連載:第33回 リーダーが紡ぐ組織力
あなたは社員の失敗を「称賛」できますか?自律型組織のリーダーが築いた組織づくりの本質
社員の「大失敗」を表彰する、そんな会社があります。それは、堺市に本社を置く太陽パーツ株式会社。同社で1998年に誕生した「大失敗賞」第一号は、当時の年間利益が吹っ飛ぶ5,000万円の損失を出した社員に贈られました。その後も年に2回、大失敗が表彰されています。しかし同社は創業以来一度も赤字を出さず、バブル崩壊やリーマンショックの荒波にも耐え、ほぼ右肩上がりの安定した経営を続けています。失敗は責めず、称賛する。経営者のその姿勢がもたらしたものとは。同社 取締役会長 城岡陽志さんに、詳しく伺いました。
太陽パーツ株式会社
取締役会長 城岡陽志(しろおかきよし)さん
1949年愛媛県生まれ。高校を卒業後、大阪のネジ商社に就職し営業職として勤務。1980年、太陽パーツを創業。取り込み詐欺や不動産詐欺、助けた会社に裏切られるなど多くのピンチに見舞われるも、創業以来赤字無し、ほぼ右肩上がりの安定した経営を実現している。現在は、機械部品・住宅設備機器・医療機器などの設計・開発・販売を手掛けるメーカー機能と、商社機能を併せ持つ。従業員数320名(グループ合計)。売上高100億円(グループ合計/2022年度)
「失敗した社員を称賛する」驚きの表彰制度がもたらしたもの
――貴社は、失敗した社員を表彰するというユニークな制度で知られています。最初に、どのような賞か教えてください。
城岡陽志さん(以下、城岡): この賞は「大失敗賞」といいます。その名の通り、仕事で「大失敗」した社員に贈られるもので、年2回開催される経営発表会の場で公表し、賞状と賞金2万円を贈呈します。
よく「失敗したらもらえる賞」と勘違いされますが、違います。果敢にチャレンジした結果、失敗して損害を出してしまった。でも、会社としてその 損害以上のノウハウが得られたと評価した案件のみが対象 です。ただの失敗を表彰し続けていたら、会社が潰れてしまいますよ(笑)。
――なるほど。大失敗賞を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
城岡: きっかけは、ある商品開発での失敗でした。その頃の当社は、金物部品の下請けがメインでしたが、僕はそこから脱して自社オリジナルブランドを作りたいと考えており、社員にも伝えていました。ある時、 「カー用品を作ってみたい」という社員が現れました。 すぐに商品化し、全国チェーンのカー用品店で販売。どんどん売れましてね。もう、「うちの社員は天才か」と思ったほど(笑)。でも半年ほど経った頃、商品がドーンと返品されたんです。実はカー用品は棚貸し商法で、売れ残りはすべて返品される仕組みだったんです。結果、 5,000万円ほどの損失を被りました。
これは、 当時の年間利益が吹っ飛ぶくらいの金額。 他の社員たちも知るところとなり「今年のボーナスが出ないかも知れない」と暗い雰囲気に……。当然、チャレンジした社員も意気消沈し、居心地が悪くなっています。
このままだと、誰もチャレンジできなくなってしまう。 何とかこの空気を打破できないかと考えていたとき、社長室に飾っていた「ピンチはチャンス」という言葉が目に飛び込んできました。今はピンチだ。この状況を、チャンスに変えられるのではないか。それで思いついたのが、「大失敗賞」でした。1998年のことです。
振り返るとこの決断は、私の経営者人生の中で、最も誇れるものの一つだと言えます。この決断がなければ、今の当社は存在しないと言ってもいいでしょう。
あの時、 失敗した社員を大きく称賛・表彰したことで、当社は思いがけず2つの大事なものを手にしたからです。
――「2つの大事なもの」。それは、何だったのでしょうか?
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