連載:第48回 リーダーが紡ぐ組織力
自走する組織へと導いた「凡人社長」が気づいたリーダーシップの本質
「私は『凡人』ですから」——そう語るのは、愛知県豊田市に本社を置く、株式会社サギサカの匂坂慎祐社長です。昭和26年創業の同社は、自転車部品・用品の卸売業で国内トップシェアを誇り、全国5拠点で事業を展開しています。2007年、3代目社長に就任した匂坂社長は、先代のトップダウン経営から一転、社員が主体的に考え行動する自走型の組織づくりへと舵を切りました。その結果、従来の「人脈」を中心とした営業活動から脱却し、組織として価値を提供するビジネスモデルへと進化。離職者も減少し、社員の定着率も大幅に向上しています。組織はいかにして生まれ変わったのか。「凡人」を自認する経営者が気づいた、リーダーシップの本質に迫ります。
株式会社サギサカ
代表取締役社長 匂坂 慎祐(さぎさか しんすけ)さん
1970年生まれ。工業大学卒業後、一般企業で2年半の実務経験を積み、24歳で家業に入社。仕入れ先の窓口業務や財務改善などに携わったのち、2007年に36歳で3代目社長に就任。
思い描いたリーダーを目指すも「自分には合わない」と失敗
――社長就任当初は先代のお父様と同じく、トップダウン型の経営スタイルを目指されたそうですね。
匂坂慎祐さん(以下、匂坂): 父は威厳があり、強いリーダーシップで組織を引っ張っていくタイプの経営者でした。父のように「威厳のあるリーダーこそが世の中の社長というものなのだろう」と思い込んでいたので、社長就任当初は、自分が思い描いていた「社長らしい社長」になろうとしていました。
でも、これがうまくいきませんでした。
最も大きな転機となったのは、私が社長に就く7年前の2000年、先代が全国に営業所を増やして増員を行ったことでした。入社した1994年は35人程度でしたが、70〜75人と、2倍以上社員を増やしたんです。これにより、 従来のトップダウン型では組織全体を管理できない状態になってしまっていたんです。
そして実際に経営を任されてみると、この課題に加えて、 自分の性格や価値観との不一致にも気づくことになりました。
――具体的にどのような課題があったのでしょうか?
匂坂: まず、組織の規模拡大に伴う問題として、非現実的な予算設定や、それに伴う社員の主体性の低下が顕著になっていました。父が社長だった頃は、何をするにもお伺いを立てないと物事が進まなかったため、「どうせ承認してもらえないだろうから」と、 提案や行動をためらう空気が社内で当たり前になっていたんです。
また、従来の人脈中心の営業スタイルにも限界が見えてきました。例えば主要取引先の購買担当者(バイヤー)が交代すると、「前任者の方針は見直す」という形で取引が減少するケースが散見されました。特に先代社長の時代は、飲食を共にしながら信頼関係を築き、取引を発展させていくのが業界の商習慣でしたが、取引先の新しい担当者から「先代社長の時代と同じままでは取引を見直します」と直接言われたこともあり、個人間の信頼関係だけに依存したビジネスの脆さを痛感したのです。
こうした状況に直面し、私自身の経営スタイルについても深く考えるようになりました。 実は私はどちらかというと控えめなタイプで、自ら先頭に立ち指示を出していくスタイルは到底続けられないと感じていました。
それはなぜかというと、 「自分は凡人だ」という考えが強かったからです。
人生を振り返ると、私はトップに立った経験がありませんでした。勉強の成績は中の上。学生時代に打ち込んでいたバスケットボールも万年補欠。ただ、部活を通して選手、トレーナー、コーチ、マネージャーなど、各自の役割が成り立ってこそチームは機能するという「チームプレーの本質」について学ぶことができました。
「凡人」という自己認識があったからこそ、周囲をよく観察し、自分の立ち位置を分析する習慣が身についていたから気づけたんだと思います。
そして、私が大切にしている言葉の1つに「謙虚であれ」というものがあります。これは「凡人」という自己認識があってこそ持てた価値観です。
自分には特別な才能があるわけではない、だからこそ周囲の意見に耳を傾け、多様な視点を取り入れることが重要だと考えています。社長という立場であっても、従業員に対して謙虚でなければいけない。役職が上がれば上がるほど、謙虚に人の意見に耳を傾けるべきだと思っています。
社長就任後、どのように組織改革を進めていくかを考えたとき、やはり自分は父のようにはなれないこと。さらに、従来の体制では会社経営を存続させられないことを痛感したんです。そして社長に就いてからしばらくして、 「チームサギサカを作る」というスローガンを掲げました。
私一人で動くのではなく、「組織全体の力を活かしたい」と考え、 組織をチームに見立て、それぞれの社員が自身の役割を認識して自走できる集団を目指すことにしました。
——「チームサギサカ」を作るため、どのような取り組みをされたのでしょうか?
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バックナンバー (49)
リーダーが紡ぐ組織力
- 第49回 「週休3日制の導入」で最高業績の老舗企業。ワンマン経営から自走する組織への軌跡
- 第48回 自走する組織へと導いた「凡人社長」が気づいたリーダーシップの本質
- 第47回 社員の反発で目覚めたリーダー。自律型組織を生み出すために貫いた葛藤と覚悟
- 第46回 教育で人は変わらない。社長の信念が証明した「人が辞めない組織」の作り方
- 第45回 倒産寸前の企業を蘇らせたリーダー。社員の主体性を引き出すために20年貫いたこと