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連載:第23回 慣習に囚われない 改革の舞台裏

仲は悪くないけど良くもない。好きな日に働く天然エビ工場は、究極の「争いを生まない組織」を目指していた

BizHint 編集部 2022年6月23日(木)掲載
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「好きな日に働く天然エビ工場」を掲げる水産加工会社があります。大阪府摂津市にある株式会社パプアニューギニア海産です。現在20名のパート社員は、好きな日に出勤でき、月の勤務日数も決められていません。「この日働きます・休みます」という連絡も禁止、さらには「嫌いな仕事をやってはいけない」というルールも…。なぜ同社ではこのような働き方が実現できているのでしょうか?代表取締役の武藤北斗さんに、「フリースケジュール」導入に至った経緯や過去の失敗、そして目指す組織の姿についてお話をお聞きしました。

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株式会社パプアニューギニア海産
代表取締役 武藤 北斗さん

1975年福岡県生まれ。芝浦工業大学金属工学科卒業後、築地市場で就職。2000年、家業であるパプアニューギニア海産に入社。2011年東日本大震災により、当時宮城県にあった工場が津波で流され、大阪に拠点を移す。2021年で代表取締役に就任。著書に「生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方(イースト・プレス)」がある。


離職が絶えず組織の雰囲気も悪い…。ある出来事をきっかけに、“いつでも休める会社”へ

――貴社は、パートさんたちが好きな日に、連絡無しで出勤できる「フリースケジュール」という働き方でも知られています。「好きな日に働く天然エビ工場」として、様々なメディアにも取り上げられていますね。

武藤北斗さん(以下、武藤): 当社は、パプアニューギニア産の天然エビの輸入・加工・販売を手掛ける水産加工会社です。2022年6月時点で従業員数は24名、そのうち時給で働くパートさんが20名在籍してくれています。

当社のパートさんは、フリースケジュールとして、月曜~金曜(工場稼働日)の、好きな日に出勤できます。出勤・欠勤の会社への連絡は禁止です。1か月30時間以上勤務というルールはあるものの週や月で出勤日数を決めていませんし、出退勤時間は自由で1日の勤務時間の定めはありません。フリースケジュールの対象となるのはパート社員で、正社員は対象外です。その他にも「嫌いな仕事をやってはいけない」といった、フリースケジュール以外の独自ルールもあります。

――なぜ、このような働き方にされようと思ったのでしょう?

武藤:パートさん達が自分の生活を大切にできる働き方を軸に考えたら、ここにたどりつきました。

当社は現在、大阪の摂津市という場所に工場を構えていますが、以前は宮城県の石巻に工場がありました。当時僕は、営業や原料・商品の管理、新製品の企画などを担当していて、「会社を大きくすること」を目指していたんです。

人を増やし、工場を稼働させ、売上を伸ばしたい。そのためには、従業員には僕が思った通りに動いてもらう必要があると考えていました。悪気は無かったんですが、 「思い通りに人を動かすために、どう管理するか」 という思考でした。それが会社のためだし、従業員のためになると純粋に思っていたんです。

だから働き方も、一人ひとり、きっちり曜日と時間を決める。休んだ場合の代替出勤はNGで、有給休暇も早めに申請しないと使えない。工場には監視カメラを付けて、サボらないようプレッシャーを与えながら管理していたんです。自分のことながら、今考えると「怖いな」と思います…。

そんな中、2011年の東日本大震災で被災。工場はすべて流されてしまい…。ありがたいことに関西の取引先の方がサポートしてくださり、僕の家族は大阪に住まいを移します。しかし、「会社を続けるのか」といった判断はすぐにはできませんでした。ただ、パプアニューギニアから輸入したエビが、運送の関係で東京に残っていたんです。まずはこれを売ろうということで、「大阪に一緒に行く」と言ってくれた社員を工場長として、僕と当時社長だった父の3人で再スタートを切りました。それが、2011年5月頃のことです。

――その再スタートがきっかけで、フリースケジュールを導入されたのですか?

武藤: いいえ、違います。大阪に工場が移転しても同じ管理方法をしていました。人間関係は良好とは言えず、人の入れ替わりが激しかったですね…。そんな中、ついに 頼りにしていた工場長からも「辞めさせてください」と言われてしまった んです。

さすがに「これはまずい」と危機感を感じました。震災直後の大きな不安を抱える中、それでも一緒にやろうと大阪までついて来てくれた社員です。そんな彼にさえ「ここではやっていけない」と思わせてしまって、「自分は何のために会社を続けているんだろう…」と。同時に、「ここから変わるしかない!」と覚悟を決めました。

残されるのはパートさん13名と僕と社長だけ。必然的に僕が工場長を務めるしかありません。ただ、僕は全く現場に入ったことがなかったんです。なので、彼が辞めるまでの1か月間で、働いてくれているパートさんと、毎日とにかく話をしました。今の状況を変えるためには、まずパートさんの意見を聞かないといけないと思ったからです。

パートさん達は、小さなお子さんがいるお母さんが多く「子供が熱を出したときに、気兼ねなく休める会社だと働きやすい」とか「自分の生活を大切にしながら働きたい」という意見をたくさんもらいました。

そこで、単純に 「じゃあ、いつでも休める会社にすればいい」 と思い付いたんです。

――それから、フリースケジュールがスタートするんですね。

武藤: はい。彼が退職して僕が工場長になったその日に、「フリースケジュールという働き方を始めます」とパートさんたちに告げました。それから、今年で8年目になります。

社員を信じるかどうかではない。経営者の“本気度”にかかっている

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