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連載:第7回 経営・SaaSイベントレポート2024

今リーダーが知るべき「生成AI」活用最前線。企業の明暗を分ける“経営進化論”

BizHint 編集部 2024年10月23日(水)掲載
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インターネットやスマートフォンの普及に続く大革新だと言われている「生成AI」。生成AIの活用は、企業経営に大きな変化をもたらします。まさに、これからの時代を勝ち抜くための「経営進化論」だと言えるでしょう。大企業においては、約8割以上において何かしらの形で生成AIが導入されているという調査結果もある一方、いざ導入してもなかなか活用されない、そもそも何をしたらいいかわからない…といった課題を抱えている企業が多いのも実情です。今回は、生成AI革命の最前線で活躍する3人の専門家が、AI導入の現状と課題、そして経営者がとるべき戦略について語り合いました。

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生成AIは「単なる便利ツール」ではない

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岡田 利久さん(以下、岡田): デロイトトーマツ社が実施した調査結果によると、プライム市場所属かつ売上1000億円以上の企業においては、88%の企業が何かしらの形で生成AIを導入していることが明らかになりました。生成AIが本格的に普及し初めてから約1年であるにも関わらず、これだけ多くの企業が導入に積極的になっていることがわかります。

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岡田: 生成AI導入の主な目的についても見てみます。割合が多いのは「業務の効率化」「業務の自動化」です。ただひとつ興味深いことがあります。それが、経営層に近づくほど「イノベーションの加速」の目的意識が増加している傾向が見られることです。

馬渕 邦美さん(以下、馬渕): 目的に関しては「二極化」している印象ですね。ひとつは生成AIによって「仕事が便利になる」「業務効率化が進む」といった、多くの人が感じている部分です。ただ、経営層に近づけば近づくほど、生成AIを「単なる便利ツール以上のもの」と捉えています。生成AIの登場について、インターネットやスマートフォンに続く大きなイノベーションの波だと認識し、業務改革や自社の変革に活用すべきだと考えています。

岡田: 目的については、経営層と現場間で認識に差がありそうですね。また、生成AIと社内の意思決定のスピードについての調査も興味深い結果が出ています。

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岡田: 上記のグラフからは、生成AIをほとんどの社員が使用している企業ほど意思決定のスピードが向上していることがわかります。つまり、生成AIの利用度合いと意思決定のスピードには、相関性があることが読み取れます。また、現状としては「今後意思決定のスピードが向上する見込み」と期待を持っている企業がボリュームゾーンなのかなと感じます。

馬渕: ChatGPTやGeminiなど、「何となく生成AIを全社で活用しています」という会社が増えてきている実感はありますね。ただ、意思決定という観点で考えると、AI自体は意思決定を行いませんので、そこに至るまでの作業がどれだけ効率化されたかがポイントになると思います。いかに業務の中に生成AIを組み込み、利用率をあげていくかが重要ですね。

「どの業務に使えばいいのかわからない」「思ったより使われない」問題の解決策とは

金 剛洙さん(以下、金): とはいえ、なかなか生成AIの活用が進まないというのが、多くの企業の実情ではないでしょうか。障壁となるのは主に2つ。「どの業務に使えばいいのかわからない」と「導入しても思ったより使われない」です。

岡田: それぞれの障壁の乗り越え方について教えていただけますか。

金: まず、「どの業務に使えばいいのかわからない」という問題について。

日本企業は特に、デジタルの経験に乏しい方がDXを進めているケースが非常に多いと思っています。さらに、生成AIが登場したのはまだ1年前。ほとんどの人はまだ、生成AIを活用して何か改善を行った経験がないんです。

だからこそ、事業を推進するリーダー自身が率先して、生成AIに触れていただくしかないんじゃないかと思います。自身の手で生成AIの“原体験”を獲得していただき、そのうえで事業プランを考える。そういうリーダーが育つことで「どの業務に使うのか」といった課題は解決に向かうのではないでしょうか。

もうひとつの「思ったより使われない」という壁について。

やはり、エンジニアなど専門職ではない方が触るのはハードルがあります。なので、研修などもセットで実施すべきかなと思います。あとは、若手社員の活用を提案したいですね。若い人のほうが新しい技術への適応力が高いです。まず若手に使ってもらって知見を蓄積し、それを上の世代に広げていく工夫が有効だと考えています。

馬渕: 私は各部署に「AIチャンピオン」のような人を配置することを提案しています。効率化できそうな作業を見つけ、その業務に使えるプロンプト、つまりAIへの指示を用意してあげる。たとえば「翻訳だったらこれを使ってください」「契約書のチェックだったらこれを使ってください」など。「生成AIを使うだけで、単純にこれだけ時間が短縮されますよ」といった経験をしてもらうことがファーストステップかなと思います。

金: 外部の力を借りるのもひとつの手ですね。コンサルティング会社やベンダーの知見を取り入れつつ、社内で一緒にプロジェクトを進めることで、ノウハウを吸収できます。生成AIって、実は1回学んでしまうとそんなに難しくないんですね。そういう意味では、彼らと賢く付き合うのも有効だと思っています。

初期段階においては、投資対効果(ROI)に囚われすぎず、まずは使ってみること

岡田: では、生成AIをどう経営に結び付けていくのか。経営変革のプロセスについて聞かせてください。

馬渕: 私は4つのフェーズで考えています。

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馬渕: まず、ChatGPTなどを全社導入するのが「導入フェーズ」。次に、各部門に利用の幅を広げていくのが「最適化フェーズ」。そして「統合フェーズ」では、既存の事業やプロダクトにAIを組み込みます。最後に、AIを活用した新規事業やプロダクトを創出する。それが「変革フェーズ」です。

日本企業の多くは1番か2番の段階です。一部の先進的な企業は3番目の統合フェーズに進んでいます。

岡田: 生成AI導入初期段階で気をつけるべきことは何でしょうか。

馬渕:ROI(投資対効果)に囚われすぎないことでしょうか。最初からROIを計算しすぎると、新しいことができなくなります。先ほども話に上がりましたが、インターネット・スマートフォン、それらに続く大革命となりえるのが生成AIです。今の段階では、「まず使ってみる」そして「これをいかに活用できるか考えていく」ことがまずやるべきところなのです。

岡田: 生成AIを経営に結び付けていくためには「データ」も欠かせないと思います。その扱いについてはいかがでしょうか。

金: まず生成AI、特にLLM(大規模言語モデル)は、基本的にTransformerをベースとしている点を踏まえると構造に大きな違いはありません。ゆえに、最適化フェーズ以降で差が出るのはデータの部分です。自社データの重要性は非常に高いと言えます。

馬渕: 一方で、「自社のデータがありません。どうしたらいいでしょうか」という相談はよく聞きますよね。そこでまず「じゃあデータを集めましょう」となりがちですが、これは絶対にダメです。データを集めるだけで2年かかる…なんてことがあったら、それこそ置いていかれますよ。技術は日々進歩しているんです。やるべきなのは、今あるデータで何ができるかを考え、ないデータについては必要に応じてプロジェクトを進めながら集めていく。アジャイルに回すことが重要ですね。

金: データがない…と悩んでいる企業にも、紙で保管されている数々の書類や資料があったりしませんか?これが意外とデータの宝庫だったりします。最近は紙の文書をデータ化できる技術がかなり進んでいますから、既存の紙の書類も貴重なデータになり得るのです。

導入フェーズから最適化フェーズに移行すると、「RAG(ラグ)」という技術を用いる機会が多くなります。これはLLM(大規模言語モデル)に、独自情報を組み合わせることで、回答精度を向上させるもの。自社専用のLLMをつくるようなイメージです。たとえば社内の文書を検索可能にして、問い合わせに回答できるような仕組みなどが該当しますね。

しかし「想定していた回答がかえってこない」「思っていたより性能がよくならない」といった課題が出てくることもあります。その場合、意外かもしれませんが、社内の文書自体を修正する必要があるケースが多いのです。社内のマニュアルなどが、実は人間にも理解しづらい状態になっていることがあります。AIの性能を引き出すためには、まず人間が理解できる文章に直すことが肝要。このあたりは、今後の日本企業のDXや、AIを経営に生かしていく上で、非常に重要になってくるのかなと考えています。

岡田: 全社的なAI導入からスタートし、次第により大きな取り組みへと発展させていくことが重要です。その過程で、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチを合わせながら進んでいくことが重要なのではないかと感じました。今日はありがとうございました。

岡田 利久さん
岡田 利久さん
株式会社Preferred Networks VP of Solution Business

株式会社Preferred Networksにて生成AI関連事業、並びに産業向けソリューションビジネスの事業開発をリード。前職では外資系戦略コンサルティングファームのArthur D. Littleにて大企業向けに事業戦略策定、新規事業創出、企業価値評価に携わった他、AGCにて材料開発や本社技術企画部門に従事。

金 剛洙さん
金 剛洙さん
株式会社松尾研究所 取締役 執行役員 / 経営戦略本部ディレクター

東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科を修了。 シティグループ証券株式会社に入社し、日本国債・ 金利デリバティブのトレーディング業務に従事。その後、株式会社松尾研究所に参画し、機械学習プロジェクトの企画からPoC、開発を一貫して担当。2022年より同社取締役に就任、また生成AIに 特化したVCファンドを新設。株式会社MK Capital 代表取締役社⾧CEO、 金融庁特別研究員。

馬渕 邦美さん
馬渕 邦美さん
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員

2009年、世界No2広告代理店グループのオムニコムのデジタル・エージェンシーTribal DDB Tokyo ジェネラル・マネージャーに就任。日本における事業の立ち上げを成功させる。2012年、WPPグループである世界No1広告代理店オグルヴィ・ワン・ジャパン株式会社、ネオ・アット・オグルヴィ株式会社の代表取締役に就任。オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパン・グループのデジタルビジネスを牽引。グループの再生を成功させた。2016年、オムニコム・グループのNo1PRエージェンシーであるフライシュマン・ヒラード SVP&Partner。2017年、PwCコンサルティング合同会社のエグゼクティブ・アドバイザー就任。2018年、Facebook Japan Director/役員に就任。インスタグラムの日本における3500万MAU、世界第2位の達成、APACにおけるNo1のJapan Revenue Growthを成功させた。2020年、PwCコンサルティング合同会社 パートナー 執行役員。2024年、デロイト トーマツ コンサルティング パートナー 執行役。

※本記事は、2024年9月19日に開催されたDIGGLE株式会社主催のビジネスカンファレンス「DIGGLE Next Growth Conference〜企業成長を導くこれからの経営企画とは〜」内、「AIやテクノロジーは、経営にどのように活用できるのか?」の内容をもとに再構成しました。

「DIGGLE Next Growth Conference〜企業成長を導くこれからの経営企画とは〜」のアーカイブ配信はこちら>>

(編集:櫛田 優子)

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