連載:第38回 リーダーが紡ぐ組織力
「トップが決めない経営」で最高業績。社員の主体性を高めるために捨てた1つのこと
プラスチックリサイクル機器メーカーの日本シーム株式会社で代表取締役CEOを務める木口達也さんは2008年、創業者である父から事業を引き継ぎ、2代目社長に就任しました。社員の主体性を重視する組織づくりに取り組み、「トップが決めない経営」により直近の業績は過去最高を達成しています。しかし、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。当初は、間違ったマネジメントで社員の主体性を奪い、トラブルが起きていたといいます。木口代表は、いかにして組織改革を成功に導いたのでしょうか。そこには、木口代表が捨てた「ある考え」が大きく影響していました。詳しく伺います。
日本シーム株式会社
代表取締役CEO 木口 達也 さん
埼玉県さいたま市浦和区出身。1977年8月生まれの47歳。大学卒業後、教育出版事業に従事。2001年に父が創業した日本シーム株式会社に入社。2008年に2代目社長に就任。その後、2021年代表取締役会長、2024年から代表取締役CEOに就いている。
マイクロマネジメントが招いた組織の硬直化
――貴社では、「トップが決めない経営」で業績が上がったそうですね。
木口達也さん(以下、木口): はい。2019年頃から 「トップが決めない」ことを意識した組織改革 に取り組んでいます。厳密に言うと、私は組織の制度設計者としての役割に徹している、という感じでしょうか。具体的には、社内の営業、設計、製造などプロジェクトごとにリーダーを置き、それぞれのリーダーに会議の場でファシリテーターを務めてもらうようにしているんです。時にはリーダー以外の社員にもその役割を与え、自律心を養ってもらうようにしています。
2021年に社長職を社員に譲り、私は会長に就任したのですが、そこからより一層組織がうまく回るようになりました。社員たちに自主性が芽生え、大きなプロジェクトも社員だけで進めている状況です。3億円以上のプロジェクトでも、私がほぼノータッチで最初から最後まで社内で完結できるようになったんです。私の役割は、あくまでプロジェクトの最初の段階で大枠の方向性を決めるだけになりました。
結果として、2023年9月期の売上高は改革を開始した2019年と比較して、2倍弱の17億8000万円、経常利益も5.5億円と、過去最高業績を達成しました。
その後、私が会長という役職であることで外部の方から「ほぼ会社にいない名誉職」と認識されてしまうこともあったため、2024年1月に代表取締役CEOに役職を変更しました。
――なぜ、「決めない経営」に至ったのでしょうか?
木口: 実は、社長に就任した2008年以降、現在とは真逆のマイクロマネジメントを取り入れていたんです。
オフィスがワンフロアだったので、社員の会話がすべて聞こえるんですが、何かトラブルが起きていると感じると、頼まれてもいないのに「じゃあ俺がやるよ」と勝手に仕事を引き受けていました。
それから、当時の朝礼で私が「Aの方針で行ってくれ」と指示をしたにも関わらず、「やっぱりBの方針で」「Cの方針でいこう」など1日5回以上、決定事項を頻繁に変えていました。一つひとつのプロジェクトに対して、私がかなり詳細領域まで細かく口出ししすぎていたんです。その結果、社員の考える力を奪い、主体性は完全に失われていました。
出張先で些細なトラブルが発生しても、社員から「これはどうしたらいいでしょうか」と何度も電話が来るようになりました。私自身が、社員が自分で判断できない状況を作り出してしまっていたのです。
このままでは社員の成長を止めてしまうと悩んで考え抜いた先に、 自分の心にあった、ある考え方が邪魔をしていることに気づいたのです。そして、その「考え方」を捨てたことが、最高業績を生み出す自律型組織へと繋がることになるのです。
――その考え方とは、何だったのでしょうか?
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