連載:第57回 リーダーが紡ぐ組織力
「社員は仕事に誇りを持っていますか?」離職率ゼロ、人が辞めない組織を実現したリーダーが徹底した、たった一つのこと


10億円の債務超過と、社員のモチベーション低下に苦しんでいた三和建設株式会社。社長に就任した森本尚孝さんは、「つくるひとをつくる」という経営理念を掲げ、組織改革に乗り出します。全社会議の開催・経営情報の公開のほか、独自の採用選考や社員寮の設置など、人材育成にも力を注ぎました。その結果、かつて50%だった離職率はほぼゼロとなり、7年連続で「働きがいのある会社」に選出。社員の86%が「仕事を誇りに思う」と回答するまでに変貌を遂げました。変革を主導した森本さんが、「人が辞めない組織」を実現するために徹底した「たった一つのこと」とは?詳しく伺います。

三和建設株式会社
代表取締役社長 森本 尚孝 さん
1971年京都生まれ。大阪大学工学部建築工学科卒業、同大学院修了。大手ゼネコン勤務を経て、2001年「サントリー山崎蒸溜所」をはじめ、大手企業の建物・工場等を70年以上にわたり建設してきた同社に入社。2008年、4代目社長に就任。
人が辞めない組織を実現するために徹底した「あること」
――貴社は、「離職率がほぼゼロ」だと伺いました。
森本 尚孝さん(以下、森本): はい、以前は新卒3年以内の離職率が50%ほどでしたが、 2017~2018年頃から3年以内の離職率はほぼゼロとなり、人が辞めない組織となりました。
この「人が辞めない組織」を実現できた要因はさまざまありますが、 一番は社員が自分の仕事に誇りを持っていることでしょう。 当社の社員たちは「この会社で働くことが誇りだ」と言ってくれています。見学に来られた経営者の方からも 「若手社員が、誇りと自信を持って仕事について説明している姿が印象的」 と感想をいただくこともあります。
それによって、従業員満足度も高水準となっており、Great Place to Work® Institute Japanが実施する「働きがいのある会社」ランキングでは、「中規模部門」で2015年から7年連続でベストカンパニーに選出されました。社員の84%が「働きがいのある会社だ」、86%が「私たちが会社で成し遂げている仕事を誇りに思う」と回答しています。
――以前から、そのような組織だったのでしょうか?
森本: いいえ。以前は社員たちのモチベーションも必ずしも高いとは言えない状態で、まさに、 当社で働く誇りを失っている状態でした。
というのも、私が入社した当時はおそらく10億円以上の債務超過に陥り、資金繰りが厳しい状況でした。これまでの赤字が蓄積していたのはもちろんですが、不動産や株など、一部の投資が採算割れしていたのです。そのため、賞与が出ない年もありましたし、新卒採用を止めていた時期もありました。
ある日の飲み会で同世代の社員が 「もし友人が建設会社を探していても自分の会社を紹介したいとは思わない」 と話す声を耳にするほどです。
また、経営状況がよくなかったからこそ、当社は厳しい条件で取引せざるを得ない状況でした。仕入先の中には先払いを要求する会社もありましたし、銀行からはさまざまな指導や要請が入っていたんです。受注の際は下請契約や厳しい支払条件を避けられませんでした。 だからこそ社員たちも苦しんでいましたし、いくら頑張っても報われないムードだったんです…。
私が入社した当時から業績悪化によるリストラ、そして早期退職者を募った影響により、社員数は100人弱から90人へと減少し、会社全体の士気は下がっていました。
――大変な状況だったのですね。そうした状況をどのように変えたのでしょうか?
森本: 私は2008年に社長に就任しましたが、まず取り組んだのは財務状況の改善です。10億円以上の債務超過という状況の中、思い切った事業の選択と集中を行いました。採算性の低い案件からの撤退、不採算事業の整理、そして利益率の高い得意分野への経営資源の集中投下です。
同時に、取引先との関係改善にも取り組みました。これまでの信頼関係を基に、一つひとつ丁寧に交渉を重ね、先払いなどの厳しい条件を徐々に緩和してもらうことに成功しました。また、下請けからの脱却を目指し、元請け案件の獲得にも注力しました。
こうした地道な取り組みの結果、2013年頃には財務状況に改善の兆しが見え始めました。資金繰りが安定してきたことで、ようやく「会社の未来」について考える余裕が生まれたのです。ちょうどその時期に先代社長だった父が亡くなったこともあり、「単に会社を存続させるだけでなく、どんな会社にしていくのか」という根本的な方向性を見直す必要性を強く感じました。
そこで取り組んだのが、新たな経営理念の策定です。当社の「つくるひとをつくる」という理念には、建設会社として建物をつくることだけでなく、その建物をつくる「ひと」を育て、成長させることこそが私たちの本質的な使命だという思いを込めました。「ひと」を軸に置いたのは、「建築や技術、価値・信頼などは、すべてひとがつくるもの」という考えと、入社当初に早期退職やリストラを目の当たりにした経験から「人を大事にしなければならない」という強い想いがあったからです。
しかし、新たな経営理念を発表した際、社員からは反対意見こそ出なかったものの、「はい、わかりました」というような薄い反応で…。 財務状況の改善だけでは、社員の「働く誇り」を取り戻すには不十分だと感じました。
――では、どうすれば「社員が仕事に誇りを持つ」組織に変化させられるのでしょうか?
森本:社員が仕事に誇りを持てるような組織を作るために、私は「たった一つのこと」を徹底しました。
――それは何でしょうか?
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