連載:第10回 コロナ危機と闘う
ハンコ出社、ストップ指令!LINE激動の2週間。担当者の意地と教訓
新型コロナウイルスについて、長期にわたる対応が求められるなか「紙の契約書への押印をやめて、電子契約を導入したい」と検討する企業が増えています。LINE株式会社もそのひとつです。2020年5月に、テレワーク下で電子契約を全社導入。月1,000通を超える契約書を対象に、原則オンライン上で締結可能な体制を作り上げました。自社の抱える課題や想定されるリスクを乗り越えた先にある、電子契約の導入のメリットとは何か。同社法務室の山本雅道さんと良知誠也さんに聞きました。
ニューヨーク州弁護士・法学博士。米系弁護士事務所、官庁、外資系インハウス等を経て、2018年にLINEに入社。
ゲーム、IT、音楽業界等を経て、2017年7月にLINEに入社。
手作業で月1,000通の契約書を処理、当たり前を変えて「脱ハンコ」へ
電子契約を導入した背景には、契約締結や管理業務を一刻も早く効率化したいという思いがありました。LINEグループ全体では、月に1,000通・日に50通を超える膨大な契約書を印刷・製本し、押印のうえ郵送していたからです。
もともと契約フロー上、社内での稟議申請や書類の電子化については、ITツールを導入済みでした。しかし、紙の契約書に押印し郵送する作業と、締結された契約書をスキャンして保存する作業だけは、アナログのままでした。手作業でやるのが当たり前になっていて、デジタル化する発想があまりなかったんですね。
(図:インタビュー内容をもとにBizHint編集部が作成)
ところが、世の中で脱ハンコの動きが広がるとともに「電子契約システムを導入して、業務効率を上げられないか」「前職で電子契約システムを使っていて便利だったので、当社でも導入できないか」という声が、経営陣からも現場からも出始めました。
そこで、手作業で行っていた煩雑な工程を、Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」に置き換えることに決めました。
クラウドサインを選んだ理由としては、経営母体が弁護士ドットコム株式会社で信頼性が高く、法的なサポートが得られそうな期待があったこと、国内の電子契約システムのなかで大きなシェアを占めていることも大きかったです。
当社は多くのサービスで、個人情報を含むデータを取り扱っていて、セキュリティ面に非常に気をつけています。社内のセキュリティ部門に、情報盗用・改ざん・攻撃によるシステムダウンなどの脆弱性、サービス提供終了時のアフターケアなどの点から、電子契約システムを厳しくチェックしてもらい、無事承認が得られたことも決め手のひとつでした。
(図:インタビュー内容をもとにBizHint編集部が作成)
電子契約の導入で、押印担当者も在宅勤務が可能に
電子契約の導入を進めた理由は、導入するリスクより導入しないリスクのほうが大きかったからです。
導入するリスクとしては、たとえばコスト面がありますよね。当社でも導入前に、紙の契約書を電子契約へ置き換えるシミュレーションをしてみると、全体の1割にあたる契約で電子契約を活用できれば、導入に際して増加するコストと削減できるコストがほぼ同等になると分かりました。
ただ「書面によらなければならない」と法律で定められていたり、当社の基準があったりして、すべての契約のうち少なくとも5%程度は、今後も紙のままで残ると考えています。全体として見れば、社内外の取引で電子契約の利用率が上がるにつれて、コストを削減でき、プラスの効果のほうが大きいと判断しました。
【電子契約システムの導入により増加・削減するコスト】
- 増加するコスト:電子契約の導入・管理に関するコスト(電子契約システムの基本使用料、契約書類数に応じてかかる従量課金額、オプション費用など)
- 削減できるコスト:紙の契約でかかっていた管理に関するコスト(印紙税、郵送料など)
一方、導入しないリスクとして、これまでは、営業部門の契約担当者や法務室の押印担当者が、紙の契約書に押印・郵送するために、出社を余儀なくされていました。けれども、コロナ禍でこの先の社会状況の変化が読めないなか、社員を出社させ続けていて良いのかという問題があります。
電子契約の導入後は、担当者が週5回出社せねばならなかったのが、基本的には週1〜2回で済むようになりました。
業務効率化の面では、紙の契約書だと郵送する手間があり、1件処理するのに早くても2~3日かかっていたところ、電子契約だとメールで対応ができますので、場合によっては数十分で締結が完了することもあります。従業員からは「紙の契約書をやりとりする回数が減った」と喜ぶ声もあがっています。
現在は、当社も取引先も在宅勤務の体制になっており、物理的に契約書に押印・返送できないケースが多々あります。もし契約を取り交わせなければ、事業がストップしてしまうリスクもありますが、電子契約であれば自宅からでも承認可能で、機会損失を防げる点も安心です。
電子契約システムの場合、本人ではなくベンダーが電子署名(紙の契約手続きでいう「印鑑」)とともに認定タイムスタンプを付与し「誰が」「どんな内容を」「いつ」契約したかが証明されるので、締結後の内容の改ざん、災害による紛失のおそれが無くなり、BCP(事業継続計画)の観点からも安心ですよね。
(図:弁護士ドットコム株式会社(クラウドサイン)提供)
コロナ禍で、全社への展開時期が想定より前倒しに
この記事についてコメント({{ getTotalCommentCount() }})
{{selectedUser.name}}
{{selectedUser.company_name}} {{selectedUser.position_name}}
{{selectedUser.comment}}
{{selectedUser.introduction}}