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人材育成

2019年2月20日(水)更新

落語家から学ぶ、企業内の人材育成のヒント【立川志の春さん×マイナビ土屋裕介さん】

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落語家の立川志の春さんとマイナビの教育研修事業部開発部部長である土屋裕介さんが「人材育成」について語り合いました。落語界では昔から師匠に稽古をつけてもらって叱咤激励を受けながら一人前になっていくと言われています。ただ、志の春さんによると落語界でも人材育成の方法が変わりつつあるとか。企業でも昨今では人材育成の難しさが取り沙汰されていますが、どのように人事・管理職・経営者は対処していくべきなのか。落語界から見えてきたヒントをお届けします。[sponsored by 株式会社マイナビ]

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立川志の春さん(写真左)

落語家。幼少時と大学時代の計7年ほどをアメリカで過ごした。アメリカのイェール大学を卒業後、三井物産に3年半勤務。偶然通りかかり初めて観た落語に衝撃を受け、2002年、三井物産を退社し、立川志の輔に入門。2011年、二ツ目に昇進。古典落語と新作落語の両方を演じている。2013年、NHK新人演芸大賞本選進出。シンガポールで、International Storytelling Festivalに参加、あるいは独演会を行うなど、主に海外で英語落語を口演。師匠・立川志の輔も、「世界に通用する落語家になってほしい」と期待を寄せている。

土屋裕介さん(写真右)

株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長

国内大手コンサルタント会社にて、人材開発・組織開発の企画営業として、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入。2013年に(株)マイナビ入社。研修商材の開発や、毎年5000名以上が参加するマイナビ公開研修シリーズの運営責任者、各地での講演などを実施。2014年にムビケーションシリーズ第一弾「新入社員研修ムビケーション」の開発、リリースをしたのち、商品開発の責任者として、「研修教材の開発」「各種アセスメントの開発」「ビジネスゲームの開発」などに従事。2018年より日本人材マネジメント協会・執行役員に就任。


最初から「個性を伸ばそう」とすると線が細くなる

土屋裕介さん(以下、土屋): 私は今、マイナビの教育研修事業部で「採用後の社員の育成」について研修プログラムや教材などの商品開発を行っています。日頃から、育成の現場から多くの悩みが寄せられており、解決のヒントを落語の世界から得られたらと思っています。落語家の育成というと、師弟関係のなかで育まれるイメージですが、具体的にはどのように育成されるのでしょうか。

立川志の春さん(以下、志の春): まず、 入門したての弟子というのは、落語の技術は問われません。唯一求められるのは、“気を使う”こと。 「師匠を快適にしろ」と言われています。「師匠相手に“すら”できないのに、お客さん相手にそれができるか!」と怒られる。例えるならば、アートとサービスの間に落語があるという考えですね。

土屋: とはいえ、今のご時世で激しく叱咤すると、「ハラスメント」と言われるかもしれませんね(笑)。

志の春: そうですね(笑)。当初、弟子は「自分は落語をやりにきたのに、なぜその技術を教えてくれないのか……」と思う。しかも、「自分らしい個性を生かして落語をやりたい」と主張したりします。でも、個性を出すなんて20年早いんですよ。

稽古では、完コピを目指して「師匠の一言一句を、間もブレスの位置も再現しろ!」と教えられる。守破離でいう“守”ですね。でも、そもそものキャラや声、話すスピードなど微妙に違うから、できあがるものは相当違いが出てきます。私には兄弟弟子が7人居ますが、みな同じ師匠から稽古をつけてもらって、みな師匠を目指したけれども本当に違う。

この 滲み出てくる違いが、個性となるんです。最初から当人の個性を伸ばそうとすると、どうしても線が細くなってしまう。

土屋: 稽古では、師匠からどのようなアドバイスをもらうのでしょうか?

志の春: 師匠から「やってみろ!」と言われて目の前で披露するのですが……。最初は10秒くらいで「そんなのは落語じゃない」と止められます。しかも、アドバイスはしてもらえません。自分で考えるしかない。師匠は改善点をあえて言いません。弟子たちは「師匠と同じようにやるには……」と考えて、1000パターン試すのです。まったく教えない教育法ですね。

土屋: 企業における人材育成とは真逆ですよね。上司から「企画書作って」と指示を出した時には、アドバイスはしますし、「この状況のときは……」とパターンを伝えてあげるのが一般的ですから。

志の春: だから、落語家の育成にはやたらと時間がかかります。師匠たちも「教えない我慢」をしているんですよ。あえてアドバイスをしないことで、自分の手で掴ませてあげる。ただ、一般企業的で人材育成にこれくらい時間をかけていたら割に合わないと思います。

土屋: 色々な企業のマネジメント層の方に話を聞くと、「教えてもらわなかったからできません」と堂々と話す社員も増えているようです。落語家の場合、例えば、高座でウケなかったときには、どう修正したりしているんですか?

志の春: まぁ、もちろん師匠のせいにはしないですね。結局は自分の実力です。「今日は客層が悪かった……」と言い訳もできない。そのあとに師匠が上がるとドッカンドッカン、ウケてますから(笑)。

落語家の育成と企業の人材育成、若手人材への対応をどうするか

土屋: 最近の若者は「ゆとり世代」とも言われます。志の春さんが入門された2000年代前半と、現在を比べて入門してくる若手に違いはありますか?

志の春: 怒られることへの耐性がない……かなとは思いますね。もはや、学校の先生が頭ごなしには怒ることはないじゃないですか。でも、怒られることで、「何がダメだったか……」を考えるきっかけにはなるはずです。落語界の若手でも、怒られた経験も免疫もないので、パニックになって解決策まで導けない子が多いというのは感じますね。

土屋: となると、「ゆとり世代」に対する師匠の教え方にも変化が?

志の春: 先ほど「師匠はアドバイスをしない」と言いましたが……。 最近では時流を組んで落語界も変わってきました。教え方にも「この役柄はこうだから……」と具体的なアドバイスも交えるように変化しつつあります。

それに、SNS時代ですから情報は溢れています。門を叩いて弟子入りする子たちも、師匠の育成スタイルを見るケースが増えました。

僕もそうでしたが、これまで圧倒的に多かった入門理由は「その師匠の芸に惚れたから」でした。師匠が怖いのか否かは、別次元の話です。でも、「師匠が優しいから」や「高座に上がるまでに時間がかからないから」という理由で一門を選ぶ人が増えたような気がします。

土屋: なるほど、それは面白いですね。採用においても似たデータがあります。就職活動中の学生に参加したセミナーの中で印象良かったセミナーについてアンケート(※「2018年卒 マイナビ学生就職モニター調査4月」より引用)を取ったところ「就活生への対応が丁寧だったから」という理由が1位でした。 今の若い子たちは業務内容やビジョンも大事にしてはいますが、人当たりを気にしている ように思います。

志の春: 師匠の芸に惚れて入ったら、“芸でつながる”ことになりますよね。この人の芸がすごいから、学びたいと。そこに優しさは求めていません。 人当たりとかで選ぶと、優しくなかったときに幻滅してしまいます。 往々にして、外から見た世界と中から見た実像は違うものですよね。

土屋: 昨今では、管理職向けに「叱り方研修」いう取り組みも増えてきています。その点も興味深い変化だと思います。

若い時期に恐怖を感じた体験が、決断力を高める

土屋: ところで、志の春さんはイェール大学を卒業後に三井物産に勤められるという、華々しい経歴です。商社から落語家に転身する例はあまり聞きませんが、その経歴を捨ててまで入門した理由は何ですか?

志の春: たまたま25歳のときに師匠、立川志の輔の落語に触れて本当にすごいと思ったんですよ。「自分が生涯をかけるべきものは、これだ‼」と。商社では20代後半で海外に転勤するのが一般的です。私も異動のタイミングが迫っていました。海外で悶々と「落語家になりたかった……」と後悔したくはなかったですから、「このチャンスを逃すまい‼」と。退路を断つのはリスクでしたが、不思議と楽観的でした。

土屋: ビジネスパーソンは、様々な選択肢がある中で、何をやればよいか迷いがちです。頭ではわかっていても選べなかったりもしますが、何かアドバイスはありますか?

志の春:やはり未来を想像してみて、「後悔しない方」を選択します ね。私の原体験を振り返ると……。私は父の転勤で8歳からアメリカの小学校に通いました。言葉もまったくわからないのにいきなり放り込まれるのは、それはもう恐怖でした。でも、振り返ればなんとかなった。これまで、その当時の体験を超えるものには出会っていません。

できるだけ若い頃に恐怖を体験して、それを乗り越えてもいけるとより強くなる。 後から物怖じしなくなりますよね。

土屋: 師匠からの叱責は怖くなかったのですか?

志の春: 確かに、憧れている人に否定されてしまうのは恐怖です。でも、怒られることには、意味があるんですよ。とある歌舞伎役者は「怒られるとカチンとくるけど、ありがとうございますと言って受け止めなさい」と話していました。そこで受け入れるとまた怒ってくれる。反発するともう怒ってくれなくなり、成長が止まるんです。

怒られないことも実は恐怖ですよ? 落語会に出演したとき、ほかの出演者の楽屋での反応で、ウケたときはノーコメントですが、スベったときには逆に「いやぁ良かったよ。何であんな反応ないのかね?」と褒めてくれたりすることがある。本当に人間って怖いですよね(笑)。稽古をつけてくれる 師匠だって、高座に上がればライバル でもあるんです。その場で、「お前は話の運び方が下手なんだよ」と 怒ってくれるのは、一見厳しい人だけど、本当は親切で優しい人 なんです。

土屋: それでも怒られたら、カッとしたり、ときには恐怖に感じることもありますよね。どう対処していましたか? というのも、企業においても、アンガーマネジメントといって怒りの感情とうまく付き合う方法を学んでいる方も増えています。

志の春: まぁ、言葉のプロである師匠に叱責されるのは、並大抵ではないので恐怖なのですが……(笑)。私の場合、大きかったのはやはり兄弟子の存在ですね。兄弟子たちが「俺たちもそこを通ってきた。辛くてもこれがずっと続くわけじゃない。師匠の言うこの言葉の意味は……」と教えてくれる。だから、落語家を辞めようと思ったことはありません。

「損して得取れ」をいかに実践するか

土屋: 新入社員のメンターやトレーナーに数年先輩の社員を付ける会社も少なくありません。とはいえ、トレーナーになりたがらない社員も多いのが実情です。「給料にも評価にもつながらないから」と答える方もいらっしゃいました。私はここに矛盾があると思います。入社するときには 大多数の人が「成長したい」と思っている。しかし、絶好の成長の機会であるはずのトレーナーになる機会を嫌がる人が多い。

志の春: 要は「成長したいけど、損はしたくない」と。後輩ができると「翻って自分はどうか?」と反省したり、気づいたりするものです。手間だと思ってやらないと、成長する大きな機会を逃しますよね。

私たち落語の世界では、「楽しかったこと」はネタにはならないんです。自慢になるから。一方で、ヒドい目にあった話や、ムカつくエピソードはネタになります。喜怒哀楽の「怒」と「哀」は笑い話になるんです。

経験したその時は損した気分でも、最終的には「おいしかったな」と思えるようになる。 一見損しているようにみえるかもしれませんが「実はおいしいんじゃないの?」と発想を逆転させるのはあり だと思います。とんでもない後輩が居ても、自分が成長するし、少なくともネタにはできる。そう思うだけでも違ってくるのではないでしょうか?

土屋: なるほど。今日お話を聞いていて、「損して得取れ」はどの場面でもありそうですね。落語家さんのお話は、社員の研修にもいろいろ役立ちそうです。今後、落語を聞いて働き方の示唆を得るという試みをやってみたい。ぜひご協力してもらえませんか?

志の春: おもしろそうですね。笑って心のガードを下ろした時に見えてくるものってあると思いますから。

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