連載:第1回 [LINE WORKS×BizHint]変わる、中小企業の働き方
社長の限界が売上の限界だった。メールをやめて売上が2倍になった話
電子機器、電気製品の制御に不可欠な「回路基板」。高難度のものになれば、設計・製造できる技術者は一握りです。そういった案件を手がけ、大手メーカーのものづくりを支えているのが東京・葛飾区のエンジニアリング会社、有限会社ケイ・ピー・ディ。同社は高い技術力がありながらも長年「社長の限界=売上の限界」という体質から抜け出せずにいました。しかしあることをきっかけに、これを脱却。売上が2倍になるまでの変化が起きました。一体何があったのか?同社の加藤木一明社長に、その経緯を聞きました。
有限会社ケイ・ピー・ディ
代表取締役 加藤木 一明さん
2004年に有限会社ケイ・ピー・ディを創業。スマートフォンからロケットまで、高精度なプリント基板の企画・設計・開発を手掛ける。ものづくりを通じてより良い未来をつくるために、様々な活動に取り組んでいる。
社長の限界=売上の限界、という構造
―― 貴社の創業の経緯と事業内容を教えてください。
加藤木一明さん(以下、加藤木): 当社は1999年に、個人事業として創業しました。それ以前、私は「基板」の設計会社にいたのですが、その会社がつぶれてしまったことがきっかけとなり、当時のお取引先などから仕事を請け負う形で独立し、2004年に法人化しました。
オーディオや電気製品などに使う基板について大手電機メーカーから相談を受け、量産を考慮した基板設計や、評価用基板などの設計・製造・部品実装などを手掛けています。
―― 創業後、順調だったのでしょうか?
加藤木: おかげさまである程度安定して案件はいただいてきました。ニッチな分野ということもありますが、基本的には口コミやお客様からのご紹介で広がっていく形ですね。同業の仲間を社員として迎え入れる形で体制を拡充し、現在は社員5名に加え、外部パートナー数名で運営しています。
ただ、リーマンショック、東日本大震災やタイの洪水の時はきつかったですね。本当に案件がなく、 売上が9割減ってしまいました…。
―― 売上が9割減…どうされたのでしょう?
加藤木: もちろんいろいろな所に声をかけて仕事を探すのですが、そもそもお客様側にも案件がありません。正直、耐え忍ぶしかなかったですね。なんとか活路を見出したいと「基板アート」など、様々なチャレンジをしました。なかなかうまくいかなかった上に、会社も苦しい状況でしたので、妻からは正直……怪訝な目で見られていたかもしれません(笑)。
ただ私自身、 新しいチャレンジは好きなので、気持ち的には前向き に取り組んでいました。
会社がピンチの際に手掛けた「基板アート」の一例。基板を使ってアクセサリーや小物を製作
―― そういった困難な時期を乗り超えて、会社として成長軌道に乗っていくわけですね。
加藤木: 乗り越えはしたのですが、「成長」という意味では長年課題がありました。
当社のビジネスモデルでは、「いくつのプロジェクトを並行して回せるか?」が売上に大きく寄与します。金額の大小はありますが、並行して回せるプロジェクトが3本から6本になれば、単純に売上が2倍になるようなイメージです。
これが 長年、3本程度からまったく増やせなかった のです。
現在の体制ではまず、私がお客様との窓口として対応し案件を見極めます。社員は、基板設計の各工程をそれぞれが受け持っていて、私からの相談や指示に対してその難易度や実現可否、見積もりの精査、実務を行います。
つまり、 「私がどれだけの案件に対応できるか」 が、進められるプロジェクトの本数に大きく関係してくるのです。忙しい日々は続くものの、売上は伸びていかない……。つまりは、私が対応できる案件数が増やせていない。長年この悩みを抱えていました。
社員全員リモートワーク。自身が捌けるメールの量が限界に
―― 対応できる案件が増やせない……原因は何だったのでしょうか?
とてもシンプルに言うと、 私が「メールに忙殺されていた」 ことです。これがいよいよ捌けなくなって、この問題に真正面から向き合うことになりました。
―― 何があったのでしょうか?
加藤木: (ちょっと話は遠回りになるのですが)もともとのオフィスが手狭だったこともあり、2016年に、近隣にあった東京理科大学内にもオフィスを構えられました。大学のオフィスへの入居は、大学との共同研究の可能性が広がることなどもあり、私がぜひ実現したかったことの1つでした。
ただ、これもすんなりはいかず、入居の応募はするもののなかなかOKはいただけませんでした……。
しかしある時、地元のイベントで「基板アート」を展示していたところ、そこでお声がけいただいた方からご紹介をいただく形で話がトントン拍子で進み、大学内のオフィスへの入居が決まりました。
きっかけは、売上が急減した時にがむしゃらに取り組んでいた基板アート。まさかこんな形で繋がって来るとは夢にも思いませんでしたね。本当にうれしかったです。
―― それが「メールに忙殺」とどう関係してくるのでしょうか?
加藤木: 大学に入居後、重大なことに気がつきました。 入居した部屋はハンダごての使用が禁止されていた のです。基板を作るにあたって、ハンダごてを使ってのハンダ付けは必須……。
―― それは……、一大事ですね。
加藤木: はい。ハンダ付けは電子機器開発の作業では必須です。仕方がないので、ハンダ付けは「社員の自宅」でやってもらうことにしました。それに合わせて、「全社員リモートワークOK」という体制に切り替えました。
―― リモートワーク、不安はありませんでしたか?
加藤木: ネットが繋がってさえいれば仕事はできる、と判断しました。「まあ、やってみよう。いけるだろう」というノリですね。それよりも、オフィスにいてハンダ付けできないほうが当社としては支障が出る、という判断もありました。
結果、想像以上に社員と会わなくなりましたね(笑)。今となっては、会う理由は「最近会ってないから」くらいになってしまいました。
ただここで問題が起きます。社内メールの量が増えたのです。
同社は今や完全にリモートワーク。今では「最近会ってないからそろそろ会う?(笑)」で集まるような形に
―― メールが捌ききれなくなるわけですね?
加藤木: はい。リモートワークにすれば、当然社内メールの量は増えます。お客様も含め、それまでのメール量も多かったとは思いますが、 「社内メール」が如実に増えました。 本当に、捌ききれなくなるほどに。しかし当時は、「自分の処理能力が足りない」「最後は体力勝負」だと本気で考えていました。
今思えば、まったく非効率な仕事の仕方、考え方だったと思います。
―― それが変わる転機があったのでしょうか?
加藤木: 一年が終わると会計士さんから決算報告書が送られてきます。私にとっては成績表のようなものです。それを見る度に「もっと伸ばしたいなぁ……」という気持ちになります。しかし、多忙を極めた一年を経ても、その成績は変わっていない……。
「自分の限界はここなのかな?」「もう成長は諦めなきゃいけないのかな?」。 目の前の仕事をこなしながら、そういった言葉が脳裏をよぎりました。
しかし、前に進まなくてはいけません。進みたかった。
一度立ち止まって、振り返ってみたのです。 「なぜ自分はこんなに忙しいのか?」「なぜ売上が伸びないのか?」「どうやったらもっと自分の時間を作れるのか?」と。
――そこで、メールと向き合うわけですね。
加藤木: はい。本気でこれを変えなくては、自分の時間はできない。プロジェクトをもう1本回せない。売上は伸びない。
「お客様とのやり取りをできる人材の採用」も考えましたが、そのような方はすぐには見つかりませんし、当社に来ていただけるとも限りません。
そして 「そうだ、メールやめよう!」 と思い至りました。コミュニケーションツールを抜本的に変えるチャレンジです。
幸い、私自身こういった新しい取り組みには前向きでしたので「とりあえずやってみよう!」という心づもりで進めました。
ツール選びのポイントは「社員から質問が来なかった」から
――コミュニケーションツールの選定はどのように進められたのでしょうか?
加藤木: しっくりくるまでいろいろなものを使ってみる形ですね。社員に「とりあえずこれ使ってみて!」と依頼して、フィードバックを受けながら進めました。
まず最初は、LINEやFacebookなどのSNS。これはプライベートで使用するものでもあり、社員から反対が挙がりました。そこで、ビジネス向けのコミュニケーションツールを探すことにしました。
その中から、取引先に紹介されたビジネスチャットツールをテスト。私個人の所感として、やり取りが追いかけにくく、このまま長く使っても便利になるイメージが湧ききませんでした。このあたりは相性もありますよね。
ビジネスチャットツールはもう1つ試しましたが、こちらは社員から私への「使い方の質問」が相次ぎました。結果、私は使い方の説明に忙殺される形になってしまい本末転倒。採用見送り。
そしてその後、LINE WORKSをテストしたところ、結果は一目瞭然でした。 社員から私に質問がまったく来なかった のです。もちろん、コミュニケーションはしっかり取れている。……これはいけそうだな、と感じました。特に「採用!」と宣言することもなく、すっと定着して今に至ります。
LINE WORKS導入の一番の理由は「社員から使い方の質問が来なかった」こと。
――導入してみて、いかがでしょうか?
加藤木: 何より、LINEの使用感で気軽にぱぱっと投稿できるところが良いですね。メールであれば、伝えたいポイント以外の前後の文章にも気を遣ってしまいますが、それがない。過去の話題を遡るのも簡単。それでいて、社員全員に共有が図れている。
体感できるレベルで「楽になる」 のがわかりました。長年の悩みに、やっと光を見出せたような感覚です。
「たった一言が言える」ことに、とてつもない価値がある
―― ご自身の時間にも余裕が生まれたわけですね?
加藤木: はい。社内のコミュニケーションがスムーズになったことで、私自身の時間が確実に増えました。さらに、お客様にも「LINE WORKSでやり取りしませんか?」と働きかけことで、どんどんコミュニケーションがスムーズになっていきました。メールでかしこまったやり取りをするより、圧倒的に話が早いです。図面の確認や修正も画像を貼ったり、写真を撮って送るだけ。
画像の貼り付けもかんたん。ちょっとしたことでも、一言で気軽に聞けることが大きなメリット
―― 一番のメリットは何でしょうか?
加藤木: これはちょっと説明しづらいのですが、プロジェクトを進めているときに「あれ?ちょっと先方と認識ズレてるかな?」ということが少なからずあると思います。メールのやり取りであれば無意識のうちに(まあ、大丈夫だろう)と、お互いに都合がいい期待をして後から大変なことになる、といったケース。LINE WORKSのやり取りでは、これが本当に減りました。
交わされる会話がシンプルだからこそ、ニュアンスの違和感がわかりますし、さらにそれを「ここちょっとズレてますかね?」「画像送ってもらえますか?」と聞きやすい。その 「たった一言」を言えるのがとても大きい。これは本当に、我々にとって、とてつもない価値だと思いますよ。
「ちょっと確認する」「気軽に質問する」。たったこれだけのことができなくて、後々大変なことになるプロジェクトは多々あります。まさに、言うは易し行うは難しです。
LINE WORKSを使いこなして、並行して回せるプロジェクトが4つになった時、ようやく事業が成長フェーズに入ったことを実感できました。 この取り組みは間違っていなかった 、と。しみじみと実感しました。
使いこなすほど、売上が伸びていく
―― その他、変化したことはありますか?
加藤木: たとえばLINE WORKSでは「LINE」ユーザーとのやり取りができます。なので、初対面の方でも了解をいただければ、相手のLINEとコミュニケーションができてしまいます。名刺交換後、メールでやり取りをするとやはり文面に気を遣い、相応の距離感も生まれますが、LINEであれば双方気軽にやり取りできます。
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