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連載:第28回 プロ・リクルーター、河合聡一郎さんが聞く【事業承継のカギ】

「事業承継のカギ」を振り返る、13社に聞いて見えた事業承継の共通項

BizHint 編集部 2020年6月16日(火)掲載
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プロリクルーター・河合聡一郎さんによる事業承継のヒントを探る連載。これまで約1年半に渡って合計13社に事業承継のエピソードを伺ってきました。今回は河合さんにこれまでのインタビューを通じて見えてきた事業承継を成功させるための共通項について伺いました。河合さんは「後継者の方がそれまでに勤務をしてきた業界や職種」や、「入社のタイミングで現場から入るか、経営陣として入るか」などには相関性は見られなそうだと話します。それでは、どのような要素が実際の事業承継を成功させるポイントになってくるのでしょうか。

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事業承継を成功させた経営者の共通点

――河合さんから見て、事業承継がうまく進むポイントやコツなどは見えてきましたでしょうか?

河合聡一郎さん(以下、河合): さまざまな方にお話を伺って思うのは、「幼い頃から後継者としての教育を受けていたか」や「事業を承継された年齢」「ほかの業界で経験を積んだか」などの要素は事業承継のタイミングでは、あまり大きな関係はなさそうです。

むしろ、「家業に対してどのような想いで戻り、もしくは承継したのか」という部分や「まずは現状をしっかり見極めて、時間をかけて、すべきことから着手する」。その上で、「後継者としての自己変革」が求められていると考えます。

会社が赤字で危機的状況だったときに継ぎ会社を立て直しながら新しく事業を作った方や、事業としては数十年単位で続いてくるなかで社員や取引先から請われて継いだ方などや、幼いころから後継者として生きていくことが当たり前だという認識の方など、承継した際のシチュエーションも本当にさまざまだからです。

もちろん共通項として、どの経営者さまからも事業を継いだことへの「強い覚悟」は伝わってきました。そして、みなさま等しく「負けず嫌いで信念を強く持っていらっしゃる」とも。例えば、獺祭の旭酒造桜井博志会長がその典型例 ですね。先代のお父さまと経営方針の違いで口論が絶えず一度はクビになり……社長になってからは先代への反発心「俺にだって日本酒は作れるんだ!」という想いから商品をしっかり作ることはもちろん、販売するためにあらゆる施策を考え実行し続ける胆力や、諦めない粘り強さもですね。その結果、獺祭というブランドの確立につながったエピソードは印象的でした。

ひとつ事業承継を成功させている方のポイントを挙げるとすれば、事業を継がれてから「周りのあらゆるステイクホルダーとの良質な関係性の構築」だと思います。お客様や社員、お取引先様との関係性ですね。事業や組織において新しいチャレンジをしようとする際に、「社長がそう言うならば……」と一肌脱いでくれる方がどれだけ周りにいるのかはカギだと思います。

『経営戦略原論』(東洋経済新報社刊)などの著作で知られる慶應義塾大の琴坂将広先生はこれからの企業経営に必要な理論として 「エフェクチュエーション」 という概念を指摘しています。エフェクチュエーションとは、優れた起業家が実践している意思決定プロセスや思考を体系化した理論(概念)です。

大枠での説明になりますが、あえて戦略は考えず領域を決めたなかで許容できる範囲で失敗をたくさんすると、何らかの連鎖が起こって成功できるというもの。企業のアドバンテージは持続するものではなく、組織的な能力や強みであるケイパビリティも絶えず変化するので、「そもそも戦略を決めるのは意味がない」という考えから出てきたものです。

この連載でお話を聞いた各社ともに領域を決めて、そのなかでたくさんの試行錯誤を繰り返していくなかで、自社の強みを見つけられてそれを伸ばしていった結果、現在につながっていると感じました。

事業承継の難しさは「視えない資産」をどう捉えるか

――そんななかで事業承継の難しさはどこにあると考えますか?

河合: この連載でも都度お伝えしてきましたが、事業承継だけに限らず、これまで長年続いてきた企業様には「数字としては表れない」という意味での、「視えない資産(=BS)」があります。

それはその会社ならではの歴史とも言えます。例えば、「長年働いてきてくれた社員の方々や創業者や先代の番頭さん」や、「苦しい時に手を差し伸べてくださったお取引先様」、「資金繰りの中で交渉を続けてきた金融機関とのやりとり」、「地元の組合などとの関係、応援」など、さまざまです。

事業を継いだ後継者はこの「視えない資産」をどのように捉え、自身が指し示す在りたい自社の姿と合致させていくかがポイントになると思います。

例えば、組織運営やその中でのこれまで在籍してきた社員の方に目を向けてみると、特に長年続いてきた企業の場合には、社員ひとり一人の存在が資産になります。ものづくり企業ならば卓越した技術を持つベテランの存在は会社の技術力としては心強いものですし、業界やその地域に広く顔が利く営業がいることで売上を成り立たせてきた側面などもあるでしょう。

鋳物ホーロー鍋『バーミキュラ』を展開している愛知ドビーの土方さん兄弟 は、自社の職人の皆さんが積み上げてきた技術を活かしながら、新規事業であるバーミキュラの開発に着手し、第二の事業の柱と創り上げていますよね。職人さんの誇りも取り戻し、会社としての売り上げにもつながっている素晴らしい事例だと思います。

一方で、「バランスシート」ですから、社員の存在自体が事業を進めていくなかで、負債になりえることも覚えておきたいところ。例えば、創業80年のDIYファクトリー大都の山田岳人さんのエピソード も印象的でした。大都では「このままだと赤字で会社は潰れる。1年間で黒字に立て直そう」とメンバーを鼓舞したのですが、結局赤字が続き一度は全員解雇してリスタートを切っています。いくらベテラン社員でこれまでの功績が認められていたとしても、「今後の事業展開を考えたとき、残って活躍の場を模索することは前提で考えつつも、別の場所を選んでもらう可能性もあり得る……」と思うのであれば、きちんと双方話し合いの場を持つことが必要になってくるでしょう。

また、30代や40代の事業を継いで10年前後の若手経営者たちは大規模にメンバーの入れ替えをするのではなく、少しずつ若手を採用して徐々に新陳代謝を促していたりします。 銀座英國屋の小林英毅さん や、サンワカンパニーの山根太郎さん などが該当するでしょう。英國屋の小林英毅さんは「10年後~20年後に今の新卒社員から役員が出てきて欲しい」と話しています。サンワカンパニー山根太郎さんは「新しいビジョンを提示したら、それに納得できない方は自然と退社していった」と話していらっしゃいました。

後継者が更に次世代を考えた時に「どのような承継の仕方が良いのか」は考えなければなりません。そのためには「どんな組織体が良いのか」、また「会社としてどのような方向性を目指していくのか」を時代の流れに合わせてまた後継者のオリジナリティも交えて示していくことが求められると思います。

採用の在り方として、 ダイヤ精機の諏訪貴子さんが、「未経験でもいいからビジョンに共感した人を採用!」と仰っていたのも印象的 でした。未経験者でもきちんと技術を学べば作り出す製品のクオリティは担保できる、と。一方でベテラン社員と比べると試行錯誤したり手を動かすまでに思考する時間が長いので会社としての生産性の部分は改善の余地がありそうだとのことでした。この辺りはまだまだマネジメント等で新しい取り組みの可能性があるのではないかと感じます。

後継者の方の事業や組織の拡張方法として、なかなか見かけない形なのが、 三重の印刷メーカーアサプリさんの方式 印刷業は半径50km圏内で成り立っていると定義づけて、M&Aで周辺地域の印刷会社を買収して大きくなっています。同じ印刷業といっても、各社で大型印刷ができるのを強みにしていたり、小型の小ロットに特化するなど、「印刷周りでその地域の困り毎があったらアサプリに」を目指し、「とにかくグループ内で案件を取りこぼさない」というのを徹底してやっていらっしゃいました。結果的に各社に強みをもたせることで、ネットワーク効果と分散経営ができていると思います。またM&Aをする際のデューデリジェンスの手法やその後の組織運営の浸透の仕方、幹部育成の仕方など、とても独特でした。

そして次の時代の後継者へどうバトンをつないで行くのかも重要なテーマです。例えば、 獺祭の旭酒造桜井博志会長はアメリカ進出をご子息に託していらっしゃいました が、「親族間での事業承継を考えたとき、事業がそもそもしっかり運営されていることは大事。自分の代で黒字にできていない状態では、そもそも継がせない方がよい」との慧眼には恐れ入りました。

事業承継は一般的には親子を始めとした親族間での承継が一番スタンダードだと思います。一方で、「事業の継続」という観点では、 くじらキャピタルの竹内真二さんのような「ファンドに託す」という手も あります。中小企業の課題は良い製品がある中で、その販路の拡大としてECの未活用や、自社を知ってもらうためのネット広告を始めとしたマーケティング施策に取り組んでいなかったりと、デジタル化が進んでいないのも課題と言えます。デジタルも含めてビジネスモデルを変革していくことが今求められています。これらを含めてアップデートするために竹内さんのようなファンドに一度お願いするというも、今後は一つの方法としてメジャーになっていくのではと感じます。

この連載では引き続き、今後も事業承継の在り方について探っていきます。次の企画に動き出していますのでご期待ください。

(取材・文:上野智 撮影:渡辺健一郎)

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