2018年7月14日(土)更新
圧迫面接
求職者に言葉や態度で威圧しながら行う面接を「圧迫面接」といいます。圧迫面接は応募者がストレスを感じたときにどうするかを見極めるため必要と主張する人もいますが、内定辞退・社会的信用の失墜・訴訟リスクなど圧倒的にデメリットの方が多くなります。どのような質問が圧迫面接になるのか、圧迫面接の予防方法についてご説明していきます。
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圧迫面接の意味
圧迫面接とは、面接官が高圧的な態度や言動で就活生に心理的な圧迫を感じさせる面接方法です。具体的には声を荒らげて威圧する、人格否定の発言をするなどが当たります。
圧迫面接の意図
圧迫面接にも理由があるのだと主張する人がいます。その意図を確認すると、
- 現在の学生はストレス耐性が低い傾向があるため、見極めるのに必要。
- 一部顧客の理不尽な主張・発言に対応する力を圧迫面接により見極めたい。
- 若手が精神的な理由による離職が相次いでいるため、メンタルの強い社員がほしい。
- 形式化された質問ではその人が本来有する柔軟性を見極めることが出来ない。
- 圧迫面接に耐えられる人材は柔軟性や統率性の観点から企業に馴染みやすい。
などがあります。
過去、業界的な慣習として圧迫面接が行われてきた背景もあり、採用担当者や創業者の一部は、残念ながら精神的に追い込むような面接をいまだ肯定的に捉えています。
しかし、本来的に人材の精神性やストレス耐性は本人の経歴や、これまでの取組事項を鑑みることである程度判断ができます。また、前述で挙げられていた離職に関する耐性の話は、面接時点でのストレス耐性のみで推し量る事は困難ですので、「圧迫面接」がどの程度「メンタル耐性」と相関するかは懐疑的です。
圧迫面接がもたらすデメリットとは
圧迫面接には、メリットよりもデメリットの方が圧倒的に多くなります。以下は、リクルートワークス研究所が2016年4月21日に発表した「求人総数および民間企業就職希望者・求人倍率(求人総数を民間企業就職希望者数で割った値)の推移」を表したグラフです。
【出典】第33回 ワークス大卒求人倍率調査(2017年卒)リクルートホールディングス - Recruit Holdings
リーマンショックで一時落ち込んでいた求人も回復し、近年は売り手市場であることがわかります。新卒の採用数の増加だけではなく、転職を希望する転職活動の市場も活況です。これらの求職希望者が複数社を検討するうえで、あえて圧迫面接を実施(あるいは黙認)する企業への入社を希望するわけがないのです。
それでは、具体的にどのようなデメリットが生じるかについて説明していきます。
企業イメージダウンの可能性
最も危惧されるデメリットが企業イメージのダウンです。たとえ人気企業であったとしても、「パワハラ」「人権侵害」「ブラック企業」等の評価が下され、一度でも企業名が公表されてしまうと、そのイメージを払しょくするには何年もかかります。次年度以降の採用活動に支障をきたすどころか、取引先や顧客が離れ、営業成績や経営そのものに悪影響を及ぼします。
内定辞退の恐れ
学生に圧迫面接に関する意識調査を行った結果、アンケートでは約3割弱が「求職活動中実際に自分が面接でそういった場面に遭遇しなくても、その噂があるだけで就職をしないと」いう決断をしています。
“圧迫面接があるとの噂を見聞きした時点で27.9%の学生が絶対に就職しない(選考・内定を辞退する)」と考える”
引用:Career Mart
内定辞退によって、企業は採用計画人数確保のため二次募集をせざるを得ませんが、その場合、企業研究の浅い入社意欲があるかが不明な学生も対象になります。やる気のない社員を人数確保のために採用することは「人材劣化」につながりかねないのです。
求職者側からの訴訟リスク
プライバシーの侵害、個人の思想・信条に関して否定を行うなどの行為は訴訟に発展する可能性があります。ただし、現在のところでは、圧迫面接による損害賠償訴訟では企業や会社側が敗訴する事例は出ていません。それは、密室で行われる面接の場面では、その時の状況や損害賠償をしなければならいほどひどい圧迫面接が行われたという証明が難しいこと、どこまでが圧迫面接なのかといった基準がはっきりしていないことによるためです。
経営者は、圧迫面接には訴訟リスクがあり、訴訟を起こされたという事実が社会的信用の失墜につながることを知っておく必要があります。
圧迫面接は違法?
面接に関する違法性についてですが圧迫面接については、一部の業種や職種に携わる可能性のある予定者に対して、客からのクレーム等のトラブルに直面したときの求職者の対応力を試したり、打たれ強さがあるかを確認したりするために有用であるという考えができます。企業側の採用の自由の行使として適法違法ではないと現在までのところ判断されています。
しかし、侮辱・名誉棄損・脅迫・暴行・傷害・強要・強制わいせつ等に当たる行為はすべて犯罪になりますので、面接の場面に限らず行ってはいけません。
圧迫面接になる可能性のある、やってはいけない質問例
「圧迫」と一言で言っても言葉の受け取り方や感じ方は個人で異なります。ここでは具体的な事例を紹介して行きます。面接の場面で一体どんな質問がNGなのか参考にしてみてください。
質問事例
面接のシーンで圧迫面接と取られかねない質問の要点は以下の通りです。
その1.必要のない深堀り質問
<NGの質問例>
志望動機の質問に関して
- 学生「御社に貢献できる社員になりたいです。」
- 面接官「何ができるの?」
- 学生「入社後、先輩方に聞きながら成長して行きたいと思っています。」
- 面接官「何を聞くの?」OR「誰かが教えてくれると思っているの?」
- 面接官「その志望動機ならほかの会社でもいいのではないですか?」
- 学生「御社で自分の力を発揮したいと思います。」
- 面接官「うち落ちたらどうするの?」OR「どうせ第二志望なんじゃないの?」
最初の質問に対する答えが要領を得ないのであれば、その段階で評価をすれば良いことであり、追いつめるような会話を続けることで、相手は威圧感を感じ圧迫面接と取られかねません。
その2.家族の職業・家族構成
<NGの質問例>
- 「お父さんの職業は?」
- 「ご兄弟の大学(お勤め先)は?」
採用はその個人を判断するものです。雑談の延長線上で話したつもりでも、これらの質問は採用には関係のない話です。プライベートに関わることですので、面接の場にはふさわしくありません。
その3.恋人の数・今後の結婚の意思の有無
<NGの質問例>
- 「学生時代につきあった女の子(女性に対しては男性の数)は何人くらい?」
- 「結婚後も仕事を続けたいと思いますか?」
結婚後に働く意志については、女性志望者に確認したい事項の一つかもしれません。しかし、「女性に限っての質問」は男女で異なる採用選考をすることを禁じた男女雇用機会均等法に違反します。また、学生時代の男女交際に関しては、雇用には全く関係のない質問です。
行動(態度)事例
面接の際に誤解を招く、就職希望者を不安・不愉快にさせる質問を避けるのと同時に、面接官の態度も対策ポイントです。「圧迫面接」と誤解を受けないようポイントを押さえていきます。
高圧的・威圧的(不用意な腕組み・椅子に反り返って座る)
高圧的な態度はそれだけで「圧迫面接」と思われます。ほとんどの就活生は、緊張をしながら真摯な気持ちで面接に臨みます。面接官は社会人の先輩として適切な態度で対応することが大切です。
あくび・聞く気がない態度
面接官にとって、多くの学生を相手にしているとどうしても疲れが出てきます。しかし、あくびや明らかに聞く気がない態度をとることは許されません。就活生との会話だけではなく、しぐさ・雰囲気など、採用をするかどうかの情報を短時間で読み取らなければならないので、気を抜くことなくすべての候補者に平等に接することが必要です。
頭ごなしの否定、就活生の言葉を遮る
会話途中の突然の否定、就活生の言葉を遮って自身の意見を語ることも、圧迫面接の一つと捉えられます。面接の目的は相手を審査することです。ディスカッションやディベートを行う場ではありませんから、不用意な否定はしないようにします。
圧迫面接の予防策・対処法
企業や人事は、採用担当者への教育・啓蒙活動により、圧迫面接を予防する対策を行います。具体的な対策法として以下の3つを挙げておきます。
対策法1.面接前に講義・ガイドラインの対応を
リクルーターや面接へ同席してもらう若手社員には、事前に面接講習会を実施したり、「面接官マニュアル」「採用面接ガイドライン」といったドキュメントを作成・配布したりという対策で圧迫面接を予防します。法的な正しい情報と具体例の提示を行い、余裕があればロールプレイングやケーススタディも有効です。
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対策法2.厳しい質問が必要な場合は「一言」を忘れずに
業種や職種によっては、やっぱり厳しい質問を必要と感じることもあるでしょうし、転職者であれば、前職の退職理由などプライバシーに踏み込んだ質問で確認を取りたいときもあるでしょう。圧迫面接にしないためには、相手に逃げ道を与える一言を添えたり、質問の意図についての説明をしたりします。
以下に具体的な質問・解答例を紹介します。
具体例.1)プライバシーに踏み込んだ質問を行うとき
- 面接官「これからあなたのプライバシーや個人の信条に関する質問をします。答えたくない場合は「答えられない。」と回答していただいて構いません。よろしいですか?」
- 求職者「わかりました。」
- 面接官「では質問です。」
具体例.2)業務上の対処の仕方についての質問をするとき
- 面接官「わが社では、部署や業務によっては顧客の対応に苦慮する場面があります。厳しい質問をしますが、あなたがどのようにとらえるか知るために必要ですので答えていただきたいのですが、かまいませんか?」
- 求職者「分かりました。/ちょっとおっしゃる意味が分かりません。」
- 面接官「質問の内容を不快に感じたら、回答をしたくないと言っていただければ結構です。大丈夫ですか?」
- 求職者「はい。」
- 面接官「では、始めます。」
必要性の説明と、回答したくないときは答えなくてもよい、と受験者に言い添えて質問を開始しますが、応募者の反応に困惑を感じた時や、一定時間返答がない場合は「結構ですよ。(ありがとうございました。)」とこちらから質問を終了させるようにします。
対策法3.抜き打ちチェックや第三者のチェックを行う
具体的な事例を列挙しながら、人事担当者や面接官の教育を行うことである程度の効果は上がりますが、古くからの考え方が抜けない一部の採用担当者は、過去の経験や習慣から無意識のうちに圧迫面接と受け取られる質問をしたり態度をとったりします。これは残念なことに、中高年層のベテランにみられることが多く、講習などを行ってもなかなか改善されません。
ある程度のロールプレイングの積み重ねた上で、面接官に面接会場にカメラを入れることを伝え映像を残すようにします。第三者の目が入るという意識で抑止効果が期待でき、またその映像を後でチェックすることで、「どの部分が問題か」をチェックできます。人事担当は面接の質の向上のための事例収集とともに、面接官の資質をチェック・評価します。
まとめ
- 圧迫面接は内定辞退を招く可能性があり採用計画に影響を及ぼし、企業イメージのダウン、経営や収益にも悪影響を及ぼすなどデメリットが多い。
- プライバシーに関する質問、採用に関係のない質問は圧迫面接と捉えられるため避ける。どうしても必要な厳しい質問をするときは、質問の意図を説明しつつ「回答をしたくなければ答えなくてよい。」と相手に逃げ道を与えてから行う。
- 社内研修やロールプレイングで圧迫面接をある程度防ぐことができる。それだけで不十分な場合は、面接会場の録画をして第三者がチェックを行い、面接の質の向上に努める。