連載:第90回 組織作り その要諦
社員の主体性を奪っていたのは自分だった。「はだかの王様」だと気づいた社長が見つけた会社作りの本質
2020年4月、倒産寸前の経営危機に直面した京西陣菓匠宗禅。同時期に発令された緊急事態宣言で百貨店や観光地のお土産店が次々に休業、多くの商品が行き場をなくし、当時1億円あった月商は最大で90万円にまで落ち込みました。同社を率いる山本宗禅社長が立て直しのためにまず行ったのは、それまでのワンマン経営に対する「謝罪」。そして、社員一人一人の声に耳を傾け、全員で危機を乗り越えようと決意を固めます。その姿勢が社員の主体性を引き出し、組織全体の活性化につながり、4年でV字回復を果たしました。その軌跡を伺います。
京西陣菓匠宗禅(きょうにしじん かしょう そうぜん)有限会社
社長 山本 宗禅 さん
昭和48年、かきもち・おせんべい屋の4代目として生まれる。平成12年9月に京西陣菓匠宗禅有限会社を創業。京都の和菓子製造販売を中心とする同社と、大阪の土産物製造販売会社、そして菓子専門の物流会社・トライズネットの3社でグループを形成している。
「はだかの王様だった自分」を謝罪。社員の主体性を奪っていたリーダーシップに気づいた瞬間
――コロナ禍での御社の状況をお聞かせください。
山本宗禅さん(以下、山本): 会社は倒産の危機に直面していました。緊急事態宣言が出て、商品を売る場所がなくなり、ゴールデンウィークに向けて作った商品が全て返品されたんです。当社は京都の和菓子製造販売の本社、大阪の土産物販売会社、そして物流会社の3社体制でグループを運営していましたが、グループ全体で毎月5,000万円の運転資金が必要なのに、月商は前年の1億円から90万円まで激減。このままでは持ちこたえられない…。まさに危機的状況でした。
ただ、振り返ってみると、 この危機は私たちの組織が抱えていた本質的な問題を浮き彫りにしてくれたのです。
会社が危機的状況に陥った時、私は「何か良い案はないか」と社員に相談しました。でも誰も何も言えない。ただ黙って俯いているだけでした。その時、はっと気づいたんです。
「結局、私は物言えない組織を作ってしまっていたんだ」と。まさに私ははだかの王様だったんです。
それまで私は「俺についてこい」というスタイルを貫いてきました。社員の意見を聞くことなく、自分の判断だけで物事を決めて、それを「指示」という形で降ろしていく。その結果、 社員は自分で考えて行動することを避け、言われたことだけを最低限こなす「指示待ち組織」になっていたんです。
その後、さらにショックを受ける出来事がありました。
経営者仲間の会社を訪問した時のことです。訪問先の事務所が当社とあまりにも違いすぎてショックを受けました。うちの事務所では社員一人一人が仕切りを立てて、隣の人が見えないようにしている。つまり、私や他の社員から仕事を振られるのが嫌だから、なるべく関わりを持たないようにしていたんです。それとは反対に、訪問先の事務所は仕切りもなく、社員たちが積極的にコミュニケーションを取っていたんです。
当社の社員たちは、自分のやるべきことだけやって、他の同僚には何も協力せず、積極的に取り組もうという気概は感じられない状態だったのだと気づきました。社員同士のコミュニケーションもなく、指示を出したことに対しても仕方なくやっているといった感じでした。 そうした組織文化を私が定着させてしまっていたことに、やっと気づくことができました。
とはいえ私自身、すぐに変われる自信がありませんでした。
「社長が変わりたいと言っても、本当に変われるのか」という不安も社員に抱かせていたかと思いますし、私自身も、長年のワンマン経営の習慣を簡単には変えられないのではないかという不安があったのです。
そこで、私の経営の良き相談相手だった経営者の方に相談したんです。その方は、うちのような状況を乗り越えてきた経験をお持ちでした。 思い切って、その方にメンターとして幹部会議への参加をお願いしました。
――外部の方をメンターとして会議に入れる狙いは何だったのでしょうか?
山本: 狙いは二つありました。
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バックナンバー (90)
組織作り その要諦
- 第90回 社員の主体性を奪っていたのは自分だった。「はだかの王様」だと気づいた社長が見つけた会社作りの本質
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