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イノベーション

2019年9月5日(木)更新

学術で得られた知見をどう「経営課題に活かすか」【―人事データ・ピープルアナリティクス最前線―】

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人事データ・ピープルアナリティクスに注目が集まる昨今。学術で得られた知見をビジネスに活かすためのポイントはあるのでしょうか。株式会社シンギュレイトの鹿内学さんが早稲田大学政治経済学術院 教授 大湾秀雄さんに聞きました。

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分析するためには「課題を発見」せよ

鹿内学さん(以下、鹿内): 前編の冒頭でも話題になりましたが、昨今は人的資本論やソーシャル・キャピタル理論(社会関係資本論)を土台にして、社会や会社組織などにおける人間関係を分析する取り組みが盛んになっています。

そうした背景を踏まえつつ、ここからは学術的な理論や知見を、実際の経営にどのよう活かしていくか、という観点で議論できればと思います。そもそも経営学における理論や仮説は、経済学はもちろんのこと、心理学や社会学といった多様な領域の知見をベースに構築されているわけですよね。

大湾秀雄さん(以下、大湾): おっしゃるとおりです。そして ピープルアナリティクスは、まさにそうした理論や仮説を、問題設定や解釈のためのフレームワークとして利用しつつ、自社の課題を解決していく取り組みであるともいえる。

鹿内: 別の言い方をするなら、 「ピープルアナリティクスを通じて、学術的な知見を現実のビジネスへと落とし込んでいくことが可能になる」。 理論や仮説にもとづいて、実際にビジネスの現場で検証、分析していく。これはとても価値のある取り組みだと思います。

大湾: そうですね。「現場」という着眼点でもう少し話を広げると、前編で私は「トップダウン型の組織だとデータ活用が根付きにくい」といった話をしました。要するに、データの検証や分析の軸になる観点が、現場からは距離のある経営層からはなかなか出てこなかったり、ピントがずれていたりする、ということ。私は、むしろ現場から積極的に分析の観点を挙げていくほうが、効果的な検証・分析になることが多いと考えています。

鹿内: だからこそ、 「これからは人事担当者も経済学や経営学、統計学といったピープルアナリティクスに役立つ領域を前向きに学んでいくほうがいい」。 私はそう思っているのですが、いかがでしょう?

大湾: そのとおりだと思います。ただ、そうした学びへと進む前段として、真っ先に取り組まなければならないことがある。それは 「会社の課題はなにか」を明らかにすること 。それがファーストステップでしょう。データを収集したり、分析したりする以前に「いま、自分たちが解決しなければならない問題はなにか」を全社的な視点で見つけ出し、その対処法について議論を重ね、深く考えること。それがないと、検証・分析の軸になる切り口や着眼点が見えてきませんからね。

研究会や勉強会などで企業の方とお話をする際、「御社の課題はなんですか?」と尋ねたときに、きちんと課題を挙げられる人は、実のところそれほど多くありません。個人レベルでは挙げられるんです。たとえば、いま採用を担当しているなら「どうすれば優秀な人材を採ることができるのか」「なかなかいい人材と出会えない」といった悩みや課題はすぐに出てくる。でも、課題の本質を辿ると、もっと全社的な問題が背景に隠れているもの。つまりはその会社にとって「いま一番大事なことはなにか」をつまびらかにすることが、個別の課題解決へと繋がっていったりするわけです。会社の課題について社内で議論を重ねる過程で、問題の本質が浮かび上がり、全社的に問題意識を持てるようになる。そうした前準備がとても大切ではないでしょうか。

鹿内: 会社の課題を真剣に考えるところから、ピープルアナリティクスは始まっている、と。

大湾: はい。そして、もう一方で重要なのは、まずは 統計を使って人事データを分析してみること です。おそらく独学で取り組んでも「なるほど!」と思えるような結果はなかなか出せないでしょう。そこでたとえば、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の勉強会や、私のワークショップなどに参加して、専門家たちに解説してもらいながら一緒にデータを分析してみる。すると「こういう観点でデータを見ていけばいいんだな」「こういう切り口でデータを整理していくと、けっこう有効な結果が出てくるんだな」と、徐々にわかってくるでしょう。だんだん面白くなってきて「もっと統計に詳しくなりたい」とモチベーションも上がってくるはずです。

鹿内: データ分析が面白くなってくれば、自然と統計学についても理解は深まるでしょうね。

大湾: データを集め、 分析する作業を進めていくなかで、「それではこの結果をどう解釈するべきなのか」という段階が必ずやってきます。その際、経済学や経営学の知識があると、解釈を助けてくれる ことでしょう。

最初から頭でっかちに進めようとせず、ますは統計学をつかって、できるところからデータ分析をやってみる。そこから関心の深まりや必要に応じて、関連する学問も学んでいけばいいと思います。

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