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2018年10月10日(水)更新

産業医

企業において労働者の健康管理・指導・助言を行う産業医は、労働安全衛生法上、事業所単位で、労働者数が一定規模以上となる場合に選任義務が生じます。一般的な医師が行う診断や治療を行わず、健康診断や面接の結果、そして就労実態から、労使に対して適切な健康管理を提案する産業医には、「健康経営の専門家」としての活躍が期待されています。

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産業医とは

産業医とは、労働者がいつまでも健康的に働き続けられるよう、医学的な観点から、健康管理のための指導や助言を行う医師のことです。その役割は、検査や診断、治療を行う病院の医師とは大きく異なります。

事業者や労働者が産業医を活用するためには、まず産業医を知ることが不可欠です。産業医制度の目的や選任義務、要件、業務内容について解説します。

産業医の選任義務

会社には、常時50人以上の労働者を使用するようになると、「産業医の選任義務」が生じます。詳細は『産業医の選任について』で後述しますが、「労働者数常時50名」の要件さえ満たせば、業種を問わずすべての事業場で産業医の選任をする必要があります。

産業医選任義務の根拠となる「労働者」には、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、有期契約労働者、派遣労働者など、雇用形態や契約期間の定めに関わらず、雇用するすべての労働者が含まれます。また、選任は「会社単位」ではなく「事業所単位」で行われるため、支社や支店ごとに要件を満たす場合には、それぞれの場所で選任します。

産業医の要件

産業医とは、労働者の健康管理に関わる必要な専門知識を有する医師を指します。具体的な要件として、厚生労働省は「医師であること」の他、下記のいずれかに該当する者であることを掲げています。

(1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
(2)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
(4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
【引用】厚生労働省:産業医について

産業医を選任する目的

産業医の役割は、労働者がいつまでもいきいきと働き続けるための健康管理をすることです。労働者数が少ないうちは、事業主が労働者と関わる中で直接健康状態を把握し、必要に応じた対応をとることができます。ところが、労働者数が50名を超えると、事業主が職場環境や労働者の状況を正しく知り、対応することが難しくなってくるものです。

産業医は、一定規模以上の事業所を構える事業主に代わり、労働者の健康管理を担う目的で選任されます。健康診断や職場巡視、面談の結果を元に労働者の健康状態を的確に把握し、医学的な観点から、労使双方に指導・助言をすることが主な仕事です。

産業医と主治医の違い

産業医は、しばしば診断や治療に従事する通常の医師と混同されがちですが、その役割や業務内容は大きく異なります。病院やクリニックで、病気やケガをした患者の検査や診断、治療をする主治医は、患者個人に対する診療が仕事です。

一方、産業医の場合、病院の主治医が行う診療は、業務内容に含まれません。業務内容の詳細は次章でご紹介しますが、あくまで企業やそこで働く労働者に対して健康管理に関わる指導・助言を行う役割にとどまります。

産業医の業務内容

産業医は、通常の医師とは異なる立ち位置から、労働者の健康の保持増進をサポートする存在です。実務においては、事業主と連携しながら、過重労働対策やメンタルヘルス対策等に努めます。

ここでは、多岐に渡る産業医の業務の中から、代表的なものをご紹介しましょう。

健康診断の実施

事業主は、労働安全衛生規則の定めに基づき、原則1年以内ごとに1回の定期健康診断の実施と事後措置を講じなければなりません。産業医は、健康診断の企画に関わる助言指導と、健康診断の実施もしくは健康診断機関の選定・連携(外部の医療機関を利用する場合)に携わります。

健康診断の結果に基づく労働者の健康を保持するための措置

産業医は、すべての労働者の健康診断結果を確認し、異常の所見が認められた者を対象に、二次健康診断の受診勧奨、または健康管理区分の決定、就業上の措置(就業制限・要休業)に係る意見の提示および結果報告を行います。

また、健康診断結果を踏まえ、事業者が遂行すべき健康配慮義務へのサポートや必要な保健指導等、予防医学の観点からの取り組みを進めていくことも、産業医の重要な務めといえます。

【参考】厚生労働省:労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置について

ストレスチェックの実施

ストレスに起因する精神障害の発症による労災認定が増加傾向であることを背景に、平成27年12月より、常時50名以上の労働者を使用する事業所に対し、ストレスチェックが義務化されました。

産業医はストレスチェックに「実施者」として携わり、計画立案から実施、事後措置までのすべてを担います。

【関連】ストレスチェック義務化の対象者、事前準備~実施・チェック後の流れまで徹底解説 / BizHint

長時間労働者、高ストレス者への面接指導

産業医は、事業場全体の健康経営に取り組むと同時に、個々の労働者に対するケアにも積極的に携わります。とりわけ、長時間労働者や高ストレスとされる者については、安全衛生法上、下記の対象者に対する面接指導の実施が定められています。

  • ストレスチェックの結果「高ストレス」と判断され、面談を希望する者
  • 月100時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者
  • 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積があり面接を申し出た者 産業医は面談によって、労働者の勤務状況や疲労蓄積の程度の把握と、その結果に基づく労使双方への指導を行います。

【参考】厚生労働省:長時間労働者への医師による面接指導制度について

【関連】ストレスチェック後の面接指導について。対象者、実施者、流れなど解説 / BizHint

労働者の休職、復職に関わる面接指導

うつ病などの精神疾患を抱える者への療養指導や就業上の配慮に関わる職務に携わり、必要に応じて休職の要否を判断する、専門医との連携を図ること等、産業医は労働者のメンタルヘルスケアにも中心となって取り組みます

休職前、休職中、そして復職時には面談の機会を設けて労働者の状況を把握し、休職と職場復帰に関わる支援を行います。

衛生委員会、安全衛生委員会への参加

常時従業員数50名以上となる事業所では、衛生委員会や、業種に応じて安全委員会を設置し、労働衛生管理の推進に必要な調査審議を行うこととされています。産業医はこの構成員の一員として会議に出席し、労働者の健康保持増進に向けた助言指導を行います。

【参考】厚生労働省:安全衛生委員会を設置しましょう

職場巡視

安全衛生規則上、産業医は、定期的に作業場等を巡視し、労働者の健康障害防止のために必要な措置を講ずることと定められています。巡視頻度については、原則「毎月1回」とされていますが、2017年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則等では、事業者から産業医に対して労働者の健康に関わる所定の情報が毎月提供され、事業主が同意した場合、「2ヵ月に1回」の巡視とすることも可能となりました。

【参考】厚生労働省:産業医制度に係る見直しについて

産業医の選任について

産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任義務が生じますが、選任数や契約形態については、労働者数や労働者に従事させる業務内容に応じて異なります。

選任産業医数

労働安全衛生規則によると、事業者は事業場の規模に応じて、以下の通り、法律に定められる人数の産業医を選任しなければなりません。

  • 労働者数 50人以上 3,000人以下の事業場 ・・・ 1名以上選任
  • 労働者数 3,001人以上の事業場 ・・・ 2名以上選任

また、使用する労働者数が常時1,000名以上の場合、もしくは下記の有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる場合には、事業所専属の産業医の選任が必要となります。

【出典】厚生労働省:産業医について

産業医の2つの形態

産業医との契約形態には、「嘱託」と「専属」の2種類があります。企業は労働者数や業務内容に応じて、嘱託と専属のいずれかの形で産業医を選任します。

嘱託産業医

労働者数が常時50名以上であり、1,000名に満たない事業場では、非常勤の嘱託産業医を選任することで法定の義務を満たすことができます。ただし、前述の指定有害業務に常時500名以上の労働者を従事させる場合には、例外的に専属産業医の選任が必要となります。

嘱託の場合、病院やクリニックなどで診療を行う開業医や勤務医が、産業医業務に携わるケースがほとんどです。また、一人の医師が複数企業の嘱託産業医を兼任する例もあります。

専属産業医

専属産業医は、組織の一員として通常の社員同様、常勤する形態となる点で、非常勤の嘱託産業医とは働き方が大きく異なります。労働者数が常時1,000名以上の場合、もしくは労働安全衛生規則に定める有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる場合には、専属産業医の選任義務が生じます。

ここでご紹介した産業医の選任数および嘱託・専属の別は、下記の表よりご確認いただけます。なお、労働者数が常時3000人を超える事業場では、専属産業医を2人以上選任する必要があります。

【出典】公益社団法人東京都医師会:産業医とは

産業医選任までの流れ

現状、産業医の選任を要しない会社でも、今後要件さえ満たせば、ただちに労働者の健康管理等を産業医に行わせる必要が生じます。本項を参考に、産業医選任までの流れや手続きについて把握しておきましょう。

目的の決定

おそらく産業医を選任する大半の会社において、産業医選任は「法律上の義務」であり、何のために産業医を選任するのか、どんな産業医を選任する必要があるかについて、社内で十分に議論されているケースは稀です。

とはいえ、わざわざ費用をかけて産業医を選任する以上、会社にとっては、問題解決に貢献してくれる産業医に協力を仰げることが理想といえます。そのためにも、まずは産業医を選任する「目的」を明らかにしておくことが不可欠です。例えば、「メンタル不調を訴える労働者が増えている」「長時間労働による健康被害が懸念される」等、社内の課題が抽出されれば、会社はより主体的に産業医選びに乗り出すことができるでしょう。

最近では「健康経営」のキーワードを耳にすることが増えましたが、企業のニーズにあった産業医との出会いが、健康経営の実現に向けた第一歩となります。

【関連】健康経営とは?健康経営優良法人と健康経営銘柄、導入事例もご紹介/BizHint

目的にあった産業医を探す

会社が産業医の求めることが定まったら、さっそくその分野で力を発揮してくれる産業医を探します。産業医が一般企業に貢献できる分野としては、労働者の健康管理の中でも特に「過重労働対策」「メンタルヘルス対策」がメインです。

ただし、これらの他にも、特定の業種に特化した安全衛生管理体制や、労働者の生活習慣病予防、IT化に対応した健康管理システムの構築など、独自の強みを持つ産業医もいます。また、女性労働者の多い事業場では、産業医は女性の方が、労働者が相談しやすいケースもあるでしょう。いずれにせよ、目的にあった産業医を根気強く探すことが、産業医選び成功の秘訣です。

産業医選びの方法には、主に下記の4つが挙げられます。

  • 地域の医師会に相談
  • 医師人材紹介会社からの紹介
  • 健康診断を実施している健診機関からの紹介
  • 業務請負型の安全衛生請負会社を利用

紹介を受けた産業医とは、実際に会って話をすることが重要です。

産業医は、今後、会社のパートナーとして同じ方向に向かって問題解決に取り組んでいく大切な存在となります。十分にコミュニケーションを取れる相手かどうか、会社のためにしっかり対応してくれそうかどうかを、直接対面することで事前に見極めましょう。

くれぐれも、業者任せの産業医選びは厳禁です。

契約を結ぶ

産業医との契約方法は、紹介機関の定めによります。医師との直接契約の他、人材紹介会社や請負会社との契約となる場合もあります。どのような契約方法となるにせよ、契約時に交わす契約書には、必ず具体的な業務内容を明記しましょう。曖昧な契約は、後々のトラブルの元凶となります。

産業医を変更したい場合は

産業医は一度選任しても、その後に随時変更できます。会社や労働者からの相談に親身になって対応してくれない、契約書にある業務を遂行してくれない等の問題が生じ、変更の必要が生じた際には、まず紹介機関に相談しましょう。同時に代替の産業医探しを進め、適任者が見つかり次第、もしくは契約期間満了後に、変更の手続きをとります。

変更時には紹介機関を通すとスムーズですが、医師と直接契約をした場合や医師と経営陣が古くから親交がある場合には、事業主が主体となって手続きを進めることになります。その際にはトラブル回避のために、慎重に事を進める必要があります。

産業医選任の届け出

産業医を選任したら、産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に、労働基準監督署あてに「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」を提出しましょう。産業医を変更した際にも、同様式に必要な情報を記載して届け出ます。

【参考】厚生労働省:総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告

産業医の報酬の相場とは

産業医の報酬は、嘱託と専属の別によって、考え方や相場が異なります。嘱託と専属それぞれの場合について、報酬の相場をみていきましょう。

嘱託産業医の場合

委託契約の場合、月1~数回、1回1~2時間程度の訪問が一般的です。金額は業務内容や企業規模によっても変わり、通常、健診や予防接種、ストレスチェックの実施費用は含まれません。産業医の報酬は、月1回で5万円程度が相場です。人材派遣会社を通す場合は、20~30%の手数料が加算され、業務請負会社を利用する場合は月1回2時間程度の訪問で8万円程度かかります。精神科医の面談は費用が加算され、1回5万円程度から半日で15万円程度とさまざまです。

専属産業医の場合

最低でも週3~4日、1日3時間以上勤務します。報酬は、勤務時間や経験などによって異なりますが、医師経験5年以上の産業医が週4日勤務した場合、800~1,000万円程度が相場のようです。外資系企業で英語のスキルが必要な場合はさらに高くなります。

まとめ

  • 産業医とは、労働者の健康管理に関わる専門知識を有し、必要な業務を担う医師を指します。
  • 産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに選任義務が生じますが、労働者数や業務内容に応じて、選任数や嘱託・専属の別が異なります。
  • 労働者の健康管理のために、健康診断やストレスチェックの実施と事後措置、職場巡視、衛生委員会等への出席、労働者との面談指導、事業主への助言指導が、産業医が従事すべき主な業務内容です。
  • 産業医選びのポイントは、「事前に、会社が産業医選任の目的を明確にしておくこと」にあります。目的にあった産業医を選任することが、企業の健康経営実現に向けた第一歩です。

<執筆者>
丸山博美 社会保険労務士(HM人事労務コンサルティング代表)

津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。一般企業(教育系)勤務時代、職場の労働環境、待遇に疑問を持ち、社会保険労務士を志す。2014年1月に社労士事務所「HM人事労務コンサルティング」を設立 。起業したての小さな会社サポートを得意とする。社労士業の傍ら、cotoba-design(屋号)名義でフリーライターとしても活動中。


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