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連載:第69回 IT・SaaSとの付き合い方

サーベイのスコアより「対話そのもの」が大事だった。エンゲージメント施策、失敗した3つの理由

BizHint 編集部 2025年12月15日(月)掲載
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社員のエンゲージメントを可視化し高める―という取り組みにチャレンジするも「現場の軋轢を生んでしまった」「アプローチが自社に合っていなかった」と中断。「失敗した3つの理由」を取りまとめ、再チャレンジを進めているのが日本システム技術株式会社(JAST)です。それはサーベイのスコアに振り回されず、「自社にとってエンゲージが高い状態とは?」「そこに辿り着くには?」を自ら考え対話・議論することを重視する組織文化に原点回帰する活動でもありました。失敗から学び「目指しているものは間違っていない」と歩みを進める同社の取り組みについて伺いました。

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(お話を伺った方)
日本システム技術株式会社(JAST)
 総務部 主任 石田りえ さん
 人事部 部長 平尾 康久 さん
 (大阪・情報通信業・従業員数 単体1,230名(連結1,679名))  


※本記事は取材時点(2025年10月)の情報に基づいて制作しております。

「社員満足度を見える化したい」からのスタート

――貴社がエンゲージメント施策に取り組むようになった背景について教えてください。

石田りえさん(以下、石田): 私は現在、社内のエンゲージメント向上の事務局を担当していますが、きっかけは前任者の提案からでした。

2018年頃、総務部で社内イベントの運営を担当していた社員が、 「自分の仕事が本当に社員満足度に寄与しているのか、可視化したい」と考えました。 当時、社内イベントの後にアンケートは取っていたものの、それで本当に社員の満足度を測れているのか疑問を抱いた…と。

ただ「社員満足度」という言葉は、「会社が与えるもの」といったニュアンスが強く、当人のイメージとは違ったようです。そこから、 より主体的なイメージのある「エンゲージメント」という考え方に出会い、経営陣に上申。「エンゲージメントを可視化し、高める施策」へのチャレンジがスタートしました。

当社には「やってみたい」という思いに対して「やってみよう!」と背中を押す風土があります。「エンゲージメントの可視化、向上」に取り組むきっかけとしては、会社として大きな組織課題の解決を目指すというよりは、その社員の興味・チャレンジから始まったというほうが正確だったか思います。

日本システム技術株式会社 総務部 主任 石田りえ さん

「細かすぎる採点」と「管理職への負荷」が生んだ疲弊

――エンゲージメントの可視化と向上、どのように進んでいったのでしょうか?

石田: 当時は社内にまったく知見がない状態でしたので、プロ目線のコンサルティングや、導入実績、他社比較が可能かどうかを重視してサービス選定が行われ、A社とのお付き合いが始まりました。2019年のことです。

実際、A社はサーベイを実施するだけでなく、経営層への説明や細かいレポートなど、手厚いコンサルティングを提供してくださいました。

しかし、サーベイやエンゲージメント施策を進めるうちに、 それが必ずしも当社に合っているとは言えないのではないか?という状態になっていきました。

レポートは項目数が100以上あり、細かく点数がつけられていました。当社の社風として、比較的真面目という所があるのですが、そうして細かく採点されていると、どうしても「点数」に目がいってしまうのです。

サーベイ結果の見方として「点数がすべてではない」と頭ではわかっていながらも、管理職にとってはそれが「自分の部署の通知表」のように捉えられてしまい、点数の低さに落ち込んでしまうケースもありました。 周知の仕方を含め、本意ではない認識が広まってしまいました。

当時の運用は、総務をはじめとした数名のメンバーで組織した事務局で行っていました。 サーベイの回答率が高く多くの社員が協力してくれた一方で、現場の責任者への負担が想定外に重かった…というのが正直なところでした。

――平尾さんに伺います。管理職の立場で当時を振り返られて、負担はいかがでしたか?

平尾康久さん(以下、平尾): たしかに大変でしたね。

サーベイの結果が届くと、その分析と改善施策の立案までが「管理職の宿題」のようになっていました。目指すものは間違っていないと思うものの、日常業務も忙しい中で、部門を預かる身としてはなかなかの負荷になっていました。

日本システム技術株式会社 人事部 部長 平尾 康久 さん

経営層の決断で中止。「自社に合ってない」

――そうした状況を前に、どのように対応されたのでしょうか?

石田: 開始から2年ほどが経った2021年、経営層から中止の決断が下されました。事務局と現場責任者との間に壁ができてしまい、これ以上続けても当初の目的であるエンゲージメント向上には繋がらない、という判断でした。そして翌年、A社との契約を解除しました。

当時の事務局や現場からすると、これはある意味、助け舟のようなものでもありました。みんな真面目なので、一度「やる」と決めたら一生懸命やり続けてしまうところがあるといいますか…。ですので、 当時の事務局としてはこの中止をあまり悲観的には捉えていませんでした。

「やろうとしていることは間違っていない」「やり方が当社に合っていなかった」「うまくいかなかった理由は、自分たちの努力不足ではない」そして「それらがわかったことが収穫」と。

うまくいかなかった3つの理由

――中止後、エンゲージメント施策はどうなったのでしょうか?

石田: しばらくの休止期間を経て、2024年から再始動することになるのですが、休止期間に「うまくいかなかった理由」を振り返ってまとめました。その反省は、再始動の際に大変役に立ちました。

当社がうまくいかなかった理由は、大きく以下の3つです。

1.責任者の負担
2.スコア・分析・対策の重要度
3.「エンゲージメントが高い組織」の定義

それぞれ相関しているのですが、まず「責任者の負担」について。これは先ほどお話した通りなのですが、なぜそれが起こっていたのか?というと「スコア・分析・対策の重要度」が関係してきます。

サーベイの結果は詳細に分析され部門の責任者に届くのですが、A社のやり方に倣うと、責任者は改善策を立案・実行し、中長期的にスコアの改善を目指していかなければなりません。

またその改善策については、いわゆるマニュアルのような形で例示してあり、その中のどれかを選ぶような形のサポートがなされます。

こうした一連の工程に対して真面目に、また愚直に取り組むことは「責任者の負担」となってのしかかっていました。

そしてその一方で、そのような改善活動を通じて目指す「エンゲージメントが高い組織」とは、どのような定義がなされているのか?どのようなスコアの組織なのか? この定義が、「当社には当てはまらなかった」と結論付けました。

きっとその定義はA社が様々な企業・組織の例から導出したもので、おそらく多くの組織で当てはまるものではあったのだとは思いますが、 当社の現場、特に責任者としては「枠にはめられている感」が強かったのです。

知識量・経験値が豊富な担当者との出会い

――そうした反省を踏まえての再始動。あらためて教えてください。

石田: 再始動は2024年初頭。そこから私が事務局を担当する形になりました。

時代の変化はもちろん、前任者の取り組みを経て、社内そして経営層にも「エンゲージメントは重要」という意識は根付いていました。 そして経営会議で前回の反省と、それを踏まえた取り組みにすることを説明し、再始動の承認を得ました。

「エンゲージメントが重要」という共通認識・前提条件があったのは、それこそ前任者が天井を突き破ってくれたおかげでもあると思います。

そうして、あらためてサポートしていただくパートナー・サービス探しが始まります。WEB検索と展示会で情報収集し、最終的には「Wevox」「ラフールサーベイ」「サンクスギフト」の3つを比較。トライアルを経て、Wevoxを採用することに決めました。

――Wevoxを選ばれた理由について教えてください。

石田: 他のサービスも含めトライアルをしたのですが、内心では「Wevoxさんしかない」という思いがありました。商談でお話を伺っている時から、担当者の知見・姿勢に感銘を受けていたからです。

当社が以前使っていたA社のサービスについてもよくご存知で、そのメリット・デメリット、また当社が陥った状況についても把握されていました。その上で、当社の社風や先述の3つの失敗理由を踏まえたご提案をいただき、親身になって伴走いただけると感じました。 とにかく知識量・ご経験がすごくて、そこへの信頼感が大きかったですね。

Wevoxのスタイルは「サーベイの結果、こういう分析レポートが出たので、こういう施策を進めてください」というものではなく、 『結果を踏まえて、自分たちがどうするかを考え、議論、行動する』という部分にフォーカスされていました。これは「自分で考えて行動する」という当社の文化にもマッチすると思えました。

また、サーベイの設問も少ないので、現場や責任者の心理として、以前のように重くならないという期待値はありました。

社内稟議ではこれらの点を説明し「以前と同じ轍は踏まない」と宣言。承認を得ました。

――比較をする中で、他のサービスがしっくりこなかった部分はありますか?

石田: これはそもそものサービス内容・提供価値の違いでもあると思いますが、1つのサービスはウェルビーイングが中心で、ストレスチェックなど多くの機能を備えていました。

しかしその分、サーベイの設問数が多く現場の負担になり得る…、つまり当社としては同じ過ちを繰り返す可能性を危惧し、見送りました。

再スタートではなく、まったく新しい取り組みとしてリリース

――Wevoxでのエンゲージメントサーベイ。リスタートはどのように?

石田: リスタートは2024年4月でした。その旨、全社へアナウンスし、5月の連休明けに最初のサーベイを実施しました。

ただ、アナウンスの文章は何度も練り直しました。重すぎてもダメだし、軽すぎてもダメ…。管理職の中には「また負担が増えるのか…」という感想を持つ方がいるかもしれない…という懸念が頭の片隅にありましたので。

ですので 「管理職だけががんばるものではありません」「一人ひとりが自分事化してほしい」ということを明記しました。

また「再スタート」という言葉を使うかどうかも迷いましたが、結論、使わないと決めました。事務局で話し合い、過去のトラウマが思い出されないようあたかも「まったく新しい取り組みです!」という建て付けに。「過去はなかったことにしよう!」と割り切りました。

――結果はいかがでしたか?

石田: 初回の回答率は94%(休職者含む)と、ほとんどの方が参加してくれて本当に嬉しかったですね。

実は、以前のサーベイの終了は社内にはアナウンスしていませんでした。いわゆる自然消滅という形で、サーベイがなくなったことに気付いていない人もいました。

しかし一部の部署では、サーベイがなくなったことから独自でサーベイを作って運用している所もありました。思いがけず「再開を待ってたよ!」と言葉をかけてもらい「しっかりがんばろう!」と決意を新たにしました。

「最小限のデータと、それをもとにした対話」を重視する

――サーベイ後のアプローチ。Wevoxではどのような形なのでしょうか?

石田: Wevoxでは、小項目26個のスコアと分布が出るだけで、「なぜこうなったか?」「どういう原因が考えられるか?」といった分析は書いてありません。もちろん「この組織の強みや弱み」「これをやりましょう」といったこともありません。

「その結果を見て、メンバーで話し合う」という運用です。

あえて以前の運用との比較をするならば、以前は「詳細な分析と施策の提示・実行」 Wevoxは「最小限のデータと、それをもとにした対話」というイメージです。「エンゲージメントを可視化して高める」というゴールは同じでも、アプローチはまったく違いますね。

サーベイは年3回(5月、9月、2月)、2025年10月時点で計5回実施しました。回答率は90%以上をキープしていて、結果のスコアもおおむね上昇傾向ですが、Wevox側からはスコアに対して何も言われません(笑)。

当社としても、 「結果を見て各現場が自ら考え議論すること」を大事にしていますので、同じくスコアについて事務局からは何も言いません。

ラジオ体操が生んだ、思いがけない会話の機会

――サーベイを機に生まれた具体的な変化はありますか?

平尾: 面白いと思ったのは「ラジオ体操」の取り組みとその効果でしょうか。

ある部署で「健康のスコアが低い」という結果が出ました。そこで若手社員が「みんなでラジオ体操をやりましょう」と提案したようです。ラジオ体操は週2回実施しているのですが、最初は人が少なかったものの、少しずつ人数が増えていきました。

このラジオ体操で健康スコアが上がったことはもちろん喜ばしいのですが、それ以外に思わぬ効果がもたらされました。ラジオ体操は執務スペースから少し離れた会議室で行っていたのですが、ラジオ体操の際や、会議室に向かって歩いていく中でもちょっとした会話が生まれ、 普段は接点がない社員どうしの相互理解が深まりました。

また「仕事量」のスコアに着目して「定時退社日は定時後にTeamsチャットを送らない」というルールを設けた部署もあります。特別なことがない限り必ず帰ることを徹底した部署もありましたし、全員の有給取得率を見える化して「あなた休んでないから休んだら?」といった声かけをしやすくした部署もあります。

各部署の取り組みは、社内掲示板で全社展開、共有しているのですが、 どの取り組みもサーベイの結果をきっかけに、各部署・各人が話し合って生まれているという点が、とても当社らしいと感じますね。

――運用で工夫されている点はありますか?

石田: エンゲージメントの見える化、向上の推進役として「JAST エンゲージメント アカデミー」を組織し、メンバーには組織内での声掛けや議論の提起を担ってもらっています。

メンバーは、各組織の次世代リーダー層です。前回は管理職への負担が大きすぎて失敗したので、その教訓を活かした形でもあります。「各組織を引っ張っていけるような人に担当してほしい」と依頼したので、巻き込みがうまく機能しています。

――そういった運用は、どこかでヒントを得られたのでしょうか?

石田: 「どういうメンバーなら組織全体を巻き込めるか」は事務局で考えましたが、「巻き込む」というキーワードやその手法は、Wevox(アトラエ社)が運営している他社との交流の場「Engagement Run! Academy」でヒントを得ました。

他社の事例を聞いて「使える!」と思った手法は、持ち帰ってすぐに実践しています。

知識・経験に裏打ちされた壁打ち相手

――Wevox(アトラエ社)の担当者との関わり方について教えてください。

石田: 例えば、「こういうことで悩んでいます」と相談した場合に、様々な企業や施策の例をもとにアドバイスをいただいたり、 いわゆる壁打ち相手になってくれるような関係性でしょうか。前向きな姿勢にはいつも助けられています。

私が「アカデミーのメンバーの士気を高めたい」とちらっと相談した際には、すぐに当社と似た悩みを抱える他社の担当者と繋いでくれたこともありました。「30分でもいいのでお話ししましょう」と。

サーベイ結果への向き合い方にも通じるところがありますが、当社が試行錯誤するのを隣で見守り、伴走してくれるようなイメージですね。

エンゲージメント周りの施策を進めるにあたっては、どうしても社内を見ることが多く、視野も狭くなります。「これって本当に価値があるのかな?」と迷うこともしばしばです。でもそこで、 Wevoxの担当者や外部の方と話すことで方向性を確認できたり、客観的に自社の振り返りができたりするのは、安心感につながる大きな価値だと感じます。

――今後について教えてください。

石田:直近の目標としては、全社員への「自分ごと化」の浸透ですね。 まだまだ巻き込めていない部分はありますので。

様々な人・部署が、サーベイの振り返りと改善の議論・行動を自律的に起こすようになると、「他所はいろいろやってるらしい」という空気が生まれ、全社に広がるサイクルが回り出すと思っています。そしてそれが当たり前になった時に、「文化」として定着する。

当社は「人をつくる会社」を掲げています。毎回のエンゲージメントサーベイを行うこと、そしてその結果を見て自ら考え議論することは、都度の活動は小さいながらも、確実にそこにつながっています。

「自分の働く環境を少しでも良くするための思考と行動」。これを当社の文化にまで高め、浸透させていきたいですね。

(撮影:松本 岳治)

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