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裁量労働制における残業代の考え方と計算方法を具体例を交えながら解説

BizHint 編集部 2019年5月20日(月)掲載
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裁量労働制とは、労働者が一定の就業時間に縛られることなく自由な時間に働くことができ、実労働時間ではなく労使間で定めた時間の労働があったものとみなす制度です。この制度を導入すれば、残業代の支払いがなくなると思われがちですが、実際にはそうではありません。この記事では裁量労働制における残業代の考え方とその計算方法について解説しています。

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裁量労働制について

裁量労働制における残業代の説明に入る前に、まずは裁量労働制がどのような制度であるのかを理解しておく必要があります。

簡単にまとめると、裁量労働制とは次のような制度になります。

  • 対象業務
    対象業務は、業務の遂行手段や時間配分の決定などに関して使用者(会社)が具体的な指示をすることが困難であるような専門業務に限定されており、すべての業務に適用できるわけではない。
  • 裁量労働制の種類
    対象業務別に「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類がある。
  • 導入要件
    導入にあたっては、労使協定の締結や労使委員会での決議、また、それらの労働基準監督署への届け出など様々な要件がある。
  • 導入効果
    対象労働者は自由な時間に働くことができ、実労働時間ではなくあらかじめ労使間で定めた時間(みなし労働時間)の労働があったものとみなす。

裁量労働制についての詳細は、以下の別記事でご確認ください。
【関連】裁量労働制とは?仕組みや対象業務、メリット・デメリット、残業代まで解説/BizHint


裁量労働制で残業代が発生するケース

裁量労働制を導入することで残業代を抑えることも可能ですが、実労働時間にかかわらない「みなし労働時間」を何時間に設定するか、また、対象労働者の労働状況によっては残業代が発生することがあります。

ここでは、裁量労働制においてどのような場合に残業代が発生するのかについて説明します。

なお、「残業代」と言えば、一般的には定時後などの時間外労働に対する割増賃金を指しますが、ここでは、深夜労働や休日労働に対する割増賃金もあわせて説明しています。

みなし労働時間を8時間超に設定する場合

みなし労働時間を1日の法定労働時間である8時間を超える時間に設定する場合には、実際に残業したかどうかにかかわらず、その超えた時間は時間外労働があったものとして割増賃金(割増賃金率25%以上)の支払いが必要になります。

例えば、みなし労働時間を9時間に設定すると、所定労働日(一般的には月曜日から金曜日)は毎日1時間分の割増賃金の支払いが必要になるということです。

※割増賃金率について詳しくは以下の資料でご確認ください。
【参考】しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編/東京労働局

深夜に労働があった場合

裁量労働制でも深夜(22時~5時)に労働があった場合には、深夜労働に対する割増賃金(割増賃金率25%以上)の支払いが必要になります。

なお、裁量労働制の適用を受けない通常の労働者(深夜専業の者を除く。)であれば、深夜労働は時間外労働でもあるため、深夜労働+時間外労働の割増賃金が必要になります。 一方、裁量労働制では、所定労働日に深夜労働があったとしてもみなし労働時間が適用されているため時間外労働にはなりません。このため、深夜労働の割増賃金のみ支払うことになります。

休日(法定休日)に労働があった場合

裁量労働制でも、労働基準法が求める週1回の「法定休日」(一般的には日曜日)に労働があった場合には、通常の労働者と同様に休日労働に対する割増賃金(割増賃金率35%以上)の支払いが必要になります。

所定休日に労働があった場合

「所定休日」とは、上記の法定休日とは別に会社が設定した休日(一般的には土曜日)のことを言います。この日に労働があっても休日労働の割増賃金を支払う必要はありません。

ただし、所定労働日の合計労働時間(みなし労働時間×5日)と所定休日の労働時間を合算し、法定労働時間である「週40時間」を超えた場合には、時間外労働の割増賃金が発生します。

これは、みなし労働時間を8時間以上に設定しているか、8時間未満に設定しているかによって次のように整理できます。

  • みなし労働時間を8時間以上に設定している場合
    所定労働日だけで40時間以上(みなし労働時間×5日)の労働になるため、所定休日の労働はすべて時間外労働の割増賃金の支払いが必要
  • みなし労働時間を8時間未満に設定している場合
    所定労働日の合計労働時間(みなし労働時間×5日)と所定休日の労働時間を合算し、40時間までは通常の時間給が発生、40時間を超える時間は時間外労働の割増賃金の支払いが必要

所定休日へのみなし労働時間の適用

上記では、みなし労働時間を月曜日から金曜日などの所定労働日に適用していることを前提に説明していますが、労使協定などにより所定休日に適用することもできます。

ただし、この場合でも週の労働時間が40時間超となる場合には、上記と同様に時間外労働に対する割増賃金の支払いが必要になります。

「法定休日」や「所定休日」について詳しくは以下の別記事でご確認ください。
【関連】法定休日とは?所定休日との違い、振替休日と代休の関係、規定例まで解説/BizHint

裁量労働制における残業代の計算方法

みなし労働時間が8時間以下である場合と8時間超である場合の2つの例を挙げて、残業代の具体的な計算方法について説明します。

みなし労働時間が8時間以下である場合

以下の設定例で実際に計算してみます。

【社員A の労働条件】

  • 時間給:2,000円
  • みなし労働時間:7時間(所定休日には適用しない。)
  • 所定労働日:月曜日~金曜日
  • 所定休日:土曜日
  • 法定休日:日曜日
  • 時間外労働ほかの割増賃金率は法律で定める最低限度

【社員Aのある週の実労働時間】

  • 月曜日~金曜日:38時間(うち水曜日に深夜労働2時間あり)
  • 土曜日:6時間(深夜労働なし)
  • 日曜日:5時間(深夜労働なし)

1. 時間外労働に対する割増賃金の計算

まず、所定労働日である月曜日~金曜日については、みなし労働時間7時間が適用されているため、実労働時間にかかわらず時間外労働はない整理になります。

次に、所定休日である土曜日の時間外労働に対する割増賃金ですが、先に説明したとおり、この週の労働時間が40時間を超えるかどうかを確認して計算しなければなりません。

この週の労働時間は、所定労働日の合計労働時間である35時間(みなし労働時間7時間×5日)に土曜日の6時間を合算することで求められます。

よって、6時間のうち、40時間に達する5時間分までは通常の時間給、40時間を超える残り1時間分は時間外労働として計算します。

  • 2,000円×5時間×1.00=10,000円
  • 2,000円×1時間×1.25=2,500円
  • 10,000円+2,500円=12,500円

2. 深夜労働に対する割増賃金の計算

水曜日に2時間の深夜労働がありますので、この割増賃金を計算します。

  • 2,000円×2時間×0.25=1,000円

先に説明したとおり、みなし労働時間が適用されない通常の労働者と違って、所定労働日の深夜労働は時間外労働にならないため、割増賃金は深夜労働に対する割増賃金率だけで計算して通常の賃金に上乗せすることになります。

3. 法定休日に対する割増賃金の計算

日曜日に5時間の休日労働がありますので、この割増賃金を計算します。

  • 2,000円×5時間×1.35=13,500円

こちらは通常の労働者と同様の計算になります。

みなし労働時間が8時間超である場合

以下の設定例で実際に計算してみます。

【社員B の労働条件】

  • 時間給:3,000円
  • みなし労働時間:9時間(所定休日には適用しない。)
  • 所定労働日:月曜日~金曜日
  • 所定休日:土曜日
  • 法定休日:日曜日
  • 時間外労働ほかの割増賃金率は法律で定める最低限度

【社員Bのある週の実労働時間】

  • 月曜日~金曜日:48時間(深夜労働なし)
  • 土曜日:10時間(うち深夜労働2時間あり)
  • 日曜日:7時間(深夜労働なし)

1. 時間外労働に対する割増賃金の計算

まず、所定労働日である月曜日~金曜日については、みなし労働時間9時間が適用されているため、実労働時間にかかわらず毎日1時間の時間外労働に対する割増賃金を計算します。

  • 3,000円×1時間×5日×1.25=18,750円

次に、所定休日である土曜日の時間外労働に対する割増賃金ですが、最初の例のとおり、まずはこの週の労働時間を確認します。

この週の労働時間は、所定労働日の合計労働時間だけで45時間(みなし労働時間9時間×5日)であり、土曜日の10時間を合算するまでもなく40時間を超えてしまっています。

このため、土曜日の10時間についてはすべて時間外労働として計算します。(深夜労働2時間については次で計算します。)

  • 3,000円×10時間×1.25=37,500円

2. 深夜労働に対する割増賃金の計算

土曜日に2時間の深夜労働がありますので、この割増賃金を計算します。

  • 3,000円×2時間×0.25=1,500円

この深夜労働については時間外労働になりますが、その分は上記1で計算済みです。

3. 法定休日に対する割増賃金の計算

日曜日に7時間の休日労働がありますので、この割増賃金を計算します。

  • 3,000円×7時間×1.35=28,350円

まとめ

  • 裁量労働制でも、みなし労働時間を何時間に設定するかや対象労働者の労働状況によって、残業代の支払いが必要になる場合があります。
  • みなし労働時間を8時間超に設定する場合には、その超える時間は時間外労働としての割増賃金の支払いが必要です。
  • 法定休日の労働は、通常の労働者と同様に休日労働に対する割増賃金の支払いが必要になります。
  • 所定休日の労働は、週40時間を超えていなければ通常の賃金、超えていれば時間外労働に対する割増賃金の支払いが必要です。
  • 深夜労働も割増賃金の支払いが必要であるが、所定労働日の深夜労働については時間外労働ではないため、深夜労働に対する割増賃金の支払いだけで足ります。

<執筆者>
本田 勝志 社会保険労務士

関西大学 経済学部 経済学科 卒業。1996年10月 文部省(現文部科学省)入省。退職後、2010年に社会保険労務士試験に合格。社会保険労務士事務所などでの勤務経験を経て、現在は特定企業における労務管理等を担当。


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