連載:第9回 【Future of Work】
【Inside Sales Conference 2018】いま知っておきたい新しい人材育成の仕組み“セールス・イネーブルメント”とは
営業の生産性を飛躍させる取り組みとして注目されるセールス・イネーブルメント。既に取り組んでいる3社がどんな目的で運用しているのか、さらに立ち上げの具体的なポイントなどのトークセッションを行いました。本記事は、2018年12月6日『Inside Sales Conference2018』で16:30から開催されたパネルディスカッション『いま知っておきたい新しい人材育成の仕組み“セールス・イネーブルメント”とは』の模様をレポートします。
(写真左から、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ野﨑日土志さん、NTTコミュニケーションズ株式会社徳田泰幸さん、Sansan株式会社畑井丈虎さん、株式会社セールスフォース・ドットコム山下貴宏さん)
※本セッションの講演内容および役職は2018年12月当時のものです。
徳田泰幸さん
2001年NTTコミュニケーションズ入社。入社より15年、大手企業をお客様とした法人営業に従事し、社内におけるセールスのプロフェッショナル人材として認定される。2016年より現所属で当本部の営業戦略及び人事/育成を担当。育成では自身の法人営業経験を活かして営業の各場面で必要となる行動スキルを細分化し、そのスキル習得に向けた各育成カリキュラムの開発に従事。
畑井丈虎さん
東京工業大学卒。2015年4月にSansan株式会社へ入社し、エンタープライズ営業を経た後、シンガポールで現地の営業基盤作りに奔走。2018年4月からはSales Enablement Groupを立ち上げ、営業組織の強化に取り組んでいる。
山下貴宏さん
日本ヒューレット・パッカードで法人営業を担当。その後、船井総合研究所、マーサージャパンにて営業組織開発、人材マネジメント分野のコンサルティングに従事。セールスフォース・ドットコム営業人材開発部門の責任者。営業部門全体の人材開発施策、グローバルトレーニングプログラム等の企画/実行を統括。
野﨑日土志さん(モデレーター)
大手監査法人系ファーム、政府系機関等にて、ベンチャー〜中小企業を対象としたHR領域の事業開発に従事。これまで0→1フェーズ~10→100フェーズまでを主導し、支社長、事業部長、事業企画・推進や営業企画、人事企画のマネジャー等を歴任。 現在はリクルートマネジメントソリューションズにおいて、ミドルマネジメント業務支援サービスの新規事業開発とリクルート横断領域における新規事業開発に従事。※所属・役職等はイベント登壇時のものです。
セールス・イネーブルメントはビジネス成長と連動するKPI設定がポイント
野﨑日土志さん(以下、野崎): まず各社のセールス・イネーブルメントの目的や、組織の捉え方について教えていただけますか?
徳田泰幸さん(以下、NTT徳田): NTTコミュニケーションズでは部門を2017年に立ち上げました。10名程のバーチャルな組織を作ってリソースをかける位置づけを模索しています。営業の課題やファインプレーを把握して育成プログラムの設計に活かしたり、提案支援や受失注の分析、提案ツール作成といった営業推進、さらに事業戦略の変更に合わせた適切な育成施策を打つといた動きをしながら、社内への浸透を進めています。
畑井丈虎さん(以下、Sansan畑井): Sansanでは半年前に私1人で立ち上げて、今は3名の体制です。セールス・イネーブルメントの役割とは「営業の戦闘力を高めること」。競争に勝ち抜くための戦略、ランチェスター法則では「戦闘力=武器効率×兵力数(2乗)」とあります。戦闘力を高めるためには「武器効力=質」と捉えて営業マンの教育をしっかりやること、あとは2乗が効いてくる「兵力数」は採用から定着までをセールス・イネーブルメントでカバーしています。営業が本当に欲しい人材を確保して武器効率と兵力数を担保するために、採用を人事部に任せにしません。
山下貴宏さん(以下、SF山下): セールスフォース・ドットコムでは2008年にチームができて現在は十数名規模です。そもそも、イネーブル(Enable)は「何かができる状態」という意味ですが、セールスフォース・ドットコムでは「会社が期待する営業の動きができる状態にし続ける部門」と捉えています。営業の情報に強い営業開発部と育成に強い人材開発部の機能を組み合わせたような組織として活動しています。
野﨑: 会社からすれば人材を雇うのは大きな投資。イネーブルメントが求められている成果や期待は何でしょう?
SF山下:高いビジネス成長を実現するために事業成長をサポートする役割 だと思います。具体的には、 入社した中途社員の実践レベルを上げて早く数字が上がるようにすること。部門のKPIはビジネス成果と連動させて設計 しています。1つはやるべきことをやれているかを見るトレーニング回数やコーチング回数、営業コンテンツの提供数。2つには営業の年間達成率の中央値です。全体の真ん中に位置する人たちの達成率が上がれば、生産性が向上しています。イネーブルメント組織の中央値を上げることが期待されています。
Sansan畑井: Sansanでは採用、教育、定着の3つでKPIを設定。採用は明確にペルソナに沿った営業の採用人数。教育は中央値の向上です。ただし、現在のSansanは急成長のフェーズで昨対から中央値をとると落ちてしまうので……。入社からミドルプレイヤーになるまでの期間の速度改善もKPIにしています。定着は長期的な施策が必要です。これから離職率低下やモチベーション向上を見ていこうと思っています。
NTT徳田: 近年、顧客ニーズや弊社サービスの多様化でスキルの幅が広がり、もはや 営業のスキルエッセンスは3D(立体)の時代 だと思います。そのため、営業の行動を細分化し、事業方針と現場の業務に直結した育成を行う必要があります。その施策や育成の支援を行うのがセールス・イネーブルメントの重要な役割なので、KPIは立体の「縦軸」「横軸」「奥行き」の3つを見ています。
「奥行き」はサービス単体と複合で見たときと、部署毎の売れ方。「横幅」はフェーズの移行にかかる期間を見て、停滞など必要に合わせて対処しています。「縦軸」は社内のプロフェッショナル認定制度の中で、各レベルで何人位いるか を見ています。
暗黙知をナレッジ化し、マネージャーと連携することが大切
野﨑: 各社ともセールスを科学してKPI達成やKGIに繋げています。事業にプラスになったり社内的なインパクトがあった事例を教えてください。
Sansan畑井: 教育は、今までマネージャー中心に教えていたことを体系化して2週間程度で育成するようにしました。すると、オンボーディングが大きく改善して、育成後すぐに営業に行けるようになりました。入社後1か月程度で5件くらい新規受注できるケースも出ています。
SF山下: KPIの中央値は着実に上がりつつあります。そのためには Salesforce上のデータを使って中央値付近の人を特定し、商談数や成約率、営業日数など指標をチェック。何が課題なのかを把握して育成テーマを絞り、ピンポイントに改善の施策をおこないます。 例えば、商談数が減っているときに分析で「特定の商品しか売っていない」と判明した場合、「新しい製品を売るためのトレーニング」を行ったりします。
野﨑: 暗黙知化しやすく掘り出しにくいのが営業ナレッジ。そのナレッジに対してのマネジメントはどうやっていますか?
SF山下: 現場からナレッジを吸い上げて体系化するために4つの仕組みにしています。まず、Salesforceの「Chatter」というコミュニケーション機能で色々な会話やファイルを収集します。集めたナレッジは「Community Cloud」を使って営業向けナレッジポータルとして提供。メインメニューからも情報にはアクセスできますが、Einstein Bots に欲しい情報やキーワードを入力すると手に入れたり、レコメンドもしてくれます。そして、「Pardot」というマーケティングオートメーションツールを使い、社内へのコンテンツ配信や、誰が何の記事をいつ何回見たか分析して、関心の高さに応じて情報提供もしています。最後は「シェアリングサクセス」という成功体験を共有する勉強会を月3回ほど開催しています。大きい商談をどうやってとったか、競合からどうひっくり返したのかなど鮮度の高い情報を共有する場です。
イネーブルメントと営業マネージャーの育成の役割分担ですが、実際の育成において主導するのは営業マネジャーです。具体的なコンテンツやデータ、プラットフォームはイネーブルメントが提供します。横断で見ることができる第三者の視点から、誰もが使える汎用化した情報を共有して生産性を上げていく。重要なのは、「提供価値をどこに置くか」です。
Sansan畑井: Sansanでは例えばデモのやり方や商品のコンセプトなど、汎用化できるものをプログラム化して展開しています。競合対策やクロージングの詰めなどの汎用化できないものは現場に任せています。
立ち上げは「誰がやるか、何をやるか」が重要
野﨑: 実際にセールス・イネーブルメントの部門を立ちあげようと思ったとき何からやればいいでしょうか?
Sansan畑井:立ち上げは、「何からやるか」「誰がやるか」が重要 だと思います。長期的な成長を考えると企画ができること、ハイプレーヤーであることは重要な要素です。
そもそもSansanがセールス・イネーブルメントを立ち上げた理由は、「売上の増加率を今よりも大きくしたい」という経営層の意思がありスキームを作る必要があったからです。最初に現状分析と営業のフェーズ管理を行いました。3年程前まではABC管理でしたが、購買プロセスに合わせて7段階のフェーズ管理を導入。それを軸に教育プログラムを作りました。現場や営業の状況をきちんと把握していかないと、そもそも立ち上がらないと思います。
NTT徳田: NTTコミュニケーションズが最初にやったのは、「事例共有会」です。セールス・イネーブルメントを社内に浸透させるために、きっかけを作って楽しみながら自発的に学習する文化を醸成することが重要だと考えました。
取り上げるテーマは「どういう言動がファインプレーだったのか」などの暗黙知をあえて取り上げます。共有会の品質を保つためと営業に負担を増やさないために、内容はこちらで決めてファシリテーターを立て資料作成も行います。ただ内容を話してもらうのではなくクイズ形式にして参加者に選ばせたり、私設応援団がうちわを作って盛り上げたりします。参加者に「なんか楽しそう」と思わせて、協力体制を築くのと同時に、業務に直結するスキルを持ち帰り、すぐに実践してもらう流れを作りました。
SF山下: 「社内のベストプラクティスをどうやって誰もが使える形にするか」という体系化が最も重要だと思います。そこで必要になるのが、社内の営業が分かっているハイパフォーマーと体系化ができる人。暗黙知を持つ人と体系化が得意な人をうまく組み合わせることが大事です。
やるべきなのは現状を把握し分析するために必要なSFAやCRMといった営業の管理データを整備すること。さらに、顧客の意思決定プロセスに沿った営業フェーズの設計をして、どうマネージしていくのかを整理して、必要な育成施策に落とすこと。
「どこから始めるか」。そして、「経営層とどう合意形成していくのか」が、本当のファーストステップになると思います。特に 経営層に対してはセールス・イネーブルメントのコンセプト理解してもらえたら「すぐやれ」となる と思います。
Sansan畑井: それは同意します。私は経営層に対して明確に数字を出しました。例えば、「営業が今の人数のままならば生産性は3倍にならないと2年後の事業計画は達成できないですよね?」と。
SF山下:さまざまな企業の事例を見て感じることは、動きが速い企業は経営層の意思決定が早い です。売上に対するコミットが強くて、育成をマネージャー任せにするのではなく組織の知見を活用していこうとする会社は、セールス・イネーブルメント機能がフィットすると思います。
日本の営業生産性は、もっと改善の余地があると思います。まだまだ非効率なことや属人化していてデータ化されていない暗黙知がたくさんあります。セールス・イネーブルメントはそれらを改善できるすごく良いアプローチだと思います。
「Inside Sales Conference2019」開催のお知らせ
2019年6月5日(水)虎ノ門ヒルズで「Inside Sales Conference2019」が開催されます。
欧米ではすでに一般的な「インサイドセールス」。 日本でも、経営や営業の新しい手法として実践する企業が増えています。 昨年12月、「競争から共創へ」をテーマに掲げ開催した「Inside Sales Conference 2018」は、1,203名の方にご参加いただき、大変好評をいただきました。 2回目となる今回は、「なぜ必要なのか」「どう 始めたらよいか」の基礎から、「どう生かすか」の応用まで、パネルディス カッションやワークショップなどを通じて、課題解決のヒントを提供します。 生産性向上に寄与する新しい働き方として。 経営課題に取り組む手段として。 そして、それだけにとどまらない可能性をもつ手法として。 「インサイドセールス」についての知見や出会い、イノベーションの種を、 ここで見つけませんか。
(文:川畑文子 撮影:渡辺健一郎 編集:上野智 櫛田優子)
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