連載:第5回 「人と組織の科学」―人事データ・ピープルアナリティクス最前線―
「働く中でのプライバシーとは?」今、経営に求められる人事データの扱い方【鹿内学さん×EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング吉田尚秀さん】
鹿内学さんと「人事データ・ピープルアナリティクスの最前線」を追う連載。今回はEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社でピープルアナリティクスの研究を行っている吉田尚秀さんとの対談です。後半では、「人事データを分析するうえで個人のプライバシーをどう尊重すべきか」や「個人の評価やコンピテンシーをどう扱えば、組織のパフォーマンス向上につながるか」、人事データ分析で見えてきた「適切な1on1の範囲」などについて話しています。
吉田 尚秀さん
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 マネージャー
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、ウィリス・タワーズワトソン等を経て現職。 戦略方針と現場課題を両面からおさえた戦略人事の施策立案、推進を得意とする。戦略領域では中長期的な成長支援から足許の課題解決、人事領域では報酬・タレントマネジメントの双方に関し、国内外の幅広い企業への支援提供実績を有する。近年は報酬・タレント領域における豊富なコンサルティング経験を活かし、第3回HRテクノロジー大賞統合マネジメントサービス部門優秀賞を受賞した“Future Work Now”を立ち上げる等、新しい人事モデルの検討や提言を精力的に実施している。
人事データを用いて「個人の詮索」はしないこと
鹿内学さん(以下、鹿内): 人事データを取り扱うにあたり、個人のプライバシーにいかに配慮するか、という視点は欠かせないと思います。御社の施策ではどのように捉えているのでしょうか?
吉田尚秀さん(以下、吉田): 私たちは基本的に「個人については探索しません」という姿勢です。結果や情報として示すのは組織全体のことのみで、個人を特定できるようなデータは開示しません。そもそも、 個人のデータは、個人に返すべき です。その場合も「世の中の傾向はこのようになっています。あなたの組織ではこうです。そのなかでもハイパフォーマーにはこういう傾向があります。そして、あなたにはこんな傾向が見られました……」という示し方をします。特定の個人を挙げて、その人と比べてどんなギャップがあるか、といった結果の出し方はしません。要は「あなたの組織で成果を出しやすいタイプはこういう特性を持っています。あなたはこうです。こういうギャップが見られます。あとは自分で考えてみてくださいね」というスタンスです。
鹿内: ピープルアナリティクスを行うにあたっては、個人からも多くの情報を提供してもらう必要があります。そうして集めた情報を、個人が特定できない形で企業に返す。そして個人に対しては、その人だけにわかる形で個人の情報を返す。そんな情報の切り分けがうまくできると、組織も個人もWin-Winになれるデータ活用が実現できるのではないでしょうか。
吉田: おっしゃるとおりです。個人のことには踏み込まない、という立場を貫くとなると、最終的にはやはり 「個人がきちんと自立して、自分のことは自分で考えて、自分なりに成長していただけますか」 という姿勢にならざるを得ません。個人には個人の情報を返し、組織には「御社の傾向はこうです。ハイパフォーマー特性はこうでした」と全体的な情報を返す。それが適切なピープルアナリティクスの使い方だと思います。ただ、どうもそのあたりをご理解いただけないこともあって……。
鹿内: というと?
吉田: これはあくまで私の感覚ですが、企業の人事担当者は「この社員には、これと、これと、これに関する情報を提供して欲しい。そうすればパフォーマンスが上がるでしょ?」と、ピープルアナリティクスを用いて、会社が社員個人をサポートするような方向で使いたがるケースがまだまだ多く見られます。
鹿内: 会社が個人の情報を掌握し、管理しようとする、と。
吉田: ええ。何度も言いますが、リサーチを通じて得られた個人に関する情報は、個人に返すべきです。ただ、経営層や人事の方とお話をすると「この“ハイパフォーマー”は具体的に誰なの?」といったことをすぐにお聞きになることが多い。私たちとしては「それはプライバシーに関わる事柄なのでお答えできません」と返すのですが、「いや、その情報がなければ調べた意味がないし、今後の仕事にも繋がらない」と言われてしまったり……。
ピープルアナリティクスで、組織が個人を特定しようとすると何が起きるのか。社員が不信感を覚え、リサーチに非協力的になっていきます。「調査期間中、ウェアラブルセンサーを付けてほしい」などとお願いをしても、どこかに放置したり、あえて付け忘れたりするようになります。ウソかマコトか「ペットに付けました」なんてとぼける人も出てきたり。それではリサーチの精度が担保されず、適切な施策にも繋がっていきません。
鹿内: 結局は、組織と個人の間に信頼関係がないと、適切なピープルアナリティクスは実行できませんし、人事施策もうまくまわらない、ということかと思います。
ひとつ思うのは、調査で得られた個人に関するデータは個人に返すのは当然として、「そのデータを個人が外に見せたい」と考えるのであれば、開示できるようにするのはアリかなと。個人の情報を、個人の責任で公開する。そういう個人レベルでのリサーチ情報活用も、今後は考えていく必要があるのではないでしょうか。
個人のコンピテンシーや評価のデータはどう扱うべきか
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