連載:第88回 組織作り その要諦
「社員に1円でも多く給料を」業界一の年収を目指す企業の“絶対に値引きしない経営”が本質すぎた
「顧客リピート率80%」を超えるリフォーム会社があります。それは、横浜市に本社を置くさくら住宅。同社は、社員数51名と小規模ながら、業界トップクラスの社員年収と、創業翌年からの26年連続黒字を実現しています。その背景には、社員一人ひとりが圧倒的な当事者意識を持ち、自ら考え動く主体性あふれる組織がありました。「社員に1円でも多く給料を払いたい」と公言する創業者の二宮生憲さんに、盤石な経営と自律型組織を両立させる方法や、リーダーとしてあるべき姿について聞きました。
株式会社さくら住宅
相談役 二宮 生憲(にのみや たかのり)さん
1947年愛媛県生まれ。法政大学卒業後、ミサワホームに入社。2年後、独立し注文住宅の会社を立ち上げる。その後、大手住宅メーカーの取締役を務め、1997年50歳でさくら住宅を創業。「人を大切にする経営学会」副会長。全国リフォーム合同会議代表理事。さくら住宅は、横浜市近隣でリフォーム業を営む。日本でいちばん大切にしたい会社大賞 審査委員会特別賞受賞。「カンブリア宮殿」などメディア出演多数。従業員数51名(2024年11月現在)、売上高10.1億円(2023年度)
業界トップクラスの社員年収で26年連続黒字 常識を覆す「あたりまえの経営」とは
――貴社は、創業翌年以来続く黒字経営と、業界トップクラスの年収の高さでも知られていますね。
二宮生憲さん(以下、二宮):はい。当社は、昨年度で26年連続黒字を達成しました。また、リフォーム業界では当社が最も給料が高いと自負しています。例えば、新卒採用で入社した社員の年収は、2年目で500万円を超える場合も。入社10年強では、700万円くらいになります。しっかりと経常利益を確保し、それを1円でも社員に還元したいと考えているからです。社員満足度も高く、ここ数年は正社員で離職した人はほとんどいません。
――なぜ、そのような経営ができるのでしょうか?
二宮:あたりまえのことを誠実にやっていれば、必ず利益はついてきます。人を大切にする経営学会会長の坂本光司先生は、利益は「神様のごほうび」だとおっしゃいます。
それでは、「あたりまえ」とは何か。まずは、約束をちゃんと守る。例えば、打ち合わせの時間通りに行く。1分前に到着しても、その時間まで待つ。見積書を出すと言ったら、必ず期日を守る。とにかく自分が言葉として発したことは、必ず実行すること。あと、挨拶をきちんとする。家に入るとき、玄関で靴を揃える。勝手に椅子に腰掛けない。打ち合わせが入っているのであれば、前日に連絡を入れておく。そういった、細かなことの積み重ねで信頼していただけるんです。
――だから貴社は「顧客リピート率80%超」なのですね。
二宮:それには、もう一つ理由があります。それは、どんなに小さな仕事でも困っているお客さまがいれば駆けつけること。小さな工事というのは、トイレが詰まった、電気がつかない、水が出ないというようなこと。ただ、そういった仕事ほど、お客さまが「いま」困っているんです。そしてその多くは、一人暮らしの方やお年寄りです。
当社の受注件数に占める割合は、小さな工事(平均3万4,000円)が47.9%です。売上で言うと3.1%。営業担当者がお話を聞き、現場監督が詳しく見て、職人さんが施工したら利益はほぼ残りませんね。ただ、そこで信頼関係ができることで「実はここも、あそこも」と他のお仕事をいただいたり、後日大きなリフォームの際にお声がけいただいたりするんです。
私も驚いたエピソードがあります。ゴールデンウィークに、泥棒に入られガラスを割られたお客さまがいました。営業担当者が電話を受けたものの、ガラス業者は休暇中で施工できない。それで、その営業担当者はホームセンターでベニヤ板と簡易錠を買ってきて応急処置をしたそうです。他にも、夜中にお客さまから「トイレが詰まった」と電話を受けた社員が、あわてて駆けつけたというエピソードもありました。
これらの行動、私たちが具体的に指導しているわけでもなく、マニュアルがあるわけでもありません。社員たちがそれぞれ、自分で考えて行動した結果なんです。そこまでしなくても…と思うケースもありますが、当社は本当にお客さま想いの社員が多いんですよね。だから、当社で施工したお客さまは、本当に恵まれているなあ…といつも思います。
――社員の方々は、なぜ自ら判断し動くことができているのでしょうか。
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組織作り その要諦
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