連載:第37回 リーダーが紡ぐ組織力
人が辞めていく組織の盲点。ホストから転身した素人経営者だからこそ気づけたリーダーの本質
「働きやすい」「良いことをしている」と社員は口にするのに、なぜ去っていくのか──。定期的に退職者が発生していた組織の中で、自問自答を繰り返す日々。19歳でホストクラブに入り、25歳で福祉の世界に転身。その異色の経歴を持つNPO法人WEL'S代表の橋本一豊さんは、ある日突然、衝撃的な事実と向き合うことになります。匿名の職員アンケートに記された本音の声。そこには自身の振る舞いが、逆説的に組織の成長を妨げている現実が記されていました。経営の素人として道を切り開いてきた橋本さんが気づかされた組織づくりの盲点と、その本質とは。詳しく伺います。
NPO法人WEL’S
代表理事 橋本 一豊 さん
1971年、栃木県生まれの53歳。19歳で大学在学中にホストの道へ。25歳で児童福祉施設に転職し、27歳でスウェーデンに渡航、福祉を学ぶ。その経験を機に障害福祉の道へ。国家資格の社会福祉士を取得し、30歳でNPO法人WEL’Sを設立した。現在は障害者就労支援事業を展開。大手から中小まで延べ100社以上の障害者雇用相談、500人以上の障害者支援実績を持つ。
「嘘で固めた世界」から「嘘をつかなくていい世界」へ
――橋本さんはなぜホストの道を選んだのでしょうか?
橋本 一豊さん(以下、橋本): 大学生の時に、ガソリンスタンドでアルバイトをしていたのですが、そこの常連のトラックドライバーの女性から「あなただったらホストできるんじゃない?」と言われて、その日のうちに千葉県のホストクラブを訪ねたんです。当時はとにかく稼ぎたい一心で、そこで2年ほど経験を積んだ後、六本木のお店に移って3年働きました。銀座のホステスさんなど、業界の人とも多く関わるようになりました。
転機となったのは25歳の時、あるホステスさんから歌舞伎町の有名店を紹介されたことです。面接に行ったのですが、その瞬間に「ここじゃない」って気づいたんです。実はホストとして働く中で、自分に合っていた部分と合っていなかった部分がはっきりとありました。
人と関わることは大好きで、どんな暴言を吐かれても、仕事としてその人の背景にあるストレスや悩みを理解して受け入れることができた。でも、この仕事で「嘘をつくこと」が当たり前になっていて、どうしても自分には合わなかったんです。源氏名はもちろん、誕生日をお客さまごとに変えたり、どうでもいいような嘘も次から次へと…。そういった嘘で固めた自分に限界を感じていたんだと思います。
──そこからなぜ福祉業界に?
橋本: そうですね。嘘をつく自分をやめたいという自分の本心に改めて気づいて、「次は嘘のない真面目な仕事をしたい」って思ったんです。それで、「真面目=福祉」という単純な発想で福祉の道を選びました。実際、福祉の世界に入って衝撃を受けたのは、「嘘をつかなくていい」ということ。本名で仕事ができて、自分の本心で関われる。社会では当たり前のことかもしれませんが、当時の私には新鮮で、美しいと思えたんです。そして25歳でホスト業界から離れ、児童養護施設や障害福祉施設などを経て、30歳の頃にNPO法人WEL’Sを立ち上げました。
──現在では36名の社員を抱え、多くの企業から障害者雇用の相談を受けるまでに成長されました。
橋本: ありがとうございます。でも、ここに至るまで本当にたくさんの失敗をしました。なにせ経営については素人。組織をマネジメントするための資質が完全に不足していたんです。実はつい3年前くらいまで定期的に社員が辞めていく状況が続いていました。
「働きやすい職場だ」「良いことをしている」と社員たちは口にするのに、人が定期的に辞めていく。改善したいのにその理由がわからず、自問自答の日々が続いていました。
転機となったのは、福祉施設に義務付けられている3年に1度の第三者評価でした。匿名で実施された職員アンケートには、表向きの言葉とは異なる本音が記されていました。そこに書かれた内容に衝撃を受けることになるのですが、この社員からの声が私に組織づくりの盲点と本質を気づかせてくれました。
――それは何だったのでしょう?
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バックナンバー (38)
リーダーが紡ぐ組織力
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