連載:第8回 経営・SaaSイベントレポート2020
困難を乗り越える「企業文化」はこうつくる。人事制度の変革の先に求められるマネジメント
コロナ禍で景気の先行きが見えず、多くの企業が事業の方向転換を余儀なくされました。新たに、ジョブ型雇用といった制度導入は検討されているものの、組織の空気感や人材開発のようなソフト面は変わらず、現場のメンバーの疲労は増すばかりです。そこで、人と組織の変革に30年近く関わってきた平澤公康さん、人材データの活用で経営陣と現場をつなぐ鈴村賢治さんが、リーダーとメンバーが手を取り合い、組織崩壊の危機を乗り越えていく方法について語りました。聞き手を務めるのは、株式会社ビジネスコンサルタントの瀬戸貴士さんです。
立命館大学経営学部卒業後、1989年に株式会社ビジネスコンサルタント入社。2014年に子会社である株式会社ビーコンラーニングサービス 代表取締役社長を経て現職。企業として年間3,000社のお客様の組織開発・人材開発を支援。
中央大学理工学部卒業後、野村総合研究所を経て、2007年に同社入社。タレントマネジメントシステム「タレントパレット」を企画。データを活用した科学的人事を推進。
1996年に株式会社ビジネスコンサルタント入社、営業からコンサルタント部門に移籍。マネジャー、GMを経て、2020年より執行役員。人事制度改革、アセスメント(昇格・サクセッション等)を通して人材マーケティング、タレントマネジメントのコンサルティングを推進。
コロナ禍で今までのやり方が通用せず、組織課題が浮き彫りに
新型コロナウイルス感染拡大後、基本的な働き方のなかに、テレワークを組み込んだ企業もあります。現場では今、どのような問題が生じていますか。
経営環境が刻々と変化して、従来の方法では通用しない時代になり、企業存続の前には多くの壁が立ちはだかっています。
【断絶の時代にある組織課題の代表例】
- 生産年齢人口減少 :限られた従業員で事業を存続させる
- 働き方改革・テレワーク :非対面でも信頼し合えるコミュニケーションをとる
- オフィス革命 :オフィスに依存しない新しい働き方を決める
- DX(デジタルトランスフォーメーション) :テクノロジーを活用する
- SDGs(ESG) :自社の利益と社会・地球環境の持続可能性をセットで考える
数年前から「デジタル化」「DX」のキーワードのもとで変化する企業はありましたが、コロナ禍は確実に、多くの企業で組織改革が加速するきっかけになっていますよね。
そうですね。たとえば最近、人に仕事を割りあてる「メンバーシップ型雇用」から、仕事の条件に合う人を配置する「ジョブ型雇用」へと切り替える動きがあります。
テレワークが普及し、対面で仕事をする機会が失われて、成果が見えにくいメンバーが増えたからです。
ジョブ型には、職務が明確に定められて、成果が評価しやすいメリットがある一方で、大事なプロセスが埋もれてしまうデメリットも。対面のコミュニケーションが減り、人と人とのつながりが分からない状況だと、成果だけを見て評価を下す危険性がいっそう高まります。
適切な評価がされず、コミュニケーションによって解決できない事態が長引けば、社員が会社に不信感を抱き、従業員エンゲージメントが下がる事態が起こり得ます。結果、離職率の増加や組織崩壊を招く場合もあります。
コロナ禍では人事戦略の見直しが急務ですよね。
ジョブ型雇用など、組織のハード面にあたる仕組みを大きく変えるのに合わせて、組織のソフト面にも、あらためて注目しなければいけない。今後、社員の仕事のプロセスやスキルの見える化は、これまで以上に必要になると思います。
当社で開発している「タレントパレット」の導入調査でも、コロナ禍の変化として、「社員のモチベーションを把握しづらくなったから、リアルタイムで把握したい」「コミュニケーションが減ったから、社員のエンゲージメントを高める施策を行いたい」という声があがっていますね。
人間関係に焦点を当てなければ、組織課題は乗り越えられない
組織課題を乗り越えるためには、どういった心構えで臨めば良いでしょうか。
経営陣には断絶の時代に、収益を上げ続けるために、今までの事業を進化させながら、新規事業を創る「両利きの経営」が求められています。両利きの経営の実現には、次の2つの思考が欠かせません。
【両利きの経営の実現を支える2つの思考】
- フォアキャスティング(Forecasting)思考 :今のやり方を大きく変えずに積み上げて、将来の目標に近づくように進めていく
- バックキャスティング(Backcasting)思考 :将来のあるべき姿から現状に立ち戻り、目標へ向けてやるべきことを描く
目標に対して、今までのやり方を変えずに進めるだけでは、組織課題は解決しません。将来組織があるべき姿から、とるべき行動を逆算してアプローチすれば、解決に近づくことができるのです。
2つの思考を手がかりに、経営陣と従業員がみんなで同じ方向へ向かっていくには「組織開発」が重要です。すなわち、組織やチームを創り上げる活動によって、一緒に働く仲間の強みを最大限に引き出し、弱みを打ち消すんです。
たとえば、優秀な社員を3名集めたとしても、強みが相殺されて「1+1+1=3」の効果が出ないこともあります。それを「1+1+1=3以上」の仕事ぶりに変えていく働きかけが、組織開発です。
実際は以下のような観点から、組織開発を進めることがポイントです。
【組織開発を進める4つのポイント】
- 計画的、体系的に取り組む :一時的な研修・モチベーションを高める施策をやるだけではダメ
- システム思考で俯瞰的に問題解決をする :解決すべき問題をあらゆる角度から見て、根本の解決を目指す
- 行動科学にもとづく :個人・集団の力を引き出す理論と、組織を活性化する理論を組み合わせて展開する
- プロセスに焦点を当てる :課題を進めていくうえで、組織のなかの人間的側面に着目して信頼関係をつくる
組織開発にあたって特に重要なポイントが、組織課題を遂行する過程で、人間関係やその有り様に焦点を当てることです。
たとえば、営業拠点のリーダーが変わっただけで、組織全体の営業成績が良くなったり悪くなったりすることがあります。
メンバーと円滑にコミュニケーションをとり、現場の声を吸い上げる関係性をつくっているリーダーは、業績を上げ、組織の雰囲気を変える組織開発ができる人です。
しかし、なかなかそうはいきません。結果しか見ず、過程を一切評価しないリーダーだと、メンバーは頑張ったことをアピールできないので、信頼関係が崩れていきます。すると、組織の業績も雰囲気もどんどん悪くなっていくんですね。
人材開発のリデザインで、個人と組織の力を高める
リーダーはメンバーとどう関われば、組織の空気を変えられるのでしょうか。
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