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連載:第2回 経営・SaaSイベントレポート2022

Hondaはなぜ「伝統的な価値観」によって前進できるのか?人事が自問自答するものとは

BizHint 編集部 2022年3月1日(火)掲載
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Hondaが発表した「2040年までに全自動車をEVとFCVにする」という中期計画。この目標には「社内の意識改革」への強い想いがありました。一方で、そこへ向かう取り組みの裏には、同社の伝統的な価値観「Hondaフィロソフィー」が息づいています。組織に流れる伝統的な価値観を時代に合わせていかに活用するか? 本田技研工業株式会社 人事部長の大野 慎一さんに聞きました。

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本田技研工業株式会社
人事・コーポレートガバナンス本部
人事部長 大野慎一さん

1998年京セラ入社。2003年に本田技研工業株式会社へ入社後、労政企画やカナダ駐在に従事。その後人事部で企画や人材開発部門の課長を歴任し、2021年から現職に就任。


就任直後に社長が発した危機感と期待。「Hondaフィロソフィー」を体現できる場を増やす

Hondaには「Hondaフィロソフィー」という判断や行動の基準があります。これは、二人の創業者が残した企業理念であり、時代が変わっても大切にしていくものです。

Hondaフィロソフィーの代表的なものを、個人と組織に分けてご紹介します。

まず個人においては「いかに社員一人ひとりの力を発揮させるか」 ということに重きを置いています。「得手に帆をあげて」「自分のために働け」「よく働き、よく遊べ」などのフレーズにその姿勢が表れています。

組織においては、ブレない指針となる「A00」があります。Hondaは仕事を通して本当に実現したい世界をとことん追求する一方、「三現主義(現場・現物・現実)」も掲げていて、理想だけでなく現実も問われます。そして、これまで数々のイノベーションを生み出してきた「ワイガヤ」という本気で本音をぶつけあう文化があり、徹底的に議論を行うことを大切にしています。

コロナをきっかけに、Hondaでは「どのような未来になっても社会の期待に応える企業として価値を提供し続けられるのか」という危機感が高まっていました。未来に向けた変革の口火となったのは、昨春社長に就任した三部から発表された「2040年までに世界で販売する全ての自動車を、EV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)にする」 という中期計画です。

電動化にまつわる中期計画と数値目標の発表について、三部は「急激な変化に追従できていない一部の従業員を含め、社内への意識改革の意味合いが強かった」と強い危機感を打ち明けています。

一方で、この発表は会社から社員に対する期待の裏返しでもあります。三部は様々な場で「Hondaは技術がすごいのではなく、技術を作ってきた人がすごいんだ」と発信をしており、社員に改めて「Hondaの人の強さ」を認識してほしいと言っています。

コロナを含め時代の変化を考慮すると、既存事業だけに頼らず新規事業へと踏み込む必要性も高まっています。求められる人や組織の要素をあげると「効率」「新たな価値の創出」「新たなやり方を生み出す」「アジャイル」「若手や社外も含め他者から学ぶ」などが考えられます。これらは言い換えれば、Hondaフィロソフィーそのものであり、Hondaの勝ち筋であると考えています。

従業員からも「失敗を恐れずにチャレンジしたい」「職位や年齢に囚われず物事の真髄を本気で語り合う場が欲しい」という声が高まっている一方で、まだまだHondaフィロソフィーを体現できる場や経験が不足している現状がありました。

そこで中期目標の実現と未来創造に向けた変革のために、社を挙げてHondaフィロソフィーという企業文化・企業風土をいま一度掘り起こす取り組みをはじめています。

「とことんやり切る」Hondaらしさと、ワイガヤの活用で組織変革を展開

具体的には、創立73年となる現在から創業100年に向けた「創75プロジェクト」という施策や新事業創出プログラムなど、5つの分野での取り組みをスタートしています。

そのなかで人事では、主に採用と組織支援において企業風土や文化を醸成する取り組みを進めています。

採用の取り組みとしては大きく2つ。1つは2020年8月から展開している採用オウンドメディアで、働く社員のリアルな想いを社内外に発信しています。これは採用だけでなく、社員一人ひとりの心に変革の火を灯すようなメッセージでもあります。2つ目は採用要件の見直しです。これまでは「地頭の良さ」といった一般的なものだったのを、Hondaらしさを前面に押し出すためにHondaフィロソフィーをベースにしたものにアップデートしました。

また、表面的な施策ではだめだと考え、組織支援の取り組みではマネジメント側が社員に寄り添って行動していけるように見直しを図っています。例えばHondaが大事にしてきたワイガヤの文化を今風にアレンジした仕掛けを通して、マネジメント層との対話のなかでメンバーにHondaフィロソフィーを自分事化してもらう取り組みを進めています。ワイガヤは他にも、社内研修や部門内の事業推進シーズ・テーマのブラッシュアップといった場面で活用しています。

これまで大切に紡いできたHondaの価値観や考え方が、これらの取り組みを通じて一人ひとりに浸透すれば、組織変革の流れが変わり、Hondaフィロソフィーをより体現できる組織に生まれ変わることができると考えています。

選ばれる会社であり続けるために。人事は自問自答し、改善を続けるしかない

昨今では、キャリア形成を会社に依存せずに自分で考えて主体的に取り組む「キャリア自律」 が浸透しています。社会的な流れである一方、企業としては選ばれる会社でなくてはいけない、という危機感も強まっています。

キャリア自律に欠かせない要素は、「自分は成長している」「成長し合える仲間がいる」「Honda で○○を得た」といった、社員自身の実感や体感です。

それには人事が自問自答を繰り返す必要があります。例えば、本人が「この仕事はとことんやり切った」と言えるのか。マネジメントとメンバー間でワイガヤによる本質的なやり取りができているのか。人事としてそうした実感が得られる経験を提供できているのか。

こうした問いを繰り返しながら改善しつつ、社員の心に刺さってキャリア自律を促すような取り組みを地道に進めていけたなら、エンゲージメントは自ずと高まると思います。

キャリア自律を促す取り組みは個人に止まりません。ここ10年程、縦割りによる弊害を防ぐための組織変更にかなり取り組んできました。例えば、生産・購買・研究開発の各領域に壁があるなら、それを取り払ために組織を一括りにするといった変更です。組織の垣根がなくなった直後は混乱もありますが、そこからはじめて生まれるものもあります。

また、何百人もの部長全員をオンライン上に集め、三部から直接語りかける機会を設けるなど、トップダウンで組織の壁をつくらせない工夫もしています。さらに、これをきっかけに知り合って同じ課題感を持つ人たちで共創していくことも起こりえると思っています。

そういった意味では、先ほどの採用オウンドメディアも社内の人を繋げる役割があります。今後は人の繋がりを社内から社外へと広げて、知的コンバットの機会を増やしていくことも、より大事になるでしょう。

期待に応える企業であり続けるには、ありたい姿を思い描き、起こりえることを自分で考え、今できることを行動することに尽きると思います。まず人事から始めれば、それは波紋のようにHondaの未来、さらに社会の未来へと繋がっていくでしょう。未来は、描いたもん勝ち・やったもん勝ちです。リスクは負いますが、不確実な時代にはやったリスクよりやらないリスクを考えなくてはいけないと思います。

Hondaは創立73年ですが、歴史や経験がものを言う時代ではありません。過去の遺産でなく未来に向けて今はじめることにフォーカスする。それこそが、HondaのHondaたる所以です。

※本記事は、2021年12月10日に開催された株式会社リンクアンドモチベーション主催のオンラインセミナー「THE MEANING OF WORK~組織と個人の“働く意味”を再定義する~」の内容をもとに再構成しました。

(文:川畑文子 編集:半田早菜栄)

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