連載:第7回 テレワークイベントレポート 2020
部下のことを知ったつもりな上司に警告!1on1で必要な3つのスキル
ウィズコロナでテレワークが浸透し、上司と部下の対面でのコミュニケーション機会が減るなか、「1on1」で定期的な対話・フィードバックを行い、人材育成を試みる企業が増えています。しかし他方で「上司や組織の意識変革が進んでおらず、1on1を有効活用できていない」という声もあります。部下の気づきを促し、組織の成長へと繋げる1on1を、どう実施すれば良いのか。『ヤフーの1on1 − 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)の著者である本間浩輔さんが、上司に必要な3つのスキルについて語りました。聞き手を務めるのは、株式会社ローンディール 代表取締役社長・原田未来さんです。
早稲田大学卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。コンサルタントを経て、株式会社スポーツ・ナビゲーション(現スポーツナビ株式会社)の創業に参画。2002年に同社がヤフー傘下入りした後、ヤフースポーツのプロデューサー、社長室ピープル・デベロップメント本部長を経て、2014年より執行役員。同社においてさまざまな人事制度改革に取り組むとともに、戦略人事プロフェショナルの実践家として社内外において広く活動。
2001年に創業期の株式会社ラクーン(現東証一部上場)に入社、営業部長や新規事業責任者を歴任。2014年に株式会社カカクコムに転職し事業開発担当。「会社を辞めずに外の世界を見る機会」「企業の新しい人材育成の仕組み」として、企業間レンタル移籍プラットフォームを構想。2015年に株式会社ローンディールを設立。
上司が1on1で良い質問を投げかければ、部下の経験が教訓に変わる
本間さんが2017年に『ヤフーの1on1 − 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)を出版されてから、多くの組織がマネジメントの一環として、1on1を導入するようになりました。
1on1の良さは、頭の中でモヤモヤすることを言語化して、部下が自分で気づくところです。上司が1on1で、30分ほど話を聞いてあげると、部下が元気になってくるじゃないですか。
かつて僕の上司だった宮坂学さん(元ヤフー株式会社 代表取締役社長)は「1on1しよう」と言ったことは一度もなく、いつも「僕の壁打ちに付き合って」と声を掛けてくれました。それくらいのスタンスで良いんです。
「心理学的な理論やテクニックを身につけて、1on1で実践しなければならない」という考えに縛られる人も多いですよね。いくら1on1の質を上げても、それだけで人材開発のすべてを担うのは難しいですから、僕はあえてテクニックを捨てて臨んでいます。
ローンディールでは、週報や月報、1on1によって、得た教訓を言語化できるようにフォローしています。
言語化にあたっては、以下の3つの点を重視すると、ひとつの経験からさらに成長できると感じますね。
【得た教訓を言語化するポイント】
- 内省力の向上 :言語化によって、内省力を高める
- 再現性の確保 :教訓として残すことで、別のケースでの再現性を担保する
- 巻き込み力の強化 :言語化すると人に響く言葉が出るようになって、周りを巻き込む力に繋がる
僕は1on1をやるとき、デイヴィッド・コルブの「経験学習サイクル」を使って、部下の経験学習を回すようにしています。
(図:株式会社ローンディール提供)
たとえば部下の経験を聞いて、僕が「どんな状況だったのか教えて」と言った場合、本当に教えてほしいって思ったことないんですよ(笑)。「そのときの状況のことを、あなたの頭の中でイメージして」だと偉そうだから、あえて「教えて」と言います。
部下の内省を踏まえて「良い経験をしたね。そこであなたが得たものはなに?」と教訓を訊く。続いて「そうなんだ。じゃあこの後どうしよう?」と部下に次の挑戦を決めるよう促す。こんな風に適切な質問を投げかけていくと、一方的なティーチングをする暇なんてありません。
部下にとって印象的な質問を、上司が1on1で投げかけられれば、業務が学びの場に変わっていきますよね。
(図:株式会社ローンディール提供)
部下を育てる意欲のある上司ほど、自分の劣化コピーを生み出す
イノベーションを起こすには、経験的資源を意識して若手社員に渡すことです。
経営陣の姿勢が短期的・保守的になると、経験的資源の配分が成功している社員に偏ってしまいます。一部の社員の市場価値だけを上げても、企業としての成長は見込めず危険です。
大企業だと2〜3年ごとに、異動という経験的資源が与えられますよね。なかには「今の部署の居心地が良いから異動をしたくない」と言う若手社員もいそうです。
とはいえ、いつもと同じ仕事をしているなかで、新たな気づきを促すのは難しいですよね。1on1で経験学習サイクルを回す際に、一番重要なのは、部下に内省せざるを得ない仕事の機会を与えているかだと思います。
ヤフーは「異動は最大の人材開発」だと考えています。僕は異動を嫌がる人に「嫌なのは分かるけど、とにかくやってみよう。半年やってみてダメなら、すぐに元の部署に必ず戻すから」と1on1で伝えて、ハードルを下げてあげます。けれども、半年経って「戻してほしい」と言った人はひとりもいません。
(図:BizHint編集部が作成)
僕は、たとえ教え上手な上司でも、部下を自分の劣化コピーに育てたら、ただの自己満足だし、組織は大きくならないと思うんですよ。
育てたい意欲のある上司ほど、1on1であれこれ細かく確認するから、部下がやる気をなくして本音で返さなくなる。自分の答えではなく、上司の喜ぶ答えを当てにいくんですね。
そうではなく部下の成長の道すじをつけて、何かあったときに後ろ盾になれるかどうかが、上司の腕の見せどころ。サーバントリーダーシップで向き合えば、不確実な時代を勝ち抜く人材が育成できます。
本間さん自身も言いたいことをグッと我慢することはありますか?
もちろんありますよ、グッとね。2020年7月、ヤフーで無制限リモートワークと副業人材の募集開始を発表しました。知らない方は「あれは本間さんが頑張ったんでしょ」と言うんですけど、実は一切タッチしてないんですよ。
「自分の言いたいことを伝えるのが、果たして組織と部下の成長のために必要なのか?」と考えて、あえて割って入っていかなかったですね。
自慢話に捉えて欲しくないですが、ある意味、僕以上に僕がやりそうな方向に振り切った施策だなと思う部分もあるんです(笑)。それこそ組織の良いところだし、どんどん経験的資源を渡していきたいなと。
効果的な1on1を行うには、上司が3つのスキルを身につけること
「部下との1on1を設定したものの、うまく機能していない」と悩む上司もいると思います。効果的な1on1をするには、どんなスキルをトレーニングしたら良いですか?
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