中小企業も海外進出の時代へ。理由と課題、失敗原因や成功事例までご紹介
人口・国内需要が減少していく中で、日本企業の多くが新たな市場開拓を目指して、海外進出を果たしています。大企業だけでなく、製造業が多い中小企業も海外進出を目指さなければ、今後の厳しい競争を勝ち抜いていけない時代となりました。今回は中小企業が海外進出するべき理由や課題、失敗原因から成功事例までご紹介します。
中小企業が海外進出するべき理由
中小企業が海外進出するべき理由には、主に以下が挙げられます。
- 内需縮小による売上・利益の減少
- 安価で高い技術力を持つ外資系企業の日本進出
- アジア市場の拡大
- インターネット・IT技術やインフラ機能の向上
- 人件費・原材料費の抑制
- 外資優遇制度による節税効果
人口・労働生産人口の減少が著しい日本では、内需縮小に加え、安価で高い技術力を強みとした外資系企業の日本進出により、中小企業の多くが厳しい経営環境に直面しています。一方で、経済発展が著しいアジアは魅力的なマーケットでもあり、高い技術力を持つ中小企業の海外進出のチャンスが訪れています。
インターネット・IT技術やインフラ機能の向上により、現地の販売先や提携先とのやりとりも容易となり、従来よりも海外進出がしやすくなったことも中小企業にとっては有利な動きとなっています。
また、国内よりも人件費や原材料費を抑えられ、新興国が導入している外資優遇制度による節税効果も期待できます。
中小企業が海外進出するための課題
【出典】中小企業白書2014/第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
上記の表からも読み取れるように、中小企業が海外進出をするための課題として「販売先の確保」、「必要資金の確保」、「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」、「進出先の市場動向・ニーズの把握」を挙げる経営者が多いことがわかりました。これらの課題をいかに解決できるかが、海外進出を成功させる鍵です。
販売先の確保
中国や東南アジアといった新興国では、人口増加や先進国の海外資本受け入れによって、大きな経済発展を遂げています。そのため、製造業を生業とする日本企業の多くが海外進出を目指す動きが加速しています。
一方で、日本以外の先進国も海外進出を積極的に行っており、「自社が提供する製品・サービスの販売先をいかに確保するか」が大きな課題となっています。国内市場とは異なり、「全世界の企業との競争激化」や「取引先からの値下げ要請」といったリスクも考えられるため、優良な販売先の確保は難しい課題といえます。
必要資金の確保
財務基盤が小さい中小企業にとって、海外進出するための必要資金の確保は重要な課題です。海外での事業展開に必要な「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」も多大な時間と資金が必要です。
海外進出が国内事業の低迷への活路として選択する企業も多く、足元の業績が不安定だと、人件費やコスト削減だけで必要資金を確保することが難しいといえます。また、進出後、環境の変化による売上低迷や為替リスクに対するリスクマネジメントとして、ある程度の余剰資金も必要です。
日本政府の公的支援金や銀行融資、またはベンチャーキャピタルによる出資を通して、必要資金を確保する努力をしなければいけません。
進出先の市場動向・ニーズの把握
進出先の市場動向・ニーズの把握も大きな課題のひとつです。文化や生活習慣、制度の違いにより、国内でヒットした製品・サービスが進出先でも成功するとは限りません。そのため、進出先の市場動向やニーズに合致したローカライゼーション戦略が必要です。
自社の製品・サービスをそのまま輸出するのではなく、自社の強みを活かして、いかに進出先の市場やニーズに応えるかが重要となります。そのためにも海外進出の前には、綿密な事業計画とともに進出先の市場動向・ニーズの調査を行わなければいけません。
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失敗要因から考える、中小企業が海外進出を成功させるポイント
中小企業が海外進出を成功させるためには、過去の失敗原因を学び、事前準備を万全にしなければいけません。
今回は中小企業庁が発表した「第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―」を基に、失敗原因と海外進出を成功させるためのポイントをご紹介します。
中小企業が海外進出で失敗してしまう原因
中小企業が海外進出で失敗してしまう主な原因には「環境の変化による販売不振」、「海外展開を担うグローバル人材の不足」、「カントリーリスクによる問題」などが挙げられます。
中でも「環境の変化による販売不振」を失敗原因とする割合が3割以上を占めています。この失敗原因には、グローバル化による競争激化、進出先の経済危機・政治的な混乱が影響しており、想定した売上を達成できなかったためと考えられます。
その他に「現地の人件費高騰」、「現地従業員の確保・育成・管理の困難」、「経済情勢の悪化」が海外進出の失敗原因として挙げられています。
【出典】中小企業白書2014/ 第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―
それでは、これらの失敗要因から見えてくる成功のためのポイントを解説していきます。
経営計画の策定と、リスクの把握と対策案の検討
海外進出を成功させるためには、海外市場において、自社がどういう目的を持ち、事業を拡大させていくかの認識が重要となります。海外進出には、明確な目的と綿密な経営計画が必要であり、海外進出に対する積極的な姿勢が、重要課題である「販売先の確保」への投資にもつながっていきます。
海外進出に向けた具体的な検討・準備を進めるには、輸出のリスクや失敗事例の確認が効果的です。海外進出における課題やリスク事例は中小企業庁が発表している「海外展開に取り組む企業の課題・リスク事例を紹介します」で確認できるので、ぜひ活用しましょう。
【参考】中小企業庁/第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る
グローバル人材の確保・育成
海外進出の失敗原因に、自社に海外進出を担うグローバル人材の不足が挙げられています。「販売先の確保」や「現地の市場動向・ニーズの把握」はグローバル人材が不可欠です。そのため、自社の強み(商品企画力や技術力)が活かせる市場動向・ニーズの把握を目的とした、進出地域の調査・分析を行えるグローバル人材の確保・育成が行える環境作りを行わなければいけません。
しかし、中小企業は深刻な人手不足や資金調達不足のため、グローバル人材育成の環境構築は容易ではありません。その場合、海外進出に関わる既存の部署の連携・協力体制を築きながら、現地事情に精通したコンサルタント、または公的機関の活用が効果的です。
グローバル人材は、海外進出に必要な情報収集、各分野別(法的な規制状況や原材料の調達状況、現地の安全性、競合他社の進出動向など)の整理・分析、現地訪問調査を担います。その後の海外進出に向けた全体計画の策定にも関わってくれるため、長期的な育成環境の構築と、即戦力となるグローバル人材の採用や外部機関の利用を検討しましょう。
【関連】グローバル人材とは?定義、必要性、採用や育成のコツをご紹介/BizHint
カントリーリスクへリスクマネジメント
海外進出には、国内とは異なり、現地の法制度・商慣習の問題や進出先・周辺の政情変化といったカントリーリスクが存在します。そのため、中小企業が海外進出を成功させるためには、進出先の考えられるカントリーリスクを把握し、どのようなリスクマネジメントが必要かを事前に考えておかなければいけません。
中小企業が発表している「第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る―」では、輸出の開始を準備又は検討している国・地域では、中国が最も多く、東南アジアではインドネシア・タイ・ベトナムが高い割合を占めています。中国やベトナムは社会主義国であり、資本主義とは異なる販売に関わる規制や制度が多く見られます。
また、インドネシアは宗教人口の8割以上がイスラム教を占めており、宗教上の習慣(ハラールなど)に配慮しなければいけません。このように、海外進出では、進出国独自のリスクが存在しており、特有リスクへのリスクマネジメントの徹底が必要です。
【参考】中小企業庁/第4章 海外展開―成功と失敗の要因を探る
【関連】「リスクマネジメント(リスク管理)」とは?手法・事例もご紹介/BizHint
現地の人材獲得・育成
アジア経済の発展に伴い、現地マネージャーの不足や賃金上昇、品質問題といった課題も数多く発生しています。そのため、海外進出後、長期的かつ安定的に事業拡大を行うためには、現地の人材獲得・育成が不可欠です。
現地の従業員の定着や現地幹部の育成には、進出先の給与水準よりも高い給与の確保やインセンティブ付きの評価制度、管理職への昇進がある人事・研修制度の構築が効果的です。
事前の撤退戦略の立案
海外進出すると同時に、撤退に向けた戦略の策定も重要です。海外は制度も法律も異なるため、合弁契約や投資認可の有無が撤退時期に大きく影響します。そのため、「環境変化による売上不振」が続いているにも関わらず、すぐに撤退できずに赤字決算が続くことも珍しくありません。
「環境変化による売上不振」を撤退理由に挙げる企業も多く、継続か撤退かを判断する数値的根拠(黒字までの期限を設定するなど)を明確にした上で事業展開を行いましょう。そのためにも、徹底したリスクマネジメントが求められます。
中小企業海外進出する際に利用できる支援策
現在、日本政府は中小企業の海外進出を成功させるために支援事業を実施しています。今回は中小企業が活用できる国の支援事業をご紹介いたします。
国内・海外販路開拓強化支援事業
国内・海外販路開拓強化支援事業とは、経済産業省が主導する海外展開支援事業のひとつであり、地域経済の活性化を図る目的で、国内・海外の販路開拓をシームレスに支援する取り組みです。
海外展示会出展を通じたブランドの確立、販路開拓の事業に対して、支援が実施されます。また、中小企業海外展開現地支援プラットフォームの整備に伴い、海外進出後の課題対応も支援の対象となっています。
平成31年までの5年間、実施される「ふるさと名物応援事業補助金」は平成31年度から国内・海外販路開拓強化支援事業に組み込まれることになっています。
中小企業海外ビジネス人材育成支援事業
中小企業海外ビジネス人材育成支援事業とは、中小企業の海外ビジネス担当者を対象とした、海外市場の開拓に必要な知識・能力の育成や実践的な現場研修プログラムを提供する取り組みです。
市場調査の知識や海外バイヤーとのコミュニケーション、海外ビジネス戦略・方針の策定といった、グローバル人材の育成に関わる支援が受けられます。平成31年度から5年間実施する中小企業・小規模事業者人材対策事業の一環でもあります。
海外進出で成功を収めた中小企業の事例
資本・従業員規模も小さい中小企業の海外進出は難しいとされていますが、多くの中小企業が海外進出を成功させ、事業の拡大や売上・利益の向上につなげています。また、日本企業の海外進出には「輸出」と「直接投資」が一般的です。
今回は海外進出での「輸出」と「直接投資」で成功した中小企業の事例に加え、「市場動向・現地ニーズの把握」を継続的に実践し、挑戦し続ける中小企業の事例をご紹介いたします。
エイベックス株式会社(輸出の成功事例)
【参考】エイベックス株式会社
自動車関連部品の製造業を営むエイベックス株式会社は、製品の8割以上を海外へ輸出することに成功した中小企業です。精密加工の強みを活かして、ニッチ市場であるスプールバルブの国際シェアの獲得に成功しています。
国内一次サプライヤーとの取引と通じて、専門メーカーのイメージを向上したことが、海外進出につながりました。また、販売先の確保では、商社を介することで、本業である技術力の維持・向上への注力に成功。現在でも「人作り経営」を重視し、人材育成・技術力向上に取り組んでいます。
株式会社TEKNIA(直接投資の成功事例)
【参考】株式会社TEKNIA
工作・産業機械を製造する株式会社TEKNIAは、タイに直接投資を行い、生産工場を開設した中小企業です。複数の中小企業と連携し、それぞれの強みを持ち寄ることで、日系の大手・中小企業からの共同受注にも成功しています。複数の中小企業が連携することで、単独での海外進出リスクを低減できるメリットも生まれています。
現在では、製造部門とは別に海外進出で培ったノウハウや人的ネットワークを活かして、海外展開支援事業を担う会員制コンサルティング会社を立ち上げ、新たな収益源の構築や中小企業の海外進出を支える存在にまで成長しています。
株式会社ダイイチ(市場動向・現地ニーズの把握の成功事例)
【参考】株式会社ダイイチ
創業100年を超える、算盤(ソロバン)の制作を担う株式会社ダイイチは、減少する国内の算盤市場に危機感を覚え、海外への活路を開いた中小企業です。算盤は、歴史が古く、日本以外に中国・西洋でも使用されていた計算機として知られています。
現在、中東では算盤を使った教育に関心が集めており、いち早くニーズを把握した株式会社ダイイチがレバノンの学習塾に輸出を行っています。「海外進出は、現地パートナーとの信頼関係が大切」と認識しており、社長自らが何度もレバノンに足を運び、現地の事業者との信頼関係を構築したことで活路を開きました。現在でも運輸コストの改善に向けた取り組みを行っており、海外進出による販路拡大への挑戦を続けています。
まとめ
- 中小企業が海外進出するためには「販売先の確保」、「為替変動のリスク」、「進出先の市場動向・ニーズの把握」といった課題を乗り越えることが大切です。
- 海外進出の失敗原因には「環境変化による販売不振」、「海外展開を担うグローバル人材の不足」、「カントリーリスクによる問題」などがあります。
- 海外進出を成功させるためには、海外進出の失敗原因を踏まえて、綿密な経営計画の準備、リスク・課題の把握を行うことが大切である。専門チームによる調査・分析を経て、進出先での市場開拓に向けた戦略の実施と現地人材の獲得・育成が必要です。
- 中小企業の海外進出を後押しする国の支援事業も展開されており、海外進出における成功・失敗事例や課題をまとめたレポートも公表されています。海外進出に関心がある中小企業が、検討・準備を行うには、これらの支援やレポートを活用するとよいでしょう。
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