連載:第63回 IT・SaaSとの付き合い方
アメーバ経営を目指した会計ソフト選び。AI画像認識の進化で劇的に効率化された業務とは?


デイサービスをはじめ10ヵ所の福祉・介護施設を札幌で展開するHTC株式会社。同社は各事業所の管理者それぞれが独立採算で経営の意思決定を行うアメーバ経営を志向し、会計システム「FX4クラウド」を導入しました。売上はもちろん、コストや生産性が数字で見えることにより管理者や現場のスタッフにどんな変化が起きたのか?また、FX4クラウドの導入・活用が進むにつれ、紙✕手作業だった経理・会計処理はどう効率化されていったのか?その経緯を伺いました。

(お話を伺った方)
HTC株式会社(札幌市・福祉/介護サービス・従業員数110名)
代表取締役 臼井 宏太郎 さん
事務長 荒井 昌史 さん
※本記事は取材時点(2025年5月)の情報に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。
将来のアメーバ経営を見据えた会計システム選び
――貴社は会計システムとしてFX4クラウドを採用するにあたり、アメーバ経営への志向が背景にあったとのこと。
臼井宏太郎さん(以下、臼井):はい。当社は札幌を中心にデイサービス「我が家」を運営していますが、2009年の会社設立から一貫して「我が家に関わる全ての人を幸せにする」という経営理念のもと、理念経営を志向してきました。
その中で大切にしてきたのが「理念実現のためには『顧客満足』と『利益』の両方が必要」という考え方。そしてその「利益」を適正に確保するために、会社としてアメーバ経営(小さな独立採算制のグループで組織運営を進める経営手法)を目指したいという思いを抱き続けていました。
とはいえ創業からしばらく、事業規模が小さかったころは会計まわりの業務を全て私一人でやっていて、部門責任者やスタッフがそれぞれの業務の細かいコストまで 把握するのは難しい状況でした。
日々、社内に向けて「売上だけでなく、利益やコストも大事ですよ」と伝えてはいたのですが、売上にはある程度現場も意識が向くものの、利益やコストについては、それを意識してもらえる情報共有ができていなかったのが実情でした。
そんな中、事業が成長して組織が拡大してきたことから、税理士と会計システムの変更に迫られ、それを機に将来的にアメーバ経営を実現しやすい会計システムを選ぶことにしました。
事業成長と税理士変更が、会計システム変更の転機
――税理士や会計システムの変更について教えてください。
臼井:もともとはオンプレミスの弥生会計を使っていました。全て自分で入力して、データをUSBに入れて税理士にお渡しするといった運用でした。
その後、税理士側の提案で「ツカエル会計オンライン」というクラウドのシステムに変更。その税理士事務所のクライアントは無料で使えるシステムでした。基本的には、私が入力したデータが税理士側でもすぐに見られる仕様で便利になりました。
その後大きな転機となったのが、当社の運営施設数が7店舗くらいになった2019年頃。お付き合いしていた税理士は個人規模だったこともあり、業務が追い付かなくなってきました。
そこで、今後の事業成長も見据えて税理士を変更することに。知人の紹介で、介護や医療業界に精通しているコンサルタント・税理士事務所とお付き合いすることにしました。
この業界は補助金や助成金、交付金など独特な会計のルールが数多くあります。また、その後の資金調達やM&Aも含めて幅広い経営アドバイスも期待していました。札幌で最大手のデイサービスを手掛けている企業の顧問もされていたことも、大きな安心材料でした。
そしてこのタイミングで、会計ソフトをTKCの「FX4クラウド」に変更することになります。
HTC株式会社 代表取締役 臼井 宏太郎 さん
――FX4クラウドを選んだ理由は?
臼井:まずはリアルタイムで数字を見られるクラウドシステムであること。そして、フィンテックサービスを謳っていたことにも興味を惹かれました。また、介護業界はTKCを使っている企業が多く、税理士事務所の推薦もありました。この時、別のシステムを選ぶこともできたと思いますが、そこまでの理由は見当たりませんでした。
ただ、FX4クラウドのプラン選びは慎重に行いました。FXクラウドシリーズのラインナップはおおまかに売上規模で分けられていて、年商5億円まではFX2クラウド、50億円まではFX4クラウドが該当します。当時の当社の売上は3億円ほどだったのですが、今後の事業成長や多拠点展開、将来的なアメーバ経営への移行を鑑みて、当時としてはオーバースペックだったFX4クラウドを選びました。
アメーバ経営では、小さな組織がそれぞれ独立採算で活動します。「それぞれの事業所でいろいろな数字が見られる」「数字の閲覧・編集権限を多様に設定できる」「事業所の責任者が売上・コスト・利益まで責任を持つ」ということを目指すにあたっては、FX4クラウドに備わった機能が必要だったからです。
クレジットカード利用明細の処理が劇的に効率化
――FX4クラウドの導入前後で、経理・会計まわりの作業はどう変化したのでしょうか?
臼井:FX4クラウドの導入以前は、前述の通り本社機能としては私が一人で処理していました。各事業所から毎日経費台帳が上がってきてそれを入力して精査するものの、日付が間違っている…用途が書かれていない…金額が間違っている…など日常茶飯事でした。
現金の入力が実情と違えば当然、銀行残高は合わなくなります。前月のクレジットカードの利用明細が届いて照らし合わせると、当たり前のように日付と金額が違う箇所が頻発していました。
そして使途不明な経費が出てきたり、残高のズレがわかるたびに、私から事業所の管理者にメールを送付していました。私自身の手間はもちろん、事業所の管理者にとっても工数やストレスの面で大きな負担になっていたと思います。
こうした状況はFX4クラウドの活用で一変しました。特に楽になったのが、クレジットカードの利用明細の付け合わせです。口座情報とクレジットカード情報の紐付け、自動反映により、ほとんど間違いがなくなりました。
日付・科目・金額・取引先など、それまで手入力していた工数がゼロに。日付と金額は間違いようがありません。科目や取引先、使用用途についても、過去のデータをAIが覚えて自動で反映してくれます。私はそれを目で確認してEnterキーを押していくだけ。感覚的には、5倍以上のスピードアップになったと思います。
各事業所に会計システムを展開。会計処理の担当者を1名増員
――各事業所へのFX4クラウドの展開はスムーズに進んだのでしょうか?
臼井:私がFX4クラウドの利用に慣れた後で展開しました。また、FX4クラウドの導入に合わせ、経理・会計部門の担当者を1名増やしました。現・事務長の荒井です。荒井のほうで、マニュアル作成や問い合わせ対応などをサポートしてもらいました。
荒井はもともとデイサービスの現場や事業所の管理者を経て、本社の事務まわりを担当するキャリアを歩んでいました。現場の状況や管理者の立場がよくわかっていたことが、マニュアル作成をはじめとした現場への展開では活かされたと思います。
HTC株式会社 事務長 荒井 昌史 さん
――荒井さんに伺います。社内向けのマニュアル作成や事業所への展開はどのように進められたのでしょうか?
荒井昌史さん(以下、荒井):まずは臼井から基本的な操作を教えてもらいました。その後、FX4クラウドのほうで用意されていた膨大なマニュアルを参照しながら、自分で使い方を習得していきました。自分が使えるようになるまでには2週間程度かかりましたが、マニュアル作成自体はそれほど時間はかかりませんでした。
というのも、FX4クラウドで用意されたマニュアルは膨大ではあるものの、事業所の管理者が実際に使うであろう部分は限られていたからです。実際の操作画面をキャプチャしてWordに貼り付け「ここを押してください」「こうなったらこうしてください」という形で、管理者向けのマニュアルを作成しました。
事業所運営において、管理者がはじめてFX4クラウドを使う上ではどの機能が必要か?利用に慣れていない中でどう案内すればわかりやすいか?どこで躓きそうか、といった視点は自身の経験が活きた部分だったと思います。
レシートなど紙の処理にスキャナー導入も、業務負荷が増大
――レシートなどの紙の処理についてはいかがでしょうか?
臼井:今となっては各事業所にレシートスキャナーを導入し、大きく効率化できています。とはいえ、これは最初からうまくいったわけではありません…。
きっかけは2022年頃から検討をはじめた電子帳簿保存法への対応です。毎月たくさんのレシートや領収書が各事業所から集まってくる状態は以前と変わらなかったのですが、本社の保管スペースも限られています。「それなら、いち早く電子保管にチャレンジしてみよう」と、2023年にレシートスキャナーを各事業所に導入しました。
そのころはまだレシートスキャナーの導入事例が少なく、税理士事務所でも2社目だと言われるほど先駆的な取り組みだったようです。
仕組みとしては、レシートスキャナーでレシートをスキャンして、その画像を保存。同時にFX4クラウドの画像認識システムで読み取り、会計用のデータを作成します。
しかしいざ使ってみると、読み取りの精度がイマイチ…。2023年5月のレシートは「2022年5月」に、1000円の買い物は「1000万円」、手書きは認識されないことも多々…。90%以上が間違っていて、結局スキャンした後にデータを手入力で修正していました。
私自身「これならスキャンしないほうがましかもしれない…」と何度も思いましたし、各事業所からの問い合わせも頻繁に来て、荒井の対応も増えていきました。税理士事務所にも相談しましたが、状況はすぐには好転しませんでした。
――レシートスキャナーの運用を止める選択肢はなかったのでしょうか?
臼井:仰る通り、見直しは何度も考えました。しかし遅かれ早かれ電子帳簿保存法への対応は必要ですし、一方で「技術は必ず進歩する」という私なりの期待、信念がありました。「将来への投資として、今は我慢する時期」という心境でもありました。
――現場ではいかがでしたか?
荒井:各事業所では旧来の運用に比べるとレシートをスキャンする手間が増え、さらにはほぼ全てで修正作業が発生するので、以前よりも作業に時間がかかっていました。当時、事業所での経費の入力や仕分けは主に管理者が行っていたのですが「いつまでこの作業を続けるんですか」という声も寄せられました。
とはいえ、少しずつですが学習機能による精度向上は感じていました。同じ店舗のレシートは何回か読み取るうちに認識率が上がってきたり、よく使う科目は正しく分類されるようになったり。完全ではないものの、改善の兆しのようなものはありました。
それでも、以前より業務が楽になったかといえば、決してそんなことはなかったのですが。
AIの進化。読み取り精度は90%間違いから、99%正解へ
――とはいえ、現在では、レシートをはじめとした紙の処理は効率化されているとのこと。どのような転機があったのでしょうか?
臼井:レシートスキャナーの導入から1年ほどが過ぎた2024年の年末頃、税理士から「有料の高精度AI読み取りオプション」の提案をいただきました。
最初は「また費用がかかるのか…」と思いましたが、料金を聞いてみると月100枚まで1000円、それ以降は20枚ごとに200円。当社の場合は月500枚で5000円ほどと十分許容できる金額です。
初月無料のトライアルがあったので、「ダメ元でやってみよう」と試しました。すると衝撃的な結果に。それまで90%以上間違っていたものが、99%の精度で正確に読み取ってくれました。
荒井:トライアルは本当に驚きました。それまでスキャンと修正に1枚あたり1~2分かかっていた作業が、ほぼ10秒で終了。日付も金額も店名も、手書きの薄いレシートでさえ、ほぼ完璧に読み取ってくれました。「これが本当のAIの力なんだ…」と感動しました。
そしてこの結果は事業所での処理速度はもちろん、別のメリットも生み出しました。読み取り精度が高いので、事業所の管理者以外のスタッフでも、レシートの読み取り・登録作業ができるようになったのです。管理者は作業負荷が低減し、より本質的な事業所運営のために時間を割くことができるようになりました。
現在では、多くの事業所で発生する費用のデータがほぼ毎日更新されるなど、ほとんどの数字を日次で把握できるようになっています。これは事業所運営や経営の判断スピードの向上に大きく寄与しています。
この変化は「膨大な手入力が自動化された」ということと同じくらい、経営・事業運営にとって革新的な変化といえます。
AIの読み取り精度の向上で、管理者以外でもレシートをスキャンしてFX4クラウドに登録できるように。(画像提供:HTC株式会社)
数字の可視化により、管理者の意識と行動が変化
――目指されていたアメーバ経営についてはいかがでしょうか?
臼井:まず、各事業所の管理者が売上だけでなく、コストまでを細かく見ることができるようになり、数字に基づいた事業所運営ができるようになりました。
また、アメーバ経営で重視する指標の一つとして「時間当たり生産性」があるのですが、売上からコストを引いた利益とスタッフの労働時間の相関が明確に見えるようになりました。
そしてこの「時間あたり生産性」を各事業所で比べてみると、同規模の事業所でも大きな差があることがわかりました。売上が高くても労働時間が長ければ生産性は下がりますし、逆に売上はそれほど高くなくても効率的な運営をしていれば高い生産性を実現できます。
ちなみにスタッフの労働時間の記録についても、それ以前の手書きの出勤簿からクラウドの勤怠管理システム「タッチオンタイム」に変更しました。打刻や集計における手間やタイムラグを削減できています。
このようにして事業所内の様々な数字が見えるようになると、自ずと他の事業所との差が浮かび上がってきます。その結果、管理者は「なぜ違いが生まれるのか」を意識するようになり、またお互いに議論して他の事業所の良いところを取り入れるようになっていきました。
――どのような部分で事業所間の差が見られたのでしょうか?
臼井:例えば、デイサービスを手掛ける事業所での「1食あたり費用」。大きな事業所の食費が、それより小規模の事業所よりも少ないということがありました。
「どこでそのような差が出ているのか」を細かく意見交換・議論していくと、事業所内で調理をしない外注の配食サービスの利用頻度や、買い物先の選択、計画的なまとめ買いの工夫などの違いが見えてきました。その差が数字で明らかにならなければ、注目することはなかったかもしれません。
こうした事業所運営における細かい工夫について、以前は「みんなでがんばる」といった空気感で終わっていました。しかし数字の裏付けを得たことで、結果を出している管理者は自身の工夫や運営について、堂々と胸を張れるようになりましたし、管理者どうしで切磋琢磨してくれるようになりました。
コスト削減や運用の工夫は、当社の理念経営を支える「利益」に直結していますので、とてもうれしい変化が起こったと感じます。
報告するだけの会議から、議論する会議へ
――その他、経営や組織運営での変化はありますか?
臼井:最も変わったのは、毎月の営業会議ですね。以前は前月の数字を集計するだけでも相当な時間がかかっていましたが、今ではFX4クラウドで即座に数字が確認できます。各事業所の売上・経費・労働時間などが全て網羅された資料作成でも、手作業で時間がかかることはほとんどありません。
そして会議の質も大きく向上しました。以前は「先月の売上はこうでした」といった報告で終わっていたものが、今ではその実績をもとに「どこに課題があるのか」「目標との乖離はなぜ生まれたのか」「具体的な改善策は何か」まで、議論・検討できるようになりました。
会議の頻度についても、以前は月に1回、全社分をまとめて確認していたものが、今では問題があれば随時、数字を見ながら対策を議論できます。
例えば「前年や例月に比べ光熱費が急に上がっている」という場合、以前なら翌月の会議ではじめて気づいていたものが、現在は当月内で把握して即座に原因調査、対策検討ができるようになっています。この時差の少なさは、経営判断を行う上でとても重要です。
前述の事業所ごとの工夫のような、成功事例の横展開も速くなっています。ある事業所で効果的な取り組みや気付きがあれば、それをすぐに全社展開。事業所全体の品質底上げ、レベルアップのスピードが向上しています。
コスト意識が現場に波及。全員参画型経営へ
――事業所の現場スタッフへの波及はいかがでしょう?
荒井:事業所の管理者が生産性を意識するようになったことは、現場のスタッフへの意識付けという形で波及しています。
事業所で発生する支出は管理者によって確認がなされますので、現場のスタッフは日常の購買において「これは本当に必要な支出なのか?」「もっと安く購入できる方法はないか」「在庫は十分にあるのではないか?」と考えるようになりました。
臼井:少しずつではありますが、「全員参画型経営」という創業からの理念が、ようやく実現できつつあると感じています。
特に管理者レベルでは、もはや「雇われている」という意識ではなく、「自分の事業所を経営している」という意識で働いてくれていますし、それがスタッフの一人ひとりに波及していることは、まさにアメーバ経営の真の効果だと感じますね。
まずはやってみて、良かったら導入する。
――今後のFX4クラウドの活用について教えてください。
臼井:まだまだ使いきれていない機能がたくさんあるので、少しずつ使っていきたいですね。
例えばTKC経営指標(BAST)を使えば、介護業界の同業他社と比較した経営分析ができるのですが、現状は見ているだけです。より良い事業運営のヒントを得て、具体的な改善点を見つけたいところです。
また最近、「デジタルインボイス」という機能が追加されました。取引先に電子請求書を送ってもらえれば、もうスキャンする必要すらなくなるというものです。税理士事務所からの請求書はすでにこの形で届いており、非常に便利です。取引先も当社もどちらも楽になりますので、広げていきたいですね。
また、これまでe-TAX で行っていた税金の支払いもFX4クラウドでできるようになりました。実際にやってみたのですが、現状はまだe-TAXのほうが使いやすかったです。先述のAI読み取りの精度と同様、今後の進化を期待したい部分です。
こうした新機能は税理士からの提案で知ることが多いのですが、今後も「まずはやってみて、良かったら導入する」というスタンスで臨んでいこうと思っています。
(撮影:坂井 亨輔 (GAZEfotographica))
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