連載:第43回 リーダーが紡ぐ組織力
経営者の“傲慢”が会社をダメにする。V字回復のリーダーが確信した「組織で一番大切なもの」
日本全国で、ホビーショップを展開する株式会社タム・タム(Tam Tam)。その規模は、今や日本最大級となっています。それだけでなく、しっかりとした経常利益を残し筋肉質な経営体質も実現している同社。しかし2008年、薄利多売のビジネスモデルや急速な店舗展開、リーマン・ショックの影響で一気に倒産危機にまで追い込まれます。「正直、驕りがあった」と語るのは、代表取締役社長 安藤治さん。同社は、この経営危機からどのように這い上がったのか。そして、V字回復を経て気づいたこととは。詳しく伺います。
株式会社タム・タム
代表取締役社長 安藤 治さん
1970年愛媛県生まれ。南宇和高等学校卒業後、川崎製鉄に入社。その後、健康食品代理店を起業。健康食品会社で営業部課長として従事したのち、カイロプラクティックなどを学び、起業。2003年、義父が創業した株式会社タム・タムに入社。2007年より現職。タム・タムは1975年創業で、鉄道模型・プラモデル・ラジコン・モデルガンなどを取り扱う日本最大級のホビーショップ。従業員数224名、売上高49.1億円(2024年5月期)
自分の傲慢さが倒産の危機を招いてしまった
――「タム・タム(TamTam)」は日本最大級のホビー専門店として、全国に20店舗を展開。豊富な品揃えと接客力を武器に、安定成長を続けていますね。
安藤治さん(以下、安藤): ありがとうございます。当社は、ラジコンをはじめプラモデルや鉄道模型、ミリタリー用品などを扱う「小売業」ですが、お客様に『楽しい・おもしろい・ありがとう』を言っていただけるような「感動体験業」を目指しています。
小売業ではけっこう珍しいことだと思うんですが、「今日は●●さんいますか?」など、当社のスタッフは名指しで呼ばれることが多いんですよ。ある店長が他店に異動したところ、元のお店のお客様から抗議の電話やメールが届いたこともありましたし、実際に異動した店舗に会いに行ってくれたお客様もいらっしゃいました。これは、 スタッフ一人ひとりが自分で考え判断し、お客様と向き合うことで、深い関係を築けている ということ。それらが結果として会社の成長に直結していると考えています。
ただ、ここにたどり着くまでには、何度も危機に直面してきました。今振り返ると、私自身も未熟だった、何よりもすごく傲慢でした。
――詳しく教えてください。
安藤: ターニングポイントになったのは、2008年に起きたリーマン・ショックです。
当社はそれまで、大きな会社にしたいという先代の意向もあり、積極的に全国展開を進めていました。私は2007年に社長に就任したのですが、この頃には9店舗、売上高は57億円ほどの規模に成長。上場準備もはじめていました。
当時、店舗展開の資本は借入が中心。つまり、新店舗をオープンするほど借入金が増えていく。しかし、各店舗がそれなりの売上をあげていたので、次から次へと店舗展開していきました。今見ると自己資本比率はどんどん下がっていたし「よくこんなに怖いことをやっていたな…」と思うほどの勢いでした…。
そんな中、2008年にリーマン・ショックが訪れ、当社もその煽りを受けました。当時は商品を通常の価格より割引いて販売する「ディスカウンター」のビジネスモデル。薄利多売のためギリギリの経常利益しか残っておらず、売上が落ちたことで一気に赤字に…。そして、あっという間に倒産寸前まで追い込まれてしまいました。店舗数は増えて売上は伸びている。すべてうまくいっている。そこばかりを重視していて「利益」を軽視していたのです。
「来月、1億円が用意できなければ倒産」という状況で、どの銀行にも融資を断られたときには絶望しました…。自分の身に起きていることが夢か現実かもわからず、眠れない日々。毎晩、鏡の前で自分に叱咤激励していたのをよく覚えています。
当然、社内も殺伐としていました。ちょうど「2ちゃんねる」という匿名掲示板が普及してきた頃で、「タム・タムについて語れ」というスレッドが立ち上がっていて、そこで「タム・タムは潰れる」「会社で、創業者と社長が言い争っている」など、良くない噂が多数書き込まれていました。それを見たスタッフは当然不安になりますよね。結果、どんどん辞めていきました…。当時は190名ほどいましたが、リーマン・ショック以降の数年で、40名ほど退職しています。
それまでの私は、自分の考えが正しいことが前提で、相手の言葉をあまり聞かないことも多かった。その結果が経営危機という事態を引き起こしてしまったのです。
この一件で 「経営者の傲慢が会社をダメにする」 と、身をもって知ることになりました。
一方で、危機を乗り越えていく過程で、組織、ひいては会社を経営していくうえで最も大切なものに気づきました。そしてその気づきこそが、組織を変え、会社を成長させる礎となったのです。
――その「気づき」とは、何だったのでしょうか?
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