連載:第2回 「人と組織の科学」―人事データ・ピープルアナリティクス最前線―
コミュニケーションの多いチームは本当に生産性が高いのか?【―人事データ・ピープルアナリティクス最前線―】
人事データ・ピープルアナリティクスに注目が集まる昨今。現在、人事データの分析はどこまで進んでいるのか。そして、その理論はどうなっているのでしょうか。株式会社シンギュレイトの鹿内学さんが早稲田大学政治経済学術院 教授 大湾秀雄さんに聞きました。
人事データから昨今見えてきたもの
鹿内学さん(以下、鹿内): 大湾さんのご専門は人事経済学とのこと。カバーしているトピックや領域は多岐にわたるのではないかと思います。
大湾秀雄さん(以下、大湾): そうですね。いわゆる 人的資本管理論や組織論において扱われてきたトピックは、ほぼすべて人事経済学の研究対象 に入るでしょう。
鹿内: 私は脳科学や機械学習、データサイエンスの知見からピープルアナリティクスにアプローチしているのですが、今回はまず「コミュニケーション」を切り口に議論していければと考えています。昨今、人事領域におけるデータ活用について、関心が非常に高まっていると実感しているのですが、そこで 重要な指標となるのがコミュニケーション だと捉えています。
大湾: おっしゃるとおり、近年は、経済学でも、チープトークモデルやネットワーク理論をベースに、組織や社会における情報伝達や紹介やコーディネーションを分析する研究が増えていますね。そうした研究において、コミュニケーションは、たしかに大切な指標です。とはいえ、定量的なデータを集めづらいというのも、また事実です。
鹿内: ええ。例えば、ウェアラブルデバイスを社員に着けてもらい、オフィス内での行動や会話について計測するというのは、ひとつのアプローチかと思います。そうした手法を用いた研究で興味深い指摘がありました。ハーバード・ビジネススクールのイーサン・バーンスタイン氏の研究調査なのですが、 仕切りがほとんどないだだっ広いオフィスにおいて、みんなの姿は見えているものの「コミュニケーションが少ないこと」が見えてきたそうなのです*1。 みな、イヤフォンをするなどしてパーソナルスペースを自分でつくり出してしまい、コミュニケーションが発生しにくくなっている。それぞれに個室を設けているケースよりもコミュニケーションの頻度が低い、という結果が出たとか
大湾: それは面白いですね。最近、私が大学院の学生に読ませた論文のひとつなのですが、アメリカの大手自動車メーカーにおける製品設計ネットワークとコミュニケーションに関する研究も、たいへん興味深かったです。*2 自動車の開発部門を調査対象にした研究で、エンジニアたちがシステム上でやり取りしているさまざまなコミュニケーションの記録を使いながら、製品設計上のネットワークとエンジニアのコミュニケーションが作り出すネットワークを比較するんですね。そして二つのネットワークの関係性が自動車の品質にどう影響を及ぼしているのかを計測していった。
その結果として見えてきたのは、機構的に複雑な部分……要するに設計上、 難しさが伴ったり、注意が必要になったりする部分に関しては、「ここは問題が起きやすいはず」「何かあるとすればここだろう」という共通認識をみなが持っているので、コミュニケーションがものすごく密におこなわれている、 ということでした。
一方、その対局にあるような部分……機構的に単純で、従来から使われてきた部分については、ほとんどコミュニケーションがおこなわれていませんでした。それでも、問題は発生しないか局所的に軽微な問題しか引き起こさないので品質への影響はないわけです。ところが、それらの中間にあたる部分。ここが盲点だったんです。
鹿内: というと?
大湾: 複雑な部分と単純な部分のあいだ、適度に複雑ではあるものの、エンジニアや経営陣の注目からつい外れてしまうようなパートで、品質に影響を与えるような問題が発生していました。その事実を、データを用いて明らかにしたのです。
鹿内: なるほど。 コミュニケーションの内容や頻度が成果に影響する、 ということを端的に示した事例ということですね。とても興味深いです。
ハイパフォーマーは意外とおしゃべり!?
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