連載:第62回 成長企業 社長が考えていること
「自分は優秀ではない」と気づけた金言。23期連続増収のリーダーが震えた“当たり前”の凄み


創業60年を迎えた理美容業「オオクシ」は現在、千葉を中心に直営店59店舗を経営しています。再来店率は驚異の87%、23期連続増収という実績や、「稲盛経営者賞」「日本経営品質賞」といった多様なビジネス賞の受賞などで注目される企業です。しかし、大串哲史社長の経営道はターニングポイントの連続でした。父から店を継いでから知った負債、社員の相次ぐ退職、ある経営者からのひとこと――。数々の岐路を、どのように受け止め、どのような選択をしたことで、優良企業への道を歩み始めたのでしょうか。その道のりを大串さんにうかがいます。

株式会社オオクシ
代表取締役社長 大串 哲史さん
1968年、千葉県稲毛市の理容室に三人兄弟の次男として生まれる。他社の理容室に勤務後、23歳で実家に戻り、98年に29歳で店を継ぐ。理美容業の先駆けとしてPOSレジを導入すると一躍、注目の的に。2018年「日本サービス大賞」 優秀賞、2020年「日本経営品質賞」中小企業部門ほか受賞多数。現在は「カットオンリークラブ」をはじめ、6タイプの理美容室59店舗を直営する。23期連続増収、再来店率87%。創業60年。
数々の出会いや試練が、23期増収の優良企業を作り上げた
――大串さんは29歳のときに家業の理容室を継がれていますが、大変な状況だったそうですね。
大串哲史さん(以下、大串): はい。会社を継いだあとに、先代である父からの借り入れがあることが分かり、それについては正直、不満でした。
そんな私の気持ちを大きく変えたきっかけがあります。当時、京セラ創業者である稲盛和夫さんが塾長を務める盛和塾に通っていたのですが、ある塾生が稲盛さんに質問する場面に遭遇したんです。
「義父の会社を継いだら使途不明金が2千万円もあって納得できません。出るところに出て取り返したいと思うのですが」と。私は、「そりゃそうだよなあ」と思って聞いていたんですが、稲盛さんは何て言ったと思います?
「たかが2千万円くらい君が払え!」と、一喝したんですよ。あのひとことはショックでしたし、同時に感動もしました。
稲盛さんは、 誰かが人生をかけてやってきたものの中には、当然、負の遺産だって混じっているんだと。「おいしいところだけください」なんて、お前の心はどれほど濁っているのか、 と説かれていたわけです。私は、自分に言われていると思った。あの場にいたほかの後継者たちも、同じように思ったはずです。まさに、目が覚めるような出来事でした。
――その後、1店舗目を軌道に乗せ、2店、3店と出店されていますね。
大串: はい。しかし、これが苦戦しました。出店と同時に離職者が増える事態に陥ったんです。店をつくっても、スタッフがいなければ営業できません。どうにも困りまして、無記名アンケートで本音を聞き出すことにしました。きっと、私への不満や、給料の低さや忙しさなど、文句ばかりだろうと覚悟していたんですが――、予想もしないことが書かれていました。
「いい仲間と仲良く働きたい」、「お客さまに喜ばれたい」、「成長を実感したい」。みんなの意見を集約すると、だいたいこの3つだったのです。それまで私は、 技術や規模にばかり目が行っていましたが、方向を間違えていた のだと。会社の在り方を根底から変えるような、非常に大きなターニングポイントになりました。
――気づきを得て、どのように軌道修正されましたか。
大串: いろいろなことをしましたが、例えば、当時、業界の常識であった指名制やノルマを採用しませんでした。また、お客さまアンケートでお褒めの言葉をいただいたら本人にコピーを渡し、全社でも共有しました。
それから、会社の成長のため、経営に関する賞にもどんどん応募しました。私自身は経営を学んでこなかったので、専門家が審査してくれる賞への応募は、絶好の学びの機会になるんです。審査員を引き止めて、数時間アドバイスをいただいたこともあります。
同時に、成功している経営者に次々と会いに行って、成功哲学を学びました。
その中でも特に、忘れられない経営者の方がいます。その方に会いに行った際、私の話を終始にこにこと聞いてくれたこともあり、ついうまくいっていないことや不平不満をもらしてしまったんです。すると、最後にこう言われました。
「大串君ね、ひとこと言っていいかな」
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成長企業 社長が考えていること
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