連載:第47回 成長企業 社長が考えていること
「社員が離れてしまった理由は自分にある」と目が覚めた経営者。組織崩壊から創業以来最大のピンチを乗り越えるまで
豊洲市場を拠点に、発泡スチロール容器や段ボール箱など包装資材の販売を手掛ける東京魚類容器株式会社。今でこそ、清潔で明るい職場ですが、代表取締役の原 周作さんが入社し社長に就任した当時は、背任や価格競争、業界全体の斜陽化など数々の課題を抱えていました。そんな状況からどのようにコロナ禍でも売り上げを伸ばし、若手が活躍できる職場環境を作ったのか?お話を伺いました。
東京魚類容器株式会社
代表取締役 原 周作(はら しゅうさく)さん
1978年生まれ。神奈川県川崎市出身。東京工業大学を卒業後、同大学院修了。大手損害保険会社での勤務を経て、28歳の時に祖父が創業した東京魚類容器に入社。2代目の伯父、3代目の父に続く4代目として、2012年に代表取締役社長就任。ドライアイス、食品トレー、包装資材会社から事業継承をし、事業規模を拡大。豊洲市場移転、コロナ禍という激動の情勢の中で過去最高の売上を更新するなど業績を上げた。
会社は自分の鏡。自分の心の実態が生み出していた最悪な社内状況
――大手損害保険会社を退職して家業へ入られたそうですが、大企業を経験した原さんの目に、当時の経営状態はどのように映っていたのでしょうか?
原 周作さん(以下、原): 私が入社した当時は、社員数12名で平均年齢が60歳を超え、2期連続の赤字という厳しい状況でした。私は入社後、何とか業績を回復させようと無我夢中で働きました。
しかし、私の入社時から試練はずっと続いたのです。
――どのような試練が待ち受けていたのでしょうか?
原: 社員による背任行為が立て続けに発覚したのです。お互いへの思いやりや協調性もない。仕事ができればすべて許されるといった良くない意味での職人気質の方が多かった。今では考えられないことですが、仕事前の飲酒や職場での喫煙も当たり前でした。
社内がそういう状況のため、私自身も社員や周囲に対して壁をつくっていたのでしょう。コミュニケーションがうまく図れず、ベテランは次々に辞め、気づけば古参社員は誰もいなくなっていました。
私が入社して6年間の間に何人もの社員が退職していきました。当時は10人ほどの会社でしたので、社員のほとんどが入れ替わるような事態です。それほど、社内はめちゃくちゃでした。
業績は上がるものの、社員が定着しない。社員が定着しないから売上も頭打ちになっている。そして、私一人の頑張りが空回りしている状態でした。
――そこから状況を打破するためにどんなことをされたのですか?
原: 私も社員も苦しんでいる。これは間違っているのではないか。経営者として悶々とした気持ちを抱きながら答えを模索する日々が続きました。
そういう時期に、幸いなことに経営者同士の良いご縁に恵まれ、2014年から東京中小企業家同友会のセミナーをはじめ、毎月1度行われる築地本願寺の説法、『論語』の勉強会などいろいろな会で学びはじめました。とくに『論語』からは学ぶことが多く、『論語』の勉強会は現在も続けています。
そこで、社員が辞めていくことの背景にある自分の未熟さを突き付けられたのです。会社は自分の鏡。社内の不穏な空気は、自分の心の実態が現れていたのだと思い知らされました。
――「自分の心の実態」とはどのような状況でしょうか?
原: まず、気がつかないうちに周りに舐められないように気を張っていました。弱みを見せないように対立してしまうこともあったと思います。
自分が一番長い時間働いている。自分が一番仕事ができる。自分のおかげで業績が伸びている。そうやって、社員に張り合うことしかできませんでした。それから、業績を上げるための方法ばかりに手をつけ、社員のこと、会社のありかたを考えてこなかった。
『論語』には「其れ恕(じょ)か。己れの欲せざるところ、人に施すことなかれ」という章句があります。自分が人からされたくないことは、人にもしてはならない。思いやりが大事である、という意味です。
その時初めて、私の経営は決して「徳」のあるものではないと気がついたのです。
「人」を重視した経営理念を作るも、社員との溝は深まる一方だった。
――気づきを得た中で、当初はどのようなことを実践していったのですか?
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