりました。 本当は、不要なデータを廃棄するなどファイル全体を整理し、データ容量を圧縮してから移行したかったのですが、それをやる時間が足りませんでした。 「削除してよいかどうか」を誰も判断できないデータが想像以上に多かったのです。結局、移行にあたってのデータ容量の制限がなかったこともあり、そのまま移行することにしました。
現在、ベルテクス社内のデータについては90%ほどが移行済みですが、10%は移行していません。かなり昔のデータで管理者がよくわからないものや、特殊なシステムでのみ機能してBox上では動かないデータはそのまま残しています。また、グループ会社のデータ移行はこれからという段階です。
社内への周知・定着という意味では、各社員へのBox Driveのインストールなどで手間がかかりましたし、同じファイルを複数人が同時に書き込むと競合ファイルができてしまうので、それを防ぐためのファイルロックの作業の周知やBoxブラウザ版の利用推進などはありました。とはいえ、大きな混乱は起きていません。
DXの社内浸透。大切なのは現場とのコミュニケーション
経営企画本部 経営企画部 DX推進室 主査 新家 直樹 さん
――生成AIの活用について、新家さんに伺います。
新家 直樹さん(以下、新家): 当社ではDX推進の大テーマの一つとして「AI活用」を掲げているのですが、その象徴的な動きとして、2024年9月にリリースした従業員向け生成AIツール「VERTEX Talk(略称:ベルトーク)」があります。ベルトークは、武蔵野大学データサイエンス学部の中西崇文准教授(2025年4月より東京工科大学コンピュータサイエンス学部教授)のご助力を頂いて開発したツールであり、当社の「AI活用の第一歩」 として重要な役割を果たしています。
社内の様々な規定や各種マニュアルを学習させ、ベルトークに質問すれば答えを返してくれるといった使い方で社内普及を図っています。以前は、自分で調べようにも規定がどこにあるかわからず時間を要し、結局は 総務や人事などの担当部署への個別の問い合わせが発生していましたが、ベルトークに尋ねるだけで完結するようになりました。
また、ベルトークはメール文章の添削や文章生成などにも活用できるのですが、社内でそのようにいろんな使い方が出てくると、生産性もより向上していくと思います。
従業員向け生成AIツール「VERTEX Talk」(略称:ベルトーク)
――DXの推進部門として、生成AIやDXを社内に広げていくために意識していることはありますか?
新家:DXの取り組みを円滑に進めるためには、従業員とシステム・DX推進部門との間に信頼関係を築くことが欠かせないと感じています。
現場に新たなツールや方法を提案する際に「いや、無理!」という反応が返ってくることは多分にあります。これを回避・突破するためには、機能やメリットを真摯に伝えることがもちろん大事ではあるものの、いかに「しょうがないな…」「協力してやるか…」と思ってもらえる信頼関係・相互理解ができているか、という土台作りが重要だと思います。
その土台作りとは、つまるところコミュニケーション です。Box、ベルトークの他にも、今後いろいろな取り組みを行っていくのですが、それらを円滑に進めるためにも、まずは自分自身が社内の様々な部署・メンバーと意見を交わしながら、草の根でのDXへの意識づけ、働きかけを行っています。
また「全社のコミュニケーション」という意味では、これもITを活用する形でMicrosoft Teamsを導入し、チャットの利用を促進していこうと考えています。情報共有においては、グループ内でどうしても縦割りの弊害が残っていたのですが、これにより横串が通しやすくなるはずです。
もちろんすぐに効果が出るわけではありませんが、社内でいろいろな立場の人がいろいろなツールやソフトを使い、これまで目にしなかった情報にもかんたんに触れるようになれば、新たなアイデアが出てくると思います。ITを活用した業務遂行、効率化など最たるものです。
当社のDXへの本格的な取り組みはまだ始まったばかりですが、数年後にはDXやAI活用が日常的に見られるように、社内への発信や提案を続けていきたいですね。
(取材・文:左近潮二 撮影:松本岳治)
この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})
-
{{comment.comment_body}}
{{formatDate(comment.comment_created_at)}}
{{selectedUser.name}}
{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}
{{selectedUser.comment}}
{{selectedUser.introduction}}
バックナンバー (49)
IT・SaaSとの付き合い方
- 第49回 データ管理の物理サーバーをクラウドへ移行。電帳法対応との一挙両得を目指したBox活用。選定・社内稟議の経緯
- 第48回 顧客管理ができず事業が頭打ち。中小が取り組んだDX、なぜ第一歩がHubSpotだったのか?
- 第46回 【続編】経理・会計ツールを子会社と統一する。kintoneとfreee連携。現場レベルでの確認プロセス
- 第47回 経理・会計ツールを子会社と統一する。kintone連携を軸にした検討・選定の途中経過
- 第45回 紙→kintone→Salesforce。「人依存」からデータドリブン経営へのツール変遷。担当者が考えていたこと