連載:第83回 組織作り その要諦
社員の意識を変えたのは「対話」。主体性あふれる組織に生まれ変わった老舗企業の話
昭和25年創業、大阪を中心に地元で愛される人気お好み焼きチェーン「ゆかり」。老舗でありながら、現在は冷凍お好み焼きの販売など、新規事業にも積極的です。しかし、一時は赤字のうえに借金返済のためにまた借金…といった危機的状況にありました。当時専務だった山下真明さんは経営状況を改善させるべく奮闘します。しかし、そこにあったのは様々な“誤解”から生まれる反発の声…。それらをどうまとめあげ、社員の主体性を引き出し「少数精鋭の組織」を作り上げたのでしょうか。その糸口は、社員との「対話」でした。詳しく伺います。
株式会社ゆかり
代表取締役 山下 真明さん
1983年大阪府生まれ。高校卒業後、音楽関係の仕事に従事。2007年(株)ゆかり入社、2012年専務取締役、2016年代表取締役に就任。2021年上方お好み焼たこ焼協同組合理事長就任。お初天神通り商店会 副会長就任。 –
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決死の覚悟で挑んだ経営改革。“誤解”から生まれる反発の声に苦しむも…
――2013年から同社の経営改革に取り組まれたそうですね。当時の状況を教えてください。
山下真明さん(以下、山下): 2013年、専務になって本部のバックオフィスに異動した際、はじめて家業の内情を知りました。驚いたのは経営状況の悪さです。店舗にいた際は「売上指標」しかなく、それを達成できているので儲かっているのであろう…とすら考えていました。しかし、ふたを開けてみると、赤字なうえに預金がとにかく少ない…。借金返済のために、また借金して…という悪循環で、必然的に総借入額はじわじわと膨らんでいく一方でした。
当時、決算書も読めませんでしたし、経理業務も感覚でしかわからないレベルでしたが、それですら「これはまずい」とわかるぐらいの状況でした。
たとえばランチ。当時の販売価格は600~700円だったのに対し、原材料原価が400円でした。これでは赤字になるのは当然です。でも、それを指摘すると、店舗からは「お客様が引いてしまう」「お客様はこれで満足している」という声があがる。お客様を第一に考えることは重要です。でも、このままでは会社が立ち行かなくなる…。
まず帳簿をすべてチェックしてコスト削減できる項目を洗い出し、取引先や配送ルートの見直し、倉庫の在り方など…お客様に影響の出ない範囲のコストを徹底的に見直すことにしました。
中でも大きく見直したのが、取引先との関係性です。当時、1ジャンル1社専売という状況で、中には市場相場と大きく乖離した価格で取引している業者もあったのです。我々が市場を知らな過ぎたという側面もありますが、1社専売という状況を改善するため、取引先に市場相場に合わせた価格の見直しを求めていきました。
――交渉は順調に進みましたか?
山下: 話して理解してくれる取引先もありましたが、中には、取引を停止せざるを得ないケースもありましたし、商談しにいったら1時間ほど事務所から出してもらえなかったときも…。「社長はなんて言ってるんだ」と言われることもありましたが、社長の同意は得ていたので堂々と進めました。
また、社長と相談しながら直営店11店舗のうち、採算がとれていなかった3店舗を閉店する決断もしています。
しかし私が進めていた施策について、従業員に理解してもらうのが大きな課題でした。
冒頭お伝えした通り、店舗には「売上指標」しかなく、どの程度利益が出ているのかといった会社の状況が共有されていませんでした。赤字なのか黒字なのかを把握していたのは、社長と税理士さんのほか、家族くらいです。
当社の社名でもある「ゆかり」は「縁」を示すもの。創業以来、人とのご縁を大事にしてきました。だからこそ、特に取引先見直しの際などは「ゆかりのご縁は大事じゃないのか!」と言われたこともあります。会社と従業員を守るための取り組みであるはずなのに、誤解された状態で反発の声があがるのは、正直つらかったですね…。
そこで、管理職に対して、ある大きな決断をします。ショックを受ける人も多かったですが、結果的にその決断が状況を好転させる一因になったと思います。
――その決断とは一体?