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連載:第34回 リーダーが紡ぐ組織力

稲盛氏の教えを市政に導入。「都城フィロソフィ」を打ち立てたリーダーの組織づくり

BizHint 編集部 2024年9月17日(火)掲載
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『これからは自治体も、企業と同じように「経営」する時代だ』。稲盛和夫氏の「京セラフィロソフィ」に惹かれた宮崎県都城市の池田宜永市長は、独自に30項目の「都城フィロソフィ」を策定。都城フィロソフィをもとに職員全員が「結果を追求する」ことをはじめ、同じ方向を向いて仕事にまい進できるような組織づくりを目指してきました。「京セラフィロソフィ」を初めて行政の組織づくりに取り入れた理由ときっかけ、都城フィロソフィに込められた思いについてお聞きしました。

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宮崎県都城市長
池田 宜永(いけだ たかひさ)さん

1971年4月7日生まれ、宮崎県都城市出身。九州大学経済学部卒業。1994年、大蔵省入省。財務省主計局主査、都城市への出向を通じて副市長などを歴任する。2012年より都城市長に就任し、現在3期目。「自治体経営」を掲げて、市の発展や住民の安心・安全確保に努めてきた。地元の名産を活かした独自のPR戦略によって、ふるさと納税の納税受入額を日本一に押し上げる。


挑戦しなければ仕事ではない。市長が盛和塾に入塾した理由

――稲盛和夫氏の経営哲学を知ったきっかけについて教えてください。

池田 宜永さん(以下、池田): きっかけは、私が2012年の都城市市長選挙で初当選して、2~3年目くらいのことでした。とある雑誌の特集で稲盛和夫さんのロングインタビューを読む機会があり「稲盛イズム」に触れることになったのです。記事を読むにつれ、私が日頃から感じていた疑問に対する答えが書かれているような感覚になり「なんだこれは」と、衝撃を受けました。

その後、稲盛さんの本を読み漁ったのですが、読めば読むほど「この素晴らしい考えを市役所という組織にも注入できないものか」という思いが強くなったのです。気づけば盛和塾に入塾し、塾生として稲盛さんの経営哲学を学びました。

――企業が用いるイメージのある稲盛氏の「経営哲学」を行政に持ち込もうとしたのはなぜでしょうか?

池田: たしかに、他の市区町村ではあまり聞いたことがありませんね。

ただ、稲盛さんの経営哲学は、「どうやって稼ぐか、儲けるか」と同じくらい、「人としてどう振舞うべきか、どう生きるべきか」に重きが置かれていると私は感じています。

例えば、稲盛さんの経営哲学の原点ともいえる「経営12カ条」。その中には、「勇気をもって事に当たる」「思いやりの心で誠実に」といった内面の重要さを強調した文があります。

こうした人間としての振る舞いや心持ち、社会人として内面を磨くことの大切さについては、民間も行政も区別する必要はない。人間に共通するテーマだと考えたのです。

――稲盛氏の教えを学ばれたということは、当時の市役所や組織に課題感をお持ちだったのでしょうか?

池田: 市役所だけではなく、すべての自治体に共通する構造的な課題をなんとか解決しなければならないと感じていました。

その構造的な課題というのは「危機感の希薄さ」です。民間と異なり、結果が出なくても行政は倒産しません。一般的な民間企業では「挑戦しなければ会社がつぶれるかもしれない」「より成長しなければ他社に負けてしまうかもしれない」そういう緊張感が常にあります。

公務員にはそういうプレッシャーがないからこそ、その地位に胡坐をかいてしまいがちです。その結果、同じことを無難にこなせばいいという「前例主義」が組織に蔓延していることが多い。私が市長になった当時の都城市でも前例主義が幅を利かせていました。

しかし、私は「チャレンジこそが仕事であって、ルーティーンは仕事ではなく作業」という考えを持っています。チャレンジ、つまり新しい挑戦によって結果を出してこそ「仕事」と呼べるのだと考えているのです。

そして、稲盛さんの教えは変われない・変えられない組織を根底から覆す力があると思ったのです。

行政の仕事は地味で、結果が賞賛される機会はほとんどありません。それでも「市民のために結果を出す仕事をして欲しい」。仕事に対しての成果にこだわることを全職員に伝えたいと思いました。

そこでお手本にしたのが「京セラフィロソフィ」だったのです。私たちが目指すゴール、心掛けるべき規範を独自のフィロソフィとして明文化することで、全員の「心の指針」として活用できるのではないかと考えました。

2015年頃に京セラの講師を都城市まで派遣していただき、幹部職員を対象としたフィロソフィの勉強会を行いました。当時としても、自治体からの問い合わせは珍しかったはずですので驚かれたかもしれませんが、非常に前向きな協力をいただきました。

次に、全職員向けに規模を拡大して勉強会を開催するとともに、2017年から「都城フィロソフィ」の策定プロジェクトを開始。同時に、職員を20人程度選び「策定委員会」を発足させたのです。メンバーには入職間もない若手から定年を間近に控えたベテランまで幅広い人選を行いました。

職員が自発的に議論して、決定するプロセスが大事だと考え、内容については3つの条件を与え、その他はできるだけプロジェクトメンバーに任せるようにしていました。

1つ目は「 あいさつがすべての基本 」これは絶対入れて欲しいと伝えました。どんな時でも、相手より早く、自ら笑顔であいさつする姿勢は、より良い人間関係を築く第一歩。職場環境の改善、職員の資質を高めるためにも不可欠です。組織づくりには何より「心のこもったあいさつ」が欠かせないというのが私の考えでした。

2つ目は、「 結果にこだわる 」を項目に入れること。企業では当たり前すぎる考えでしょう。「結果を意識する」ことを明文化した市役所ならではのフィロソフィだと思います。

そして最後の3つ目は、「30項目に絞る」ことです。さらに各項目の解説文も10〜15秒で読めるよう簡潔にまとめて欲しいと要望しました。これは読みやすく、適切なボリュームにしたかったため 策定前の段階から決めていたことでした。

都城フィロソフィの基礎となった京セラフィロソフィは70項目以上あり、それよりもコンパクトな「JALフィロソフィ」は40項目あります。40項目でも私にとってはやや多く感じられたため、1日1項目ずつ読み上げて、1か月で読み終わる30項目が丁度良いかなと思いました。

議論を重ねた2年目、2019年に「都城フィロソフィ」が完成しました。都城フィロソフィの全文を都城市のホームページに掲載し、職員にはポケットサイズの冊子にして配布しています。

また、市民から「職員の持っている冊子が欲しい」という要望が寄せられたため、1部500円で販売も行っています。

都城フィロソフィを浸透させるには地道な発信を繰り返すこと

――民間企業がミッション・ビジョンを作成した際にもよく課題として指摘されますが、理念を掲げても組織に浸透させなければ効果は表れません。組織に都城フィロソフィを根付かせるためにどのような取り組みをされましたか?

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