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連載:第82回 組織作り その要諦

「指示待ち組織」を変えた1つの鉄則。元鍼灸師の素人経営者が実践したリーダーシップ法

BizHint 編集部 2024年9月30日(月)掲載
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ソフトウェア開発事業を展開するデジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社の市川聡社長は、鍼灸師から経営者に転身した異色の経歴の持ち主。業績好調の一方、創業社長である父から社長を継いだタイミングで、「指示待ち組織」という大きな課題に直面することになります。「先代に頼りきりの組織」だったといい、まずは権限委譲型の経営を進めましたが、社員からは「新しい社長は何も考えずに、丸投げしてくる」という不満の声。ですが、この言葉をきっかけに、鍼灸師時代に学んだ、ある大切なことを思い出します。そしてそれが、指示待ち組織を変える1つの鉄則となるのです。詳しく伺います。

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デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社
代表取締役社長 市川 聡 さん

2000年3月、明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)卒業。鍼灸師としてのキャリアを積んだ後、2004年に父が創業したデジタル・インフォメーション・テクノロジーに入社。さまざまな部署を経験し、2018年に2代目社長に就任。鍼灸師時代に培ったコミュニケーション力を活かし、「指示待ち組織」からの脱却を図る。就任以降、直近6年間で売り上げ1.5倍超の198億円、営業利益2倍の24億円を達成している。


権限委譲のアプローチで失敗。「何も考えず丸投げしてくる」で気づいた組織改革の必要性

――御社の業績は売上高、利益ともに右肩上がりで好調のようですが、市川さんが社長に就任した時、組織課題に直面していたそうですね。当時の状況を教えていただけますか?

市川 聡さん(以下、市川): はい、業績についてはおかげさまで14期連続増収増益を達成しています。私が社長に就任した2018年以降も売上高は右肩上がりに伸び続け、2019年6月期を含む直近6年間の決算では123億円から198億円まで伸びています。営業利益も同時期で10.9億円から24.2億円と倍に増えました。

ただ、この数字の裏には、大きな組織課題があったんです。実は、2018年に私が2代目社長に就任した当時、当社は「先代(創業社長である父)に頼りきりの組織」になってしまっていたんです。

――どういうことでしょうか?詳しく教えてください。

市川: 創業者である父はいわゆるカリスマ性のある経営者で、強いリーダーシップで会社を引っ張っていくタイプでした。

ちょうど私が入社する2004年頃は、複数の事業を作り、社内カンパニー制を導入していたことで業績は好調でした。業績好調の背景には、父のカリスマ的なリーダーシップが大いに関係していたのは間違いありません。しかし、会社を良くしたいという父の強い愛情が前面に出過ぎた結果、私が社長に就任する2018年頃には、各カンパニーが独自の判断よりも会長の意向に従う傾向が強まっていると感じていました。

父が介入するとうまくいくケースが多かったため、社員たちは自分たちで考えることをせず、父の意向通りに動くようになっていってしまったんですね。いわゆる 「指示待ち組織」の状態 です。

社員数も私が入社した当時は400人でしたが、社長交代する2018年には1000人にまで増えていました。400人規模であれば、父のリーダーシップによるトップダウンのやり方が有効でしたが、1000人規模になると、その方法では組織がうまく機能しなくなってきていると感じていました。

新しい事業やプロジェクトを始める際も、父の判断を仰ぐだけではなく、導入したカンパニー制を活かし、さまざまな人の意見を取り入れた方が、より多様で創造的なアイデアが生まれると思うんです。しかし当時は、指示待ちの状態が目立ち、社員が自ら積極的に提案したり、新しいことにチャレンジしたりする雰囲気が薄れてしまっていたように思えます。社長の言う通り動くほうが仕事としては楽ですからね。

また、一般的にこういったトップダウンの経営では、部下から上がってくる報告は悪い報告より良い報告だけになりがちです。これでは正確な状況把握ができず、適切な判断を下すのが難しくなります。

このような状況を目の当たりにして、私は「指示待ち組織は変えなければいけない」と強く思いました。カリスマ的なリーダーシップに頼るのではなく、社員一人一人が自主的に考え、行動できる組織にしていく必要があると感じたんです。

市川: 印象的だったのは、父自身も次第に細部まで目が届かなくなり、自分一人で全体を掌握できなくなってきていることに気づいているようでした。社員が自発的に動ける組織にするために、「何も口出しをしないでおこう」と言いつつも、実際には何か問題があるとすぐに指摘したり、「じゃあ俺がやる」と自ら動いてしまうことがよくありました。長年培ってきたリーダーシップのスタイルを変えるのは本当に難しかったようです。

そして、私自身もこの「長年続いてきた体制を変える」というのは、想像以上に大変で…。でも、会社が持続的に成長していくためには、この改革が絶対に必要だと確信していたんです。とはいえ、私には父のように全社員の先頭に立って引っ張っていけるカリスマ性もなく、ましてや元鍼灸師だったので経営に関してはまったくの素人。

だからこそ、 「権限委譲型」の経営を進めていこうと決めたんです。ただ、これが思った以上にうまくいきませんでした。

――なぜ、うまくいかなかったのでしょうか?

市川: 最初は、社員たちの自主性を引き出そうと、ある程度の権限を幹部社員に委譲し、自由に考えて行動してもらおうとしたんです。でも、それが裏目に出てしまった。 配下のメンバーから私への不満の声がたくさん上がったんです。

「新しい社長は何も考えず、俺たちに丸投げしてくる」と。

この批判を聞いた時、ふと鍼灸師時代の経験が頭をよぎりました。患者さんから「あんたに治療されても全然治らない」と言われた当時のことを思い出したんです。

その時の教訓は、 一方的に治療するのではなく、患者さんとコミュニケーションを取りながら、一緒に最適な方法を見つけていく ということでした。「これを経営にも活かせるのではないか」と考えたんです。そこで、 アプローチを変えてみた結果、指示待ち組織を変えることができた1つの鉄則に辿り着き、社員の自主性を高めることができたのです。

――その鉄則とは何でしょうか?

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