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連載:第65回 IT・SaaSとの付き合い方

電話・FAXに加え「WEB受発注」を導入。20年続いた体制の効率化と売上向上が同時に起こった理由

BizHint 編集部 2025年9月26日(金)掲載
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情報セキュリティ要件と高額な自社システム開発という課題から、「電話とFAX」での受発注を余儀なくされていた北海道コカ・コーラボトリング株式会社。そうした状況は20年近く続いたものの、社内の効率化の課題や顧客からの利便性を求める声、そして時代の移り変わりによって、WEBの受発注システム「TANOMU」を導入するに至ります。結果、それらの課題解決に加え、既存顧客の売上向上という想定外の効果を得ることに。そのシステム選定の経緯や現場への定着の進め方、売上が向上した背景などについて聞きました。

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(お話を伺った方)
北海道コカ・コーラボトリング株式会社
グループ経営管理部 DX推進課
小野 浩嗣さん
(札幌市・飲料製造・販売・従業員数246名(グループ1,183名))


※本記事は取材時点(2025年7月)の情報に基づいて制作しております。各種情報は取材時点のものであること、あらかじめご了承ください。

夜間営業の終了後、翌日分の発注がすぐにできない

――WEBでの受発注システム「TANOMU」導入の背景にあったのはどのような課題だったのでしょうか?

小野 浩嗣さん(以下、小野): 社内事情とお客様の不便解消の2つの側面があります。

まずは社内事情。もともと当社では、飲食店や小売店からの飲料の注文を、電話やFAXを介してコンタクトセンターで受け付けていました。しかしこれらの対応には、どうしても相応の工数がかかります。

電話の場合、お客様からの着信があると、コンタクトセンターのオペレーターのPCの画面にはその発信番号をもとにお客様の情報が表示されます。そしてオペレーターはその注文内容や配送日、配送場所などの追加情報を伺ってシステムに入力していきます。1件あたりの所要時間は約3分ほどでした。

FAX注文でも同様に、システムにオペレーターが手入力していました。こちらは別の人がダブルチェックを行う体制で運用していたので、1件あたり約6分ほどかかっていました。特に朝一番は大変で、前日の夕方から夜、そして朝にかけて届いた大量のFAXを処理していました。

これらの注文の総数は、電話が月間5,000件、FAXが6,000件ほど。 当社としては、この負荷をなんとか軽くしたいという思いを長年に渡って抱えていました。

そしてもう一つ、お客様の不便解消について。

時代の変遷とともに、お客様から「電話とFAXよりも楽な注文方法」についてのご意見をいただくことが増えてきました。象徴的な声として『アマゾンや楽天のように、WEBで注文できないか?』といったものです。

特に、居酒屋・バーなど夜間営業されるお店では「営業終了後に注文をしたいのにコンタクトセンターがやってない」「かといってFAXも置いていない」といった店舗も多く「やむを得ず昼間に電話をしている」という状態でした。

こうした背景から 「WEBでの受発注」ができる体制の構築 を進めることになりました。2022年ごろのことです。

情報セキュリティと自社開発のコストがネックだった

――2022年までは、WEBでの受発注の話は出なかったのでしょうか?

小野: 過去に何度か検討したようですが、結果的に実現できていませんでした。

というのも、当社はコカ・コーラというブランドを取り扱っていることから、顧客管理をはじめとした情報セキュリティにおいて求められる水準が高く、また、受注管理においてはすでに基幹システムが構築されているため、システム間の連携も必須でした。

それらをクリアするシステムを自前で構築するとなると、独自サーバーの用意も含め大きな投資が必要でした。

情報収集と検討を繰り返しては「今のままでいくしかない…」という結論になり、結果、コンタクトセンターが開設された2004年以降、 20年以上にわたって「電話とFAX」という状態が続いていました。

システム選定で重視したのは、コスト・機能・サポート

――そうした経緯から、なぜ今回は前に進めたのでしょう?

小野:以前との違いは、クラウドサービスが普及してきたことです。 クラウドであれば、当社がサーバーの用意やシステム構築を自前で行う必要がないので、初期コストを大きく抑えることができますので。

システム探しは、インターネットで「WEB 受発注」などのキーワードで検索することから始まりました。

いくつかのシステムがヒットして、それぞれ問合せをして話を聞きました。最終的にTANOMUに絞った理由は、 コスト・機能・サポートの3点 です。

まずはコスト。これは料金体系が当社の思惑にフィットしたものだったことが大きいです。当社はすでに約2万件のお客様とお付き合いがありました。運用に落とし込むことを考えると、まず「WEB受発注システムに最初から全てのお客様を一括で登録した状態」を作り、その上で営業担当者からお客様に利用案内をしていくのがスムーズだと考えていました。

他のシステムは「お客様をシステムに登録した時点」で課金開始だったため、2万件を登録した瞬間から毎月大きな費用がかかります。この仕様は当社には向いていませんでした。また、お客様が利用開始を希望される度に新規登録…という運用も、煩雑になるので避けたいところでした。

その点、TANOMUの料金体系は 「基本利用料はあるものの比較的安価で、メインコストは発注数に応じた従量制」でしたので、当初の運用イメージと合っていました。

次に機能について。 特徴的なものが「LINEとの連携」です。 当時比較した中では、他にLINE連携ができるシステムはありませんでした。当社のお客様がWEBで注文されるにあたって、新たに特別なアプリやシステムを入れていただくよりも、普段から使い慣れているLINEを使っていただくほうがハードルが低いと考えました。

実際に画面を見せていただくとやはり使いやすそうと感じましたし、営業担当の方から「こういう機能が必要でしたら対応できますよ」といった柔軟な提案もいただけて、その後の運用に十分耐えるものだという印象を持ちました。

最後にサポート。商談から構築段階まで本当に親身になってご対応いただけたのはもちろんのこと、TANOMUには電話とメールで問合せ可能なサポートセンターが用意されており、お客様側にて行う利用者開始登録など、つまずきやすい部分に関してTANOMUサポートチームにカバーしていただくことで、運用面においてもの凄く負担を軽減できたと感じています。

当社だけでは判断できないシステムに関する高度な問合せもサポートチームに一任することで解決していただけるので、これは本当に大きなメリットだと思います。

自社でシステムを構築した場合こういった恩恵は得られませんし、クラウドサービスもいくつか利用してきましたが、 ここまでサポート体制がしっかりしているものはあまり経験がありません。

また、もともとチェーン店との受発注ではインフォマート社の受発注システムを利用していたのですが、TANOMUはインフォマート社から紹介していただきました。そのため、信頼性・サポートともに期待できそうだという安心感がありました。

これらに加え、前述のセキュリティ面もクリアできたので、納得感をもってTANOMUの社内提案を進めることにしました。

いきなり切り替えることはしない。今までのやり方と併用できる。

――社内提案・調整はどう進められたのでしょうか?

小野: 何より欠かせないのは、実際に利用するコンタクトセンターとの調整でした。センター長とは特に綿密な打ち合わせを重ねました。仕事の進め方が変わる話なので、理解と協力は不可欠です。

もう一つ欠かせないのが、営業チームとの調整です。営業責任者との合意形成で ポイントだったのは「いきなり切り替えることは絶対にしない」ということ。

お客様に提供しているサービスを一斉に切り替えた場合、お客様への負担はもちろんのこと、その説明対応で営業担当者に大きな負担がかかるということは過去の経験から明らかでした。

ですので、今回のWEB発注システムの導入では「電話とFAXという今までの発注方法に加え、WEBという別の方法も用意した」という方針で進めました。営業担当者がお客様に提案する際には「お好きなやり方、便利な発注方法でどうぞ」という案内になります。

TANOMU運用開始前には、あらためて営業部門全体への説明会を行ったのですが、そこでは機能や使い方の説明はもちろん 『今までのやり方と併用できる』という部分を強調して伝えました。

――社内調整や提案の過程で、反対意見や懸念などはありましたか?

小野: 基本的にありませんでした。というのも、冒頭お話ししたコールセンターやお客様の非効率を解決しよう、という機運は関係各所で高まっていましたので。

加えて、コールセンター効率化により生まれた余力を営業活動支援などコール業務のスキルを活かした別の領域にシフトさせることなども目論まれており、導入メリットがあらかじめ見えていたので前向きな反応で協力してもらえました。

エスコンフィールドのオープンに合わせての運用テスト

――運用テストや実際の導入の進め方については?

小野: もともとは札幌圏でスモールスタートしようと考えていたのですが、2022年の年末ごろ、とある話題が持ち上がりました。2023年3月に控えた、エスコンフィールドのオープンです。

当社は施設内の約40店舗に飲料を提供する予定だったのですが、店舗を構えるスペースには電話・FAXが備え付けられていないため、基本的に各店舗担当者の携帯電話を利用することが前提となっていました。それであれば、今の時代ほぼ確実にスマートフォンは持っているだろうと考え「発注にTANOMUを使ってもらったほうがいいよね?」という話になったんです。

そこで急遽、2023年3月までに準備・体制を整え、TANOMUの運用を開始することになりました。

エスコンフィールドにおけるTANOMUの利用は、特に野球のナイトゲームを想定すると理にかなっていました。施設内の各店舗はナイトゲームが終わった後、片付けのタイミングで翌日の飲料を発注するのが合理的です。しかしその時間は23時ごろで当社のコンタクトセンターは営業していません。そこでTANOMUを使ってもらえれば、問題を解決できます。

――貴社も店舗の方も初めての利用です。テストはうまくいったのでしょうか?

小野: オープン直前の在庫分の納入に関しては、TANOMUの展開が間に合っていなかったので、営業担当者が各店舗から注文を受け、それを受注システムに打ち込むアナログな運用で当座を凌ぎました。

その後、準備が整った後は大きな問題もなく、お客様側でもスムーズに使っていただけました。

――営業担当者から既存のお客様への案内についてはいかがでしたか?

小野: それ以前の注文のやり方を併用できることもあり、大きな混乱はありませんでした。使い慣れたLINEですし、発注に関するUIもシンプルで使いやすいのでお客様から質問を受けた際も基本的に当社側で対応可能でした。

そうした中で、あえてお客様がつまずかれることがあった部分を挙げるとすると、最初の利用登録でしょうか。これに関しても最終的にTANOMUサポートへ引き継いで対応いただいたので、特に問題は起きなかったですね。本当にスムーズでした。

商談時から感じていた印象そのまま、TANOMUのサポートには安心してお任せできると感じました。

既存業務の工数を削減し、新たな取り組みがスタートできた

――もともとの課題の一つ、コンタクトセンターの効率化については?

小野: 現在、導入から2年半ほどが経ちましたが、当社への注文の約3割がTANOMUに切り替わっています。TANOMUでの注文は、お客様が注文ボタンを押せば受注システムに直接データが飛んでいくので、その分コンタクトセンターの工数を削減できていることになります。

その効果を前述の工数で計算※してみると、月間350時間、年間4200時間ほど。これはおおよそ、 2~2.5人分のフルタイム業務に相当します。

※電話受注の工数は1件3分-月間2000件。FAX受注は1件6分-月間2500件で計算。

この効率化により、コンタクトセンターの人数を増やすことなくスキルを生かした別領域への業務シフトにも着手できるようになりました。サービスのクオリティに大きな影響を与えることなくチャレンジできたのは、TANOMUの副次的な効果だと思います。

既存顧客の売上が平均5%向上。想定外の効果が得られた理由

――TANOMUを利用しての気付きなどはありますか?

小野: 導入以前には 予想していなかった効果として「売上の向上」があります。 TANOMUでの注文に切り替えていただいたお客様の売上が、それ以前に比べ平均で5%ほど伸びていました。

背景を分析してみると、主に3つの要因があると考えられます。

まずは、24時間発注できることによる 「機会損失の解消」 です。従来は電話受注において午前9時から午後5時までの受付時間に制約されていましたので、前述のような夜間営業の飲食店に対して注文の取りこぼしがありました。

注文の電話やFAXを忘れてしまった場合には、間に合わせるために近隣の店舗で急ぎで購入されたり、様々な要因で他社に流れていた注文・購買を拾えるようになったのだと思います。

次に、注文のしやすさによる 「追加購入の増加」。 電話やFAXだと基本的に「これとこれを注文しよう」と確定させた上での発注行動になることが多いのですが、LINEでの注文ではその過程で他の商品も目に入るので「そういえば…」「ついでに…」という行動が発生しやすくなります。

そして3つ目が、 「LINEを活用したプッシュ型販促」 です。例えば新商品が登場したり限定キャンペーンを行う際、従来はメールでの告知や紙のチラシによる営業担当者からの案内を行っていました。

それがTANOMUを使うことで、LINEを通じて直接お届けできるようになり、さらにそこで購買意欲が高まった際に、そのままご注文をいただけるようになりました。こうしたプッシュ販促のための作業も従来より多くの時間を割くことなく、すぐに実施することができます。

また、お客様同士の紹介から「TANOMUでの注文が楽そうなので」と、当社と新規にお取引をいただける店舗も出てきたり、ポジティブな想定外が起こっています。

――今後について教えてください。

小野: 基本的な運用は大きく変わりませんが、利用率としては50%くらいまで高まればと考えています。新規のお客様には基本的にTANOMUをおすすめしていますので、日々の新陳代謝による拡大のほか、営業と連携し、TANOMU利用率を増やす施策を練って徐々に近づいていくことができればと思っています。

一方で、電話・FAXを廃止するということは考えておりません。お客様によっては細やかなご要望もありますので、そうした対応には直接お話しするほうが適している場合もあります。電話、FAX、TANOMU…お客様がより使いやすい注文方法を使っていただければと思います。

(撮影:坂井 亨輔 (GAZEfotographica))

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