連載:第20回 人材育成 各社の取り組みを追う
ヤフーで始まった「新しい働き方」。企業の成長を支える"自律的な学び"とは
2020年、月5回までとしていたリモートワークの利用制限を撤廃することで、時間と場所に捉われない「新しい働き方」に移行 。2022年4月からは従業員の居住地に関する制限を撤廃するなど、国内どこからでもリモート勤務が可能なヤフー株式会社(以下、ヤフー)。人財育成において「経験学習」を重視する同社では、社員の自律的な学びを促す施策として2021年11月から「GLOBIS 学び放題」を導入しています。ピープル・デベロップメント統括本部ビジネスパートナーPD本部組織・人財開発部部長の木下学さん、人財開発チームリーダーの張希さん に、導入の経緯と社内に起こった変化を聞きました。[sponsored by 株式会社グロービス]
ヤフーの1on1は、経験学習を促進させるためのカギ
木下学さん(以下、木下): ヤフー株式会社は1996年に設立し、国内初の商用検索サイト「Yahoo! JAPAN」を開始しました。その後もメディア、コマースや金融、データソリューションを始めとするテクノロジーなど事業領域を拡大しています。
張希さん(以下、張): ヤフーが目指す組織の姿は「社員一人ひとりが自律的に働き、多様性を尊重しながら協業しあう組織」です。その状態を図る指標のひとつとして、従業員のエンゲージメントが大切だと考え、毎月サーベイを取得しています。
当社では、エンゲージメントを「社員の自主的な貢献意欲」と捉えています。そして、エンゲージメントに寄与する重要な要素のひとつに「会社の理念や経営・事業戦略への共感」があると考え、社長や経営幹部から社員に向けたメッセージ発信や意見交換の機会を大切にしています。
木下: 前社長の宮坂学さん(現・東京都副知事)が社長に就任した2012年、“PCの会社” から“スマートフォンの会社”へと大きく舵を切りました。このスマートフォンへのシフトは、社員に対するインパクトも大きく、一人ひとりに意図を伝え双方向で意見を交わしたいという経営層の想いがきっかけで、メッセージ発信や意見交換の場が定期的に作られるようになりました。
この意見交換の場が増えていったことで、当社では上司部下関係なく「フィードバック」しあう文化が根付いていったように思いますね。
──ヤフーといえば「1on1」というイメージも強いかと思います。
木下: 当社の人財開発は、経験を通じて成長を促す「経験学習」という考え方がベース にあります。経験学習において重要なのは経験を「内省」した上で、その経験を次のアクションにどう変えていけるかです。
失敗しても「なぜ失敗したのか」「何がポイントだったか」を振り返り、理解したうえで一つ一つ経験を積み上げていく。しかし、これを社員個人の振り返りだけで自走するのはなかなか難しいため、1on1ミーティングを活用し、他者との対話を通じて、内省を促進させていきます。
同僚や部下、他部署の関係者などからフィードバックをしてもらう「360度アセスメント」も半年に一度実施しています。これは、自分を見つめる上でいろいろな鏡を持った方が成長を加速できるという考えに基づいています。
張: また、社員一人ひとりのキャリア自律を、会社として支援することも大切だと考えています。キャリアは過去から現在に至り、未来に繋がっていく「轍」のようなものであると捉え、未来を描くだけでなく、過去を振り返る、今と向き合う機会の創出にも取り組んでいます。
大事なことは「何のために働くのか」「何にワクワクするのか」といった、自身の働く源泉となる「内発的動機」を理解した上で、経験と結び付けていくこと。経験学習をより深化させるためにも、自己理解が重要なプロセスであると考えています。
事業の多角化により一律の研修が難しい。必要なタイミングで必要なスキルの習得を
──2020年には新聞広告で「オンラインに引っ越します」と宣言し話題になりましたが、働き方が変化したことで、人財開発にはどのような影響がありましたか?
木下: 現在約8,000名(※2022年1月時点)の社員がいますが、全社員原則リモート勤務を実施しています。1日あたりのオフィスへの出社率は、平均すると約1割、勤務場所は自宅やオフィス、サテライトオフィスや喫茶店など、パフォーマンスを発揮しやすい環境を自由に選ぶことができます。
リモート勤務では社員同士がお互いに見えない時間が増えるため、より自律的に業務に取り組む必要性が生まれます。
また、インターネット事業は変化のスピードがはやく、そのとき必要なスキルや経験はどんどん変わっていきます。また、経験から学びを促すという観点から、当社は社員の配置転換が多く、求められる経験やスキルは事業ごとに大きく異なるため、一律の研修は難しいといった側面もありました。
そのため、本人が望んだタイミングで、必要なスキルを習得できるプラットフォームが必要なのではないか…と考えていたときに出会ったのが、思考や会計、マーケティング、リーダーシップなど、経営の基礎知識を体系的に学べる動画サービス「GLOBIS 学び放題」です。
「学びたい」という意欲がある人に、学びの場を提供する
木下: 「GLOBIS 学び放題」では、個人が関心のあるテーマを自発的に学べます。業務の特性上、学びが必要なタイミングも一人一人異なる中で、日々の業務における振り返りや、新たな事業に取り組むための学び直しのタイミングで学習できる点にメリットを感じました。また、コンテンツの質やアップデート量も担保されていたのも決め手でした。
張: 利用者は、全社員を対象にするのではなく、まずは「公募」という形で希望者を募ることにしました。組織として「自律的に行動してもらう」ことを大事にしているので、学びも強制するのではなく、「学びたい」という意欲がある人に機会提供したいと考えたからです。
当初はどれくらい応募があるか予測ができず、まずは社内のイントラサイトに公募を出してみたのですが、一度の公募で2000名を超える申し込みがあり、社員の学ぶ意欲の高さを感じました。
――社員の約1/4の方が自ら学びたいと手を挙げてくださったのですね。申し込みをされた方の傾向などはありましたか?
張: 役職比率や職種、等級などに偏りは見られず、幅広い属性の社員が学びに関心があることがわかりました。「GLOBIS 学び放題」はどちらかというとビジネススキルの学習がメインですが、エンジニア・デザイナーといったクリエイター職からの応募も多かったことは少し予想外ではありました。学習への潜在ニーズの高さを感じましたね。
──受講者にはそれぞれ「利用宣言」をしてもらったそうですね。詳しく教えていただけますか?
張: はい、利用開始のタイミングで、「利用宣言」を全員に提出してもらいました。これは「GLOBIS 学び放題」の中で特に注力して学びたいカテゴリとその理由、半年後のゴール設定をしていただくもので、半年間しっかりと学習の目標を立てて計画的に学んでほしいという狙いがあります。
【利用宣言の一例(抜粋)】
- オンライン中心の働き方になったこのタイミングで学習やコミュニケーションを見直したい
- 職種が変わったタイミングなのでその領域のスキルを学びたい
- 組織への価値提供を高めていけるようポータブルスキルを向上させたい など
──2021年11月の導入から2か月ほど経っていますが、どのようなコンテンツが人気ですか?
張: 思考系のコースが一番よくみられているようですね。特に「クリティカル・シンキング」は職種問わずあらゆるビジネスパーソンに必要とされるスキルですので、幅広い社員が身につけたいと考えているのだと思います。当社の傾向としては、思考の次に組織・リーダーシップもよく受講されています。
「GLOBIS 学び放題」の画面の一部
張: 開講から2か月が経ち、継続的に学んでいる社員がいる一方で、学習のペースが落ちている社員もいます。
人事としては、そういったタイミングで「利用宣言」で書いたことの振り返りを促したり、人気コンテンツに関する情報を月1回メルマガで発信したり、強制ではなく自律的な受講をサポートするような仕掛けを考え、実行しています。
受講者主体の学習コミュニティが発足。「社員同士の学び合い」の土台に
──受講者の皆様の声や反応はいかがですか?
木下:受講者主体の「学習コミュニティ」が立ち上がったこと は印象的でした。
社内コミュニケーションはビジネスチャットのSlackを活用しているのですが、「GLOBIS 学び放題のコミュニティチャンネル」が作られ、500~600人ほどの受講者が参加しています。「GLOBIS 学び放題」の利用者が自発的に立ち上げたものです。
──コミュニティ内では、どのようなやりとりが行われているのでしょうか?
張: 社員それぞれの活用方法の共有や、学習時間や学習方法についての相談、おすすめコンテンツの紹介などが行われています。私自身もコミュニティに参加していますが、自分では選択しないコンテンツと出会えたり、新しい気付きを多くもらったりしています。
木下:「学びたい人が学びたいときに学べるプラットフォームの構築」 をしていくためのひとつのアプローチとして、「GLOBIS 学び放題」を導入しました。これをきっかけに、人事の施策や制度面においても、社員がより自律的に学べる環境・組織風土を構築できるよう、尽力していきたいと考えています。
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