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連載:第4回 コロナ危機と闘う

従業員第一を体現するウォルマートの「事業継続チーム」。コロナ対策を先導する根本思想

BizHint 編集部 2020年6月7日(日)掲載
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2020年6月現在、新型コロナウイルスにおいて、アメリカは世界最大の感染者・死者数を出すに至っている。同国における医療チームの奮闘や生活の変化について見聞きすることも増えたが、企業においてはどのような対策がなされているのだろうか?今回は、世界最大の売上(5000億ドル)と従業員数(230万人)をほこるウォルマートの対策を取り上げる。同社の取り組みは他社に先んじて講じられ、そのスピードと内容には「従業員第一」の思想が色濃く出ている。世界最大の組織がなぜ柔軟に動けるのか?日本との国民的・社会的な背景の違いはもちろんあれど、学ぶべき点は大いにあるはずだ。

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危機にこそ真価が問われる「従業員第一」の思想

2020年3月10日、アメリカにおける新型コロナ対策で真っ先に方針を発表したのは、売上高で世界最大、スーパーマーケットチェーンの『ウォルマート』だった。

発表したのは、次の4つの対策。

1. 店舗を清潔に保ち、健康的な環境を維持する。

特に人通りの多いエリアのほか、レジ周りやショッピングカートには消毒液を用いる。また、店舗が直接ウイルスの影響を受けて、第3者による消毒が必要になった場合の計画を立て、さらに、24時間営業の施設では、店舗の営業時間を変更して清掃できるようにした。

2. 店舗の在庫と価格を公平に保つように努力する。

顧客が感染拡大に対し備蓄をはじめたため、マスクや紙製品、消毒用品などの需要が高まった。そこで、これらの商品を最も必要としている地域に優先的に流通させ、配送を店舗に直接ルーティングするなど、必要とされる商品を迅速に補充できるようにした。

また、需要の多い商品の販売数量を制限する裁量権を含め、ストアマネジャーが在庫を管理することも許可した。オンラインでは、サードパーティ(第三者)の売り手が価格変動させる可能性に対して、確固たる姿勢をとることを表明した。

3. 米国内最大の雇用主として、従業員の健康を第一に対策を講じた。

気分が悪くなった従業員はすぐに自宅で待機してもらう。もしウイルスに感染したら、会社が的確なサポートを行う、といった対策である。

4. 店舗ピックアップや Walmart.comのネットスーパーを利用するなど、ウォルマートで買物をするためには、非接触の方法があることを顧客に強く告知した。

さらにウォルマートは、ケンタッキー州シンシアナで従業員の1人の感染が判明したすぐ後に「有給休暇に関する3つの緊急措置」を発表した。

  1. 新型コロナウイルスへの感染が疑われる社員は勤務評価に影響なく有給で休むことができる。

  2. 働く店舗が国または会社によって隔離された場合は、最大2週間分の給与を保証する。

  3. 感染が確認されて勤務できない社員に対して2週間分の給与を、その後も治療が必要な場合は最大26週間分の給与を保証する。

アメリカの小売業の従業員はその大半が時給で働くパートタイム社員である。そういった背景を鑑みると、この保証は極めて手厚い処遇といえる。その後、アマゾンや大手スーパーマーケット各社も、店舗の清掃、食品の取り扱いなど、社員と顧客を守るための施策を発表していった。

3月22日、トランプ大統領が「感染者3万人超え」を発表すると、小売業各社はさらにさまざまな特別措置を講じ始めた。

ウォルマートは、パートタイム社員を新たに約15万人雇用した。また、もともとの従業員に対しては特別ボーナスを支給した。ボーナスは3月1日付けで雇用している全従業員に対して、4月2日に支払われた。フルタイム社員には300ドル、パートタイム社員には150ドルが支給され、この支給額は3億6500万ドル(1ドル100円換算で365億円)に上った。

店舗と物流部門の従業員に対しては、2021年度第1四半期の業績に応じて5月に支払われる予定のボーナスを前倒しで支払うと発表。こちらの支払額は1億8000万ドル。総額5億4500万ドル(100円換算で550億円)に上るボーナスが、社員に支給されることとなった。

行政の指導は徹底した上で、独自の安全策を追加する

3月末になると「ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)」という言葉が使われ始めた。直訳すると「社会的距離」。アメリカでは会話をするときや列に並ぶときに、人と人との距離を6フィート(約2m)以上空けることが推奨されるようになった。CDC(疾病予防管理センター)は、ソーシャル・ディスタンシングに加え、手洗い、清掃の徹底などついての指導も行っていた。

ウォルマートではまず、その指導を徹底していく。まず、夜間は閉店し店内清掃を徹底的に行った。さらに、対面接客をする薬局やレジには仕切りガラスを設置。そしてショッピングカートにはワイプや消毒スプレーを使用する。ソーシャル・ディスタンシングの維持を促すサインを設置し、従業員にはCOVID-19 緊急休暇の施策も実行した。

さらにウォルマートでは、これらに加え追加で3つの措置を講じた。1つ目は入店時に社員の体温測定と簡単な問診を行った。赤外線温度計を全店舗に設置しているが、社員にはすでに自宅での検温を義務づけている。

2つ目に、マスクと手袋を支給した。日本では当たり前のことだが、アメリカでは従来からの慣習でマスクは着用しないため、その支給は遅かった。

従業員にマスク、手袋を支給。アメリカにマスクの慣習はなかった。

3つ目は「6-20-100のルール」の厳守だ。これは6フィートのソーシャル・ディスタンシング、20秒以上の石鹸を使った手洗い、体温が華氏100度以上(摂氏37.78度)の場合は、自宅待機するというものだ。

参考までにアマゾンでは、通常の広報サイトではなく、ブログサイトを使って連日情報公開を始めていた。「Amazon’s COVID -19ブログ」と名付けられ、新型コロナウイルス感染に対する同社の対策を逐次紹介している。具体的には、アマゾンは社員を「ヒーローズ」と呼び、彼らの努力を称賛したうえで、会社として顧客や地域に対してどのように取り組んでいるかを丁寧に解説している。

世界規模の組織で、1日単位、週単位で追加対策が講じられていく

4月3日、米国の1日の感染者数は3万人を超えるようになった。

その翌日の4月4日、ウォルマートでは全店舗で入店制限を始めた。一度に店内に入れる買物客の数を、店舗面積1000平方フィート(約28坪)につき5人以下に制限した。これは店舗の収容人員の約20%に当たる。

その制限を厳守するため、7000坪の大型店のスーパーセンターでは店舗の両サイド2カ所にある入口のうち、食品売場の入口一カ所を入店専用とし、顧客にそこに並んでもらうよう社員が誘導した。

制限数の顧客がすでに入店している場合は、「1アウト1イン(1-out-1-in)」のルールで、お客が1人退店したら、スタッフがお客1人を入店させる方式をとる。もちろん順番待ちの人には、サイネージを使ってソーシャル・ディスタンシングを呼び掛けた。

またその2日後、4月6日からはスタッフの誘導に加えて、店内の通路に矢印が貼られ、売場はワンウェイでコントロールされるようになった。

売り場がワンウェイでコントロールされている。

さらに2週間後の4月20日、ウォルマートは従業員全員に対してマスクまたはフェイスカバーの着用を義務付けた。最大最強のフォーマットであるスーパーセンター、会員制ホールセールクラブのサムズクラブ、食品スーパーマーケットのネイバーフッドマーケットなどの店舗をはじめ、配送センターやフルフィルメント・センター、本社オフィスで働くすべての社員にマスク着用を義務付けた。また顧客にも推奨した。

「ビジネス・コンティニュイティ」(Business Continuity/事業継続チーム)が存在し、機能している

ウォルマートを筆頭として、アメリカのトップチェーンの新型コロナ対策は、まず従業員から始まった。そしてそれは「危険な職場」で働くヒーローに対する敬意を形にしたものだった。

さらに顧客との関係に関しては、「ソーシャル・ディスタンシング」や「6-20-100のルール」など、わかりやすい概念や言葉で普及活動に努めた。

もちろん日本の小売業もアメリカに劣るものではない。しかし彼らに学ぶことは多い。第1は、まず従業員へのケア・企業による保証から入ったことだ。成果最大の企業が従業員第一を実践で示したことは、後に続く企業の道標となった部分は多分にあるだろう。

第2は、スピードである。ボーナス支給、時給アップをはじめ、コロナ対策の追加措置が頻繁で、それを巨大な組織が柔軟に対応している。

第3は、それらを対外的に発信する力である。ウォルマートは公式サイトやWalmart.comのサイトやアプリ、そして何よりも店内でアピールする。アマゾンも「Amazon’s COVID-19ブログ」を展開する。迅速に決断し、迅速に実行し、迅速に主張する。

そして何より特筆すべきは、政府や行政から指導・指示される前に判断し、動き出していることである。ウォルマートには「ビジネスコンティニュイティ」(Business Continuity)というチームが常設されている。これはいわば「事業を継続するチーム」だ。

そのチームがこういった危機に際し、現場の発想で素早く対応策を考え、実行に繋げる。今回のコロナ対策においても重要な役割を果たしている。現場発想だから政治や行政よりも早いのである。

こういったチームが存在することも重要だが、それがいざという時に機能することはもっと重要なことだ。危機を前にして、やれること、やるべきことを躊躇せずやる。やってはいけないことは断じて、やらない。

政治や行政に先んじて、企業が自らの判断で従業員と顧客と社会に貢献する思想がその根底にあると思われる。

コロナとの闘いはまだまだ続く。多くの企業がその変容に応じて迅速に意思決定し、着実に行動し、この危機を乗り越えられることを期待したい。

(執筆・編集:商人舎 代表 結城義晴)

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