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人材育成

2019年10月15日(火)更新

先入観を捨てれば洋菓子はもっと儲かる。「利き牛乳」が職人パティシエにビジネス視点をもたらした

Logo markBizHint 編集部

「街のケーキ屋さん」の倒産件数が過去最高で推移する中(2019年8月。帝国データバンク調べ)、洋菓子のOEM製造を軸に、順調に事業領域を拡大しているのが株式会社ランビックです。いわゆる「職人」の考え方・文化が根強い洋菓子業界にあって、同社はパティシエの手作りによる温かみと、徹底したビジネス感覚を併せ持つ異色の存在。「相見積もりの習慣がなく、師匠は絶対」という業界の常識に直面し、戸惑うことも多かったと語るのは同社の藤堂正健(とうどうまさたけ)社長。そのような現場にビジネス視点をどう浸透させていったのか? まさかの展開となる「利き牛乳」のエピソードなど、職人×経営者の紆余曲折を伺いました。

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【プロフィール】
株式会社ランビック
代表取締役 藤堂 正健さん

株式会社レックス・ホールディングス(現・株式会社レインズインターナショナル)、株式会社エーエムピーエムジャパン(現・株式会社ファミリーマート)、株式会社ダイヤモンド社を経て、2012年に株式会社ランビック代表取締役就任。

まっとうに働いて儲からないのはおかしい。職人の世界に感じた違和感

――藤堂さんが、製菓業界で起業された理由を教えてください。

藤堂正健さん(以下:藤堂): いつかは起業したいという思いを持っていたのですが、どんな事業かは見えていませんでした。長年、企業の中で財務部門の経験を積んできたからか、 やるなら利益率の高い事業がいい。 そこははっきりしていましたね(笑)。

ダイヤモンド社で編集者として働いていたとき、独立の意志に理解を示してくれた上司が「起業したいなら、取材を兼ねてたくさんの経営者に会いに行け」と言ってくれたんです。名だたる経営者にお話を伺う機会に恵まれた中で、「築地銀だこ」などを育ててきた株式会社ホットランド社長の佐瀬さんの言葉にハッとしました。 「粉もの商売がなくならないのは、やり方を間違わなければ必ず儲かるから」。 それを聞いて、父が営むケーキ工場(清澄白河の藤堂プランニング)に思いいたりました。

藤堂プランニングのケーキはおいしいと評判で、マスコミにもよく取り上げられていました。しかし、おいしいのは当たり前。技術はもちろんのこと、良質な材料を惜しげもなく使っているからです。ビジネス脳の私からすると信じられないほど高い原価率で、決して儲かっているとは言えません。

原価について父に指摘すると、「お客様がよろこぶものをつくって何が悪い。黒字も出ているし」と言います。ただ、その黒字の正体は、洋菓子メーカーの商品開発といったコンサルティング業務で父自身が得てきた収入。 コンサルができる父が倒れた瞬間、この会社も倒れるんだと説明しても「俺が生きているうちはこれでいい」の一点張り。職人気質な父と、私の経営に対する考え方の違いは明らかでした。 ケンカしても仕方がないので、だったらビジネスとして成り立つ粉もの商売をやってみようと父のケーキ工場のそばに物件を借り、製菓事業に取り組み始めました。

相見積もりが存在しない。「つきあい」で高い材料を仕入れ続ける

――「儲かる粉ものビジネス」はどのようにスタートしたのでしょうか?

藤堂: 「良質な材料を使う」という前提を守りながら利益を出すには、まず材料を大量に仕入れて原価を下げなければいけません。そのために、ケーキを買ってくれるお客様を増やすことが必要です。そこで、手作りが強みのお菓子のOEM事業に取り組みました。私たちの直接のお客様はエンドユーザーではなく、レストラン、ホテル、カフェ等です。しかし、私たちはただケーキをつくる会社じゃない。エンドユーザーが満足できる商品を卸先であるお店と一緒に考え、卸先にも利益が出てよろこばれる会社になるんだと決めました。

――OEM事業を進める中で苦労はありましたか?

藤堂: 意外とありませんでした。まず、材料の仕入れ値の交渉ですが、相見積もりを取って将来的な大量仕入れをお約束する分、価格をがんばってもらいました。驚いたのですが、父の会社だけでなく、製菓業界には相見積もりという言葉が存在しないかのようでした。「営業さんがいい人だから」「十数年の付き合いだから」中には「慰安旅行に招待されたから」……そんな理由で、長年同じ業者さんから仕入れているケースは多々ありました。

そこで、仕入れ先に対しては、当社は見積り金額を下げてもらうことが何よりうれしいと伝えたんです。それが洋菓子の価格に反映されればエンドユーザーの満足度を高めることになり、ユーザーが満足すれば将来の販売増につながるはずだからと丁寧に説明しました。

一方、卸先を増やす場面ではビジネスマンとしての経験が生きました。卸先が求めているのは、基準を満たすクオリティと価格。クオリティの期待値を上回りながら徹底的にコストを下げ、要望に合わせたケーキを手作りします。ケーキは毎日配送するので、「これまでの製造コストが仕入れコストに代わるだけで、しかも安くなる」とお伝えすると、最初の1年で卸先を20社獲得できました。

ビジネスは、エンドユーザーの満足度を起点にしたループを回すことが大切です。 カフェでケーキを食べるお客様も、カフェの購買担当者も、私たちランビックも、粉の卸業者も、それぞれが「許容できる金額」というものを心の中に持っています。その金額を上回って良いことがあると思うから取引が生まれる。 関係性をシンプルにして、全員がよろこぶ仕事をしていれば自社の利益も上がるはずだと思っています。

「利き牛乳」で思い込みに気付かせる。固定観念は事実を積み上げて丁寧にほどく

――パティシエをはじめとした職人との付き合い方で気を付けていることはありますか?

藤堂: いわゆるビジネス的な感覚で ちょっとおかしいぞと思っても、パティシエの考えを頭ごなしに否定しないこと。その上で、明らかに変えた方がよさそうだと思ったら、時間をかけて「おかしさの証明」をすることです。

例えば「ケーキには『○○』というメーカーの牛乳を使わないと不味くなる」と工場長やパティシエが主張したことがありました。〇〇は値段が高く、経営者としてはぜひ変更したいのですが、頑として譲らない。

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