連載:第3回 [LINE WORKS×BizHint]変わる、中小企業の働き方
中小企業の「電話と紙」の捨て方。成長のボトルネックに薄々気付いている方へ
ニューノーマル(新常態)への転換で、いよいよ変化が求められる中小企業。中でも対応が難しいとされる「ゲンバ」の働き方において、はたしてIT活用は可能なのか?生産性は本当に上がるのか?電気・通信工事を主事業とし、渋谷ヒカリエ等も施工した圭電工業にそのモデルケースがあります。同社は「電話と紙」から脱却し、2018年、新規案件の受注に際してプロジェクト進行の仕組みを抜本的に改革しました。結果、社員と協力会社がより効率的に働ける仕組みが完成し、受注できる案件規模も2~3倍に拡大。次の成長曲線に乗りました。経緯について専務取締役の岸浩光さんに話を聞きました。
有限会社圭電工業
専務取締役 岸 浩光さん
一般電気工事の工事担当者からソリューション業務、設計・施工管理業務を経て現在は会社全体の管理業務を担当。さまざまなプロジェクトを管理、実行している。 電気・通信のインフラ業務を通じての社会貢献を目指している。
時代に先んじて、工事に必要な人・技術・協力会社を確保し続ける
――貴社の事業について教えてください。
岸 浩光さん(以下、岸): 当社は平成元年に創業し、当初は店舗やビルの照明や電源をはじめとした電気工事を手掛けていました。事業拡大の大きな転機となったのは平成15年ごろ。インターネットの通信インフラ工事に参入し、光ファイバーの敷設や周辺装置の取付などを手掛けるようになりました。インターネットの普及、市場の成長とともに事業も成長し、現在はこちらが主力事業になっています。
参入のきっかけは、当時インターネット用に使われていた電話線を光ファイバーに置き換えるための、新規工事業者の募集でした。工事に対応した人材・技術・体制を構築できたことが、現在の通信インフラ工事事業に繋がっています。
――その時代に必要とされる工事を受注・担当できることが、工事業者にとっては重要ということですね。
岸: はい。通信インフラは時代とともに変わっていきます。今年から始まる5Gであれば、そのための機器の設置工事などが必要になります。また昨今、ICT(情報通信技術)の活用が叫ばれ、家庭はもちろん、工場や農業や教育の現場など、様々な場所で通信技術が使われるようになってきています。
なので、当社が電気・通信工事の業界で成長を続けていくにあたっては、 「新技術を要する工事に素早く対応し、人材・技術・組織をアップデートし続ける」「対応できるエリアを拡充する」「より多くの協力会社・パートナーを確保する」 ということを常に念頭に置いています。
事業を拡大するために現場のコミュニケーション手法を変える
同社の電設工事。現場の様子
――順調に事業を拡大されてきていますね。
岸: いえいえ。つい最近も、まさに 当社の成長のボトルネック、事業構造上の癌のようなものを実感 する案件がありました。
――どのようなものでしょうか?
岸: 2018年に「都内100ヵ所を超える小中学校にWi-Fiを導入する」という、受注判断の難しい案件が舞い込みました。
当時の体制では1日に2~3ヵ所の工事現場を回るのが限界。しかし、この工事のスケジュール通りに進めるには1日5~6ヵ所を回ることが求められ、さらには協力業者も増やす必要がありました。もちろん、それらを管理する体制の整備も必要です。
当社が次のステージに成長するためにも、私はなんとかしてやり繰りする覚悟でこの案件を受けたかったのですが、社長はそうではありませんでした。やはり「信用が第一」と。いわゆる 発注者、元請け、下請けの信頼関係が何より重要 ですので、それを崩すことは絶対に避けなければなりません。
喧々諤々(けんけんがくがく)あった末、最終的に「プロジェクト管理を担当する私が“なんとかする”」という条件で決着しました。今まで通りのやり方では破たんする、プロジェクトは失敗するということだけは、社内の共通認識としてありましたね。
「施工させていただく」と回答してからは、いよいよ後に引けません。背水の陣と言いますか、やるしかなくなりました。
――具体的にどのような部分が課題だったのでしょうか?
岸: この案件を進める上では、以下の2つの体制を整えることが必要でした。
1.協力業者をこれまでの2~3倍に拡大し、安定的に1日に5~6件の現場を回ることができる。
2.各現場で起こるトラブルを円滑に処理できる。
まずは、協力業者の拡大。これはとにかく探すしかないのですが、業者が増えればその分やり取りも煩雑になります。ここまでを含めて解決しなくてはなりません。
では、 やり取りの煩雑さの原因は何か?これは「電話」 でした。当時、回線工事現場の担当者とのやり取りは、基本的にすべて電話。「今日はここに行ってほしい」「次はこの工事をお願いしたい」「(事務所にある)設計図を探してほしい」「指示の内容が変わった…」など。まず、この“電話”をなんとかできないか?と考えました。指示内容の変更は、毎日必ず数回ありましたが、その度に電話をしていたんですよね。
そしてトラブル処理。もちろんトラブルが発生しないことがベストなのですが…そうはいっても 起こるものは起こります。 ただその処理が問題で、連絡や状況説明がまた“電話”だったのです。電話で説明されても状況が正確にわかりません。結局、「ちょっと現場行ってきまーす!」と私を含め、事務所から管理者などが飛び出して行っていました。
また、「現場の写真を撮ってきて!」と伝えても、見たい場所が撮れておらず二度手間になったり…。こういったトラブル処理を円滑にしないと、1日に5~6件は絶対に無理。さらには、工事対象は学校ですので、いつも以上にしっかりした説明や対応が求められることが想定されました。
学校へのWi-Fi設置工事の様子
――どう解決したのでしょうか?
岸: まず最初に、関係性がよくスムーズに仕事ができている協力業者とのやり取りを横展開してみる、ということが脳裏をかすめました。そういった方々とは個人的にLINEでやり取りしていましたので、すべてのやり取りをLINEに……という形です。しかしすべての協力業者に「プライベートのLINE教えてください」「使っていなければ始めてください」とは言えません。そこで、LINEのビジネス版という「LINE WORKS」の導入テストをしてみることにしたのです。
私としては以前、他社に出向していた際にコミュニケーションツールとしてCisco WebexやSlackなどを使っていたので、それらも選択肢としては考えました。しかしこれらをいきなり、ITに縁遠い当社の社員や協力業者に「使ってください!」とお願いしても、まったく未知なるものに見えるはずですし、また機能が豊富すぎることなどもあり、導入のハードルは高いと思いました。
何より 「使われなければ意味がない」 ので、現場や取引先のメンバーにとっても心理的なハードルが低いこと、また基本的には連絡用なので、実際に使い方がシンプルであること。こういった点が重要でした。
――LINE WORKSの導入テストの結果はいかがでしたか?
岸: 「ダメならやめればいい」という気持ちで一ヵ月ほど試してみた結果、まさに「業務用LINE」という感覚で普通にみんなで使うことができ、効率化につながることが確認できました。
まず、 状況確認や連絡が圧倒的に早くなりました。 現場の工事担当者が、施工箇所で悩んで事務所に相談するとします。悩みの種だった電話でのやりとりが、「写真を撮って送ってもらうだけ」。これだけでも、工事のスピードは圧倒的に上がります。さらには、ビデオ通話を使って直接現場の映像で確認することもできます。
また、LINE WORKSだとファイルデータもやりとりできるので、事務所内のPCにあるデータの確認を依頼するにしても、事務所のスタッフがそれをLINE WORKSに張り付けるだけ。紙の資料であれば、同じく写真を撮って送るだけです。
LINE WORKSはパソコンとスマートフォンで使用できる。スマートフォンのほうが返信が早いことも。
そしてもう一つ、 「相手の時間を奪う」ことが減りました。 電話をかける側からすると、つながらない間はただ作業が止まってしまうだけの時間になります。
現場の作業員は「ゆっくり電話する時間はなかなか確保できない」というのが実際のところです。一方で、受ける側にとっても突然自分の時間が奪われてしまい、煩わしさにつながるケースがあります。それが「要件があれば(LINE WORKSに)入れておけば良い」という形で、いつの間にか意識が変わりました。わからないことがあればいったん質問を投げて、回答を待っている間に他の作業を進めてしまいます。 お互いのロスがなくなり「ラクになった」と言ってもらえました。
業務連絡やトラブル時の説明も写真や画像でスムーズに正確に伝わるように。
――その後、様々なコミュニケーションでLINE WORKSを横展開していくのですね。
岸: はい。通信工事に合わせて必要な「警備業」を新規事業としてスタートした際も、業務連絡の手段としてLINE WORKSを活用しました。社外では、主要パートナーである3社と、すべてLINE WORKSでつながっています。さらに「一人親方」、いわゆる個人で工事を請け負っていただける自営業者様30名ほどの方とも、すべてLINE WORKSでやり取りしています。
社内連絡/メール/データ/カレンダーを一元管理。管理者の負担が大きく減少
岸: 当初はLINEのようなトークを使った社内のやり取りから使い始めましたが、今では当社の業務・コミュニケーションの基幹として機能しています。 例えば日報。以前は事務所に戻って紙で提出していたものをLINE WORKSでの提出に変えました。 日報を出すためだけに事務所に立ち寄るという無駄がなくなり、それだけでも残業時間は1日30分~1時間ほど削減 できているのではないでしょうか?画像の投稿ができるので、日報としての精度も向上しました。
以前使われていた日報の束。提出、確認するために出社することもあった。今はスマートフォンから日報を出せる。
また、以前は事務所内のPCやUSB経由でしか見られなかったデータをLINE WORKSのDrive(クラウドストレージ)に移行しました。現場の作業員からすれば、わざわざ事務所に足を運ぶケースが激減しています。施行当日に図面が変わる、というケースがあれば、以前はそれを紙で届けたりしていましたが、作業員が現場でスマホからファイルにアクセスできるようになり、そういったこともなくなりましたね。
予定管理もLINE WORKS内のカレンダーで統一。以前はGoogleカレンダーやDropboxを使っていましたが、 「社内連絡・外部とのメール・データ共有・カレンダー」この4つが1つのツールで完結してしまう ことのメリットは、とても大きかったです。
これらをLINE WORKSでまとめることで、会社としては 「管理が圧倒的に楽」 になりました。複数のサービスのアカウント管理から解放され、社員やパートナーの入れ替わりの際にもLINE WORKSのIDの発行・削除だけですべての情報管理が済むので、圧倒的にスムーズです。
一方で 社員や協力業者は「迷わない」 。使い方の質問もほとんどありません。そもそもシンプルですし、誰かに聞けば誰かが教えてくれます。マニュアルは導入当初にLINEと異なる点に関するかんたんなものを作りましたが、今ではほとんど使いませんね。
最近では、社員の「経費精算」もLINE WORKSに移行しました。以前は経費精算の書類を手書きで書き、領収書を提出するために出社していましたが、今は領収書の写真を撮影して、そのままLINE WORKSで経理担当者に送るだけです。社外から、スマートフォンで完結してしまいます。
※編集部注:LINE WORKS上位プランにはメールや大容量のDrive機能がつく。圭電工業では、本部は上位プラン、社外パートナーはトーク中心のライトプランやフリープランで運用している。
出社は減ったが、社員どうしの雑談は増え、空気は明るく
――1ツールで完結するメリットは大きいですね。スピード感や管理以外にはどんなメリットがありましたか?
岸: 警備業は2019年3月から初めた事業ですが、電気・通信工事のアカウントでの LINE WORKS運用があったからこそ立ち上げられた事業 とも言えます。
もともと警備業への進出は、前々からお声がけをいただいていました。しかし、実際の現場管理を見てみると、事務の方は朝6時に会社に来て当日の勤務開始の点呼を電話で確認。さらには終業も、現場の勤務終了の電話があるまでは定時を過ぎていてもずっと残っていました。
このやり方ではなかなか難しいな……と思い手法を模索していたところ、現場の方の管理をLINE WORKSで行えば良いと気づきました。事務スタッフがわざわざ出社することなく管理できそうだったので、事業をスタートさせました。
協力業者との連絡には以前はメールや電話を使っていましたが、こちらも圧倒的にスムーズになりました。例えば、「〇月〇日に△△の現場」という案件の概要を、当社側からカレンダーに入力するだけです。問題なければ、そのまま案件が進行します。製品の型番確認など、正確性が重要な内容でも、以前はメールがひと手間であることから、つい電話でやり取りすることがありました。しかし今はそれがありません。 メールより、電話より、LINE WORKSでのやり取りのほうが手軽で、そして正確 なんです。
ホワイトボードや、以前は手渡ししていた紙のシフト管理、データ管理もLINE WORKSに移行。スマートフォンでいつでも確認できる。
お付き合いいただける協力会社をどれだけ増やせるか、同業他社に先駆けて新しい技術が必要になる工事を請け負えるようになるかは、当社の成長に関わる永続的な課題です。今は、この運用の仕組みを横展開すれば、社内のリソースを最小限に抑えながら事業を拡大していける、というイメージができています。
――その他、貴社の中で変化したことはありますか?
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