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連載:第8回 経営・SaaSイベントレポート2024

人が育つ邪魔をするな。岡田武史氏が考える「成果を出し続けるリーダーの絶対条件」

BizHint 編集部 2024年10月24日(木)掲載
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サッカー日本代表の監督として2度のワールドカップを戦った名将、岡田武史氏と、リンクアンドモチベーション代表取締役会長の小笹芳央氏。二人の豊富な経験から導き出された組織論は、ビジネスの世界でも大きな注目を集めています。今回の対談では「成果を出し続けるリーダーの絶対条件」から、「人が育つ邪魔をするな」と語る岡田氏が推奨する、主体性の高い人材の育み方まで、組織づくりのヒントを明らかにしていきます。

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成果を出せるチームに必要なリーダーシップとは

――岡田さんは長年にわたり、多くのチームを率いてこられました。勝ち続けるチームに、何か共通点はありますか?

岡田武史さん(以下、岡田): まず言えるのは、 今まで私が見てきた中で「全員が仲良し」のチームなんて一度もない ということ。20人や30人も集まれば、好き嫌いが生まれるのは当たり前です。

そしてもうひとつ、私の経験上「ここから入ると、チーム作りは必ず失敗する」というパターンがあります。

――そのパターンとは何でしょう?

岡田:最初に「一体感」を作ろうとする ものです。一体感からチームを作りはじめるとだいたい失敗します。

一体感とは、結果が出ないと生まれないものです。共通の目標のために違いを認め合い、結果が出るようになると、「あいつ、意外と◯◯が得意だったんだな」「思ったよりいいヤツだな」というふうにまとまっていく。サッカーで言えば「勝つ」という共通の目的のために、お互いを認め合えるとチームが強くなっていくのです。共通の目的がないと人はひとつになれない、チームにはなれないんです。

――チームや組織をまとめ、成果に結びつけていくため、リーダーは何をすべきなのでしょうか。

岡田:一人ひとりの存在を認め、それを伝えること です。

たとえば、コーチがストレッチをしている選手に「この前の練習試合での動きは素晴らしかったな。忘れるなよ」と声をかける。スランプから抜け出せない選手に、「なかなか活躍できていなくて苦しいだろうけど、ちゃんと見ているよ。頑張っているのはわかっているよ」ということを伝える。ちょっとした感情の共有みたいなやりとりが「認めてもらえている」という安心感につながりますし、ものすごく大事なんです。

小笹芳央さん(以下、小笹): いつも私が言っていることなのですが、個人は組織全体のため。組織もまた個人のため。 「One for All, All for One」これが高次元で達成できる組織は勝ち続けます。

では組織として個人に何を与えられるのか。私は、「本人がまだ気づいていない強み」を見つけてあげることが、最大の贈り物になると考えています。だからこそ、当社では管理職に「部下自身が気づいていない強み」を探し、伝えてあげてほしいといつも話しているんです。

このようなコミュニケーションは“報酬”になります。私はこれを「感情報酬」と呼んでいます。金銭報酬と違って、 感情報酬は経営者やリーダーの工夫によって、いくらでもその原資を組織内で生み出すことができる。 だからこそ、感情報酬をうまく生み出せる経営者が、会社を大きく成長させられるのではないかと考えています。

金銭報酬とプラスアルファで、感情報酬を満たす。すると、個人が活躍し、組織としての業績も伸びていきます。そうすると、また個人に配ることができる報酬が増えて…という繰り返しで、組織と個人が互いに高みに上っていく。それが成長する組織です。

岡田:存在を認めたうえで、本人に気づいていない強みを見つける。それが成果を出し続けるリーダーの絶対条件 と言えます。

ひとつ注意してほしいのが、「認めてあげたい」という気持ちが先走って、 心にもないことを言うのは逆効果 です。選手はすぐに見破りますよ。「俺に気を遣っているな」と選手が思ってしまったら、チームはまとまりません。だから、本当によいところを見つけて、それを伝える。そうすれば、厳しいことを言っても、みんな応えてくれるようになります。

小笹: その通りですね。上司は部下のことを理解するのに3ヶ月かかるけど、部下は上司のことを3日間で理解するといいます。だからこそ逆に本音で向き合っていけば、部下に「今までの上司とは違う」と思ってもらえます。

南アフリカワールドカップで「ベスト4」を目標に掲げた理由

岡田: 私は、リーダーとは「まだ見ぬ世界へ導く存在」だと考えています。だからこそ 「私利私欲のない志の高い目標」を掲げるべき だと考えています。これも成果を出すために必要なリーダーの条件のひとつですね。

――「志の高い目標」といえば、2008年、岡田さんが2回目の日本代表監督に就任された際、南アフリカワールドカップで「ベスト4」という高い目標を掲げられていましたね。

岡田: 代表監督に就任した際、現状のチーム力ではワールドカップで勝てないと思ったんです。勝てるチームにするため、選手には「1人1キロ多く走るためのローパワートレーニング」「中距離パスの精度を上げる」「ボールぎわに勝つための体幹を鍛える」の3つを課しました。しかし、その時点で自分が代表に選ばれるかわからない、さらに所属しているチームの練習だってある中、そこまでやってもらうにはどうしたらいいのかと考えた際、たどり着いたのが「志の高い目標」でした。

選手には、「日韓ワールドカップで韓国はベスト4まで行った。あのチームと俺たちはそんなに差がないはずだ。本気でベスト4を目指さないか」と伝えました。「大体ベスト4ぐらい…」とか曖昧な言い方じゃ絶対駄目で、「ベスト4に行きます」と断言することが大事。そこからは全部の基準を「ベスト4に行くため」として、チームづくりをしていったんです。

小笹: 当社でも、「時価総額1兆円」とハッキリと目標を掲げました。それは、トップである自分がどこまで見ているのかを示すうえでも重要だと思っているからです。「ここを見ているよ」というメッセージを発信するため、ハッキリと高い目標を掲げました。その際に大事なのは、 目標に向かうベクトルをどうするか なんですよね。

岡田: そうですね。私もベスト4の目標を掲げたあと、全員に1枚の紙を配りました。一番上に「ベスト4」と書いてあって、その下に「日本がベスト4に入るためには、どういうチームにならなければいけないか」「チームで自分が最高に貢献できるのはどういう状態か」「ワールドカップのとき、どうなっていなければいけないか」「半年前にどうなっているか」「1年前にどうか」「1年半前に」「今日何をしなければいけないか」。そこまで落とし込んでいってほしい。私に出す必要はなく、各自で更新していってほしいと伝えました。

小笹: 素晴らしいですね。目標を具体的に落とし込んで、日々の行動につなげていくプロセスは、企業においても非常に重要です。

――母国開催以外では初めてのグループステージを突破したものの、結果的にはベスト4には届きませんでした。後悔はありませんか?

岡田: 全くありません。実は、ベスト4でも何でもよかったんです。 大事なのは、トップがどこまで見ているかを言語化し、発信すること。 目標自体に大きな意味はなくて、小笹さんの言った通り「ベクトル」を共有することなのです。

「人が育つ邪魔をするな」岡田流・新しい教育のカタチとは

――岡田さんは近年、教育事業にも力を入れていらっしゃいますね。どのような人材を育成していきたいとお考えですか?

岡田: 今の時代、過去に起きていないことが次々と起こっています。だから誰にも正解がわからない。そんなときは理屈で考えても答えが出ないんです。だからこそ、トライアンドエラーを繰り返していくしかありません。

そのような時代に必要な力として、まず タフであること。 そして 、共助のコミュニティを作る力 です。人間は1人では生きていけません。多様な人を巻き込むコミュニティでないと弱いんです。ひとつのことで、ともに倒れてしまうから。日本では今まで、「違う」ことは「間違い」だと言ってきました。でも、人はみんな違うんです。考え方も価値観も違う。それを「間違い」とするのではなく、違う者同士が共通の目的のために対話で落とし所を見つけていくこと。それがコミュニティを作っていくことだと考えています。

――教育事業を推進していくうえで、大切にしていることはありますか?

岡田: 私が大切にしているのは 「キャプテンシップ」 です。リーダーが「俺についてこい」と引っ張っていくのではなく、一人ひとりに主体性を持たせて巻き込んでいく。そういう人材を育てたいんです。

そして、 「人が育つ邪魔をするな」 というのが私の考えです。 「人を育てる」なんておこがましい と思っています。 人は育つ力を持っている んです。

私が運営しているFC今治高校里山校の先生やコーチには、生徒と接する際に3つの質問を徹底させています。 「どうしたの?」「君はどうしたいの?」「先生に何か手伝えることはある?」 この3つを繰り返す。すると、生徒は自分で育っていきますから。

私たちの世代は、70年間戦争のない高度成長時代という、最高の時代を生きてきました。でも、これからの子供たち、孫たちの時代は大変なことになるかもしれない。だからこそ、未来に生きる子供たちのために、今できることをしっかりとやっていかなければならないと思っています。

教育を通じて、自分で考え、行動し、失敗を恐れずにチャレンジできる人材を育てる。そして、多様性を認め合い、ともに新しい価値を創造できる人材を育成する。それが、これからの時代に求められる教育の姿だと信じています。

岡田 武史 さん
岡田 武史 さん
株式会社今治.夢スポーツ 代表取締役会長

1956年生まれ。大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学でア式蹴球部所属。大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。引退後は、クラブチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグの札幌や横浜での監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、2010年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、2014年11月、四国リーグ(現在J3所属)FC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。

小笹 芳央 さん
小笹 芳央 さん
株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長

1961年、大阪府出身。1986年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。人事部にて人材の採用・育成に携わった後、組織人事コンサルティング室長、ワークス研究所主幹研究員などを経て、2000 年に株式会社リンクアンドモチベーションを設立、代表取締役社長に就任。「モチベーションエンジニアリング」という独自の技術を基盤に事業を拡大し、2008年に東証一部へ上場。2013年、代表取締役会長に就任。現在は、組織人事コンサルティング事業に加えて、個人向けのキャリア支援や組織と個人のマッチング支援など、グループ9社を牽引。

※本記事は、株式会社リンクアンドモチベーション主催のカンファレンスHR Transformation Summit 2024内、「時代を切り開く人財と、チームのつくり方」の内容をもとに再構成しました。

(編集:櫛田 優子)

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